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一人○アゴしてたら夜が明けちゃいました。

 頭を悩ませてる二人の隊長をほっといて、あたしはグラミィを部屋まで送っていった。

 馬車に戻ってくると、下働きに変装してた服を脱ぐ。

 いつもの服に着替える……前に、そっと取り出したのは、弩で撃ち落とされた時に折れた骨だ。

 

 この世界の物質は、魔力を多かれ少なかれ持っている。

 それは魔術師の髪の毛といった生体の一部に限ったことじゃない。サージが持っていた魔石?というか、魔力結晶?にも見られるように、有機物無機物の区別はあまり関係がないようだ。

 そして、人体を含む生体組織の治癒には魔力が使われている。


 ギリアムくんの火傷の治療をしたときのことだ。

 彼の腕や顔の包帯を取り替えたりしてあげてた時に気がついたのだが、傷及びその周辺からは、無傷な箇所よりも魔力を強く感じた。


 自分の治癒に魔力を使うことはできても、他人の治癒に魔力は使えない。

 これってば、逆を言えば、他人を自分の魔力で治療することはできなくても、自分自身の治療ならできるってことじゃないだろうか。

 しかも、魔術師ではない人間にもその法則は当てはまり、意識的なものか無意識のものかはわからないが、実際に治癒をしている。

 ……ということは、魔力を意識的に操作できるあたしならば、自分の治療もかなり効率的にできるんじゃなかろうか。

 治癒魔術の術式とか見なくても。


 そして、今日見た現象だが、魔石()は魔力を吸い尽くしたら砕けた。

 ということは、含有している魔力が少なければ脆くなる、裏を返せば含有魔力が大きいほど強く固い素材になるのではないか、という仮説が成立する。

 そこに、あたしは魔力を吸収することができ、しかも吸収した魔力を唯一の身体構成要素である骨に貯めておくことができるという条件を加える。


 さて、ここで問題だ。


 あたしの骨は、魔力を吸いとることができる。加えて、魔力を使えばそのひびや欠けを直すこともできるかもしれない。

 魔力を吸えば吸うほど骨自体も通常の人体のそれよりも強く固いものにできるんじゃないか、という推測もだ。 


 じゃあ、その魔力をどっから集めればいい?


 他人の体内にある魔力を直接吸い取ることはできないし、あたしだってそうそう何も考えずに、吸えるとこから吸いまくってたわけじゃない。真夏の蚊じゃあるまいし。

 アレクくんからちょくちょく吸ってたのは、自己防衛だ。半分くらいは。

 あくまでも、攻撃魔術の構築を妨害するついでに、生魔力をもらってたときとは状況が違う。彼やベネットねいさんとの関係が比較的良好になってるから、なおのこと彼らから無理矢理吸うわけにはいかない。

 とはいえ、襲撃されたとき、大魔術師ヘイゼル様の演出とかにも魔術をばかすか使ったもんなー。

 おまけになんだか魔力が減ってるなーと思ってたら、骨の折れ口からも、ちょろちょろ無駄に漏れてたし。

 気づいた時には焦ったよ。下手すりゃ失血死ならぬ魔力漏れによる活動不能になってたところだなんて。

 痛覚信号の意味を理解するって大事だね。


 だったら、魔力吸っても文句の来ないとこから集めりゃいーじゃない?

 魔力を枯渇させなきゃいけない、裏切り者の魔術士とかから。


 というわけで、さっそく実験である。


 用意できたものその1は魔力。

 サージからぶんどってみましたが、質も量も微レ存です!

 あの魔石()から吸った方が、よほど質量ともに満足できるものですので、それの補助に使いましょう!

 用意できたものその2、折れた骨を揃えます!

 粉砕骨折ってほどではないけど、やっぱり折れた周辺部分は細かい欠片になってた。

 そのことに気がついたのは、撃たれた日の夜、アロイスやカシアスのおっちゃんと悪だくみを終えた後のことだ。

 いやー、慌てたね。元通りに直すならどんなに細かい欠片一つでも大事だもの。

 一人、馬車の中で下半身素っ裸、というか骨になって探したもんねー。

 他人にはお見せできない姿だ。いろいろと。

 折れた骨自体もまだ痛かったけど、動けないわけじゃないからとりあえず無視して、脱いだ服についてないかと座席で畳んだり広げてみたり。

 ……結局、全部ブーツの中にたまってたってのに気がついたときは脱力したけどさ。

 いや、ブーツ履いててよかったというべきか。

 グラミィがくれなかったら、全部回収なんてできなかったんだろうから。

 見つけた欠片は身体のあちこちに巻いてた布を少し切って、包んである。痛みも今はほとんどない。魔力の漏出を止めてみたら、折れ口を新しい外部として認識し始めたからなんだろうか。それはちょっと困るかもしんない。


 ともあれこれ以上時間をかけてもあまりよろしくなさそうな気がするので、思い立ったが吉日ってことで、実験開始。

 まずは大きめの欠片同士をつなぎ合わせる。

 ……これ、思ったよりも難しいかも。

 折れ口の断面と残存してる魔力の流れ、というか木目みたいなところを手がかりにしてるのだが、ちょっとでもずれたら歪みそうだしなー。

 手こずりながらも完全に密着したところで、両端から魔力を流してやる。

 生きてる他人の魔力には干渉できないが、なにせ死んでるあたし自身の魔力なので、そのあたりはわりとどうとでもなるものだ。

 魔力の流れに停滞がないことを確かめて手を離すと……

 おお、ちゃんとくっついてるよ!

 うっすら継ぎ目みたいなものが見えなくもないが、ちゃんと一体化してる!

 よっし一段階目クリア!

 ふー、と息を吐き出した気分になって欠片を吹き飛ばしてないか、一瞬慌てた。

 ……息してないのにね。無駄な心配だったのがちょびっと悲しい。

 

 つなぎ合わせた欠片と、次の欠片をつなぎ合わせ、また、そのまた次とつなぎ合わせ…

 折れた骨が一本にまとまると、今度は残った砂粒サイズな欠片を合う隙間にちまちまと埋めていく。

 表面が滑らかになったところで、セルフな一人デ○ゴも終盤である。

 ここが一番ムズい。

 なぜかというと、視界が骨越しだから!


 折れたのは左側の肋骨、下から三番目だ。

 胸骨につながる前の部分はシャツとかのボタン感覚でまだイケるんだが、背骨との接合部分がどうもね。

 背中側に回した左手で受け止めて、あわせようとするんだがうまくいかない。

 ああもう、誰かブラ●クジャック呼んできてー。

 立てた鏡で、自分の開腹手術ができるとか偉大だわー。


 ……悪戦苦闘の試行錯誤。

 さんざん繰り返して、よーやく悟った。


 目で見るのが間違いだったわ!

 てゆーか、あたしはそもそも物体の外見を光学的に見てるわけじゃなくて、魔力でその形を副次的に見てるんだよね。

 だったら、魔力の流れを見ればいいじゃん!


 まずは骨に魔力を流す。イメージ的には水をいっぱい詰めたパイプだ。

 その先っぽを胸骨側に当て、水漏れしないように先端を閉鎖していた胸骨側を開き接合する。


 ……けっこう痛ひ。


 そりゃそうだよなー。現代日本的には切断された手を持ってきて神経とか腱とか血管とかつなげて動かせるようにするようなもんだもん。

 だけど、折れた骨の痛みにも、流した魔力で骨を固めるのにも慣れた。さんざんやったからかね。


 ……そっと手を離す。

 よし。きっちりくっついた。こっちはこれでいい。

 反対側も、背骨側から魔力を流してやる。

 と、吸い付くようにすんなり骨同士がくっついた。


 ……あたしのさっきまでの苦労はいったいなんだったんだ……。


 いや徒労感と痛みで集中が切れるより先に、補強もしとかねば。

 サージの微妙すぎる魔力のせいか、なんか、くっついたとこも下手に触ったら、ぺきっていきそうだよこれ。

 

 しょうがないのでひび割れたところに魔力を集中してみる。これ、いい魔力感知と操作の鍛錬になっているのかな。

 十分補強ができたかな、というところで、今度は全身の魔力の流れを意識して操作してみる。全身の骨から背骨を通して肋骨へ、胸骨までいったところで今度は逆に肋骨から全身へ。


 ……よし、漏れなし、ひびナシ、折れもなし。ひっかかりや違和感も感じないくらいには馴染んできたようだ。

 ただ、修理に魔力を使いすぎたせいか、全体的にやっぱり魔力が少ない感じがする。

 これだと、魔力抜きで考えた時の、物体としての素の状態の強度が下がってそうで、それもちょっとコワイ。

 

 よし。


 サージの詠唱していた術式をいじってみる。

 向ける対象は自分自身。目的は骨の保護なので、強度は高めで移動エネルギーはゼロ。

 顕界すると、じわじわと骨に艶が出て強靱になってくるのがわかった。


 サージの詠唱、あれは初めて見たが、おそらく石弾だろう。鉄格子を破壊するのに氷や炎は不向きと考えたのか。

 お湯を入れたグラスが割れるように、急激な温度変化だけでも物体はわりと壊れやすいもんなんだが、そこまでの知識はなかったんだろう。

 問題は、それがサージの知識の限界なのか、この世界の知識の限界なのかがわからんってことかな。


 それはさておき。


 どうその術式をいじったかというと、生成した鉱物で、骨の表面をうすーくコーティングしたのだ。

 燐灰石、つまりハイドロキシアパタイトで。

 ハイドロキシアパタイトは骨の主成分でもあり、骨より固い歯の主成分でもある。

 ならば鉱物標本はセルフで間に合わないかな、鉱物を操作する魔術で同じ物質を生成できないかな、歯の表層と同じ硬度の結晶体で骨をコーティングすれば補強できんもんかなーという思いつきを自分で人体実験してみたんだが、思ったよりうまくできちゃいました。

 えらいぞ自分。

 これで、狙撃されて壊しちゃったこのお骨も、推定シルウェステル・ランシピウスさんにお返しする際には綺麗な状態で返せるだろう。

しばらくはまだお借りしますが。よろしく。


 なんとなく合掌して頭を下げていたら、ノックの音がした。


〔ボニーさん、朝早くにすいません、ちょっといいですかー?〕


 ……あ、もう朝か。早いなー。というよりあたしがセルフデア○に時間かけすぎたのか。

 こんな時間に珍しいね、グラミィ。ちょっと待ってぇな。


 あわてていつもの服を着てから戸を開けて、グラミィがよっこらしょと乗り込んでくるのに手を貸す。


 あれ?


 どしたん?


 冬が近づいてきていて、日が短くなってきてるっぽいとはいえ。まだ空が暗い時間に何用よ?


〔何用、じゃないですよー。ダブル隊長放り出して帰ってきちゃったじゃないですか、昨日。あれってやばくないですか?〕


 あ、うん。

 でもこっちもなるべく早く済ませたい用があったんだからしょーがない。

 まあそれは終わったんだけど。


〔じゃあ、彼らに、いつ、どこまで、言います?〕

本日も拙作をご覧いただきまして、ありがとうございます。

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