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砦の四悪人

 てなわけで遺体回収は中止、カシウスのおっちゃんに捕縛まで丸投げした結果。

 30人ぐらいの従士と騎士を武装解除して戻ってくると、砦に残っていた人間は降伏してくれました。

 そりゃもうじつにあっさりと。


 籠城戦を選ばれてたら、あたしたちに負けはなくても時間か手間か、あるいはその両方がイヤってほどかかってしょうがなかっただろう。

 ちなみに、籠城戦の場合、寄せ手は守り手の10倍は必要ともいう。

 だから守備を固められた城を落とすのは極めて困難になる。

 したがって、籠城した死兵にまみえたとき、一番簡単なのは、相手にしないことだ。

 進軍先に城砦があったからといって、無理に陥とす必要はないなら、さくっとスルーするとか。

 他にも挑発によって野戦に持ち込ませる、もしくは外部と完全に分断して水や食糧を消費し尽くさせ、戦力と戦意の低下を待つという戦法などが有効だということは歴史が証明している。

 だが、そんな大げさなことをしなくてもこの砦に勝ち目は最初っからない。

あたしが火球を精密射撃で窓という窓から放り込んだって事は済むのだが、そんなことすらしなくていい。

 カシウスのおっちゃんたちは王都からの命令で来ているのだから、反逆を報告した後は、のんびり王都からの応援を待って、後は大軍に任せて引き上げたっていい。

 糧秣?

 ちゃんとギリアムくんの手配で途切れることなく届いてますが何か? 


 簡単に砦の大門が開かれたのは、それがわかっているから、ではなく、ただ単に砦の警備隊長が狐だったからなのだが。

 狸というにはちょっと愛嬌が足らない。


 警備隊長とカシウスのおっちゃん、それとあたしとグラミィ、四人だけの密談ということで、人払いをした後で聞いたことだが。

 おっちゃんがベネットねいさんを襲った兵士の件で、警備隊長をとっちめたと言っていたのは、半分本当で半分は嘘だったそうな。

アロイスという警備隊長は『放浪騎士』の二つ名を持っているというが、カシウスのおっちゃんにはその剣技から『変幻』の名がつけられているという。その知略も二つ名には貢献しているのだろう。


「囮の役目、ごくろうだったな。カシウス」


 警備隊長の開口一番には、なんですとー!って脳内絶叫だったもんね。


 あたしもグラミィも、知らないうちにカシウスのおっちゃんとこの警備隊長から強制的に小芝居の役をふられてたってことのようだ。

 やるな、おっちゃん。


〔えーだってこんだけつくった信頼関係が二重底ってないですよー〕


 あるに決まってんでしょ。

 おっちゃんたちだって100パーあたしたちの味方なわけじゃない。

 それに、カシウスのおっちゃんたちには、国に仕える騎士という立場がある。目的を果たすためには手段を選ばぬ覚悟がある。

 だから潔い。

 だから侮れない。

 けれど、あたしたちにだって、おっちゃんたちに対して隠し事もある、行動理由だってある。そうでしょグラミィ?


〔…………〕


 だからこそ、その上で自分自身にも問わなければいけない。

 彼らにとって、価値ある存在で在り続けられるかどうかを。

 対等な協力関係ってのはそういうもんだ。


 ま、まぁ、おっちゃんたちの策の底の底まで見抜けなかったあたしが言えることでもないんだけどさ。

 きっちり掌の上で踊らされたもんねー。


 ここの砦は、もともと地理的な要因のために、複数の地方から搦め手でも正攻法でも、ちょっかいをかけられやすいところらしい。

 したがって、この砦に詰める国境警備ってのは貞信堅固で守りの戦上手でなければ務まらない、名誉ある職であったはずだった。

 それが、現実を名目上に棚上げしたせいで崩れてしまった。

 ここまでは以前にカシウスのおっちゃんからも聞いた話だが。


 ならば、それを逆手にとって諸地方の探索をすすめる拠点とできないか。

 その発想から作られた、本当に一握りの騎士たちと心利いた従士たちだけの諜報部隊の長。それがアロイスだという。


 辺境へ飛ばされてきたせいでやる気ナッシングなお飾りの警備隊長を演じながら、懲罰目的で着任させられた連中(と書いてクズと読む)を隠れ蓑に、隊長自らもランシアインペトゥルス国内や他国の内偵を進めていたんだそうな。

 グラディウスなどの他地方はともかく、国内なら話は簡単だ。街道沿いの宿場町とかに、どんちゃん騒ぎをやらかしに行ったふりを何度かしていれば、それほど砦の中で頻繁に顔を出してなくても、どうせ二日酔いか遊びに抜け出たかのどちらかだと思ってもらえる。言い訳を考えずとも不在を隠すには、じつに都合がいい。

 あまりに都合がよすぎた。慢心をよぶほどに。


 ちょうど内偵の交代で、国内への警戒が手薄になっていた時に、あの馬車の一隊の『墜落事故』は仕組まれたものだった。らしい。

 ……だからこそ、信頼できる人間が側近しかいないこの状態をひっくり返すために、新しくやってきた騎士隊の人手を借りて、ここで一網打尽にしてしまうつもり、だったそうな。


「おまえみたいなかっちん玉が、部下にも秘匿したまんま囮になれるか賭けだったがな」


 まあそこは清濁併せのむ器の大きい自分の手柄だ、と胸を張る警備隊長の姿に、カシウスのおっちゃんはひどいしかめっ面になった。


「……賢女様、従者どの、どうかこのへらへらした愚か者をお許しください。これでも陛下の臣のはしくれ、それがしもたまには首を絞めてやりたくなる時があるのですが、なかなかそういうわけにもいかぬのです。やるならこの手でいたしとうございますので、堪忍ならぬという時にはぜひともそれがしにお申しつけ下さい。適当な名目をつけて処断いたしますので」

「古なじみに向かってひどいことをいう」

「脳天気この上ないおまえの尻拭いをずっと押しつけられてきた俺の身にもなってみろ!」


 額を抑えながら、ぎゃいぎゃいとじゃれ合っている(ようにしか見えない)カシウスのおっちゃんが、ふと意地の悪い顔であたしを見た。


「従者どの。すまぬがこの馬鹿者にお顔を見せてくださらぬか?」


 え。

 いいの?どうなっても知らないよ?

 責任は…とってくれるとそうですか。

 ではどうぞ。こんな顔ですがいかがでしょう。


 ……警備隊長さん、椅子ごと真横にひっくり返りました。

 あ、起き上がろうとして、足縺れさせて転んだ。


「このアロイスという男、騎士の体面上怖い物なしを標榜しておりますが、じつはご覧の通り、生きている人間以外に対してはたいそうな怖がりでして」


 にやにやしながら解説してくれるカシウスのおっちゃん。

 楽しんでるなー。じつはあたしもちょっと楽しい。一方的に利用できるからしてやるぞ、ありがたく思え、ってな態度を見せていた人間が、こうもうろたえる姿をさらすところを見物するのって、けっこうおもしろい。

 一方的に利用されていた側としては、特に。

 ……もしかして、あたしたちのフラストレーション解消とか、そこまで考えてたかカシウスのおっちゃん。『変幻』の二つ名は伊達に厨二病じゃないってことか。


「こここここ」

「鶏にでもなったのか」

「違うわ!そそそもそも怖がってなどおらんわ!ちょちょっと驚いただけではないか!」


 ついつい生ぬるい目で二人の掛け合い漫才(コント)を見ていたが、どちらからともなしにおっちゃんも警備隊長も真面目な顔に戻った。

仲の良いのは幼なじみだからとか階級的にはほぼ同列だから、というだけではない息の合いっぷりである。

 どっちも実はトリックスター系の性格なのかね。下手すりゃただの愉快犯だけど。


「なるほど、これならお前が『ヘイゼル様』と認めた理由もわかる」

「おまえも顔を見るまで、骨どのが普通の人間と思っていただろう?」

「ああ。これなら『ヘイゼル様』とも底まで腹を割った話ができそうだ」


 アロイスはにやりと笑った。

 どうやら、ようやく対等な協力関係を結べるだけの相手だと認識してもらえたようでよかったね、グラミィ。


〔あたしたちが信じるかは別ですよ?〕


 そりゃもちろん。

 おっちゃんの人間性をあたしは信用してるけど、それは自分の手足を動かすようにおっちゃんを動かせることを意味するわけじゃない。

 逆もまたしかり。

 あたしたちを『使える』と判断したからには、あたしたちを『使える』だけの器量も見せてもらおうじゃないの。


 実力も地位もある協力者が増えることはあたしたちにとってもいいことだ。

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