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交渉また交渉

本日も拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

斥候役だという魔術師さんが、スクトゥムへ向かったのは、あたしが闇森に行ってた間のことらしい。

 ヴィーリとメリリーニャからは、そんなことがあったって話は聞いてなかった。

 だけどそれは、しかたのないことなのかもしれない。


 森精たちにしてみれば、『スクトゥム帝国から人を通すな』は、『スクトゥムとクラーワの交通を遮断せよ』でも『クラーワから出ようとする人間を阻止せよ』と同じではない。

 そもそも、あたしは彼らにとって、観察及び保護対象でしかない。そんなあたしが彼らに命令ができるわけもない。できるのはいいとこお願いだ。

 ということは、森精たちが思い通りに動いてくれなかったからといって、勝手にがっかりするのはお門違いだということでもある。


 ヴィーリたちが安全に斥候役の人を通してくれたというのは、むしろちょっとした親切ぐらいじゃなかろうか。もともとグラミィから聞いたってことで、ランシアインペトゥルス王国から人を通したいって話は伝えてたわけだし。

 とはいえ。闇森だスタンピードだなんだと飛び回ってたあたしは言うに及ばず、グラミィもクラーワ諸国の往復とかにいそしんでたせいで、直接斥候の人には会っていない、というのは、なんだかなあという気分になる。

 ちゃんと挨拶に来てくれたら、今後の行動予定とか伝えておいてくれたら、スクトゥム領内でもそれなりにフォローするつもりだったんですけどあたし。

 てか、木道の手前であたしから情報収集しなくても大丈夫だったのかしらん。

 言ってみれば、ここがスクトゥムの星屑(異世界人格者)どもと対峙する最前線なんですよ。ここ以上に質量揃って鮮度も高い情報が得られる場所ってそうそうないでしょに。


〔ボニーさんだけにフォローも任せるってつもりじゃなかったのかもしれませんよ?迎撃とか足止めとかで手一杯だと思われたのかも〕


 それは……う~ん、あるかもな。

 あたしに対するバックアップは不要と伝えちゃいるが、あらたな斥候にだってバックアップは必要だ。


〔クウィントゥス殿下がもし後追いで誰か送り込む気なら、そういったものも渡してもらえるようにしときましょうか?〕


 そこはよろしく。

 たしかに、今後バックアップ要員も送り込まれないというわけはない。今回はごくごく少人数を送り込んだみたいだが、さらに斥候を帝国の内奥にも入れるつもりならば、それを支える組織だって必要になる。

 食糧面でのコストを考えて、下手な進軍はやめとけと、あたしはクウィントゥス殿下たちに進言はした。

 だけど、あたしの立場的に、じゃあ人数を絞って厳選したやつを送るわ、それのフォローはよろしく、と言われたら……拒否なんてできんのですよ。

 むしろクラーワに拠点置くから任せたとか言われたら、スルスミシピオーネといった諸国に、よろしくお願いしますと頭蓋骨を下げて根回しに回らねばならんレベル。

 ま、バックアップ要員の拠点も確保しろと言われたら、フェルールにでもぶちこみますけどね!

 星屑たちを直接観察できる状況も提供してあげるのだ、綺麗な廃墟で脅かし役も兼任してもらおうじゃないの。


 てか、あたしに前もって露払いを求めてきたくらいなんだもの。クウィントゥス殿下の腹づもりとしては、クラーワ地方どころかスクトゥムの手近なところ、パルスリートスあたりにも橋頭堡をこさえる予定なのかもしれない。

その場合、魔術的攻撃耐性を考えたら魔術師を揃えることになるかもな~。

 絶対数が少ないので貴重な人材ではあるが、魔術師というのは状況次第では非魔術師よりはるかにしぶとい。水は魔術で補給できるし、戦闘においてもうまくやれば、という条件はあるが、十倍近い相手を翻弄し、逃げることもできるだろう。

 なにより彼らは基本的に身体を鍛えていない。魔力識別能力の低い常人から見れば、ひょろがり体型は威圧感ゼロ。むしろ無意識に軽侮する要因になるだろう。

 それでもこの世界の常識的に、魔術師は力ある存在であり、警戒は必要、なのだが。

 星屑たちのことを考えるとなー。あいつら『自分にないスキルを持ってるNPC=いけすかない書割』ぐらいに捉えてたりするもんなー。書割ならば落書きするのも破るのも思いのままって感じで。


〔ず、ずいぶん辛口ですね……〕


 リトスじゃPK感覚で狙われたからね。

 いっしょに狙われてた衛兵はウーゴとかいったか。無事だといいけど。


〔じゃあ、そのへんどうするかとか、いつごろ人を送ってくるつもりかってのも確認してきますね〕


 ありがと。よろしく頼むわ。


〔そうそう、グラディウスからの舟がそろそろイークト大湿原に入るそうです〕


 って、まじかい。

 本気でフリーギドゥム海からコバルティ海までぐるーっと遠回りしたのか。いやそれはいいんだけど、舟を大湿原に乗り入れる気かい。

 海面と大湿原の高低差ってけっこうあるんだけど。


 どうやって、とか。どっからイークト大湿原に入る気か、とか。

 そもそも、どんなに彼らの船が小型で喫水が浅いとはいえ、海を渡る多人数乗りの船が、イークト大湿原をうまく動くのか、とか。

 疑問ありまくりなんですけど。


〔そこはなんかいろいろアロイスさんが手を回してたみたいですよ?〕


 いやそりゃ、以前はフルーティング城砦の、今はフリーギドゥム海の玄関口、アルボーの警衛隊長だけども!

 副官の一人、てかマルドゥスみたいな腹心の一人をグラディウスファーリーくんだりまで派遣するほど、いろいろやってたのは知ってるけど!

 ランシアインペトゥルスの南から北まで手配りききまくりとか。凄腕にもほどがあるでしょ!


〔あ、なんでもコッシニアさんが、アロイスさんの名代になって動いてくれたんですって〕


 はぁ?!

 なんでだよ。

 そりゃあ確かに、コッシニアさんもアルボーに詰めてたけどさ。魔術学院の中級導師でしょうが、彼女。

 アロイスはクウィントゥス殿下の配下。所属違いでしょうに。


〔それがですね、そもそもアロイスさんがアーノセノウスさん追っかけてきてたのって、ちょうどアルボーから王都に来てたからなんだそうですけど。その理由が、クウィントゥス殿下と魔術学院長オクタウス殿下に、コッシニアさんとの婚姻許可を求めるためだったそうで〕


 うわ。まじか!

 そーれーはーちょっとびっくりするなあ。


 でも、アロイスが申し出たってことは、クウィントゥス殿下からの命令じゃないってことだ。

 つまり、結婚しといた方が都合がいいから、といった政略的な理由で決めたものであっても、当人同士、アロイスとコッシニアさんとの間で合意した結果ってことになる。

 それに、アロイスは、コッシニアさんのお父さん、先代のアダマスピカ副伯に恩義がある。だったらコッシニアさんに無理強いをするようなことはないはずだ。

 ……こいつはひとつ、次にコッシニアさんに会ったら、ぜひともからかっておかねば。


〔からかうんですか〕


 髪の毛と同じくらい顔を真っ赤にして、恥ずかしがる姿が余裕で想像できるけど。

 アロイスがしれっとこちらが砂糖を吐きそうなほどのろけてくる様子もだ。

 お骨なあたしに胸焼けを起こせるもんなら起こしてみろって思わなくもないけれど。


〔あー……、なんかわかります。アロイスさんて、いじられるくらいならば笑いながら自虐してみせそうというか。でも、コッシニアさんが本気で怒るようなことは絶対しないと思いますよ?〕


 でしょうねえ。なにせ、今やアルボーで魔術師たちをおまとめしているのは、コッシニアさんといっても過言じゃないみたいだし。


スクトゥムに対抗すべく、ランシア地方のジュラニツハスタやトレローニーウィナウロンといった国々ばかりか、グラディウス地方諸国とも連携を密にしていく必要がある。

 そんなわけで、アルボーは今や警衛隊本部どころか、外務宮の出張所まで置かれており、ちょっとした重要拠点になっているという。

 外交を扱う外務宮はクウィントゥス殿下の兄の一人、外務卿テルティウス殿下の管轄だ。そしてその部下はといえば、テルティウス殿下が魔術師なこともあり、そのほとんどが魔術師系貴族のぼんぼんたちだ。

 つまり無駄に尊大、ナチュラル無礼な連中である。

そいつらをコッシニアさんはしばき倒した。


 以前、アロイスにアルボーの様子を訊いたときに教えてもらった話だ。

 アルボーにはクウィントゥス殿下が魔術士団から引っこ抜いたベネットねいさんたちもいる。彼女たちも、いちおう星屑たちへの備えとして配置されてはいるが、魔術的な戦力としては、あんまり自信がなさげなんだよね。

 だけど、そこでめげてないのが彼女たちのいいところだと思う。


 ベネットねいさんたちは勉強熱心になった。いろいろ小技を身につけようというだけでなく、アルボーの修復工事のために来ていた魔術士団の工兵隊の人からも、いろいろ触発されてたようだ。なにせ、土木工事系の術式についても、熱心に質問してたみたいだし。


 だけど、努力でなんともできないこともある。

 彼女たちの身分は低い。エレオノーラだって魔術副伯家の庶子だったかで、四人のリーダー的立ち位置をキープしてるベネットねいさんに至っては平民だ。

 ぼんぼん連中にしてみれば、憂さ晴らしのいいおもちゃ、ぐらいの感覚で手を出そうとしたようだ。

 そこにコッシニアさんが割って入った挙げ句、全員まとめて相手どって、こてんぱんに叩きのめしたというね。やっぱり、彼女の戦闘能力はかなりのものなんだろう。


 だけど、ただ単にしばき倒しただけでは、プライド天元突破な連中の逆恨みをかう。コッシニアさんだって魔術学院の中級導師とはいえ、身分的にはアダマスピカ副伯家の当主の妹、でしかないのだ。もろともに潰そうってむこうが考えないとも限らない。

 だがコッシニアさんのすごいのは、相手が何かアクションを起こす前に、外務宮へと連絡を超早鳥便で送ったってことだ。

 外務宮じゃめんくらったろうねー。『至急』『機密』扱いで送られてきたのが、『魔術学院の中級導師として、麾下の方々に特別講義を行いましたが、今後も定期的に実力向上のためにご協力申し上げます』って文書だったら。


 中級導師は中級課程の魔術師見習いたちを監督し、試験を行い、合否を判じる。あんまり知られちゃいないのだが、一度課程を修了し、魔術師見習いから魔術師のひよこになったと判じられた相手でも、能力が低すぎると認めた場合には、中級魔術師までなら補講を行うことも、あまりにひどいようなら学院に諮って資格を剥奪することもできるのだ。

 そして、たいてい魔術師系貴族というのは、学院の導師を目指すつもりでもない限り、中級魔術師の課程を修了した段階で仕事を始める。


 つまり、コッシニアさんは外務宮のぼんぼんたちに『魔術師としての資格を剥奪してやってもいいんだが?』と意訳できるだけのモーションを起こしたわけです。

 これは恥辱でしょうよ。しかも上役に伝えられちゃあねえ。


 それでも懲りない数名が、パルとおでかけしていたコッシニアさんを襲撃して……パルに盛大に燃やされたって話は聞きましたとも。主に髪の毛を。

 そのショックで動けなくなったところを取り押さえた上に、アルボーの警衛隊に引き渡されちゃあ、そうそう外務宮やぼんぼんたちの家が握り潰したくてもできないわけですよ。

 コッシニアさんも勝手に伝家の宝刀を抜いたことを魔術学院に怒られたらしいが、彼女のことだ、そのくらいのことは最初から織り込み済みだったんじゃなかろうか。

 最終的には魔術学院だけでなく、クウィントゥス殿下の働きかけもあって、アルボーは静かになったとか。

 

 しっかし、外務宮全体が夢織草にかけられて、禁断症状のあまり妖怪暖炉舐め化していた話って、当人たちにちゃんと教えられてるのかね?

 醜態を知られてるって、相当恥ずかしいし、自分の行動に枷をかける内因になると思うんだけどなあ。

 なんだろう、あの自信過剰なマジカル脳筋の俺様連中って。

 貴人は羞恥心が薄いというが、完全にないってのはどうかと思うの。


外交なんて超高度な交渉に携わってる以上、状況判断能力が高いはず。物事の裏が読めて当然、権謀術数どんとこい。ならば自分の一挙手一投足に気を配るのが当たり前。

 なのに、その初歩ができてないって、ひょっとしてエミサリウスさんをあたしにくっつけてもらったせいじゃないでしょね?


 糾問使からこっち、ずっと協力してもらってて、エミサリウスさんの分析能力がめちゃめちゃ高いってことは、よくわかってる。

 だけど外務宮のぼんぼんたちが、その超高性能エミサリウスさんのフォローを受けるのに、慣れきってたならば。

 ……なんかすごく納得できるんだよね。物事の裏は読めても、裏の裏まで先読みして行動を決定するってことができなくなってるっぽい、ぽんこつな現状が。


 だって、ベネットねいさんたちだって、アルボー警衛隊預かりってことになってるんですよ?

 だったら、クウィントゥス殿下の息がかかってるかもしんない人間かも、ぐらいのことは、ちょっと情報つなぎ合わせれば浮かび上がりそうじゃないですか。

 ちょっかいかけた場合、彼女たちの重要度次第じゃテルティウス殿下とクウィントゥス殿下の仲違いにまで発展する可能性があるんじゃないか、ぐらいは考えようよ!

 ま、そういうこと考えられないアホぼんたちだから、そんな騒ぎを引き起こしたんだろうけど。


〔あのー、ボニーさん。そんな悪影響があるんなら、エミサリウスさんに外務宮に戻ってもらった方がよくありません〕


 や、なんで?

 外務宮があんぽんたん揃いでも、正直あたしの知ったこっちゃないんだが。


〔ええー〕


 だってね。外務宮の連中の程度や能力が低いのは、彼らと彼らを統括するテルティウス殿下の問題なのだ。

 そしてエミサリウスさんは、テルティウス殿下の命令であたしにくっついて歩いてもらってたわけですよ。

 あたしがエミサリウスさんの命令系統に、どうこう頭蓋骨突っ込む権限なんぞありません。

 なによりフルーティング城砦だって、立派な外交の要になってるしね、今。

 そこから勝手にエミサリウスさんをはずすわけにもいかんでしょうが。どんだけパワーダウンするかもわかんないもの。


〔まあ、そうですけど……〕


 だったら話を戻そうじゃないの。

 アルボーをみっちりアロイスとコッシニアさんが掌握してるんなら、いろいろ情報も集まってるはずでしょ。


〔ええまあ。食糧の輸入がいい感じだとか〕


 スクトゥム帝国との戦いが避けられないという判断があって、食糧確保は喫緊の課題になっていた。

 そんなわけで晩春というか初夏のころからじわじわと、冬越しで余ったような古い穀物や豆類が他国から入ってきてるって話はあった。

 国内でも早め早めに種を蒔いては作物を穫り入れるってことをしているという。国内が戦場になっても損害を抑えられるようにだ。

 ジュラニツハスタとの戦いがあったとかいう草原も、十数年かけて穀倉地帯になっているそうなので、餓死者がさほど多くならずにすむというのは、ありがたいことだと思う。


〔それでも出ると思ってるんですね、ボニーさんは……〕


 出るでしょそれは。

 そういう意味でも、グラディウスの船乗りたちがやってきてくれたって話はありがたい。

そりゃあ、いかに操船技術に長けた人たちでも、水脈に乗らねば船底が泥につっかえるようなイークト大湿原で自在に船舟で乗り回せるとまでは思えないが、それでも彼らがいれば、コバルティ海を経由してでもランシアとスクトゥムを往来することができるだろう。


 物資も人員もスムーズに運べるというのは、それだけでリソースの節約につながる。

 ぶっちゃけた話、陸路でランシアインペトゥルスからクラーワを経由してスクトゥムに向かおうとしたら、それだけでかかる日数分食糧を消費してしまう。

 だけど、いくら国内で確保できる食糧が増えていても、ランシアインペトゥルスからそれぞれが持ち込める量というのは限度がある。持ち歩いた食糧が尽きれば、クラーワの食糧を乞うしかない。

 だけど、クラーワの民だって食事をするんですよ。そして山岳地帯ばかりのクラーワで、穀物の収量はそうそう見込めない。いいとこクラーワの人たち自身がほそぼそと食いつなげるぐらいなものだろう。

 

 だが、水運は風次第ではあるものの、それも風を起こす魔術陣を併用さえすれば、魔術師がいなくてもかなりのスピードで移動ができる。食い尽くされる食糧もそのぶん減るというものだ。

 ああでも、だったら火蜥蜴(イグニアスラケルタ)たちの巣はよけて通るように伝えないとだね。

 さすがにヴェスみたいな超大物はいないけど、それでも人間じゃ止めきれないくらいほど大きいのが、ごろごろいたからなあ。


〔ヴェスとおんなじ火蜥蜴なら、話ってできないんですか?ほら、何か交換条件を出して、通してくれとお願いするとか〕


んなこた、できるものならとっくにしてるんですよ、

今のところ、彼らとあたしの関係は隔意ありきの中立、ってところだ。

 ヴェスの抜け殻で作った外套のおかげで、聞く耳ぐらいは持ってくれるが、話を受けてくれるとこまではいってないのだよ。


〔わかりましたー。……あ、それと、クウィントゥス殿下からお願いがあったの忘れてました。アルガさんとマヌスさんを貸してくれって〕


 貸してくれ、ね。

 彼らの庇護をあたしに任せちゃおけん、の間違いじゃないかって気もするけど。


 確かにあたしはアルガとマヌスくんの身元を引き受けてる。ことになってる。

 だけど、それはあくまでも『ランシアインペトゥルス魔術学院名誉導師にして、ランシアインペトゥルス糾問使団正使のシルウェステル・ランシピウス』であったからこそできたことだ。

 今みたいに、『骸の魔(スケレトゥス)術師(・マギウス)』としか名乗れない、ほぼ名無しの権兵衛状態じゃ、庇護の権限なんて機能してないんですよ。有名無実もいいとこだ。

 てか、二人の立場を保持することを考えるなら、クウィントゥス殿下に庇護権を譲渡した方がいいのかしらん。外交に役立つワイルドカードとなる以上、王族は王族が庇護すべきだろうし。

 ま、腹黒殿下のことだから、グラディウスファーリーへの聞こえを考えて、わざとそのへん曖昧にしてたって可能性もあるけどね。

 だけど、この期に及んで『貸せ』とはね。

 

 無い袖は振れない以上、振らせるには袖はあることにしなきゃなんない。

 クウィントゥス殿下的には、あたしがまだ彼らの庇護をしてるんだぞーと伝えてきていることになる。

 シルウェステル・ランシピウスの名を名乗れない実情を知ってる殿下がだ。


 だけど、相手があたしだけなら伝える意味はない。ってことは、あたしに伝えることで、何かを狙ったってことか。

 ありえそうなとこでは、トゥルポールトリデンタム魔術辺境伯領にいる、各領主が派遣してきた連中を牽制するためとか?


〔……なんでそこまでいちいちややこしく考えますかねえ?〕


 グラミィが呆れたようなジト目で首を振った。


〔単純に、グラディウスファーリーとの折衝に、アルガさんたちを使いたいってことじゃないんですか?そもそもトリブルスさんたちなら、めちゃくちゃおとなしくなってますし。前に、ボニーさんの様子見に来たときから〕


 はて。

 ちょっと魔喰ライに近づいてた、ぐらいの魔力は浴びせたけど。それであんだけ文句言いのトリブルスさんたちがおとなしくなるとも思えんのだけどなあ。


 ……なんかやりやがりなさいましたな、王子サマ。


〔やっぱり、ごまかされてくれませんよね、ボニーさんは。アロイスさんたちには一応口止めされてたんですけどねぇ……〕


 溜息をつくと、グラミィはしかたなさそうに心話を伝えてきた。


〔ボニーさんが『骸の魔術師』としか名乗ってないのは、アーノセノウスさんを救って魔喰ライになりかけたからだって。だから短い命と名誉を投げ出して、一人で敵と対峙するなんて任務を受けたんだって噂がトゥルポールトリデンタムで流されてます〕


 なんじゃその嘘くさい美談わ。

 困ったことに、その部分部分が真実でできてるってのがなあ。

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