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深夜

※ 本話には暴力的表現が含まれます。

  苦手な方は閲覧を中止してください。




  …………覚悟完了?

 ブレイたちの視覚を借りて、まず困ったのが、情報量の増加だ。

 ごちゃごちゃにならんように本来の目を閉じた方がいいのだろうけれど。

 ……いやー、まぶたがないとこんな時に困りますな!


 なんとか意識を集中としてるんだけど、邪魔がありやがります。

 もともとのあたしの視界から入ってくる刺激がね。

 ほぼ真っ暗な馬車の中ならなんとかならんかなーと思ってたんだけど、紋章布と杖が相変わらずサイリウム状態です。

 最初に見た時はこんなに光ってなかったと思うんだけどなぁ……。

 どうしてくれようかとマントをかけてみんだが、……何重に畳んで巻きつけてみても透ける。

 魔力は普通の物質にも含まれているんだろうけど、強い魔力は布程度じゃ遮蔽にならんってことかね。

 ふむ。

 ローブ集団と初対面の時に人間じゃないって看破されちゃったのはこのせいか。魔術士みたく魔力を操作するには感知能力がないとできないもんね。

 逆に、騎士隊の面々が最初ぼけらっとしていたのは、魔力の感知能力がなかったから、ということか。

 謎は解けた。ちょびっとだけど。


 ふと思いついて、自分の手で目隠しをしてみた。

 骨にも魔力が蓄積してるんなら、遮蔽にならないかなーと思った、ん、だけど……。


 隙間からいろいろ透けちゃいました。骨だから。


 でも、骨部分は遮蔽になるってことは確認できたな。

 よし、実験終わり。


 ……終わりじゃねーや。


 しょうがないので、聴覚に集中する。

 ……ん?


(ボニー、人)


 スピンの『声』とほぼ同時に聞こえてきた。

 確かに。人の声だ。

 あたしも『耳』を澄ませた。


 ……しまった。

 馬たちの『耳』を借りると、「音」はとってもよく聞こえる。

 逆に言えば、馬たちが「音」として認識していること以上のことは理解できない。


 つまり、この世界の人たちが喋ってる内容を、いくら高音質で中継されてもあたしがわかんない!

 言語をマスターできてるわけじゃないから!


 ……うわー。直接あたしが聞かないと理解できないなんて。

 なんか調子に乗った芸人の足元にいきなり落とし穴な気分。

 言葉に載せられた『意味』そのものはわかるもんだから、すっかり読み書きはダメだけど聞くのは大丈夫なつもりでいた。

 心話のはたらき方から考えて、おそらく喋る人の『意志』を読み取って脳内で自動翻訳してたんだろうなぁ。

 あは、あはははは。ははは。はぁ……。

 異世界補正チートで無双なんて、やっぱり無理やったんやー。


 あたしががっくりしている間に顔を馬房から突き出したのか、スピンが視覚を送ってきてくれた。

 話の内容はあいかわらず理解不可能だけど、情景は一目でわかるものだった。


 武装した兵士に後ろ手に拘束されたローブ姿の女性……ベネットねいさん。顔にあるのは…痣、か?

 残りの二人の武装兵士も見たことのない顔だ。砦警備隊の人間だろう。

 そして二人の兵士に囲まれてるもう一人のローブ姿は、死人みたいな顔のローブA君。


 ベネットねいさんが何か口を動かした、途端に兵士の一人がその頬を拳で張り倒した。

 痣はこれか。

 それでも必死にベネットねいさんがローブA君に話しかけるが、彼は首をふった。

 歯を食い縛った少年が、自分の杖から指をひきはがすように手放す。

 と、兵士の一人が杖を蹴り飛ばす。

 思わず杖にA君の意識がそれた瞬間、兵士が二人がかりでぼこりはじめた。


 あたしは馬車を飛び出した。

 おそらく、あの兵士たちは、髪の毛がなくて魔術が使えないとふんだベネットねいさんに手を出そうとしたのだろう。

 んで、それに噛みついたA君がねいさんを盾にとられたか、いっしょに人目につかなさそうなところに連れこまれてリンチ中と。

 させねーわ。


 急ぐ間にも、スピンの視界ではローブA君が胴体を殴られて沈んでいた。

 ゲスい笑いを浮かべながら、二人の兵士がベネットねいさんの方へ近づいていく。

 あ、ふらふらしながらA君が立ち上がった。


 布の裂ける音が聞こえる。馬たちの耳を通さずとも。


「やめ…、 ねえ、    てを、 な」

「おー。坊やが頑張るねぇ」

「じゃあ、俺らも、頑張っちゃおう、か!」


 生の打撃音が聞こえる。

 石組みの角を曲がったところで、足音に男たちが顔を上げた。


 一瞬ぎくっとした顔が三つ、あたしのローブと杖を見ていやらしく歪んだ。


「なんでぇ、魔術士隊のひょろひょろ野郎かよ。お前もなんだったら混ざるか?」

「俺たちの後だがな」


 下卑た笑い声が気に障る。


「やるならお前も訓練につきあってもらってからってのもいいかもな」

「ぼ、ぼにーど」

「うるせぇ。ガキは黙ってろ」


 兵士の一人に突き倒されても、ローブA君は顔を上げた。


「ねえさ、んを、たすけ、て」

「おねんねしてろって」


 無造作に拳を飛ばされ、切れた唇から血が飛ぶ。


 ……すさんでるんじゃないな。こいつらはクズだ。根っからの。


 あたしはびっと杖を振り、背後に複数の火球を展開した。


「無詠唱だと?!なんて手練れだ!」

「こいつらを盾にしろ!仲間ごと撃てるわけがねぇ!」


 うん、普通はそうなんだろうね。


 中指をびしっと立てると、ローブA君とベネットねいさんがビクッと身を震わせた。

 髪の毛を焼いた時のことを思い出したんだろう。

 だが残念。今度の狙いはそいつらのおいなりさんだ。


「「「ぎょばぢぢぢぢ!」」」


 けたたましい悲鳴があがった。


 かけつけた騎士が見たモノは、煙をぷすぷす上げる股間を押さえて痙攣する男たちと、血塗れの顔の少年。ローブを引き裂かれ、顔に殴られた跡のあるハイパーショートヘアの女性。

 そして、大魔術師とその脇の護衛っぽい謎ローブという組み合わせだった。


「あの……これは……」


 騎士隊の一人、クロディウスさんが、かすれた声で問いかけてきた。


 なんのことはない。

 最初に出した火球はブラフ兼フードの中が見えないよう、逆光を作り出すためのものだ。

 後はベネットねいさんの髪の毛を焼いた時同様、当社比2倍サイズの火球を顕界してやっただけだ。

 強姦魔どもの股間に。

 

 そこから体毛が全身焼けようがナニが焦げようが知ったこっちゃない。と、思ってたんだがなー。

 ぴくぴく動けるあたり、案外元気だ。

 ……これは当たってないな。誤算だ。

 人質を取ろうとするとか、わざわざゲスい行動で動ける範囲を自分たちで狭めてくれてたのになー。

 ほぼクリティカルヒットするものと予想してたのに。

 縮み上がってたんだか、もともと直撃できないサイズだったかはわからんが。幸運なやつらめ(ちっ)。


(抜く?)


 何を?


 ……。


 …………。


 ………………。


 ブレイ、君らは慣れてるのかもしらんが、去勢のイメージ動画を音つき匂いつきでいきなり送ってくるのはやめてくれなさい。

 ねじり切るとこなんか見たくないから。

 血止めに焼き鏝を当ててるとかも知りたくないし。

 なんかいろいろきゅーってなるから。

 二重の意味で、何にもないはずのあたしですら。


 ……ともあれ、馬車を飛び出した時に、グラミィに異常を知らせといてよかった。

 あとは、カシアスのおっちゃん案件だと思う。

 髪の毛がないベネットねいさんを盾にとって、ローブA君をボコり倒したあげく、ベネットねいさんにもっと下劣な真似をするとこだった、って、ありのままを伝えとけばいい。

 それをどう扱うかはおっちゃん次第ってことで。

 頼むわ、グラミィ。


〔それはいーですけど、……そっちのフォローはお願いしますね〕


 そっち、って。…ああ。


 ローブA君の呼びかけにも答えず、自分の肩を抱いたままベネットねいさんは身を震わせたままだ。

 うーん、火球はまずったかなー。トラウマをほじくり返したかもしれん。

 とりあえずローブA君に近寄る。

 あたし相手に暴走するたび撃墜してたから、ビクっとしたのは、まあしょうがないかもしれんが。


「ボニー殿、これまでの数々のご無礼をお許し下さい。姉さん…ベネティアス隊長と私を助けていただき、ありがとうございました」


 おお。きっちり踏みとどまって頭を下げるとは。成長したねー。

 君もよく頑張った。

 ぽん、と下げた頭をひと撫でしてやる。

 

 問題はベネットねいさんだが。

 男に集団で襲われそうになった直後じゃ、ただでさえショックは大きいしなあ。そこにトラウマの元凶がどう慰めてやればいいものか。

 ちょっと考え込んでしまう。


 一応言い訳しとくと、密着して盾に取られてても、ベネットねいさんとローブA君は大丈夫なように計算はしてたから。


 襲ってきた連中は鎖かたびらを着込んでいた。

 もちろん鎖かたびらなんて、素肌に着るもんじゃない。

 だから、あたしはその下に重ねる胴着やなんやらの一番肌に近いところで火球を顕界したのだ。

 汗を吸った服は燃えにくいし、熱は伝わりにくい、はず。

 たとえ鎖かたびらまで熱が伝わっても、鋼製の鎖かたびらは熱の伝導率が高い。

 全身に熱が伝導するから表面上はそんなに熱くならない、はずだったんだよ?

 たぶん。


 ……。


 ………。


 …………。


 あたしは一つ決断をした。


 ねいさんの頭をゆっくり撫でてやる。

 一瞬身体が撥ね、喉で悲鳴を飲み込んだのがわかった。

 動物でもそうだが、初対面だったり、警戒している対象に接触する/される瞬間というのは一番緊張するものだ。

 けれど、同じ行為を続けてやるうちに落ち着いてくるものだ。

 ねいさんも次第に呼吸が長く、深くなってきた。

 そこで、ひそひそ話をする感覚で接触心話を送り込んだ。


(手助けはした。髪が伸びるかはそなた次第だ)


 がばっと顔を上げたねいさんに、ゆっくりうなずいてみせる。


「あ、……ありがとう、ございます」


 途切れ途切れの感謝の声は涙に濡れていた。

 ……うーむ、ちょっと困る。


〔いつの間にそんな魔術を身につけてたんですかボニーさん。ハゲる恐怖に怯える魔術士に最っ強の朗報じゃないですか!そんなこと知ったら、魔術士という魔術士がボニーさんに殺到しますよ?〕


 あ。あれ、嘘だから。

 というか、髪の毛を伸ばす手助けをした、とは言ってないよ?

 誤解をするような言い回しをわざとしたのは認めるけどね。


〔なんですとー!〕


 あたしがどうにかしようができなかろうが、生きてりゃ人間必ず髪は伸びる。

 それにあたしが魔術を使える以上、骨や爪も髪以外の魔力タンクになりうるって教えてやれば、使えるようになるんじゃないかな。

 そうなれば、掌返しの鮮やかな魔術士の面々のことだ。実力で騎士隊長に選ばれたベネットねいさんの返り咲きは時間の問題といえよう。

 本人のやる気さえあれば。


〔だから、魔力の回復をぶら下げてたきつけた、ってわけですか?〕

 

 まあねー。

 グラミィ以外には存在すら教えてない心話を使ったのも、できるだけ早くベネットねいさんには復調してもらいたかったからだ。心理的にも。


 そもそも、人質とって武器を手放させた上に複数で殴りつけるような連中嫌いだし。

 あたしも女性のはしくれというかなれの果て、もとい骨。

 集団で女性を襲うようなやつら、可能ならばこの手で性転換でもしてヤられる側にしてやりたいくらいにはムカついてる。

 ねいさんがそこそこ偉くなってくれるなら、今後は、そんな卑劣漢に多少腕力や権力があっても、被害女性を見捨てるようなことはしないだろうし、クズ本人も張り飛ばすなり抑えつけるなりしてくれそうだし。


 ……なにより、きっかけのスキンヘッド仕上げにしちゃったのはあたしだし。


〔越後屋、そちも悪よのぉ〕


 お代官様ほどでは……ってなにを言わせるかな。


〔前にボニーさんがあたしにやらせたことでしょーが〕


 はっはっは、何のことやら。

 脳内には残っておりませんですじょ?

 脳がないもんな!


 ……冗談はともかく。

 ここまで砦の内側が危険区域だとは思わなかったなー。

 こうなると、グラミィも心配だ。

 なにせ魔術のまの字の一画目の一ミクロンぐらいしか理解していない『大魔術師ヘイゼル様』。

 なんか自分を守る方法、身につけておいてもらわないと、困るかもなー。

 といっても。

 知識なしの一般高校生となると、身体に染みこませた技術なんて期待できない。

 護身術なんて無理だろなー。

 うーん……。


 ……気休めに、あたしの持ってる短剣でも渡しておくか。

今回の異世界転生王道要素ぶち壊しは「非漢女三原則」です。

もともと濃すぎるキャラづけは嫌いなので。

ムキムキマッチョにドギツイメイクでオネエという、いわゆる「漢女」キャラを「出さない、作らない、(キャラたちに)作らせない」という方向性でひとつ。

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