ミーディムマレウスへの再突入
本日も拙作をお読み頂きましてありがとうございます。
あたしはヴィーリから預かってきた樹杖の枝を、杖のラームスたちから抜き取ると、四脚鷲の前肢に掴ませた。これはヴィーリが自分の樹杖の枝に伝言を託したものだ。
そんじゃグリグ。これを、森精たちに渡してちょうだい。
(理解)
頼むよー。もちろんこのまま真っ直ぐ闇森に帰るんだよね?
(駄目?)
駄目だってば。
……万が一グリグに何かあったとしても、ラームスに一応情報は複製してもらったから、別の四脚鷲を呼べば再試行はできるだろうし、ヴィーリもまた他に抱えた連絡手段があるのかもしれないけど。少しでも成功確率は高い方がいい。
(残念)
いいから、とっとと行きなさい。
きゅるいと鳴いて飛び去るグリグを見送って振り返ると、言葉もない、という様子でパッルスさんが頭を左右に振っていた。
「……いやはや、これはシクルスどのが言葉を尽くして褒め称えられるわけですね。クラーワヴェラーレはランシアインペトゥルスという偉大なる隣人を友人として得たようだ」
「『おや、アルヴィタージガベルとも友好を深めたいと願ってはいけませんかな?』」
グラミィにそう伝えてもらうと、彼は思いも掛けぬようなことをきいた表情になったが、やがて破顔した。
もちろん、これもただの嬉しがらせじゃない。
あたしたちのためにも気持ちよく働いてもらいたいがための建前はもちろんだが、スクトゥム帝国のことを考えたら、クラーワ地方の内部に無駄な波風を立てたくはないって本音でもあるんですよ。ええ。
パッルスさんは、アルヴィタージガベルの呪い師たちの中でも、かなり政治力を持つ人物なのだろう。そうでもなけりゃ、そうそう素早く四脚鷲の氏族の長老たちに引っ張り出される、なんてことはなかったはずだ。
だったら、彼との繋がりはきっちり強化しておくべきだろう。
呪い師のいない単氏族国家のサルウェワレーじゃ望めぬことだったが、アルヴィタージガベルでは折衝の結果、ミーディムマレウスとの関所に、呪い師を常駐することになっている。
それに、今後ミーディムマレウスから星屑たちの影響を完全に払いのけることができれば――そんなことができるかどうかはわからんが――、たぶんそれでも今後の星屑たちの流入可能性を考えたなら、ミーディムマレウスへの監視の目は持ち続ける必要がある。
星屑のガワにされた人、星屑たちに煽動された人を排除していけば、有能な働き者の層はどうしたって薄くなる。いろいろ人材が引っこ抜けた後、ガタガタになったミーディムマレウスがどう動くのか、いやどうつついて動かすかは、隣国であるアルヴィタージガベルにとっても重要な問題になるだろう。
ミーディムマレウスの主要勢力であるという呪い師たちの反発をそらし、彼らと協力して事に当たることができるのは、アルヴィタージガベルにおいても、やはり呪い師ということになるだろう。
四脚鷲の長老たちに顔が利くパッルスさんと、顔と頭蓋骨が繋げられたのは実にありがたい。
ここまでスムーズにこれたのは、かなりの僥倖と言ってもいい。
正直なところ、あたしたちの言葉を信じてもらえない可能性だって高かったのだ。
なにせ、長老たちに面会をねじ込んできたのは、クラーワ社会においてはそこそこ立場も信用もある呪い師と幻惑狐の氏族とはいえ、どちらも異国人だ。
しかも案件を持ち込んできたのはその連れ、素性も怪しい二人組だ。しかも一人はフードと仮面で顔を隠した上に、口も訊かないときている。
挙げ句に、口を開けば隣国が別の国の傀儡となってます、自分には森精がついてて、他の国も魔物を鎮めて問題解決しましたと言うとか。
……うん、客観的に考えたら、あたしたちってばただの誇大妄想狂にしか思えんわな。
アルヴィタージガベルの長老たちが、荒唐無稽なあたしたちの言葉を信じてくれたのは、あたしたちの着込んだクラーワ地方の衣服が、サルウェワレー特有の意匠を施したものであったこと、あたしたちの連れてた幻惑狐たちが、毛色からして、アルヴィタージガベルに棲息するものだと確定できたこと、そして当の幻惑狐たちのくつろぎっぷりなどに由来するところが大きいんじゃないかなとあたしは見ている。
あとはパッルスさんの存在がある。彼はあたしとグラミィの魔力を直接見ていたわけだし、そこからグラミィの言葉が真実であることもたぶん認識していたことだろう。
加えて、つい先ほど放出魔力を増やしてグリグを呼びよせたところを彼は見ている。彼が長老たちにとって魔力を知覚する呪い師の目の役割をしている以上、たぶん長老たちに、何があったかをそのまま伝えるだろうね。
それでさらにあたしたちへの信頼は強くなる。めでたいことに。
さて、それじゃこっからは即行でミーディムマレウスへ向かおう!と思っていたのだが、あいにくともう辺りは薄暗くなっていた。
もちろん、あたしもグラミィも夜目は利く。けれどお骨なあたしはともかくグラミィは生身、しかもガワはご老体だ。おまけに、今日は、すでにかなりの距離を移動している。疲労も溜まっているだろう。
しょうがないので最寄りの集落で宿を借りることになった。
交渉してくれたパッルスさん曰く、呪い師たちというのは、こんなふうにちょっとした便宜を図ってもらいやすいものらしい。
そりゃそうだよねー、祭祀を司るという意味では聖職者、水の差配をするという意味ではインフラを直接握る権力者だもん、呪い師って。
だが、あいにくあたしたちは呪い師じゃない。
つまり、これはこれは余録に甘えんなと釘を刺しにきたのかなと思ったら、なんだったら呪い師のふりをするのに手を貸しますよと囁かれたのには、ちょっと揺れた。
確かに、あたしはまだしも、グラミィがより楽に移動するのに、呪い師扱いで厚遇を受けるってのは都合が良い。
そもそもサルウェワレーで都合を付けてもらったこの扮装だって、あの国には呪い師がいないからこそ一般人一択にはなったということもある。
けれど、パッルスさんが都合の付けられる呪い師の恰好というのは、どう考えてもアルヴィタージガベルのものだよね。
……それって、あたしたちがアルヴィタージガベルの呪い師に扮して行動していれば、アルヴィタージガベルにとっては対外的に強力な呪い師がいるぞアピールができるってことじゃなかろうか?
やですよさすがに。クラーワヴェラーレの呪い師たちとだって、むこうがすり寄ってくるのを、関係を拗らせないよう、いかにやんわり突き放すかってことで頭蓋骨かかえてんのだ。
「シクルスどのの目がお気になりますか?」
あたしのフードの中まで見通すような目で、パッルスさんが口元だけ微笑んだ。
案外というべきか、やっぱり四脚鷲の長老たちと太い繋がりを持つだけあるというべきか、彼も相当したたかだな。
いやだけど、はっきり言ってシクルス個人はどうでもいいんです。彼が顔を顰めようが何しようが、そこはあたしたちが負うべきリスクなんで。
だから、あたしたちをクラーワヴェラーレとアルヴィタージガベルの呪い師同士が揉めるネタにしないでくれませんか。あたしたちはゲームの駒じゃないんで。やったりとったりされたかないんです。
「『パッルスどのは四脚鷲の氏族の方々とも、赤毛熊の氏族の方々とも、上手にお付き合いのなされる方だと存じます』」
明後日方向の答えをあえて返してみると、パッルスさんの微笑みは崩れなかったが、魔力は僅かに揺らいだ。
……内心舌打ちしたな。
だがそうそう取り込まれてたまるもんかい。パッルスさんが、恭順を示さなければ即刻敵対者と判断するって気性じゃないってことは読み取ったけどね。
「『いずれ困ったことがございましたら、パッルスどののお力添えを願うこともありましょう』」
「その時には、よろこんで」
うん、このくらいの社交辞令に留めておくべきだろうなあ。
アルヴィタージガベルの首都、ソヌスタブラムに戻ると新たな問題が持ち上がった。ラテルさんが、せめて国境まであたしたちについていきたいと主張しだしたのだ。
だけどねえ、ラテルさんを含め、幻惑狐の氏族の人たちって、あんまり腕っ節が強いってイメージがないのだよね。
もちろん、行商の関係上自衛能力はあるのだろうけれど、こう、ガタイの良さで威圧してトラブルを回避するというよりも、閉鎖的な集落でも警戒心を抱かれにくく馴染みやすいような、細めな身体つきのせいもあるのだろう。
できればアルヴィタージガベル内でもより安全な、星屑が混じっていないことが確認された、長老さんたちの庇護を直接受けられるソヌスタブラムで待っていていただきたいものだ。
そもそも、ソヌスタブラムも隅から隅までクリーンとは断言できないんである。だから対策は安全第一、いのちだいじに。できればシクルスにくっついて、なんかあったら彼を盾にすべきだろう。
そりゃあ、もし余力があるなら、クリーンであることがパッルスさんたちによって確かめられた、アルヴィタージガベル国内の幻惑狐の氏族に接触して、この状況の説明とか情報の共有とかを図っておいてくれるとありがたいんだけど。でもそこまで求めるのは酷だろうしなぁ……。
「だそうじゃ」
うぉぃっ、グラミィ!なんで全部そのまんま伝えんのよ!
〔だって、ラテルさんの身が心配なのはわかりますけど、過保護は無能扱いするのと同じじゃないですか。受ける側の解釈のせいかもしれませんけどー〕
いや、グラミィ。その理屈はわかるのよ?
でもまるっと全部伝える必要はないでしょー?!
〔……口が滑りすぎましたかね?〕
てへぺろ的なイメージを心話で送ってくるのはやめれ。反省してないでしょあんたわっ。
おまけにすっかりラテルさんが覚悟決めた顔になっちゃってるじゃないのさ。
「わかりました。どうか無事のお帰りを」
「『……頼みました。ですが、くれぐれも無理はなさらぬように願います。ククムどのを無事お連れし戻ってきたところで、今度はラテルどのがククムどのに心配をおかけになるようでは本末転倒にございましょうから』」
冗談と本気半々を伝えると、ラテルさんはぎこちなく微笑んだ。
「シルウェステルさまのお力に縋る以上は、ベネディクシームスよりマリアムへ祈った方がよいのでしょうね」
「『そこはおまかせいたしますよ』」
国境に最も近いテナーチという集落までは、パッルスさんが同行してくれた。関所のこともあるからだ。
そこで、それじゃよろしくと彼に樹の魔物の枝を預けると、えらく動揺していたけどね。
……森精から与えられた樹枝の一部とか、盛って伝えてると思われてたかな。これ。
だけど、疑おうにも樹の魔物たちの魔力を見ればただの枝とは思えまい。
そんな貴重品をこうもあっさり預けられていいのかという驚愕もあったんだろうけど、あたしたちがずっといられない以上は預ける相手が必要だしね?
それに樹の魔物達には薄いけれども自我がある。自衛ぐらいはオートでするからなあ。むしろお世話係と書いて魔力供給スタッフ扱いになるかもしれないけど、よろしくお願いします。
そして、あたしとグラミィは二人きりで国境を越えた。二度目のミーディムマレウス入りである。
そもそもランシア側は平地からランシア山まで、わりとスムーズにつながっている。勾配の強弱はあるが、基本的に坂がひとつづきの道だ。
それに対し、クラーワ地方やスクトゥム帝国側は山塊となっている。場所によっては、いくつもの山脈を越えなければ、ランシア山まで辿り着けないようなところもあるんだったか。
激しいアップダウンどころか、場所によっては一つの山を下りきってからまた別の山を上るようなルートもあるというから、スクトゥム帝国に対してはランシア山系自体が自然の要害として機能していたのだろう。
その上、クラーワの国というのは、山あいに点在する集落がつながっているようなところがある。そんなところを大軍勢で侵攻しようと考えていたら、アルプスを象で山越えしたハンニバルのお仲間ですかあんたらと盛大につっこみたくもなる。
ミーディムマレウスの中でも標高が高く、雲海を下に見ることもできるこのあたりの気温は、夏とはいえ、サルウェワレーでもらった服が毛織で助かったとグラミィがいうくらいなものだ。イメージ的には平地の秋か、悪くて真冬並みの気温なんじゃなかろうか。
正直、サルウェワレーに忍び込んだ冒険者気取りの星屑たちは、それでも体力のある連中だったんだろう。生身な人が人目を避けて動く――つまり、物資の補給とかいっさい諦め、地元民の生活圏からずれたところを移動し続ける――のは、かなり大変なんじゃないかね?
逆に、人目がなくて元気なのは幻惑狐たちだったりする。
あたしたちからそんなに離れないようにと伝えて地面に降ろしてやったら、道中アグリスと名づけた子狐がよろこぶこと。
あんまりぴょいぴょいと走り回るので、世話焼きなアウデンティアにしょっちゅう怒られている。
断崖を回り込むように、蛇行した急勾配を降りていく途中のことだ。
(くさい)
先行していたアキエースが伝えてきたのは腐った卵のような匂いと、湿ったコンクリートのような塩っぽい匂いだった。
どうやら、あたしたちは正しく進んできたらしい。
ククムさんがあたしたちを連れて移動したルートについて、あたしとグラミィの記憶を合わせてラテルさんに説明した後、より早くミーディムマレウス国内を移動できるルートがないかダメモトで訊いたところ、なんと移動時間をさらに短縮できるルートを教えてもらえたのだ。
もちろん、正規の道筋じゃない。というか、道なんかない。
断崖絶壁を道とすることができるあたしたちなら、多少の段差も悪路もなんとでもなるのでは?というレベルである。
確かに断崖はあたしとグラミィなら、上ってきたのと反対の要領で降りることもできるだろう。
だけど、一番の難所はここだと思う。
あたしたちの左手、北側に広がるのは、黄色く染まった不毛の土地だ。
標高的には霧がかかることもありそうなもんだが、そんなこともない。
神話では、魔喰ライの王コリュスアウェッラーナを、武神アルマトゥーラが地底深く封じたのが、このランシア山ということになっている。
だが魔喰ライの王は死なず。
その血は瘴気となり悪臭と共に地の裂け目から立ち上り、周囲すらも黄色く染める。それは魔物にすら死を与える猛毒となる。
ゆえにその地を死の谷と呼び、近づく者とてないという。
……ってねえ。あれでしょ、殺生石なんかと同じで火山性ガスが出てるってことかと。
黄色くなってるのは硫黄か。
つまり、このランシア山は火山ということになるのだろうか。サルウェワレーじゃ温泉なんてあるわけないじゃんという反応だったんだけど、たぶん、そっちの方には噴火口ができていないからなんじゃないかな。
ミーディムマレウスを通過するときフームスが反応したのは、風向きの関係でたまたま飛ばされた硫黄の匂いなんかが、湿度のせいで空気にこもってたんだろう。
しかしそれなら、死の谷の向こう側にある闇森が、森林限界ぶっちぎった勢いで天空の円環近くにまで伸びている理由もわかるような気がする。
地熱があればそのぶん温暖な気候にあった植物も生える。樹の魔物たちにもそれは適応されるってことかな。
にしても、火山性ガスはともかく、硫黄はいろいろ危険だなー……。
なにせ硫黄って、火箭とかの火器にも使えるらしいし。燃やして酸化させたものを水に溶かせば、簡単に硫酸が作れてしまうみたいだし。
なんか対策はできないものか。森精たちと出会ったら教えてもらえるかな。こっちも欲しい情報はいろいろ絶えない。
幻惑狐たちを懐に入れると、あたしとグラミィは風の流れを作り出して、死の谷のそばを走りぬけた。グラミィは身体強化も込みだ。
気温が上がっているのは楽だが、匂いがするというのはやはり火山性ガスが多少周囲の空気にも混じっているせいなので、長居は無用と判断したこともある。
そしてあたしたちは予想よりも早くミーディムマレウスの首都カプットに辿り着いたのだった。
カプットは、ミーディムマレウスの中でも低地にある辻の街だ。ここから南に行けばサルウェワレー、北に向かえばスブテラバクルスという、ミーディムマレウスにも似て呪い師の勢力の強い国があるという。
上に戻ればアルヴィタージガベル、下に向かえばイークト大湿原の近くに出て、そのまま確かスクトゥム帝国にも出られるんじゃなかったか。
さて、ここからの行動は難易度がかなり高い。
なにせあたしたちはククムさんたちを探しだし、無事であるなら合流し、なおかつ星屑たちに気づかれないように逃げるか、もしくは彼らが気づかぬうちに、このミーディムマレウスの主要氏族である囀り鷹の有力者と接触し、味方に付けて星屑たちを排斥しなければならないのだ。
個人的には、ククムさんたちが無傷ならば、それでミッションコンプリートと言いたいくらいのものですよ。
ちなみに、ラテルさんに、幻惑狐の人たちの目からどうやって逃れたらいいかと訊いてみたら、その縄張りの中に入らないことぐらいですかねと言われてしまった。
この縄張りっていうのは、単に幻惑狐の氏族の領地内とか、行商ルートってことじゃない。彼らが情報収集で把握し切れているその周辺情報も含めての話だっていうから、無理だとそうそうに諦めた。
なおかつ、幻惑狐の氏族は姿を隠すのもうまいんだそうな。
たしかに、ククムさんも額の織帯だけでなく鮮やかな色を使った、派手に目立つ恰好をしていた。その上大荷物の上には旗を挿し、場所によっては鈴もつけて鳴らすという徹底ぶり。
しかし、旗も鈴もしまい込めるし、服は着替えてしまえばいいだけのこと。
大荷物も小分けにしてトルクプッパさんとディシーに渡してしまえば、ぱっとしない一般人のできあがりとなる。
そんなククムさんたちをどうやって見つけたらいいか。
当初予定していたのは、あたしとグラミィ、そして樹の魔物たちによる魔力探知というやりかただった。
当然ククムさんたちの魔力の色や形はしっかり記憶している。けれど、問題があった。どうしても一定範囲内の探知しかできないのだ。
なにせ魔力知覚は物理的障壁があると、そこから先の知覚が極端に難しくなる。
いや、できないわけではないが、物理的存在というのはそれなりに魔力を含んでいるので、マスキングされてしまうのだ。
それに距離が空いても魔力というものは減衰したり、周囲の人や物のそれとまじりあったりもするのでわかりにくくなってしまうのだ。
そのことを考えると、つくづく幻惑狐たちと同行することができたのは、幸運だった。
あたしとグラミィはアキエースとアウデンティアをそれぞれ肩胛骨と肩に乗せ、幻惑狐の匂いを探すようにと心話で伝えた。アグリスはあたしの懐でお留守番である。
〔しっかし、こうやって見ると、星屑たちかどうかって、これだけでもわかりそうですねー〕
心話でこっそりグラミィが伝えてきたのも道理。
幻惑狐たちを見て驚く人たちのリアクションときたら、くっきり二種類に別れていたのだ。
単純に信じられないものを見たという顔で、三度見四度見を繰り返すのは、たぶん純粋な一般人。氏族紋章の意味を知り、その紋章たる幻惑狐がこうもくつろいで人の肩に乗っていることにただただ驚愕しているだけの、この世界の人間。いや、クラーワの人間ということになるだろう。
一方、珍しいものを見たと驚きながらも、みるみる順応して三匹がかわいいだの薄黒いのは汚れているのかもだのなんて動物なんだろうだのと声高に――当人たちはひそひそ話のつもりなのかもしれないが、幻惑狐たちの耳越しだとやたらとうるさいので、どっち方向の誰が喋っているのか特定しやすいのだ――話しているのは、たぶん星屑たちだろう。
だって話の中身が、テイマーキタコレ的なものな上、喋る言葉が日本語混じりなんだもん。
……こんなやる気のない偽装で星屑たちってば、よくまあミーディムマレウスの社会に身を潜めていられるものだ。




