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合流

本日も拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

 あたしはかつて城門だった瓦礫を乗り越え、アビエス川まで急いだ。川端に近づけば、グラミィが船の上から、手どころか杖を大きく振ってきた。

 それに気づいたのか、幻惑狐(アパトウルペース)たちまでわらわらと集まってくる。


 船の上から、あたしたちに物珍しそうな視線を向けている人たちは、全員見た感じが……騎士じゃないよな。船乗りっぽい。

 それも衣服や小剣のたぐいが、イークト大湿原の漁師たちと違って、フリーギドゥム海からグラディウスのあたりで見かけたような……。


 ていうか、見覚えのある人がちらっといるんですけど!それもシーディスパタのクルテルさんとか、ノワークラさんとか!

 グラディウス地方じゃ、国の外交すら任せられるような人たちじゃないですか!


「『これは海神マリアムの恩寵篤きグラディウスから、波濤を越えて遠きコバルティ海の果てまでおいでになられました。ランシアインペトゥルスの呼びかけにお答えいただきましたこと、この身よりも深く感謝を申し上げます。さすがは船を最もよく知られる方々、魔術師としても、船に翼を生やすすべを教えていただきたく存じます』……と、我が主、シルウェステル・ランシピウスが申しております」


 しれっと舌人として美辞麗句を連発しながらも、グラミィはちろりとあたしに目をやった。


〔今度は何無茶やらかしたんですか、ボニーさん?〕


 濡れ衣です。

 そこは断固として主張させていただきたい。今のリトスが瓦礫も残らない、生身の人間が踏み込むには危険すぎる場所になったのは、ひとえにアルベルトゥスくんのせいだって!


〔じゃあ、なんでヴィーリさんが、急いで行くようになんて言うんですかー?クウィントゥス殿下が大慌てで早く向かってくれって言ってきたんですよ〕


 ジト目で睨まれたが、知らないよそんなこと。

 そりゃあ、まあ、ヴィーリが期限までに戻ってくればよし、来なければ来なかったで、あたし一人ででも帝都に向かうつもりで、準備はいろいろしてたけどさあ。


〔やっぱり……〕


 はあ、と溜息をついたグラミィは、


「『この後はいかに素早くレジナへ向かうかの思案が、我らに武神アルマトゥーラが恩寵を垂れたまうに不可欠となりましょう。貴殿方の海征く腕を頼みにいたしております』とのことにございます」


 さらにしれっと大嘘をつきやがった。


〔誰のせいだと思ってるんですか!だいたいボニーさんのせいですよ!〕


 といわれてもなあ。

 正直、空を飛べない上に、グラディウスの船団を引き上げるって仕事を任せられたグラミィが、ここまで早くやってくるとか、想定してなかったし。


 帝都レジナからここリトスまでほどとは言わないが、リトスからイークト大湿原だって相当離れた場所にある。ましてや、フェルウィーバスからイークト大湿原縦断してとはいえ、クラーワまるっと通り抜けなんて、レジナからリトスなんてもんじゃない距離だ。

 そもそも、ヴィーリはどうしたの。


〔ヴィーリさんは闇森です。その前にわざわざフェルウィーバスまで来てくれたんですよ。期限内に戻れないかもしれないから、あたしに早めに連絡だけはしとこうって。ほっとくと何しでかすかわかんないと思われてるとか。行動パターン読まれまくってますねー〕


 そう言ったグラミィはすり寄ってきた幻惑狐の一匹を抱き上げた。


〔あとですね、一方向にだけ回転する魔術陣。前にボニーさんが考案してたじゃないですか〕


 そんなもんを……作ってたな。そういえば。


 いろいろ魔術陣を構築していたとき、術式が概念を現実のものにするのがおもしろくて、ベクトルというのも冗談半分で作ってみたことがあったんだ。

 魔術陣を構築したら、どこでどういう作用に変換されたのか。

 その場でぎゅるぎゅる回るだけのものになったというね。回転軸と速度をランダムに動くよう設定したのが、泥人形に仕込んだ眼球だったりする。


〔それと、あたしはボニーさんみたいに物質顕界しながら魔術陣作るのはできないですけど、そこにあるものに魔術陣構築するのはできるんですよ。それに、ボニーさんとよく似てるみたいですからね。あたしの魔力(マナ)の質って〕


 グラミィは謙遜するが、彼女だって結界などの非物質になら、魔術陣の構築ぐらいはできるのだ。

 たぶん、その応用で、あらかじめ顕界しといた生成物の構造に干渉して、一定箇所にだけ魔力が流れるよう変形・変質させるって形で、魔術陣を構築した、ってあたりだろうか。


〔まあ、そんなところです。んで、それを、ボニーさんが作ってった滑車の車輪部分に組み込んでみたんですよ〕


 あれか!

 下手な荷車の車輪よりでかめのやつ。船の引き上げに動滑車にできるようにと思って、なるべく正確な円をと顕界したんだった。


 巨大な船になると、その重さはすさまじいものになる。たしか船体部分だけでも数十トンとかいうものになるんじゃなかったか。

 ただ、動滑車を使えば、負荷はかなり相当減らせる。複数の動滑車をうまく使えば、負担はかなり分割できる。

 二十トンが四分の一になっても五トンだが、三十二分の一なら六百二十五キロになる。

 さらにその割合をどんどん増やしていけば、人力でも比較的楽に船を引き上げられるようになる、はず。

 というつもりだったんだが。


 その滑車が一方向にだけぎゅるぎゅる回るとか。

 ……巻上げ機じゃん、それ。


 もちろん、魔術陣は魔力を流さなければ発動しない。

 効率がどれくらかは知らないけど、それでもないよりまし。動力源にはなるわけか。

 でも、それをグラミィだけが動かしてた、わけじゃないでしょ?

 そんなんやったら、たぶん定滑車一つでコバルティ海から船を引き上げるより早く、あっという間に魔力が枯渇したっておかしかない。


 ……まさか、な。


〔あの腹黒殿下、もともと使えるものは叛逆者でも使い倒すというか、使い切るつもりでいた、というか……。トゥルポールトリデンタム魔術辺境伯の一族郎党、魔力切れを起こすまでこき使われたみたいです〕


 うわあ。

 あたしは心中北に向かって合掌した。南無い。


 あたしが想像してたのは、あれだよ、アーノセノウスさんとか、魔術士団の人たちとか、フェルウィーバスにいた魔術師を総動員するって人海戦術だったんだけど。

 いやでも、そういう方法を採った王弟殿下の理屈がすんなり納得できてしまう。

 それが、なんかとってもイヤかもしんない。

 力尽きてもらうなら、安心できる味方より、不満を抱え込んでて、状況次第じゃどんな不利を押しつけてくるかわかんない叛逆者の係累の方が先であってほしいってのもわかっちゃうから。


 そういう意味では、確かに、味方を温存、反逆者だけを消耗させる策としても機能する、お利口な方法ではあるのだよ。

 協力すれば手心を加えるとでも人参をぶら下げれば、故峻厳伯から心が離れて保身に汲々としている連中からしてみれば、トゥルポールトリデンタム魔術辺境伯の家門が滅亡しても、自分だけでも助けてもらえる蜘蛛の糸にでも見えるだろう。そりゃ喜んで協力するでしょうよ。

 合理的だよね。うん。あたしの黒さなんてかわいいもんにしか見えない、相変わらずのペンタブラックぶりだけど。


〔まあ、そのせいあって、グラディウスのみなさんの船を引き上げるのも、移動するのもめっちゃ早かったんですよ〕


 グラミィから心話でつながってきたのは、ウィンチでコバルティ海から次から次へと船を引き上げる様子だった。

 が、まぢですか。


 引き上げた小舟の一艘を借りたグラミィが、アロイスの指示でイークト大湿原を動き回り、あたしがあちこちに打った杭を利用して、ウィンチや滑車を真横になるように固定しているところはまだいい。

 だけど、それらにつなげたロープを使い、スピードを与えて次々と内陸側へと移動してくところといったら、まるで高速ベルトコンベアで大量生産品を流しているような感じにすら見えたのだ。

 空いた下顎骨が戻らんわ、まじで。てか、よくそれほどのロープがあったものだ。


 いや、ちょっと待って。それだけイークト大湿原の移動時間を短縮できたのはすごいと思うよ?

 でも、イークト大湿原から、殿下たちが居を構えてたはずの魔術辺境伯領都フェルウィーバスまで移動してもらうって。時間がかなりかかったと思うんだけど?


〔それが、クウィントゥス殿下ってば『同盟諸国が駆けつけてくれたのに、わざわざ呼びつけるのは礼を失する』とか理屈をつけて、フェルウィーバスからイークト大湿原のすぐ手前まで移動してたんですよ〕


 そりゃまた……。

 いろいろ大変だったんじゃない?


〔フェルウィーバスで利権の奪い合いしてた貴族の人たちは大騒ぎでしたねー、文句言いながら我先に移動しようとするから、馬や馬車の奪い合いで険悪になるなる〕


 だろうなあ。


〔でも、そんな道中に比べて、イークト大湿原の最寄りは落ち着いたものでしたよ。――ひょっとしてボニーさん、あんだけひょっこりボニーさんの様子を見に行ってたクウィントゥス殿下が、ただ、ボニーさんやクラーワの国々を往復してただけだと思ってます?〕


 考えたことなかったなあ。自分のことで手一杯すぎて。


〔あー……、そうですね。――まあ、ざっくり言うと、殿下ってば、イークト大湿原を進軍路にするなら事前準備が必要って、自分の権限で金を落として、そこに中継基地を作ってたんですよ〕


 そいつは……さすがすぎる。

 思わず形而上学的に舌を巻いちゃうくらい。


〔で、この船にはグラディウスの船団の、第一陣の人たちと、あと、ランシアインペトゥルスの人たちを乗せてきました。船団の船全部をあたし一人で運べっていうのは無理ですけど、一艘ぶんなら、まだなんとかなるって伝えて、けっこうぎゅう詰めに乗ってきてもらったんですよ〕


 伝わってきた情景は、グラミィが例のジェットフォイル術式でイークト大湿原をすっとばしてくるところだった。


なるほど、その手があったか。

 それなら、空を飛ぶよりは時間がかかるが、かなりの速度で長距離移動ができるもんな。

 しかも、空路とは比べものにならないくらい、大量の物資や人員を運べるときてる。


〔メリリーニャさんにもちょっと会って、あの辺りの情報もらったりとかしたのと。あと、パルスリートスにランシアインペトゥルスの人たちは、ほとんど置いてきました〕


 置いてきたって。

 いや、クウィントゥス殿下の指示なの、それ?


〔そうですけど?〕


 いやー、だってさあ。

 スクトゥムに宣戦布告をかましたのはマヌスくんとはいえ、あたしの代わりだったのだよ。

 つまり、ランシアインペトゥルスが主体となって進軍すべきなのに、尖兵がグラディウスの人たちメインって。どうなのそれ。

 いろいろ問題になると思うんだけど。


〔そのへんは問題なし、というか、逆にバランス調整になるみたいですよ?〕


 グラミィの心話はけろっとしていた。


〔正直、イークト大湿原を渡るのって、船を主力にするしかないみたいじゃないですか。だからどうしてもグラディウスは後方支援というか、人員や物資の輸送をメインにお願いしないといけない。でもそういう部署だと目立った功績ってのは上げにくい〕


 それはたしかに。


〔だから、クウィントゥス殿下としては、グラディウスの皆さんに、先駆けとしての名誉を与える、ってことらしいですよ?〕


 ……なんか、その国内向け説明とかに『危険な尖兵は他国に任せる。だから安心して戦力をつぎ込むように』的なことが、超極太ゴシックで書かれてそうな気がするんだけど。


〔それでも、後発部隊がパルスリートスに着いたら、今度は先行するのはランシアインペトゥルスの軍がメインで、グラディウスの船に運んでもらう、ってことになるようです。あ、ボニーさんが調べ上げた水脈の情報、かなりびっくりされたみたいですけど〕


 いやそれ、順当っちゃ順当でしょうね。それは。

 だけどなんだろう、クランクさんとか糾問使団の面子を、パルスリートスに呼んでおきたい気がすごくする。

 そうでないと、ランシアインペトゥルスとグラディウスで角突き合い始めるような気がしてならん。


〔たぶんそこは大丈夫じゃないかなと。パルスリートスにアルガさん置いてきましたんで〕


 って、じゃあマヌスくんは?


〔クウィントゥス殿下といっしょに、イークト大湿原近くの中継基地に留め置かれてました〕


 ……なるほど。マヌスくんはアルガに対する人質というか、牽制材料。

 その一方で、グラディウスの魔術師として、二人をイークト大湿原のむこうとこっちで、折衝役に使おうって魂胆か。


〔ランシアインペトゥルスの人たちも、魔術士団がけっこう加わってますし。ピストン輸送で次の軍が来るまでに、パルスリートスを駐屯基地として整備するようにって王弟殿下の命令がありますから。防備は大丈夫だと思います〕


 いやそこはあんまり心配してない。

 むしろ、ド素人なあたしが下手な口出しするよか、軍事行動専門家がいくらでもいるんだから、彼らに任せた方がよっぽどうまくやってくれるだろうし。

 下手な仲間割れをしなければ、という条件つきだけど。


〔そこは問題ないと思いますよ。……たぶん〕


 推測を付け加えられると、途端に心配になるんだけどな?!


 ……まあいいや。そこは、今ここにいるあたしが何かできるわけでもないことだ。

しかし、よくイークト大湿原からアビエス川に入れたねえ。


 オレア、ゼルコバ、キュパリッスス。

 イークト大湿原から、スクトゥム帝国の領内へ流れ出る川は意外と多い。

 しかも、水脈が場所によっては互いにランダムに絡んでたりもする。

 あたしもリトスから空飛んで戻ってくる時に、ようやくある程度理解できたくらいだし。

 

〔ちょっと迷いましたよ〕


 あ、やっぱり。


〔こんなに狭い川幅のところ通るのかって、グラディウスの皆さんにも突っ込まれたくらいですし。ボニーさんの地勢図でも、アビエス川とのつながりは曖昧になってましたからねえ〕


 だろうなあ。


〔あの、カプシカムでしたっけ?棲息地はなんとなくわかりましたんで、大回りしました。一番の決め手はクラーワから情報提供でしたけど〕


 また、森精とのつながりが欲しい呪い師さんたちが便宜を図ってくれたとか。


〔いえ、それが、ククムさんの顔が利きまくってたせいか、星屑たちの浸食を免れた幻惑狐の氏族のみなさんが、レジナまでのいろんなルートを、それはそれは細かく教えてくれたんですって。アロイスさんがほくほくした顔になってました〕


 すごいイイ笑顔のアロイス……うん、恐怖しかないな。

 それにしても、スクトゥムには妨害受けなかったの?


〔見つからなければ、どうということはない、ってやつなんじゃないんですか?イークト大湿原は、パルスリートスがいきなり無人になってたって話が、どういうわけか伝わって、パニックになったり、パルスリートスに目が行ってたみたいですし。あたしも幻惑狐たちつれてきてますから。ほら〕

(ほーね~)


 きゅうきゅうと鼻を鳴らして、幻惑狐たちが顔を……というか、耳と尻尾をぴょこぴょこと船げたから生やした。

 相当な数連れてきたな、これ。

 ……ひょっとして。フェルウィーバスにいた幻惑狐たちほとんど全部じゃないの?


〔ヴィーリさんが、闇森からまた連れてきてくれるそうなので。んでボニーさん、このへんに拠点作ったんですって?一休みしたいんで案内お願いします〕

「『海をゆくにも、潮と風を読まねばなるまいと申します。まずは先遣いたしました、この身が見聞きしたものどもをお伝えしたく。場を移そうと存じます』とのことにございます」


 さらっと人の言葉捏造しないでくれる?

 そもそも、一番都合のいい拠点はここからだと、ちょっと通り過ぎちゃってるんだけどね?

 下流にも拠点……というかしばき倒した盗賊のアジト跡がないわけじゃないのだが、そっちはずいぶんと川から離れてる。グラディウスの人たちにはあんまり過ごしやすくはないだろう。


 あたしが船に飛び乗ると、もとからいっしょにいた幻惑狐たちもぴょいぴょいと乗り込んでくる。

 全部が乗り込んだところであたしが船を動かすと、グラディウスの人たちがざわめき、グラミィが呆れた顔をした。

 どした?船を動かすぐらい、グラミィだってやって見せてたじゃん。


〔だからボニーさん、そうそうあっさり人外ムーブかまさないでくださいよ!いっくら船が前後自由に進めるって言っても、舵の付け替えとかしてないのに、いきなりこれまでと逆方向に、それも川を遡って船が動き出したらびっくりするんですよ、普通は!〕


 水の抵抗とかめんどくさいから、紡錘体形の結界でまるっと囲んだだけじゃん。

 でもグラミィにも慣れたんだから、あたしにも早く慣れてちょうだいとしか言えないなあ。

 てゆーか。

 グラミィ、あんたを見るグラディウスの人たちの目に、尊敬というより畏怖の光があるんだけど?


 いくら喫水の浅いグラディウスの船とはいえ、ジェットフォイル方式で水面から飛び出る勢いでつっぱしってきたんでしょ?

 やらかし度はあたしとあんた、どっちが上だと思う?


〔ひ、必要があったからやったんですよ!〕


 開き直りなさんな。


〔じゃあどうしろと!十日もしないうちに城塞都市一個無人にして、リトスまで空を飛び、探索ついでに瓦礫を片付けたり、亡くなった人にお墓作ってたりしてたっていう、ボニーさんに言われたくないですよ!〕


 逆切れもすなや。

 しっかし、ヴィーリってば喋ったのね。全部。

 ……まあ、彼がリトスを離れてから、いろいろ考えてたこともあるけどね?


 グラミィたちがここまで船で来てくれたのは、そしてグラディウスが後方支援ではなく、戦端を開く尖兵になるという事態は、わりとあたしの想定の中では実現可能性が低いものだった。

 だけど、アビエス川沿いに下れば、わりと確実に帝都までは行けるだろう。

 グラディウスの船乗りたちが来てくれたのならば、かなり水路は安心できる。

 その上で、実現可能性が見えてくる策というものもある。


 レジナを目的地とする、そうぶち上げた方針が変わらないのであれば。


〔……ボニーさん、何考えてたんです?〕


 スクトゥム帝国を敵に回した、この状況での勝利条件。


 正直、帝都レジナに『運営』がいるかはわからない。情報が集中する場所だから、何かしら関係のある人員は常置されてるだろうけれども。

 逆にレジナにいることがはっきりしているのは、スクトゥム帝国の皇帝だ。

 ということになっている。

 帝国は中央集権国家であり、その中央である皇帝を抑えることができれば、帝国全体を黙らせることができる。

 という予想で動いている。

 

〔予測ですか?〕


 予測にすぎないのだよ。『運営』にとって、皇帝がどういう存在で、どのように扱われているかなんて。確かめようがないからね。


 アエスの行政トップは星屑だった。

 皇帝が星屑か、それとも純粋にこの世界の人間かはわからない。けれどもどちらにしても、『運営』の傀儡というかデコイがわりとして置かれているんじゃないかって気がするんだよね。

 その場合、皇帝に手を出した者へのカウンタートラップが仕掛けられている可能性もあるのだ。

 皇帝の身にもだ。

 あのド外道転移陣、地獄門の魔術陣がしかけられてるぐらいなら、優しいかもしらん。


 皇帝が純粋にスクトゥム帝国の人間だったとしてもだ。その取り巻きの中には、皇帝の命がどうなってもいい、むしろ自分の継承権順が上がるならば御の字だって思考で、皇帝を抑えた後もランシアインペトゥルスと断固戦うって行動に出る人間がいないとも限らない、という意味もある。


 そもそも皇帝は人間だ。ということは、帝都から意地でも動かないって選択肢と同じくらい、帝都から逃げて身を隠して、身代わりを立てとく、という選択肢だってとれるのだよ。


 想定はいくらでもできる。

 だけどそれらすべてに、十全な対応をするのは、あたし一人じゃどうしたって無理だったのだよ。

 まあ、そこはグラミィやグラディウスの人たちが来てくれたから、かなり解消されたと思うんだけども。


〔ボニーさん……〕


 なによ。


〔殿下を腹黒だのなんだの言ってますけど、ボニーさんは十分その同類ですからね!自覚してくださいよ!〕


 失敬な。

自覚レス骨っ子。

相手の思考をトレースできるって段階で、かなりの部分同じ穴の狢なんですが。

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