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いまさらながらの脅迫論証

本日も拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

 グラミィ相手に、悪あがきをしたのが良かったのか悪かったのか。

 しばらくたっても、あたしがアーノセノウスさんたちと、頭蓋骨と顔を合わせることはなかった。

 それには、森精たちも関わっていたのかもしれない。


 闇森に戻っていたヴィーリとメリリーニャが、森精たちのメッセンジャーとしてやってきたのには驚いた。

 闇森に来いという連絡だけなら、まだいい。そんなに驚くことはなかった。

 だけどあたしを呼びつける間、二人のどっちかが、木道のたもとにできた森ですごし、スクトゥム帝国からやってくる星屑(異世界人格者)たちの相手をしてもいいという条件には、さすがに顎の骨あんぐりですよ。あまりに都合がよすぎる。


 森精たちは、基本的に、人間の都合を気にも留めない。人が、他の人間から髪の毛が何本抜けようが気にしないような、その髪の毛の行く末を心配しないようなものだろう。

 人間同士だって、場合によっては他人同士の殴り合いすら、まったく気にしない。いや、自分に影響がないとなれば、おもしろがって観察対象にするかもしれないもんなー。


 だのに闇森の森精たちが、そこまで破格の条件を出してあたしを呼びつけたのには、それなりの意味がある。

 魔喰ライにならずにすむ方法の検証に、全面協力させるためだという。


 まあ、あたし的にも損はないから話は受けたけどね?

 なにせ森精たちは人間の個人認証不能どころか、スクトゥムの星屑たちと、クラーワやランシアの人たちの識別も基本的にはできない。彼らが個人認識のできる相手というと、あたしやグラミィのように、膨大な魔力(マナ)を保有している落ちし星(異世界転移者)ぐらいなものだ。


 それはメリリーニャとヴィーリも同じこと。

 メリリーニャの方は、それでも多少は相手の名前を覚えようという気概はある。だけどヴィーリは王であるとか、王弟であるとか、人間集団の中の地位でしか認識していないところがある。ひょっとしたら、十人長ぐらいの役職の人たちの、区別もついてないかもしんない。

 ……対人関係を構築するには困った特質だが、今回の場合はむしろありがたいくらいだ。


 なぜなら、仮に『あたしが戻るまで、スクトゥムとクラーワを迷い森で分断してほしい』とお願いしたら、例外なくそのとおりにしてもらえるんですよ。

 これが、下手にランシアインペトゥルスの――いや、クラーワの人間でもありえることだが、人間に同じことをお願いした場合、『長期潜伏していた密偵ですが、戻ってきたんで入れてください』といった言い訳だの、ガワの人の外見だのにごまかされて、うっかり星屑たちを出入りさせてしまうかもしんないのだ。

 そういう心配がないのは、じつにありがたい。


 この世界の人間は――この世界の人間も、と言うべきだろうか――、物的証拠というやつに弱い。捏造でっち上げ錯誤その他諸々、絶対という概念は非物理的であると知りながらも、それでも目の前に突きつけられたならば動揺する。

 その一つが外見というやつだ。


 この世界でも、人間や森精たちには人種差、というか地域差、民族的な違いによるのだろう、外見の差というものがある。

 クラーワの人は赤毛が多く、スクトゥムは青みがかかるほどの黒、グラディウスは茶色から金髪、ランシアは銀から黒まで幅広い、といったあぐあいにだ。

 だけど、ちょっとした髪の毛や目、肌の色、食べ物の違いによって生じるらしい体格の差というものは、人物同定にも魔力知覚にウェイトを置く森精たちには『どうでもいいこと』のようだ。


 実際、メリリーニャの黒髪も、白金から金髪の多い闇森の森精たちの中にあっては、めちゃくちゃ目立つ。

 が、メリリーニャ当人が自分の髪の色を気に留めている様子はほとんどなかった。

 あそこまで無頓着ということは、メリリーニャが、これまで森精たちに髪の色『だけ』を揶揄されるような経験がなかった、ということなのだろう。

 闇森にとって、メリリーニャは『南から来た同胞の裔』であり、他の森精たちと異なる髪の色も、その差異の一部にすぎない。それだけなのだ。


 だから、魔力知覚のすぐれた森精たちにとって、あたしがかなり『ありえない存在』になったのは、魔喰ライにならない方法を見つけたから、だと思ってた。

 だけど、あたしという存在が『ありえない』と言われるたぁね。

 そりゃお骨ですし?魔喰ライになりかかって、ヴィーリたちに引き戻してもらえただけでも、珍しいたぁ思うよ?

 だけど、『ありえない』とまで言うかね?と思ったら、『樹の魔物たちに自分の魔力を喰らわせることで、何度も魔喰ライになることなくここまできている』というのが、『ありえない』んだそうな。


 確かに、『消滅寸前まで魔力を樹の魔物たちに吸ってもらう』というあたしのやり方は、無謀と言われりゃそれまでだろう。

 だけど一応、成算はあったのだよ。正気の裡に瀕死に追い込まれたなら、魔喰ライに堕ちないでもすむだろうって。

 

 放出魔力の多い魔術師から、同意を受けて、体外に出た魔力をもらおうとしても、それなりに負荷がある。

 ましてや放出魔力の少ない一般人から、体外に出てもいない、その存在を成立させている保有魔力を吸い取ろうとするのは……あー、相手の心臓から大量に抜き取った動脈血を、こっちの心臓にダイレクト輸血させてもらうようなものなんじゃないのかな。血も心臓も今のあたしにゃないから、推測だけど。

 でも、それが負荷がかかるなんてもんじゃなく、むこうもこっちも生命の危険に陥りかねんってことは、感覚的に理解できてますとも。


 だけど、瀕死者の魔力は、『暴れない』。

 魔喰ライ発生エピソードとして、『戦場で、魔力切れの魔術師に、瀕死者から魔力を吸い取らせた』という話は聞いたが、あたしの実経験的に、それだけでは魔喰ライにはならないはずなのだ。

 あたしがこれまで見てきた瀕死者の魔力とは、ただ体内から周囲に流れ出し、そして不可逆に拡散していくものだ。

 そこにはたとえ吸収したとしても、負荷となるような激しい流れや勢い、熱なんてものが生じる余地はないということでもある。

 ――ならば、魔喰ライ化して荒れている魔力も、瀕死状態まで一度流しきれば、あるいはそこまでいかずとも、勢いや熱をいなし、当人の制御下におけるレベルにまで戻すこともできるのではないだろうか?


 あたしにとっては、仮説の実証が目論見通りにいってよかった、てなもんだったんだけど、森精たちにとっては、あたしの発案した方法は想定外に過ぎたらしい。

 その理由たるや『死にたくないから』というのがねー……。

 自殺願望でもあんのかと正面切って問われたのには、こっちがびっくりですよ。


 それまで、あたしは。森精たちこそ、死を厭わない存在であると思っていた。


 ベーブラの河口で森となったパル。

 枝変わりをしたからと、あたしやグラミィとともに歩む者になったヴィーリ。

 もともと闇森にあっては、切り捨て要員と見なされているメリリーニャ。

 森精というのは、森精という存在を総体として生かすためなら、個々の死は許容範囲の損切りと見なす、滅私の存在であると考えるには十分な事例だと思っていた。

 だから、死にたいのかと聞かれたら、どの口が言うのかねと返すでしょうよ。それは。


 だが、どうやらそれは間違っていたらしい。

 森精たちにとっても、森を保つために同胞を犠牲にするというのは、あたしがこれまで考えていたような、一本の木から葉っぱ一枚、枝一本を切り離すようなものではないようだ。

 例えるなら、一命を救うため、人間が身体の一部――指一本、あるいは足一本をだ――切断する程度には重く、しかししなければならない以上はやるべきこと。


 もし、仮に、彼らの一員が魔喰ライとなったならば、森精たちは悼む。魔喰ライとなった存在が永劫に喪われたことを嘆きつつ、だが間違いなくかつての同胞を処断するだろう。

 だが、それは森精たち全員が、自らが所属する森からはじき出され、あるいは死ぬことを従容として受け入れることと同義ではない、というわけだ。

 ましてや『どうせ魔喰ライになるくらいなら消滅を選ぶ』というのは、彼らの中でもよほどの覚悟ガンギマリレベルで、魔喰ライになっても死にたくなさに暴れて被害を拡大させる、ってのが当然なんだそうな。


 そりゃまあそうか。そんなのに慣れてりゃ、どんびかれて当然か。

 生き汚いといわれようが、人間だって自分の命がいっとう大切。それを見殺しにされそうというなら、なんとかして回避しようとあがくのが人情というもの。

 そこは森精たちにとっても当然だったのを、あたしが見誤っていたというだけのことなのだろう。


 闇森では、多少討議のすえに、あたしの実証した『魔喰ライ寸前の状態から森精や人間を引き戻す方法』は、知識としては有用だが、手法として確立するのは時期尚早として見送られた。

 実用化するにはテストケースの積み重ねが必要だと思いますよーという、個人的見解を述べたところ、闇森の森精たち全員がシンクロな勢いで拒否ってくれたというね……。

 今後は必要の時に、つまりはいくつかの条件を満たし、なおかつ闇森の同胞たちの総意があった場合にのみ使用すべきであり、それまでは樹の魔物たちに記憶させておくことになった。

 完璧な封印案件である。


 ……そこまでするかね?

 てか、必要時って魔喰ライになりかけてるのがいる、って時でしょうが。

 その時点に対処療法の情報が基本コンセプトぐらいしかないのって、かなり絶望感が漂うと思うんだけどな?


 だがあたしはそれ以上何も言わなかった。

 闇森の森精たちが出した結論だ。部外者のあたしが何を言ったところで、彼らがそうそう判断を覆すわけもないだろう。

 それにさー、イカレたものを見るような目で見られてみい。期待も歓迎もされないだろう忠告や苦言なんてもん、わざわざ言ったげるほど、あたしゃ親切じゃねーんですよ。


 そんなわけで帰途にはついたものの、もちろんただであたしが最前線に戻るわけもない。

 足の骨を向けたのは、スルスミシピオーネの街の一つ……というか、でかめの集落であるシクンジだった。


 クラーワの中でも最南端、そして最も低地……というか、イークト大湿原のきわにあるスルスミシピオーネは、星屑たちのしでかす勇者行為被害を最も受けている国である。

 おかげでというべきかどうか、主要氏族であるヴェロカラドゥリーデの本拠地であるシクンジに、余所者が突撃してったわりには、あたしはあっさりと氏族長に対面することができた。

 もちろん、シクンジに着く前から、というよりクラーワの中を移動する際は、以前使ってたものに似せた仮面を作り、いつもフードの下につけている。

 杖?物騒なオプションは着脱自在ですとも。全部とっぱらえば、見た目はずいぶんとおとなしくなるものだ。

 ぱっと見はただの金属パイプにしか見えませんとも。ええ。


 困ったのは、グラミィもアロイスもいないので、心話の通訳をしてもらえないことだった。

 だけどそこは、フームスだけでなく、なんでか闇森で増量していた幻惑狐(アパトウルペース)たちも懐に入れてきていたおかげでなんとかなった。

 そこまで不便をおして、あたしがヴェロカラドゥリーデの氏族長に会ったのは、お願いをするためである。

 なに、スルスミシピオーネの民が放棄した集落の一つを、ちょっと借り受けたいってだけですよ。


 これ、外交的には完全にあたしのスタンドプレイなんだけど、たぶん問題は起きないはずだ。

 ランシアインペトゥルスの為政者として、腹黒いクウィントゥス殿下がクラーワの国々を利用するというのなら、便乗ついでにあたしも多少利用させてもらったぐらいで、文句を言われる筋合いなどない。てか言わせませんとも。

 そもそもクラーワの国々へ、あたしへの協力要請をしたのはクウィントゥス殿下だ。

 ならば有効利用させてもらいます。他国の人間を盾に使うなんてゲっスいことはしませんけど。

 ……そりゃあ、あたしもちょっと思いついちゃったけどさ。実用に移す気は絶対にない。

 あたしがあたしであるために、そんな発想はイークト大湿原の泥底深く沈めてしまうしかないのだ。


 あたしの借り受けた集落は、フェルールといい、ヴェロカラドゥリーデの中でも南方にある。

 星屑たちの勇者行為によって、がっつり被害を受けた集落だ。

 森精たちの威光が効いているのか、クウィントゥス殿下の外交努力のおかげか、それとも星屑たちの脅威を食い止めてるあたしの実績あってのことかはわからない。

 だけど、交渉と呼べないほど、あたしの要求はわりとあっさりと通った。

 じつにありがたい。


 ヴィーリたちのいる木道のたもとにフェルールは近い。最もスクトゥム寄りにあった集落の一つだったからこそ、受けた被害も甚大なものになったのだろう。

 物的被害の悲惨さに比べて、人的被害は少なく済んだらしいのが不幸中の幸いといったところか。

 とはいえ、このまま住み続けることも難しいほどの状況に、なんとか生き延びた住民たちは、周囲の縁戚や同じ氏族を頼って、集落を出て行ったという。


 おかげで、あちこちの建物は、どれもこれも家財道具なんて何にもない、まったくのがらんどうである。

 扉すらないのは、木材が貴重なこの地方ならではといったところか。

 いや、シクンジでも垂れ幕のように布を架けてあったり、干し草をまとめたもので小さな出入り口を塞いだりしてあったもんなあ。

 ……そういったものまで、全部住民の人たちが持ち去ったとしか思えない。

 ヴェロカラドゥリーデの氏族長どころか、たまたまシクンジに居合わせた幻惑狐の氏族の人にまで、あそこは廃墟だけど大丈夫ですかと心配されただけのことはある。

 だけど廃墟であることが必要なんですよ。あたしには。


 ざっと見て回り、状況を理解したところで、あたしはフェルールの改修工事に着手した。

 おかげでかなりぼろぼろだった住居や作業小屋のたぐいは、そこそこ見られるようになったんじゃなかろうか。

 外見だけは。


 メリリーニャたちと合流して、留守を頼んだお礼もそこそこに、あたしは彼らに、さらに協力をお願いしてみた。

 とうに、迷い森は発動している。木々の密度的には森というより林だろうが、それでも魔力知覚のないらしい星屑たちには鉄壁の迷宮になっている。

 いちおう、南を目指して歩いていれば木道のたもとには戻れるようになっているので、今のところ補給不足で死にかけてる星屑はいないようだ。

 ならばあとは、ときどきフェルールへつないでやればいいだけのこと。

 ようやく見つけた集落に、星屑たちは、冒険者気分で勝手に不法侵入してくるわけ、なのだが。


 たとえ樹の魔物たちとはいえ、木々が近くに生えていたら、家々の屋根に落ち葉が散りかからないわけもなく、イークト大湿原のみぎわからも徒歩数分ってなところにあるのに、集落の内側に雑草が生えないわけもない。

 つまり、今まさに人が住んでいるレベルのメンテナンスどころか、開発直後で新築しか並んでない建売住宅街かとか、住宅展示場かってぐらい、まっさらな外見の家々がですよ?

 一歩入った内部は陰鬱な廃墟とか。

 これって、勇者行為やる気満々でやってきた星屑連中も鼻白むと思うの。


 火球の術式をいじった人魂を飛ばすのは基本サービスとして、ついでに幻惑狐たちの協力も借りる気満々ですよ。

 たとえば壁をすり抜ける人影とか。背後から耳に吹きかけられる吐息とか。

 幻覚中心にしてやれば、星屑たちにとっては、これまで戦闘で斃してきたはずの泥人形たちとはまったく趣の違う仕掛けばかりになるだろう。

 実害は少ないかもしれないが、物理的な攻撃能力しか――ま、それもたいして高くないけど――ほとんど持たない連中にとって、自分の攻撃が効かない、通らない攻撃しかできないというのは、相当なストレスであり、また恐怖の引き金にもなるんじゃなかろうか。


 闇森に行く前のことだ。

 さらに遠くの街についても情報を集めるため、あたしはスクトゥム帝国に、これまで以上に深く潜入した。

 アゴラの板(掲示板)の新規開拓のためである。

 足の骨を伸ばして、いつもより遠くの都市の掲示板の書き込みをざっくり見て回り――あたしは反省した。

 星屑たちがゲームと勘違いしている、その盤上に載ってやったのはまだいい。だけど、単なるモンスターをあたしが演じたのは失敗だったと。


 ゲームの敵というのは、基本プレイヤーに気持ちよく(たお)されるために存在する。

 星屑たちがあたしを恐れなかったのは、そのためだ。

 書き込みを見れば、ようやく最近になってノマスケ呼ばわりは消えた。雑魚と見ていたのが間違いだったと悟ったらしいが、それでもあたしを斃せず、クラーワ地方の侵攻が進まないのは、ゲームの作りがまずいせいだという不満が、押し寄せる冒険者のどんじりあたりから強くなってきているようではある。


 迷い森に取り込んだ連中も、なかなか進まない『森の探索』に苛立ってきているらしいというのは、イークト大湿原近くの街の掲示板でも知ることができた。

 それが『運営』への憤懣として醸成されるならいい。だけど、あたし(エリアボス?)さえどうにかすればなんとかなる、だったら集団の暴力で殴り(レイド戦で斃し)に行こうぜ、などと思われるのは困るのだ。

 

 幸いにも、その危険性に早めに気づくことができたので、あたしはヴィーリたちに迷い森での星屑たちの分断をしかけてもらうことができた。

 つまり、今は、『自分の力で敵を撃破できる』と思い込んでいる連中の認識を、『今の自分たちでは、全く攻撃が通じなかった』という経験を通じて、『自分は無力である』に書き換えられないかと画策している途中なんですよ。


 ホラーステージにうっかり迷い込んだーと大騒ぎしてくれたところで、タイミングを合わせて木道まで逃げ道を開けてやれば、星屑たちには『成果なき生還』ぐらいの体験に思えるだろう。

 ついでに、クラーワ地方の真実とやらに飢えている、スクトゥム帝国からやってきた連中には、いい流言飛語の種となるというわけだ。なにせ個人視点の『真実』とやらは純度100%ですから。


 そうやって、どうやらうまくクラーワ侵攻の足止めががっちりできた手応えを感じて、ほっとしていた時のことだった。

 グラミィの行っていた斥候さんだか密偵さんだかが入りこみやすいようにという言い訳(建前)で、あたしはまたもやスクトゥム帝国の街々に忍び込み、掲示板にいろいろ書き散らしていた。

 モンスターや勇者行為で負けると、不名誉称号ってのがつくぞーデスペナ以上に痛いぞー鑑定スキル持ちに見てもらったらびっくりしたぞー、とかね。

 少しでもデメリットをいやがる星屑どもを退嬰的に動かすためだ。

 そこであたしは、奇妙な書き込みを見つけたのだった。




***




【噂に注意】クラーワ地方のモンスターを語るスレ21【噂にも注意】




 3:スレ主


 木橋からの攻略がうまく進んでないというので、今回はスクトゥム側で得た情報から挙げていく

 パルスリートスのさらに東側にパルスリーパって街があるのは知ってると思う

 パルスリートスよりもイークト大湿原に近いんだが、なんと城塞都市、いや城砦だ

 漁師?そんなもんはいない

 その理由はモンスターの群れにあるらしい



 4:スレ主


 そんなわけで話に聞いたモンスター



生物系?←NEW!

 ※グロ注意



 ・スタンピード


 命名の通り、個別の種族名ではなく、大量のモンスターの集団、ただしおそらくはほぼ一種類の魔物ではないか、だそうだ

 推測なのはサイズのめちゃくちゃさ加減

 小指の爪サイズから成人男性を頭から丸呑みできるサイズまで各種取りそろえ状態

 ただ、体型は細部が違うものの全体的には似通っているとか


 ぶっちゃけ出くわしたらどんな猛者でも死を覚悟するらしい

 イークト大湿原の東南が赤く染まっているのはこいつらのせいらしい


 らしいらしいですまんが、話してくれたパルスリーパの人間だという兵士の表情はひきつっていた

 脅威度はかなり高いと見るべきだろう

 それから、こんなのだという絵をもらったんで描き写しておく



 5:スレ主


(不格好なカエデ?の葉っぱぽい絵)



 6:一狩りしたい名無し


 wwwwwwww



 7:一狩りしたい名無し


 これは草。いや葉っぱw



 8:一狩りしたい名無し


 スレ主おまえ、絵が下手なんだからさ

 無理せず素直にもらった絵を貼っとけよ



 9:スレ主


 >8

 貼ったら誰かが持ってくだろうが

 そんなことさせてたまるかよ


 こいつの攻撃方法は不明

 というか複合的なものらしい



 10:一狩りしたい名無し


 複合的って?どういうことだ?



 11:スレ主


 爪でやられたのか、それとも牙で噛みつかれたのかは不明ってことだ

 ただ、こいつらに触れられたらそこでおしまい

 火傷のような火ぶくれができたと思うと、それがどんどんひどくなり、処置が間に合わなければ、最後には手や足がもげるまでいくらしい

 もっとも、処置ってのも、患部切断が主流なので、傷の悪化程度と当人の死亡確率は処理をしてもしなくても、ほとんど同じぐらいだとか



 12:一狩りしたい名無し


 やべーなそれは

 基本毒持ちと考えるべきかな?

 ついでに言うなら、イークト大湿原の東側から回り込もうとか考えるな

 それよか木橋から地道に攻めろってギミックなのかね?




 ***




 クラーワに戻ってきたあたしは、ヴィーリたちにいくつか質問をした。

 そして、その次の日の夜、東南へ向かったのだった。


 目指すはパルスリーパ……の手前。

 スタンピードと呼ばれていたものたちの巣窟である。

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