表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
277/372

潜伏中も画策中

本日も拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

 木を隠すには森の中とか言うらしいが、人目につかないようにするために一番いいのは、群衆の中にいることじゃない。

 周囲に人がいない場所にいることだ。

 これにはお骨なあたしの事情も絡むので、異論反証のたぐいはいくらでも出ることだろうが。


 イークト大湿原最寄りの城塞都市の一つ、パルスリートスで一騒ぎ起こした後、あたしとヴィーリは、リトスまで飛んだ。

 なお、パルスリートスにしかけたのは、クウィントゥス殿下たちに説明した理由だけじゃない。噂を広げて情報操作するためでもある。


 いやー、だってねえ?一晩で住人がいなくなった都市って相当不気味でしょうが。

 おまけにその後はいきなり他の国の軍隊が占拠するのだ。真相は不明とか、憶測しかできない不安は、簡単に流言飛語で集団パニックを引き起こしやすくなるんですよ。

 グラミィに説明したらひきつってたけど、デマや煽動で集団を動かそうとしたら必要なことだ。


 もちろん、ランシアインペトゥルスを中心として友軍の拠点作成をしでかすのなら、パルスリーパ周辺の火蜥蜴(イグニアスラケルタ)たちもうまく巻き込んで、他の都市群にもしかけた方が安全ではあるのだろう。

 が、火蜥蜴たちは人間の所属識別なんてできない。一度都市を餌場として認識されてしまったら、その後やってくるはずの友軍たちまでおいしくいただかれてしまいかねない。

 それに、他の城塞都市にも同じ事をしてしまったら、人がいなくなったという噂を広げる目撃者や伝聞者を別途調達しなければならなくなるのだ。

 おまけに二つ三つと城塞都市を陥としたあげくに、住民たちを森精の隠し森の中へ誘導するというのは、時間がかかりすぎる上に難易度が高すぎる。

 不完全劣化電撃戦とはいえ、動き始めた以上はスピード必須なのに違いはないのだ。


 そんなわけで、パルスリートスが他の都市から攻められたら、そこは後続組に頑張ってください、よろしくとあたしはクウィントゥス殿下たちに丸投げしてきた。

 もともと電撃戦でも必要なはずの拠点というやつも、あたしとヴィーリだけで動いている間は、ほとんど必要がないしね。

 どちらかというとゲリラ部隊に近いあたしたちに必要なのは、一時的に身を隠したり、主にヴィーリが安全に休養を取ったりできるような拠点であり、それもたいした場所や数はいらない。

 補給もあたしは基本的に不要です。ヴィーリも多少食糧を持ち歩いている上に、必要であれば通りすがりの集落から分けてもらうことも、彼の半身たる樹杖から、果実や葉っぱをもらうということもできなくはないわけだし。


 パルスリートスを陥とし、大軍でも居住できる上にある程度防衛機能のついた拠点として確保したのは、友軍へのせめてもの思いやりというやつだと思っていただきたいくらいなものだ。

 一応、こんな大仕掛けを後続組に後始末を押しつけるような、無責任なやり逃げに近い形でしたのにも意味がないわけじゃないしね。人の流れをコントロールするためという意味が。


 スクトゥム帝国からランシア地方までを覆った巨大地勢図と一晩にらめっこした結果、あたしはこう推測した。

崩壊したリトスから周囲に移動する人の流れは、動きとしては単一な拡散に近い。

 したがって、帝国全体で想定するなら、あれだけの災害ですら影響はかなり限定的に、それもリトスを中心としたアスピス属州だけがハズレくじを引かされる形で決着しかねないと。


 なぜなら、人間というのは自分の視界内のことしか認識できないものであり、他人の痛みは我がことのように想像することはできても、自分の痛覚に置換することはできない。他人の身の上に起きた悲劇はどこまでも他人事にしかならないのだ。

 むこうの世界でもよくあったことだ。被害を統計の数字としか認識できない者が、本当の悲惨さを知らぬままに犠牲者だけに被害を抱え込ませているということは。そして不満が押さえ込めると判断している限りにおいては、為政者が何もしないことは。いや被害を騒ぎ立てる方向での政治利用ができぬのなら、取引によってスケープゴートに仕立てることも辞さないこともだ。

 そしてその傾向は、おそらく、帝都レジナにいると思われる『運営』たちにもある。


 あたしの知る限り、この世界の人間に長距離通信技術――もちろん魔術も含む――は、狼煙ぐらいしかない。

 もちろん、『運営』たちが端末とも言うべき人間をあちこちに置いているのはわかっている。パルスリートスにもいた『管理人』がいい例だ。

 だが、彼らは単純な報告しかできず、それもすべてを悪気なく過少報告するだろうとあたしは見ている。

 つまり、リトスの正確な状態は伝わりにくい。

 なぜなら、『管理人』が、末端であり、代替可能であり、しかも切り捨て自由な対象だったからだ。


 パルスリートスから泥寄生の危険人物として追放された『管理人』を、あたしは幻惑狐たちを使って誘導し、メリリーニャの隠し森に入れてもらった。

 そしていろいろなやり方で調べたところ、『管理人』は与えられる情報がかなり制限されていたことがわかったのだ。行動パターンが単純にすぎたことが裏付けになった。

 スクトゥム帝国サイドにしてみれば、あたしのような敵対者に捕獲されても、あらかじめたいした情報を与えていなければ、抜かれる損害もたいしたものにはならないという計算あってのことだろう。

 が、それは逆に弱点となる。

 特に、今回のように、訳のわからない状況での情報収集という、柔軟な対応を求められる作業は、『管理人』には対応しきれない可能性が高い。

 

 行動パターンが単純というのは、自主的判断で行動できないようにされているということでもある。

 それはそうだ、十分な情報がなければ、自主的判断というやつはどんどん狂う。

 狂った判断で何がされるかなんてわからない以上、その行動は怖くて野放しにはできない。安全ストッパーとして一定パターンの行動以外は許されていなくて当然だ。

 まあ、そのおかげか、都市から追放されたせいで『都市内部での情報管理』という機能を果たせなくなった『管理人』が自主的な行動を起こすことはほとんどなく、あっさり捕獲できたというおまけがついたりもしたのだが。


 加えて、『管理人』の認識では、この世界は現実のものではあっても、とても狭いものだった。

 スクトゥム帝国というのは本国のことでしかなく、属州はすべからく辺境。ましてや他国は切り取り自由な蛮族領扱いというね。

 だがそれは、『管理人』にとって、属州で発生する事象は、たとえ報告を真面目に上げても中央で発生するものより影響が少なく、対処優先順位も低くなって当然と判断する根拠になる。

 ましてや蛮族扱いの他国なにするものぞというわけだ。


 スクトゥム帝国としては、このリトス崩壊も、他国からの攻撃行為のように、帝国全体の問題としてではなく、自然災害のようなアスピス属州の問題にとどめようとする動きが強くなるだろうとあたしは見た。

 だが、逆に、『管理人』の特性を『運営』が理解していれば、『管理人』の報告を鵜呑みにして事足れりとはしないだろうとも推測している。

 その場合、『運営』組織の中でもさらに上位者、少なくとも『管理人』よりは上の存在が派遣されてくる可能性が高いとも。


 ただ、人間の移動と狼煙などの長距離情報伝達手段の間には、タイムラグがある。それも距離に比例してその差は広がるのだ。

 ならば、より情報収集能力のある人間により得られた、生のリトスの情報が帝都レジナにもたらされるには、それ相応の時間がかかるはずだ。

 なにせ、レジナからリトスにやってくるだけでも大変だろうから。


 鈍足の大軍をスピード命な情報収集に送ってくるわけはないから、少人数か最低一人が移動してくると仮定して考察してみよう。

 スクトゥム帝国内の街道はかなり整備されている。そしてこの状況下にあって、『運営』が、最速の移動手段である馬を使うことは、たぶん間違いない。

 だが、馬も乗る人間も生身である以上、休息が必要になる。

 馬はまだいい。替え馬というやつがむこうの世界でも存在してたのだ、緊急の伝令という体裁をつけてたなら、元気な馬に取り替えてもらうこともできるだろうし。


 問題は、肝心の『運営』だって生身だってことだ。

 彼らも星屑(異世界人格者)落ちし星(異世界人)かは知らないが、精神的にはむこうの世界の推定現代日本人なわけだし、そんなに堪え性があるとも思えない。

 おまけに、リトスが砕かれた後、難民は四方に散った。そんな統制のとれてない集団相手に少人数が権威を盾にしても押し通るのは難しいだろう。


 だったら、さらにそれを遅らせてやろうじゃないの。


 レジナからリトス間よりも、パルスリートスからリトス間の方が近い。

 ということはだ。

 レジナからの移動中、『運営』はリトスの情報だけでなくパルスリートスの異変も耳にすることになる。ま、噂の伝聞じゃあ相当な伝言ゲームになるだろうから、より正確な情報を知るためには、さらに噂を集め、その一方で北上する必要がある。

 複数人で行動してるならまだいいが、これが単独行動を命じられていたならば、一人であっちもこっちも対応するのは難しかろう。


 得た情報をレジナに送るのだって、難民が移動を続けているのならば相当面倒なことになる。『運営』たちがどんな立場を名乗っているかは知らないが、各都市の行政機関がおいそれと余所者に従うとも思えない。アエスでのぞき見た行政トップらしき星屑連中ときたら、自分の利益しか考えてなかったもんなぁ……。

 一番いいのは直近の狼煙台まで移動し、情報を送らせることだろうが、さて、そんなことができるような手筈が組めているのやら。

 不測の緊急事態にどう動くか、対策ができているかは『運営』およびスクトゥム帝国の組織経営手段の見せ所だろう。


 いずれにしろ、むこうの苦難はこっちの平穏、星屑たちの混乱はあたしたちに猶予をもたらすことになる。


(星よ)

(おかえり)


 ヴィーリが戻ってきた。


 あたしたちが今日の拠点にしたのは、リトスから少し下流に離れた、さびれた集落跡だったりする。

 早い話が、以前にしばき倒した盗賊たちのねぐらです。

 多少汚れてはいたが、あたしたちが何も手を加えなくても、目立ちにくいよう偽装工作済みだったというのはありがたい。


 その上ヴィーリは周囲に樹の魔物たちの枝を植えた。

 おかげで、ここの守りはかなりしっかりしたものになっている。迷い森も発動させているので、下手な軍事拠点よりもよほど堅固じゃなかろうか。

 もちろん油断はできないので、会話も基本的には心話だったりするけれども。

 他にも隠蔽性の高い拠点候補はリトス周辺にいくつか見つけてあるので、今後友軍がリトスまで到達しても大丈夫だろう。


(人影はなかったかな)

(星屑の姿はないようだ)


 雑穀というより草の実のような、トリクティムとは違う穀物で作っておいた粥を差し出すと、ヴィーリは摘んできたらしき草の葉を乗せて食べ始めた。


 リトスの調査に入る前に、ヴィーリは闇森から抱えてきた樹の魔物たちの枝を、リトスを囲むようにぐるりと挿した。あたしもフェルウィーバスから持ってきたラームスたちの枝を挿しておいた。

 爆発の影響を押さえ込むためだ。

 あたしにはまだよくわかってないこともあるのだが、魔喰ライが死ぬ時の爆発と、アルベルトゥスくんのしでかした爆発は似て非なるものらしい。


 魔喰ライは死によって、保有魔力(マナ)を制御できなくなって爆発する。

 ならば、なぜ通常の魔術師は死んでも爆発しないかというと、自身の魔力のみでやりくりしている魔術師に対し、魔喰ライはそれ以上に他者や周囲のものから取り込んだ魔力をひたすら蓄積し、逃がさないようにしているから、らしい。

 体内の保有魔力の動きを無意識レベルで制御するのは魔術師の基本技術だが、魔喰ライはそれを身体構造に影響するレベルで応用しているのではないかと森精はいう。


 たとえて言うなら、紙袋と風船の違いだろう。

 どちらもある程度中に空気をいれておける。だけど紙袋には容量以上の空気を入れることはできず、だが針を刺しても穴が開くだけ。それに対し風船は伸縮性のせいで、より大量の空気をいれておけるが、そのぶん風船本体に圧がかかるし、針で刺せば破裂する。

 ま、圧をかければ紙袋だって破裂するし、風船は針を刺す前にセロテープを貼るだけで破裂を防げるように、過信は禁物だし、やりようもあるらしいが。

 しかし、アルベルトゥスくんのしでかした爆発は、言ってみれば紙袋の中に入れた爆弾を起爆したようなもの、らしい。


 マレアキュリス廃砦に足の骨を踏み入れたとき、あたしは湿地帯の中とは思えぬほど固い、焼き固められた地面に転がる瓦礫を見た。

 そして湿地帯を覆う魔力だまりが、コールナーという強大な魔物の生存が可能になるどころか、魔晶すら産出するほど濃厚であることを知った。

 あまりに濃度の高い魔力は、それこそ魔物を呼び寄せるだけでない。魔力を認識する能力のない非魔術師でも、カンの鋭い者から順に精神不安定になるくらいには影響を及ぼすのだという。

 爆発直後に飛んできたとき、リトスの様子を遠巻きに探っていた気配があったのだが、それが失せたのって、そのせいもあるんじゃなかろうか。


 マレアキュリス廃砦のある湿地帯は海に接している。湿地帯を流れる水も最終的には海へと流れていたが、それは余剰魔力が流れ出すことにもつながる。

 それに対し、リトスは川と街道が貫く平地の都市だ。周囲には広大な耕作地が広がっている。

 そんなところに無駄に濃い魔力が下手に拡散してしまうと、土地が変質してしまいかねない。

 ちょっと土地が肥沃になったり、アルボー近海のように海の生態系が豊かになるくらいならまだいい。だけど、リトスの魔力ときたら、コールナーの領地よりも濃いくせにどうにも不安定なのだ。

 正直、どんな問題が生じるかわからないレベルでもある。

 そこでヴィーリは、樹の魔物たちに魔力を吸わせることにしたのだ。

 

 なぜあたしやヴィーリ本人が吸収しないのかって?

 もちろん、あたしは存在の維持に必要なぶんをせっせこと吸ってるし、今後の行動を考えて魔力吸収陣(弁当箱)をこしらえ、それにも吸わせ(つめつめし)ていたりする。

 だけど、ヴィーリ自身は、必要以上に吸収しようとはしなかった。

 それはそうだ、魔力は我が物にすればするほど、確かに強い力となる。より強大な魔術を顕界することもやりやすくなる。

 だけど、所詮魔力は火薬のようなものなのだ。大量に、しかも小分けするなどの安全策も取らずに、下手に蓄積したり持ち運んだりすれば、危険しかない。


 食事を終えたヴィーリがおもむろに向き直った。


その梢に風を送る(話がある)

(なんだろうか)

枝は森に(私は一度戻る)

同胞満ちる地(闇森)へ?)


 ヴィーリは頷いた。

 ……そらまあ、もともとリトスの調査のために同行してくれてたヴィーリだ。一通り調査を終えたら闇森とも情報共有をしておこうというのも当然だろう。

 樹の魔物たちに情報を預ければ、確かに混沌録に情報は蓄積されるし、つながっている樹の魔物たち同士で共有もされる。

 だけど、リトス周辺にいる樹の魔物たちは、闇森までつながってはいない。


 闇森の森精たちがランシア山周辺を飛び回ったおかげで、属州の山間、イークト大湿原の水際ならば樹の魔物たちがひっそり生えているところもあったのだが、アルベルトゥスくんの起こした爆発のせいで、リトスに撒いていたラームスたちは消滅している。

 今、リトス周辺にいる樹の魔物たちは、ほとんどがあたしとヴィーリが最近になって挿した枝たちだ。リトス崩壊の余波から生き残れたものは、数えるほどしかいない。

 ロリカ内海からレジナを通り、リトスに移動しながらあたしが撒いたラームスたちの棲息領域は、どうやらアビエス川の下流で点線のようにつながってはいるらしいのだが、それもかろうじて、という感じだし。


 ヴィーリが闇森に戻って、直接情報共有をしたくなるのも当然だ。

 だけど、あたしは戻らない。ヴィーリについていくという選択肢は正直ない。

 今後の動き方については、もうグラミィに伝えてあるし、あたしの影に隠れてた彼女の立場を内外に示して、強化確立しておきたいという思惑もある。

 コバルティ海からイークト大湿原へ、グラディウスの船団を引き上げるのはかなり大変だろうが、グラミィにはでかめの滑車をいくつも作って渡しておいた。

 動滑車を複数使えば、小さな力でも重いものを引き上げられる、というのはわかりやすい物理ですよね。

 まあ、すごく動かないといけないんだけども、そこは水上でもスピードを出せる上に小回りが効くグラミィの有能さが光ることになるだろう。

 なにせグラミィには、スリングショット式に瞬間速度を出せる術式がある。あたしが教えたジェットフォイル術式もある。

 そして、グラディウスの船乗りにとって、上手に船を動かせる人間こそが偉いのだ。

 女性の船乗りはあんまりいないという不安要素はあるが、アルガも緩衝役として加わってくれることになっている。そして海神マリアムは両性神なのだ。信心深いというより迷信深い船乗りほど、船の上で女性を損ねるような真似はしないというから、いざこざが勃発しても暴力沙汰には悪化しない。はずだ。だといいなあ。

 ……やっぱちょっと心配ではある。


 それでも、フェルウィーバスに帰還する気はあたしにはない。

 侵攻というよりただの単騎突入に近いが、それでもあたしがいるところが最前線なのだ。

 なにより、あまり戻りたくない理由もある。

 魔喰ライ寸前状態からの魔力暴走の危険性については、魔力の安定手段は見つけたし、あたし専用じゃあるが、確立はしている。今なら周囲に大勢人がいても、不安定になって暴走する可能性は低いだろう。

 だけど、どうにもアーノセノウスさんまわりの反応がねぇ……もやもやするのだ。

 謝罪は受け入れますが、謝ったし許したからといって、即座に以前のような関係を求められても応じられないと思ってくださいと、釘は刺さなくてもよかったかなーと思う程度には、ぎくしゃくしているのはわかる。

 ま、アーノセノウスさんも貴族だし、あたしも大人ですから?軍議の席でも表だって角突き合わせるどころか、息を揃えて他の諸侯たちに対峙しましたけどね?

 

(ヴィーリ。二つ頼んでいいだろうか。一つは、グラミィにあるものを届けてほしい)

(片割れの星にか。いいだろう)


 何を届ければいいのかと問うこともなく、ヴィーリは即答した。そこにほっとした感じがあったのは、あたしをあまり人間に関わらせたくない森精サイドの事情のせいだろう。

 まあ、なにせアルベルトゥスくんの知識は超高性能爆弾ですからねー。下手に人間と接触を許し、知識を譲渡されでもしたら、爆弾増産の危険性があると思われてもしょうがない。


(ありがとう。――もう一つは、北の森へ戻る前に、リトスで得た情報をわたしともすべて共有してほしい、ということだ)


 あたしもリトスはできる限り調べたつもりだ。けれども、見落としがないとは限らない。


(穴があるのなら潰しておきたい。もちろん、わたしが見聞きしたものもヴィーリに渡そう)

(わかった)


 今この状態で、あたし一人、さらに帝都レジナに向かって突っ込むのは難しい。

 後続を待つにせよ、ラームスたち樹の魔物たちの成長と増殖を待つにしても、ヴィーリが戻ってくるのを待つにしても、多少時間がかかるのだ。

 それは、みみっちく稼いできた時間の猶予が消えていくことでもある。

 ならば、せめて自分の手札を増やしておくべきだろう。今は。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ