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死亡宣告拒否

 さて。

 このまま転落事故(?)現場で、一人(?)エキサイトし続けてても、途方に暮れててもどうしようもないんだよねぇ。


 血液は一滴も残ってないようだが頭は冷えた。

 さようなら常識と日本の生活、こんにちは非常識と異世界。


 とりあえず、スケルトン状態のあたしが動けることについては割り切ることにして(それはもう無理矢理にでも!)。

 何か手がかりになりそうなもんはないかなと、潰れた馬車っぽいものの残骸をかき回してはみたんだけど。

 見つかったのは、砕けた骨が数体分ぐらいなものだった。

 人のものと、たぶん、馬っぽい何か。

 残念ながら、無事だったのはあたしだけのようだ。


 ……いやいやいや!ぜんっっっぜん無事じゃないけどね!綺麗さっっっっぱりと骨だけどね!


 でも、あたしに死んだつもりはない。断固としてない。

 お骨な状態でどうして動けるのかはわからないけど、こんにちは異世界の覚悟を決めたばかりだとゆーに、このままおとなしく骨として埋葬される義理などない。あってたまるか。


 というかね、マジでこの状態を納得できる情報がほしい。

 この胸というか肋骨の中の、責任者でてこいな熱い思いを誰かにぶつけたくてたまらんのと同じくらいには、この世界についての知識を切に所望する。


 ……となったら、やっぱり人間に接触すべきだよねぇ。

 まあ、厳密な人間じゃなくてもいいけど。

 意思の疎通ができて、この世界についての知識が豊富でなおかつ、あたしに不利益をもたらさない知的生物なら、それで。

 最悪、生物じゃなくても妥協しますよ。贅沢言ってらんないもの。


 でも、あたしを見ただけで問答無用に攻撃かまさないでくれる程度には、腹が据わってる相手であることをお願いしたい。そりゃもう真剣に。

 なぜなら今の骸骨状態で、拳と拳で語り合うボディランゲージを耐え抜く自信は、まるでないのだよ。

 理由は行方不明ながらも、肉体があった時同様、普通に動くのに支障はないようだけどさ。

 

 ぱっと見で警戒されるのはしかたないのは理解してる。骨だし。

 それでも、身ぶり手ぶり以外のコミュニケーションを完全拒否されたら、そこで詰む。

 異世界に来てまで言葉が通じるとは思えんし。


 だったら、事前準備は大切だよね。


 まずあたしは、馬車の残骸から服一式を拝借することにした。

 荷物入れに着替えが入ってないかと探してみたら、見事にビンゴだった。

 御者とか乗客が身につけていたのかもしれない、シミだらけでボロボロになってる衣服ってえのも、馬車の中だけじゃなく、外のけっこう遠くにまで散乱してたんだが……。

 さすがに何のシミか考えたくもないので却下。


 ……ボロの中には、自分が、というか、あたしの骨が身につけてたものもあったんだろうな。

 ぜんっ、ぜん、まるっ、きり、見分けがつかないけど。


 とりあえず、着丈の合いそうなチュニックっぽい上着とズボン、下着らしきものを見つけたので着けてみようとしたんだが……。

 どうやって着たらいいんだろう。着方がわからんぞこれ。

 えっと、えーと。

 ……お手本発見。


 あたしは砕けた骨に、見つけたマントっぽいボロ布をそっとかけると、合掌した。

 ちょっと、はだけさせてもらって、服の合わせとか紐の結び方とか見せてもらいました。勝手に剥くなと怒られそうだが、なるべく元通りにしたので。ごめんなさい。


 さて。

 腰骨からずりおちんように、ズボンはベルトか紐で縛っとかないといかんな、これ。

 きゅーっと絞って腰椎にしばりつけておくほうが無難かな。

 ついでに、服からのぞいている手足の先や首回りには、余った着替えを裂いて作った布を巻いておく。少しでも外見から人外風味を消すためですよ。

 ちょっともったいないけど背に腹はかえられない。今のあたしにゃ腹もないけど。


 おっといかん。

 顔を隠せるようなフードつきのマントとかないかなー。

 お、フードつきの服発見。黒っぽくて前開きの……ローブか、これ。

 スリムすぎる今の身体じゃ、がばがばの大きさな上に、ずるずる地面を引きずりそうな長さだな。

 服の上からさらに着込んで、裾の長さはベルト代わりに上から縛った紐の上に引っ張り出す。いわゆるお端折(はしょ)り的な着丈の調整をして、と。

 これで、ぱっと見には人間っぽく見える……と、いいなあ。


 ついでに、誰のものかもわからないけど、硬貨っぽいものが詰まった袋と、羊皮紙っぽい書類があったので持っていくことにする。

 通貨の素材が何かは知らんけど、お金は大事。

 三途の川の渡し賃的な意味より、地獄の沙汰も金次第的な感じだけどね。

 ……下手するとドロップ品豪華な骨、になりかねんのが、ちと怖いが。


 大仰なくらいきっちり蝋引きっぽい筒に入ってた、なんか重要そうな書類は読めなかった。

 筒の防水加工はきちんとしてあったんで、着替えよりも状態は良かったんだけど……。


 文 字 が わ か り ま せ ん 。


 あ、いや、重要書類らしく続け書きはないから、文字の一つ一つの形はわかる。だけど表音文字なのか表意文字なのかもわからない。表音文字の方が表意文字より比較的簡素な形になるとかいう法則があてはまるのなら……いや、仮定の上に結論を出してもしょうがない。保留だ保留。

 にしても、ますます異世界っぽさが増すなあ。

 

 馬車の側面にぶら下げてたらしき飾り布も持っていくことにしよう。

 雨ざらしになってたせいか、幾分くったりしてはいるけれど、何か模様が細かく念入りに刺繍されているらしい。

 金糸か何か使ってあるみたいで、月明かりにもきらきら光ってみえるのは、家紋か何かかな?

 何かの手がかりになるかもしれないしね。

 それらを適当な大きさの袋に入れて、背中というか背骨に縛り付ける。

 

 武器はどうしたのかって?

 あるにはあったんだけど、んなもんどこぞのラノベでもあるまいし。

 そうそう都合良く使えるわけがない。弓なんて、触ったことも記憶にございませんともあたしは。


 ためしにと鞘から引っ張り出してみた長剣は、うっすら黒ずんでたし、おまけに重かった。

 どれだけ重いかというと、あたしの骨しかない細腕でちょっと振ったら、重みを止めきれずに、そのまま地面にめり込んじゃったレベル。

 なので、ほんのりともったいない精神がうずくけれども放置決定。

 包丁サイズの短剣と、杖だけ借りていこう。登山ナイフとトレッキングポールの代用だ。

 装飾がやたらごてごてしてるけど、この状況で趣味に合わないと文句を言ったってしかたがない。


 あたしは、月明かりに照らされた崖を見上げた。 

 状況的に考えるなら、おそらく、崖の上には、馬車が通るようなちゃんとした道があるんだろう。

 けれど、なんだかんだ増えた荷物をしょって、垂直に近い断崖をよじ登る気にはなれない。

 きちんと整備されたボルタリング施設なぞと違って、自然の断崖なら落石の可能性もある。

 そんなもん、この状態で対応しきれないってば。


 崖と反対側からは川らしい水の音が聞こえてくる。

 下り坂になってるってことは、谷川かな。


 ……とりあえず谷川沿いに下ってみることにしよう。

 崖をよじ登るより、その方が早く平地に出られそうだ。


 砕けた骨たちに黙祷して歩き出す。

 この岩場じゃ、埋葬するのに穴を掘るのも難しい。

 なので、一体ずつ集めてボロボロな布でくるみ、墓標代わりにさっきの長剣を鞘に戻して馬車の残骸にたてかけておく、ぐらいのことしかできなかったけど。

 いつかここに戻ってくることがあったら、故郷に返してやれるものなら、してあげたいなと思う。この世界には彼らの帰りを待ってる人たちもいるんだろうし。


 細い谷川の流れを右手に見ながら川下へ歩く。

 さすがに靴までは替えがなかったので、くるぶしから下は布をぐるぐる巻きにしてしのいではいるんだけど、岩場続きなところでどこまで耐えられることやら。

 なんかあっというまにすり切れてズタズタになりそうだな、これ。


 ……ところで、あたし、今どうやって周囲を知覚してるんだろう。

 いくら二つも月が出てるっていっても、どっちも二日月かって感じの糸みたいな細さなんだよね。

 昼間どころか満月一つぶんより相当暗い。はず。

 なのに、あたしの視界は驚きのクリアっぷりです。

 谷川沿いの石が浮いているとか、木の陰に根っこが張りだしてるといったものまでしっかりくっきり見えてるって、人間やめてる度合いが高くなってきてないか自分。

 眼球もないけどね!


 そうなんだよねー。あたしの手や胴体だけじゃなくって、頭も綺麗に骨になってた。

 おそるおそる眼の周辺の骨をなぞってみたら、あっさり眼窩に指の骨ずぼっとつっこんじゃったい。はっはっは。

 ……まあ、全身骨格標本状態と、首から上だけナマと。どっちか不気味かって考えたら、生身が一部残ってる方が不気味だろうけど。


 虫の鳴き声に、谷川のせせらぎ。音もしっかり聞こえてる。

 鼓膜ないんだろうけど!未確認だけど!


 ……のわりに、臭いを感じないのはなぜなんだろう。

 こんな身体だったら、腐臭とか死臭とかしててもおかしくないと思うんだけど。

 してても嫌だけどね。


 ぱっと考えられる理由としては。

 1.臭いの元になりそうなタンパク質が綺麗さっぱり何かに喰われた後だから。

 2.自分の鼻(?)がすっかり臭いに慣れきってるせい。


 ……どっちもヤな想像だなあ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 状況確認からの最低限の装備確保、立派でございます!
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