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やらねばならぬことは山積み

本日も拙作をお読み頂きましてありがとうございます。

 いくら大至急と言われたからって、正式な王の使節を迎えるには、さすがに昨日の今日というわけにはいかない。

 だって、もうとっぷり夜になってるし。とっくに団子になって寝てる幻惑狐(アパトウルペース)たちだけでなく、グラミィもアルガも疲労しまくり。なにより戦闘してた魔術師や騎士の中には怪我した人だっているんですもの。せめて行動は明日から、今日は休息にしましょうよ。

 そうグラミィに言ってもらったら、戦いが終わったんだから祝杯だーとばかりに、酒の準備を万端整えてた人たちからは、所属関係なしに恨みがましい目で見られました。あたしゃ悪くないのに。

 

 外交出張班のみなさんには、翌日の早朝から、クラーワヴェラーレへ向かってもらうことになった。

 で、クランクさんたちが準備してたら、酒宴の消失にふてくされてた警備隊の騎士さんや、魔術士団の人たちの中から、護衛にと名乗りを上げる人が出てきた。

 純粋に善意からの申し出なのか、それとも様変わりした天空の円環の様子を見ておきたかったのか。それとも外交から生じる利益の匂いでも嗅いだのか、詳しいことはわからない。

 だけど、こっちにしても自発的に護衛についてくれるのは素直にありがたい。

 けれど、どんな欲とであれ、二人連れパワーマシマシな人たちですらうんざりするくらい、彼らを連れた外交出張班は往復を繰り返す羽目になった。頑張りはけっこうなもんだと思う。

 

 王の使者である以上、こっちくんなと言うわけにはいかない。受け入れるのが前提の打ち合わせになるのは当然だ。

 なのにこうも難航したのは、詳細な日程の決定で揉めたせいだ。

 向こうは大至急の一点張り、戦闘後なのでどのような状態になっていようがかまいません、って。

 そう言われてもねえ。そりゃかまいますよこっちは。

 そんなわけで。


 かたや、せめて数日の余裕がほしい、プレデジオさんたちフルーティング城砦側。

 こなた、即日訪問熱狂的要望状態な、ククムさんたちクラーワヴェラーレ側。

 その間を護衛兼伝令役を増やして往復した、外交出張班みなさんの外交努力によって、最終的には翌々日でということになったというね。

 ……それ聞いて外交努力できてねーじゃんと思ってしまったのは、たぶんあたしだけじゃないと思う。

 

 その間あたしは何してたかって?

 クランクさんたちと必死に引き延ばし工作に出る一方、城砦をなんとかせねばと焦るプレデジオさんの依頼を受けて、急遽隠蔽工作のお手伝いに回りましたとも。外交に支障ないよう証拠隠滅ボロ隠し、後始末まできちんとするのが国の暗部というものdeath(デス)。死して屍拾う者なし。

 いや、あたしゃ違いますけどね?そんな物騒な国の闇になぞ頭蓋骨突っ込んでませんからね?

 グラミィが何か言いたげな半目であたしを見ていた?認知していない事象は存在しないのと同じですから。

 

 そんなどたばたを舞台裏へと放り込み、塵一つない城門前に、遊歩道化した天空の円環を抜けたククムさんたちがやってきたのは、陽の光も強くなった白昼のことだった。

 人数としては、最初にククムさんと出会ったとき、彼が率いていた小さな行商隊ぐらいのわずかなものだ。

 が、揃いも揃って一目で特別なものだとわかる、色鮮やかな毛織の布を身に纏った姿は華やかで、遠目に見てもなかなかのものだった。

 

 ククムさんたち一行は、正門からまっすぐ大広間へと通された。

 これは、ククムさんを正式にクラーワヴェラーレの王の名代と認め、一国の王に準じた格の賓客として扱うという、プレデジオさんの意思の表れだ。

 ククムさんがクラーワヴェラーレの王の名代ならば、プレデジオさんはランシアインペトゥルスの王意を示すこの城砦の最高責任者として、王の名代ということになる。


「クラーワヴェラーレ国、王の使者、ククム・アパトウルペースどの!」


 あたしたちがスタンバイしてた大広間に、しずしずとククムさんたち一行が入ってきた途端、天窓ができたかと思うほどに空間が明るくなった。むろん錯覚だが、そんな錯覚を起こすのも無理はない。

 間近で見れば、彼らが身につけているのは白っぽいゆったりした袴衣と長めの丈の襯衣の上に纏っている色鮮やかな毛織の布だ。

 たぶんYの字型になっているのだろう、両肩に掛けた前身頃の裾を前で重ね、背中に垂らした後ろ身頃といっしょに帯で締めるというデザインは、これまで見たことがない。

 ふだんは見苦しくないようにしているなとはいえ、織帯で押さえただけのククムさんたちの髪の毛すら、鮮やかな色の紐を一部に編み込まれていた。そうでない箇所の髪もどんな方法を使ったのか、つやつやでしっとりした質感に変わり色までひときわ鮮やかになっていた。まるで別人のようだ。

 

 対して、フルーティング城砦側は、警備隊も魔術士団も派手な色のものは着ていない。

 あたしもグラミィも形は違えど黒のローブだし、魔術士団は同じ形のお仕着せのローブだ。どうやら暗緑色から緑青色まで、緑系のグラデーションで階級を示しているらしい。

 警備隊はというと、もとから情報収集任務上あまり目立った恰好をしているものではない。色合いもじつはてんでばらばらなのだが、そこに統一感を持たせる鈍い銀色は鎖帷子だ。

 下手すると外交出張班の濃藍色や、全体的に紺なんだけど、裾にわずかながら深紫にも深藍にも見える色が差してあるマヌスくんのローブの方が目を引くというね。

 いや、ほら、濃い色ってだけでも、染料をふんだんに使った贅沢品って証明みたいなものだから。

 

 彼らをあっという間に背景に沈ませ、超正装のククムさんがプレデジオさんの前まで進み出た――のはいいが。

 両手に飾りのたくさんついた、明らかに儀礼用な二連の……いや、二叉の棍棒を捧げ持っているのはどういうわけか。

 やたらぴかぴかした白っぽい金色なんだけど、大きさといい持ち方といい、なんだかむこうの世界の御幣を連想してしまう。


「ランシアインペトゥルス王国がフルーティング城砦の主、カリドゥスピルム警備隊長に、クラーワが一国、クラーワヴェラーレはカルクスのククム・アパトウルペースが物申し上げます」


 しずしずと口上を述べ始めたククムさんは、真っ直ぐに立てていた棍棒の、二本のふっくらしたトウモロコシのようなかたちの錘を、ゆっくりと左右に振るように示した。ますますもって神社の宮司や禰宜の人っぽく見えてきて、あたしはこっそり笑いを噛み殺した。


「わが身の証しだての一つはこのカウダ・アパトウル(幻惑狐の)ペース()。これは、我ら幻惑狐が氏族の名代が証」


 フレイルを左手に移したククムさんは、頸に懸けた太い織帯を示した。織り込まれている柄は、……熊、だろうか。

 

「してまたこの赤毛熊(ルブルムルシ)の証帯は、我らクラーワヴェラーレの王が言葉を託された者の証にございます。本日訪いを願ったは幻惑狐の氏族が名代とし、我が王が言葉にてクラーワヴェラーレの総意をお届けに参りましたものにございます」

「丁重な挨拶、痛み入る。またさような重き役目を担われての御使い、お役目御苦労に存ずる。されどここはフルーティング城砦。また戦闘の直後ゆえ、行き届かぬこともあるやもしれぬが、どうかご容赦願いたい」

「かしこまりまして」

  

 応じたプレデジオさんは微妙に顔色も悪いし、表情もほんのり硬い。

 ククムさんたちの超正装が明るすぎるせいと、あたしも含め、背後や壁際に居流れている城砦側の人間の服が暗いせいもあるのかもしれん。

 が、こんなふうに一国しょっての外交場面の中央に据えられるなんて、思ってもみなかったからってのが一番大きいんじゃなかろうか。

 少なくとも、アロイスの後釜として、フルーティング城砦に着任した時には、こんなことになるなんて想像もしなかったことだろう。

 おまけにプレデジオさんは、アロイスよりも典礼の――つまり外交にも使えるマナーの――知識が薄いようだ。いや、合格点ギリギリ程度にはあるのかもしれないが、動きを見ればあきらかにぎこちない。


 本人的には、正直こんなくだくだしいやりとりも省略!って叫びたいくらいだと思う。

 でも大丈夫、そのあたりはちゃんとこの後外交出張班にひきうけてもらうから。てか昨日も一生懸命エミサリウスさんに教えてもらってたってのは、幻惑狐のゲイルから教えてもらってますとも。


 いや、ほんと、昨日はめっちゃ大変だったのだ。あたしも訪問日程の先送りを狙うプレデジオさんの依頼を受けてからは、ひたすら城砦の中を走り回ってた記憶しかないというね。

 なにせ、クラーワヴェラーレの王の名代としてククムさんたちを扱う以上は、王本人を迎えるのに準じた格式が必要となるんです。礼を失すれば下手をすれば国として咎められても文句は言えない。

 戦場となった天空の円環への入り口周辺の戦闘痕跡隠滅はもちろんのこと、城砦内もきっちり汚れもないようにってんで、全員総出で夜遅くまでお掃除を頑張ってしましたとも。

 

 ちなみに、あたしが掃除を担当したのは大広間から正門にかけて、ククムさんたちが通るルートと、この大広間が中心だった。

 城砦内の掃除を最初にやった時は、大広間だけでも半日仕事だったものだ。だが今回さほど時間をかけずにすんだのは、風の術式をうまく使ってゴミを巻き込むという方法を考案したのと、家具やタペストリを傷つけないよう、ラームスに制御の維持に協力してもらえたおかげだろう。

 傍から見てると小型竜巻の群れを指揮してるようだとグラミィには言われたけれど、天井の煤払いなんて、腕の骨が届かないし、道具も足りない。おまけに床に撒いてあった、ラットゥス()の巣になってる可能性大な汚れた香草とか、ぶっちゃけ直接触りたくもないしなあ。

 あたしゃお骨なんですよ。多孔質素材だから汚れを吸着しやすく綺麗にしづらいのだよ。

 直接接触を避けたくもなるでしょが?


 ちなみに巻き上げたゴミはというと、そのまま窓の外へと気流の渦に巻き込んで放り出し、推定落下地点に巨大漏斗状に顕界した結界で、ゴミ捨て場まで透明ダストシュートです。

 あとは水を顕界し、床磨き用のブラシでがーっと床の汚れを落としたところで、汚水を回収。この繰り返しだ。その後また風を吹きつけたのは乾燥させるためだ。

 なお、床磨きと最後の仕上げ、香草を撒き直すのは警備隊の人たちにお手伝いしてもらいました。

 

 あたしが動くと、なぜか魔術師の人たちもこうしちゃいられない気分になるのか、それなりに動いてくれるのが地味に有難い。いや、外交出張班には、外交とプレデジオさんの対応最優先でよろしくねとは言っといたけど。

 魔術士団の人たちは警備隊の騎士に比べて掃除は下手だし、トンデモな魔術の使い方をするあたしの真似はしない、というかできない。顕界した魔術陣の条件式とかを逐次変更しながら維持するだけなんだけどなあ?

 けれど、自分のできることを考えて動く訓練が少しはできていたのだろう。水を顕界して桶にため、びしょびしょの雑巾で拭き掃除しようとしていた魔術師には、騎士も雑巾の絞りかたを実演を交えて教えていたりしていた。

 こういうとき、国の面子を自分のメンツのためだけに潰すような、前魔術士団長みたいなアホがいなくて助かったと、つくづく思う。


「ではさそくながら王の書状を拝読いたします」


 ククムさんは懐より巻いた獣皮紙を取り出し、さらさらと解いて読みあげた。

 内容的には、グラミィに渡した書状のお返事って感じだった。

 文章的には?典礼めんどくせえ、ですよ。

 てか古典文字の読めない側近とかいたのに、よくここまでちゃんとした文言にしたててあるものだ。

 文官のような人材をちゃんと抱えているのか、それともアエノバルバス自身が統治者としての教養を身につけているか。どちらにしても、力量の底までこちらにはまだ見せていないということだろう。

 やっぱあなどれん。

 

 ――スクトゥム帝国からの攻撃防衛お疲れさまでした。大変だったのにご配慮ありがとうございます。また防御のためにグラミィどのをカルクスにつかわしてくださったこと、感謝いたします。


 まあ、そのくらいはねえ。

 

 ――また、ランシアインペトゥルス王国との友誼を固め、スクトゥム帝国の侵攻を阻止するために、同盟に参加させてください。


 そっか、アエノバルバス、氏族長会をうまくまとめたんだ。どうしたのかなとは思ってたけど。

 

 ――星とともに歩む旅者(森精)と協力し、自国だけでなくクラーワヴェラーレも守ってくれたことにも深謝します。いろいろお世話になったので、今後ランシア地方の宗主国であるランシアインペトゥルス王国に対し、クラーワヴェラーレは、クラーワ地方の宗主国として協力します。必要なことがあったら言ってください。


 ほうほう。まあ、これでクラーワヴェラーレが協力的になったと明言してくれたのはありがたいことだ。

 頭蓋骨内で適当に意訳しながらふむふむと頷いていると、文の最後をククムさんが読み上げた。

 

「またクラーワにおける諸事については、使者ククムが舌に預けたものあり。ゆえ、そに耳傾けられんことを願う」

  

 ……なるほど。急ぎの理由はこれかね。


 ぶっちゃけ、王から王への書状が封書じゃなかったってところで違和感はあったんだ。つまり行動決定権が基本的にはこのフルーティング城砦にあり、だが国としての意思決定やなにやらに関わるような事柄で、しかもランシアインペトゥルス王国の王都まで往復するタイムラグを嫌うような何かがある。そういうことなんだろうな。


 読み終わった書状をククムさんは広げてプレデジオさんに、そして下座へ向けて示した。

 それを丸めて、元通り紐をかけたものをククムさんの伴の人が受け取る。……見覚えのある人だ。確か、ルフとか名前だったか。

 ルフさんが進み出て書状はレガトゥスさんに渡され、副官からプレデジオさんの手に渡った。

 これで儀式の中心は終了した。


「クラーワヴェラーレ王の書状、ありがたくお預かりいたします」


 顔色の戻ってきたプレデジオさんが一礼する。 

 受け取ったアエノバルバスの親書は、この後王都へ早馬で送られる予定だ。

 さすがに国と国との問題である。こちら側から申し出た同盟については、王都で外務卿テルティウス殿下も巻き込んで事前にいくつかシナリオを練ってきた上に、逐次鳥便などで報告を上げてはいる。

 だがそれ以外の、アエノバルバスたちの思惑をまるっと飲んで、クラーワヴェラーレ対応のすべてを、ここフルーティング城砦で決めることはできない。

 けれど、クラーワヴェラーレが、こちらから申し出たとはいえ、友好関係から一歩踏み込んで同盟を、クラーワ地方の宗主国として締結する。つまりは他の国への働きかけもしてくれそうだというのは、なかなか心強い知らせである。

 

「では、ククムどのにお預けされたというクラーワの諸事につきまして、お話を伺えますかな」


 さすがは情報収集部隊の長の一人、緊張はしていても目の光は強くなる一方だ。クラーワヴェラーレ一国ではなく、クラーワ地方全体にかかる問題など、なかなかランシア地方じゃあ手に入れづらいものな。

  

「一つ、クラーワの他の国から、武器を持ちイークト大湿原を越えてくる者が、春以降数倍に増えているとのことにございます」

 

 ざわ、と周りの人たちが浮き足だったようだった。

 イークト大湿原はクラーワ地方でも低地の南東に広がる、つまりスクトゥム帝国との国境となっている、天然の要害の一部だ。

 ……去年の秋の時点で、あの星屑(中身異世界人)の三人組は、ランシア山を挟んでスクトゥム帝国の反対側にあるベーブラにまでやってきていたんだ。彼らの動きが速いってだけじゃない。もともと星屑たちの存在について、あたしたちがというか、ランシアインペトゥルス王国が認識するのに時間がかかってたんだ。

 ならば、星屑たちがとっくの昔にあちこちの地方に潜り込んでた、ってのもおかしくはない。

 だけど、それが増えてきているってえのは……


〔帝都レジナに特攻した影響ですかねー〕


 ……でしょうねー。つまりはおおむねあたしたちのせい。


〔主にボニーさんのせいじゃないですかー〕


 いやいやグラミィだって裏方やってたじゃん。

 という現実逃避的な責任のなすりつけあいはおいとこう。

 

 愛しのマイボディ、シルウェステル・ランシピウスさんの暗殺とか、港湾伯家のごたごたとか、密偵さんをガワにされてたとか。

 いろいろ事情はあったにせよ、スクトゥム帝国に糾問使送るぞって言い出したのは王サマだ。

 つまり、ランシアインペトゥルス王国側としては、そっちの手の者たちの暗躍に気づいてるぞってことを、スクトゥム帝国に知らしめるのは、既定路線だったわけだ。それが遅いか速いかの問題だけで。

 王サマたちにとっての計算違いは、スクトゥム帝国が星屑たちによって動かされている状態だったこと、この世界をゲームの設定ぐらいにしか認識してない星屑たちには、外交というハイレベルの交渉は機能しない状態になっている、という可能性など想定外だったってことだろう。

 そりゃそうだよなー、言語的に相互理解ができてても話が通じない相手が役人として出てくるとか普通は考えないよね。

 拉致誘拐や違法薬物の輸入という犯罪行為の被害を受けて怒ったら、『なにマジになってんの?バカじゃね?ゲームじゃん?』と、他国の行政トップから全国民に至るまで、そろってへらへらしながら言われるようなものだろうね。

 

 だが、まあ、スクトゥム帝国からやってくる者が、『増えている』という表現であるだけまだましだろう。

 これが『侵攻してくる』『軍隊が侵略している』という言い方になっていないということは、今はまだクラーワの人たちの方が、人数としては勝っているのだろうから。

 ならば、星屑たちの強さは基本的に一般人と同等だ。ゲーム気分で領地に踏み込まれる国の人たちには気の毒だが、口実をつければ捕まえることは可能だろう。不法侵入者が勝手に棚をあさったり、壺を叩き割ったりしたら、ぜひとも数の暴力で袋だたきにしていただきたい。

 不安材料としては、あの心臓爆裂転移陣というド外道術式の存在がある。が、窃盗犯程度ならせいぜいが片手の切断程度の刑罰だろう。執行まで身動きできない程度に拘束されるだろうし、死なせない程度の治療も施されるはず。発動条件として陣を刻まれた人間の死亡が設定されているなら、むしろ安全といえるはずだ。


〔いったいどこでそんな物騒な情報拾ってくるんですかボニーさんは!〕


 王都でね。刺青のやり方を教えてもらった暗部さんから。

 

〔ああ、アンコラさんたちの……〕


 そうそう、ガワにされてた船乗りさんたちの爆裂術式の条件式を上書きするのにね。

 刺青も刑罰や囚人の個人認証とかに使われるから、刺青の技術を持っていて、なおかつあたしがコンタクトを取りやすく、情報漏洩の危険性が低いのって、いわゆる処刑人さんだったんだよ。

 彼らからは雑談のように、刺青以外の刑罰と対象となる犯罪についても聞かされた。

 それが、いきなり職場に放り込まれた縁もゆかりもないド素人に覚悟を決めさせるためだったのか、それともただの脅しだったのかはわからないけども。


〔…………〕

 

 話がそれたな。

 意識を戻すと、ククムさんがあたしに目を向けていた。

 

「またもう一つは、魔物と話をなされる方、もしくは水を顕界なさることがかなう方を求める国があるということ」

「ほう?」

  

 魔物と聞いた瞬間、大広間じゅうの視線があたしに集中した。

 

 同じ魔物とはいえ、幻惑狐たちはその愛嬌のせいで、城砦内ではあんまり脅威と見る人はいない。てかプレデジオさんに預けたゲイルを筆頭に、めっちゃモフられまくっております。

 それに対し、四脚鷲(クワトルグリュプス)のグリグは、その大きさゆえにか、わりと警戒対象にされている。

 どっちもクラーワヴェラーレの人たちには、ある意味崇拝対象なんだけど。


 いずれにせよ、彼らをいいように使ってる――てかこっちが逆に使われてる気がしなくともない、かもしれないが――あたしは、わりとそれだけで注意を払うべき偉い人、というか価値のある特殊技術持ちに見えるのだろう。

 ……たとえば、他国に派遣する駒として、どのくらいの値打ちをふっかけることができるかと値踏みされるくらいには。

 

「……それは、なにか、鎮めねばならぬ魔物がいるということだろうか。それも水を用いて」

「その国にとっては、それが益となるかと」

「では、貴殿の言を容れた場合の、我が国の益とは?」

「国一つ」

 

 プレデジオさんの問いに、我が意を得たりとばかりに、ククムさんはにっと笑った。

 

「一国をスクトゥム帝国に敵対するものとなしえる機会かと存じますが?」


 ……へえ?

ちょっと短いですが切りの良いところで。

マヌスくんのローブの色は貝紫……と書きかけて、よく調べたら皇帝色とかいうとんでもない高価なものなくせに、クサい染料だってことが判明。慌てて複雑な色に仕上がる海藻染めだったことに脳内設定を変更しました。

ククムさんの持つフレイルの名前は、ウォーハンマー系の武器にベク・ド・コルバン(カラスのくちばし)という名前のものがあるところから思いつきました。

戦槌系武器って、王笏のように統治者の権威の象徴として扱われることもあるので。

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