復命(その3)
本日も拙作をお読み頂きましてありがとうございます。
「シルウェステル・ランシピウスに命ず。ランシア山へ向かえ。このランシアインペトゥルス王国の最も高き地に拠りて、スクトゥム帝国をはじめとする四方の国情を探れ」
「『王命、しかと承りましてございます』」
あたしはうやうやしく魔術師の礼を取った。
命じられたのは偵察任務だが、ランシア山を根城にしろってことは、それ以外にもやれってことだろう。
なにせ場所が場所だ。スクトゥム帝国が攻めてくるとしたらまず天空の円環を使うだろうとあたしは推測している。その防御を固めろって示唆だったら喜んでやりますとも。
だけど、問題が一つ二つ。いや最低三つはありますよ。まずはそれをクリアしないとね。
「『時に、マヌスプレディシムどのの御身につきましてはいかがいたしましょうや』」
ええ、あたしが庇護してることになってるマヌスくんをどうするかは大事ですよね。
一番簡単なのは王サマか王族の誰かに、庇護者としての役割をバトンタッチすることだろう。
王サマ的にはマヌスくんには王都にいてもらった方がいいだろう。ジュラニツハスタのデキムス王子みたく人質とするなら――グラディウスファーリーに対してはクルタス王にしか価値はないかもしらんが――手元に置くのは大事ですよね。身の安全も守りやすいし。
「マヌスプレディシムどのは何を望まれる?」
だからこの王サマの問いには、あたしもめちゃくちゃ驚いた。
マヌスくんも一瞬目を見開いたが、すぐに落ち着いた態度に戻って口を開いた。
「わたくしを庇護してくださいましたのはシルウェステル師にございます。ですがわたくしは異国より来たりし一介の魔術師にすぎぬ身。いかようにも陛下の命のままに動きましょう」
実にしおらしい帰順の姿勢に、その場にちょっと沈黙が広がった。
……てか、ちょっと。他の王族のみなさん引き受けようとしないの?ここまで他国の王弟に卑下されて?
マヌスくんの事情をわかってるのかわかってないのかもわかんない二公爵はともかくとしてもだ。
事情を一番よく知ってるはずのクウィントゥス殿下まで無言って何さ。
アロイス宛てで石書を送った以上、王子サマにもマヌスくんのことは全部伝わってるはずでしょ?
ほんとーにいいの?グラディウスファーリーとの交渉を有利に進めるのに使える超強力なワイルドカードだよ?!
「では、シルウェステルに命ず。マヌスプレディシムどのをフルーティング城砦へ伴い、グラディウスファーリーとの友好関係を保て」
「……『御意』」
王命ですからねー。魔術学院の名誉導師ではあっても、爵位を持ってないシルウェステルさんにはハイかイエスでしか答えられませんわー。
たとえその身の安全が確保されてて五体満足、健康であってこそ価値があると言える人質にするつもりはないのかもしれませんが。
お骨なあたしともども標高の高いところにある要塞に籠もれとか、なにその劣悪環境とか思っていても、口が裂けても言えませんとも。
ま、あたしゃ顎関節の筋肉もないんで。下顎骨を180度開くことくらいできそうですけどね!
冗談はともかく。
マヌスくんを折衝役に使うつもりなら、彼を一番グラディウスファーリーと地理的にも近いところに置くのは、決して悪い手じゃない。
でも、フルーティング城砦は他地方とも近すぎる。なのに、あたしが王命の通りに偵察に出たら、彼の守りはがら空きになるんですよ。
「『おそれながら陛下。わたくしが他出する間、マヌスプレディシムどのの御身に不安を感じるのですが』」
意訳:ずっと帯同なんかできませんよ。どーすんですかノーガード状態とか。やばいでしょ国交的に。
グラミィに伝えてもらったとたん、クランクさんがデスヨネーって顔になったのはどうしてなんだか。
「ふむ……」
「おそれながら陛下に申し上げます。わたくしも師とマヌスプレディシムさまの随従へとお加えいただきますよう、伏してお願い申し上げます」
考え込んだ王サマに言上したのはアルガだった。それもうすらハゲにうっすらと汗をかくほど緊張して。
アルガはグラディウスファーリーの密偵だ。
いや、だったというべきかな。あたしがクルタス王から身柄を正式に引き取ってるから。
けれども密偵稼業をしていた以上、こんなふうに王に直言とか、めちゃくちゃ目立つ場面で立つことのなかった人間なんですよ。
なおクルタス王とのことは除く。暗部の束ねって扮装してたのはあっちですから。
「オクタウス。マクシムス。糾問使の随従として、この者を推挙したそなたらはどう考える」
問われた魔術学院長と魔術士団長はそれぞれ丁寧に礼をとった。
「この者も、またマヌスプレディシムどのと同郷の出身とのこと」
「異国にて寄る辺なき思いを分かち合うには随従としてふさわしき者かと存じます」
「なるほど。ではアルガと申したな。そなたの随行を赦す」
「ありがとうございます!」
「では陛下、わたくしもエミサリウスをシルウェステル師の随従におつけいたしましょう」
「おお、殿下方に先におっしゃられては、なにやら面映ゆい。真似のようで申し訳ないですが、わたくしもクランクを従わせましょう」
……あれ?
なんで糾問使団再結成っぽい感じになってるの?
あたしとしてはこの復命が終わったら、現地解散!お疲れさまでした!って気分だったんだけど。
いや、正直ありがたいですよ?それはもうものすごく感謝してはいるいんですが。でもいいのコレ?
「なんだ、何を戸惑うことがある。推挙を謝したということは、彼らを得難く思っているのだろう?ならばシルウェステル、そなたが使うべきだ」
あたしがきょろきょろと推挙者の皆さんの顔色をうかがっていたら、王サマから声を掛けられた。
そう言われてしまってはしかたがない。ありがたくといい子で拝領いたしますともあたしは。エミサリウスさんには、とばっちりごめんとしか言いようがないけどな。
彼が平民出身ということもあり、糾問使団に加わってくれた経緯も、出向と書いて追い出しと読ませる風味だったのは忘れていない。だから糾問使団で手柄を立てさせて、見返させてあげるはずだったんだけどなあ。
でもテルティウス殿下のもとに戻るのが遅れたぶんは、手柄をモリモリに盛りまくってあげるんで、それでかんべんしてください。
にしても、魔術師ってそこそこ希少な人材なんだけど。しかもドリームチームなみなさんをつけてもらえるとか、なんかますます仕事が振られそうな気がしてしかたがないんですが。
だからこそ、文官としての事務能力が高いエミサリウスさんをつけてくれたのかもしれないけど。
まさか国境に一番近い城という呼び名もあるフルーティング城砦が、糾問使団レベルに能力の高い行政ターミナルになるとか。想定してませんよあたしは。
てかフルーティング城砦、収容人数的に大丈夫か?
だけどこうなったら、あたしだって遠慮はしませんとも。
「シルウェステル・ランシピウス。他に望みはないか?」
「『では、陛下には、この舌人グラミィと、星詠みの旅人であらせられるヴィーリどのの同行をこれまで通りお許し願いたく。そしてタクススどののお知恵を拝借いたすことをお認めいただきたく存じます。加えて、クウィントゥス殿下にもトルクプッパどののご同行を』」
「喜んで参ります!」
満面の笑みで答えてくれてありがとうトルクプッパさん。その特殊メイク技術は密偵行動するにはたぶんめちゃくちゃ重要だ。
「『さらに、これは望みとは少々異なるのでございますが……』」
「申してみよ」
「『ありがたき幸せ』」
あたしは一揖した。
「『フランマランシア公爵閣下、トゥニトゥルスランシア魔術公爵閣下におかれましては、領内の治水について憂いを抱いておられるとのことにございます。スクトゥム帝国へ向かう前より、両閣下にはご相談を頂戴しておりましたが、いかがすべきでございましょうや。わたくしはこのように王命を拝した身、たとえ骨となりましたとはいえ、よもやランシア山と両閣下の猟地へとこの身を分けるわけにも参りませぬし』」
「どうかな、レントゥス?クラールス?」
王サマに話を振られて、二人の公爵はそれぞれの礼を取った。
「王命とありますれば、我らが小さき望みにてシルウェステル師を煩わせてはなりますまい」
「フランマランシア公爵に先んじられたは業腹なれど、同意いたしましょう。それに」
ちらりとレントゥスさんはあたしに目をやった。
「それがしが領地の治水を委任せんと欲したのは、魔術師であるシルウェステル・ランシピウスに対してのこと。魔物を使役する妖術師にではございませぬ」
「トゥニトゥルスランシア魔術公爵!シルウェステル師を愚弄する気か!」
魔術学院長のオクタウスが叫んだが、レントゥスさんの視線の温度は変わらなかった。
……魔物を従える魔術師を妖術師と呼ぶ魔術師がいることは知ってた。邪術師と呼ばれなかっただけでもマシだろう。
ついでに言うなら、土木工事のお役御免になっただけでも御の字ですよ。
いやあ、下手にルーチェットピラ魔術伯爵家を盾に取られなくてよかった助かった。いくらあたしでもアーセノウスさんやマールティウスくんを巻き込むのは気が引けますとも。
にしても、レントゥスさんが本質的にあたしが気に食わないってのは、なんとなく理解してたけどねー。ここまで態度も冷やっこいとは。
いやあ、ありがたいことです。
〔人に冷たくされて喜ぶとか。ボニーさんってばマゾ?〕
ヲイ。嫌われるのがたまらんほど好きとか思わないかんねあたしゃ。ツンデレはデレに落としてからが旬だと思う今日この頃です。
〔…………〕
あたしの個人的嗜好はさておきだ。
ランシアインペトゥルス王国に戻ってきてからこっち、どうにも妙に落ち着かない気分だったのだよ。普通なら敵意満載の仮想敵国から逃げ戻ってきたホームグラウンドだ、少しはくつろげるはずでしょうよ。
なんでかなーとしばらく考えてたんだが、よくわかった。何でか知らんが、この国は甘すぎるのだ。
アーセノウスさんは言うまでもなく、王サマを筆頭とした王族たちもだ。
比較対象がなけりゃ気づかなかったあたしも、そうとう焼きが回ってたとしか言いようがない。
ま、正直に言って、その扱いに助かってたことは確かだよ。そのせいで不自然なまで甘さに気づくのを無意識的に避けてた部分はあると思うの。
だって、ぶっちゃけ付け焼き刃なあたしの礼儀作法なんて、宮廷の典礼官とかに眉をひそめられるレベルだと思うのよ。
それでも、礼儀知らずとプロトコルに弾かれることもなく、こうも王族や大貴族のトップと平気で言葉を交わし――まあグラミィ越しだけどさ――交渉事を進めることすらできているとか。
なんだこれ。よくある異世界もののネット小説かぁ?
たまたま知り合った相手が金身分美貌と三種の神器を揃えた人間で、なぜか気に入られて無条件に味方してくれるとか、そりゃお話ならばなんという偶然に支えられた人生イージーモードとでも読み飛ばせるでしょうよ。
けれども、彼らは生きている。この世界はどこまでも現実だ。彼らの甘さはどうにも異様なのだ。
〔いやでも、アーセノウスさんはもとからシルウェステルさんラブだったって言うじゃないですか。それと同じように、生前のシルウェステルへの好意がずっと影響してるとか〕
いやー、それはないと思うよ?
まず、どこまで行ってもあたしゃ骨なんですよ。そしてグラミィ、あんたは婆な外見だ。
愛されキャラな外見としては婆と骨ってずいぶんと特殊だと思わね?
確かに生前のシルウェステルさんはよほど魅力的な存在だったのかもしれない。知らないから推測しかできないけど。
だけど、その骨まで愛してな勢いで、べったべたに甘やかしにきてくれるアーセノウスさんを見ていてどう思う?
〔……ちょっと視覚的な暴力です〕
……言うねえ、グラミィ。めっちゃ正直すぎ。
でもまあ外見が整ってるってのは、確かに好感を抱かせるのに有力な道具です。あたしの場合は、その前に外見が生身の人間として許容範囲かどうかって問題だけど。
〔あ、でもボニーさん。見た目が人間じゃない、じゃなくて!人間は見た目だけじゃないですよね?クウィントゥスさんも、アロイスさんとカシアスさんと協力して課題をこなしたからこそ、いろいろ便宜図ってくれるようになったわけですし。なら、ボニーさんが有能だから好意が集まったってのもあると思うんですけど〕
イヤイヤイヤイヤ。
王侯貴族ってのは個人の感情でどこまでもなんでもやれちゃう身分の人たちだ。
だからこそというべきか、目の前にいる王族も二公爵も、個人の好悪と政治的判断ってやつは簡単に切り離して行動できる人たちじゃないかとあたしは思ってる。
つまり彼らの判断はあたしに対しての好悪によって左右されてるとは思えない。
なのに、あたしがちょっと具申したことがあっさり聞き届けられること自体、やっぱ妙に甘いとしか言いようがない。
〔将来ボニーさんが作り出す利益を考えての先行投資とか?〕
いや確かに、人材確保とか土木工事免除とか、あたしのリソースはかなり確保できたよ?
あたしがやらかそうと考えてるスクトゥム帝国への対抗措置が、ランシアインペトゥルス王国にとってはメリットになるだろうというのも本当だろうさ。
だけど猟犬がどんだけ有能だろうが、人間と同じ待遇を許すわけがないのだ。
普通に考えるならば、どんなに利益を与えてくれる有能な駒であっても、その駒だけに自由を許すことも、事態を任せることもありえない。
てか、スクトゥム帝国と戦争になることを考えたら、あたし個人より公爵家にいい顔しとこうと考えて当然なんだよね。いくさってのは個人でするもんじゃないんだもん。
マヌスくんがくっついてるから、なる早で治水工事やらかしてからランシア山へ行けとあたしに命じるのが難しくても、あたしのかわりにアーセノウスさんたちを巻き込めとか、公爵家の依頼をブッチしたシルウェステルさんになんらかの打撃を与え、二公爵の腹いせができるような対案をあの王サマが出せないわけがないのだ。
〔それはわかりますけど〕
そういう意味では、レントゥスさんの反応は大貴族として、領主として至極まっとうに見えちゃうんだよねー。
まずは自分の勢力範囲である魔術学院に、いくら王サマからいろんな名誉を賜ったとはいえずかずか入って言った骨が、自分の配下を退け、大駒だったオクタウス殿下の身辺から影響を薄くするとか。まず警戒しないではいられない事案でしょうよ。
そしてまた別の勢力範囲にあった聖堂にも踏み込んできたから、御大自身の手で粉砕してくれようかと思えば、ちゃんとフランマランシア公爵なんて相手を連れてきてたとか。
あれよあれよといいように引き回してくれるから、有効利用してやろうと領地の工事を申しつけたら、王命ですからと逃げ出して。
なんとか紐をつけてやったはいいが、戻ってきたと思えば、幻惑狐なんて魔物を率いている上に、また別の王命が下される。慌てて再度紐をつけてはみたもののそれが精一杯の手出し無用とか。
酸っぱいブドウではあるが、これ以上手を出すのは不利益だろうと踏んだからこそ撤退はする。だがあたしごときにしてやられたのが気に食わないから、嫌みの一つでも言ってやろう、てなとこだろうね。ある意味一貫してるよ。
タクススさんと話をしたり、魔術学院と魔術士団への依頼とかいろいろやっているうち、あっという間に日は過ぎ、あたしたちは王都ディラミナムを発つことになった。
なお、あたしたちの出発まで王都に戻ってくることの叶わなかったアーセノウスさんはというと、なんか盛大に恨み言をクウィントゥス殿下にぶちまけていたらしい。後から追っかけてきたマールティウスくんのお手紙が情報源です。
そうそう、あたしの身元引受人って感じで、復命の場にも同席していたマールティウスくんは、当然のように屋敷へと誘ってくれたのだが、あたしは断った。
マールティウスくんはがっかりしていたけどしかたがない。
下手に政治勢力的な色合いをつけない方が良い、という判断ですよ。
いやだってね、あたし預かりになってるマヌスくんとかいろいろ立場も微妙なんだもん。
ここでマールティウスくんの誘いを受けたら、ほんのりクウィントゥス殿下寄りに見られること間違いなしですよ。
王宮の一角に部屋を手配してもらったのは、たぶん王サマか王族の誰かによる計らいだと思う。ワイルドカードの活用権限を自分が握らなくても、誰にも握らせない、みたいな?
おかげで糾問使チームもあれこれ活発に行動できてたみたいだけどね!
フルーティング城砦への移動はけっこう長いものになった。一日に進める距離がカシアスのおっちゃんたちと王都へ来た時よりもはかどらなかったのは、城砦まで山を登らねばならなかっただけではない。
荷 物 が め ち ゃ く ち ゃ 多 か っ た ん で す 。
とりわけ大量の荷物を持ち込んだのは、クランクさんとエミサリウスさんだ。
足りないものが多すぎるからと、いろいろ伝手を辿ってあちこちにお願いしていたトルクプッパさんは、後から荷物が追っかけてくると言っていたから、これでもまだ荷物は少なくなっているんだろうけど。
しかもだよ。
大方が文書仕事用の紙だというエミサリウスさんはまだしも、クランクさんは魔術子爵としての格を維持する最低限にいたしましたと言いながら、個人用従者まで持ち込むのはありなんですかねそれ?
思わず、マヌスくんにも人手が必要かと聞いちゃったけどねあたしは。そしてアルガがいるから大丈夫と断られたけど、万が一の時には王サマに泣きつくって形で、クウィントゥス殿下の部下か、マールティウスくんからの人材推薦を待たなきゃいけなかったのかもしれない。
馬車の移動に疲れたのか、グラミィが溜息交じりに話しかけてきたのは、王都を離れてまだそんなに経ってないころだったと思う。
〔ボニーさん、よくこのノロノロ状態で苛つきませんね?〕
いーや、ぜんぜん?
そりゃあ、空飛んでけばかなり日程は短縮できると思うよ?
だけどそれはあたし限定だ。
こんだけの荷物や随行者全員を連れて飛べとか本気で無理っす。
〔荷物はともかく、人だけだったら運べません?一度に連れてける人数が少ないんなら、何回にでも分ければいいだけじゃないですか〕
いやー、万が一にでも安全を確約できないと思うとねー。
気分はいまだに仮免ドライバーが初めて路上に出始めたレベルなんですからあたし。グラミィとシカリウスなクルタス王ともども空を飛んだのは、あれ緊急脱出手段ですとも。
幻惑狐たちなら軽いし、なんとでもあたしが庇えるけどさ。生身の人間巻き込んで、墜死させる可能性がゼロにはなんないとか思うと、そこまで責任持てません。断固飛行拒否しますとも。
荷馬車と馬車大活用の大名行列状態だったことを考えると、フルーティング城砦まで、一月たたずにたどり着けたのは正直すごいことなのかもしれない。
ちなみに、ほかの食糧とか消耗品については、日を追うごとに城砦へ届くように手配はしてもらってきた。
道中通りすがった領主たちにも、輸送協力よろしくと頼み込んでもある。それがどこまで効果のあることかはわからんけれども。
塔がぺかぺかに新しくなっていたフルーティング城砦では、アロイスの後任だというプレデジオさんと魔術士団のコギタティオさんが出迎えてくれた。
彼らには、騎士団長のクウィントゥス殿下と魔術士団長のマクシムスさんが話を通しておいてくれた。ちなみにここに配置された魔術士団の方々は、みないずれもあたしたちが、というグラミィがメインとなってしばき倒したソフィア元大隊長さんに反感を持ってた人たちだとは、王都でマクシムスさんが笑顔で教えてくれましたから、グラミィなぞはずいぶんと安心できたようだった。
城砦内部もその魔術士団の人たちがところどころ手を入れたらしく、使われてなかった使用人部屋なども居心地がよさそうに改装されていた。おかげで部屋数は十分です。
この砦に最初来た時は、馬車があたしのプライベートルームだったもんなー。
いやあ、隔世の感があります。
だけど、そのお部屋に腰を落ち着ける間もなく、あたしはグラミィとヴィーリともども城砦の外へ出た。
目的は、ヴィーリにとって初の里帰りへの同行である。
「山へ向かうのだろう。ならば、双極の星よ。同胞満ちる地へともに飛ばん」
……確かにそう言われてましたよ。ええ。
だからといって、まさかほんとに、闇森へ飛んでいくことになるとは思ってなかったけどね!
骨っ子が疑問に思っている王族の甘さですが、理由はタクススさんにあったりします。
詳しくは第三章「EX.タクススの杯」をご覧下さい。




