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さらばリトス

本日も拙作をお読み頂きましてありがとうございます。

 魔力(マナ)吸収陣は、あたしが魔術陣を使い始めた当初から、いろいろ便利に使い回しているものの一つだ。

 だが、もともと魔術陣というのは、陣にするためのもとの術式があって初めて成立するものだという前提がある。

 つまり、陣をいちいち書かなくても、術式を構築し、顕界まで持ってくることができるのは、どんな魔術でも――魔力吸収の術式でも――同じこと。

 ただ、魔力吸収は術式が直接接触している空気中や物体から魔力を吸収していくので、顕界状態を維持しやすい陣として構築しておいた方が使い勝手がいいのは確かだし、あたしも魔術として顕界したことはあまりない。

 だが今回はバレないようにするのが必須だったので、陣などいちいち構築してられなかったってわけだ。

 展開した術式が彼ら全員を取り込むように、けれども幻惑狐たちに触れないように床上1mぐらいの高さに効果範囲を設定してといった細かい条件設定が必要だったので、ちょっと調整に手間取ったけどね。


 ちなみにあたしが多用する魔術を使わない魔力吸収は、基本魔術師にしかしない、というかできない。

 特に、向こうが顕界した術式を破壊したところからちゅーっと魔力をいただくやり方は、術式を顕界してもらわなきゃならんから魔術師相手にしかできない。

 生身から直接吸うことだってできないわけじゃないけどね。ランシア山の砦にいたときには、グラミィに魔力を供給してもらうのに、直接接触した場所から吸わせてもらってたし。

 だが、この方法は放出魔力だけでなく、保有している魔力も同時に吸収してしまうことになるので、はっきり言ってこっちもしんどい。

 自分の魔力との違いが強い保有魔力は、なんというか『暴れる』のだ。

 それを自分の魔力で押さえつけ、馴染ませ、自分の保有魔力の循環に混ぜながら一体化させるのは、同意してもらったグラミィ相手でさえ手こずる。

 ましてや同意のない相手、しかも放出魔力の少ない非魔術師から吸ったものはほぼ含有魔力になる。

 魔術陣などで得る魔力が水道水なら、術式破壊で得る魔力が人肌の白湯。同意した魔術師相手からの直接吸収は熱湯レベル、非同意の非魔術師相手ならば……硫酸でも呑むようなものだろうか。

 よほどの必要に迫られなければ、直接ドレインとかやりたいとは絶対に思えない。

 

 ……まあ、こんなもんだろうな。

 陣符の顕界にも魔力を使ったせいだろう。魔力吸収を気絶後3カウント後という短時間で解いてやったというのに、彼らからはさほど魔力を抜くことはできなかった。

 別にいいけどね。今のあたしは容量満タンな上に、さらにちっさい魔力吸収陣にきゅうきゅうに魔力を吸収させたものもしこたま予備に持っていたりする。彼らから吸収した程度の魔力などオヤツにもなりませんとも。

 

 リトスの下水道をあちこちを歩き回るついでに、あたしはその全域にわたって多種多様な陣をたっぷり仕掛けておいた。

 そのうちの一つとして、魔力吸収陣も忍ばせてある。別の陣につなげて魔力供給源にするだけでなく、あたしの魔力回復手段としてもずいぶん活用したものだ。

 つまり、リトスの下水道は、言ってみればあたし専用回復スポットにもなっていたわけだ。

 ……下水の匂いがぷんぷんする場所が癒やしの空間になるかっていうと、精神的にはそんなことはまったくないんだけどさ。ちなみにあたしは幻惑狐たちに嗅覚でも借りない限り、匂いはわかりません。

 

 ごろごろと出来の悪いマグロ状態の連中を、あたしは杖でつついてみた。

 もともと魔力吸収をかけた目的は、あくまでも燧石亭の星屑(異世界人憑依者)連中を一斉に無力化することだ。

 まあ、気絶してるかの確認なら魔力知覚でもできるので、殺されかけたお返しという意味もないわけじゃないけどね!

 ともあれ、彼らは意識を取り戻した後もしばらくは衰弱状態が続くだろう。すぐさまあたしを追いかけてくるなんてことはできないはずだ。

 石の床に倒れかけてから、3カウント後に顕界を解いた一人を除いて。


 遮音機能を持たせていた結界を解除、ついでに幻惑狐(アパトウルペース)たちに耳を借りる。

 外の騒ぎは聞こえず、階下から人が近づいてくる気配はなし、と。

 ……うまく戦闘の物音を隠すことができたか、それとも冒険者ギルド(笑)の連中があたしやウーゴの始末をつけているところだと思われているのか。

 にしても、あの線香花火チックな陣符のしょぼさが気に掛かる。

 いきなり問答無用で撃ち込まれた殺意高すぎな毒矢に対して、あれはあまりにものんきすぎるのだ。あたし相手じゃなくても、せいぜいが目眩まし程度の効果しかないんじゃなかろうか。

 いや、目眩ましで充分だと思っていたのか。それとも魔術慣れしてない人間が相手ならば、十分役に立つと思っていたのか。

 ならばやはり、狙われていたのはあたしよりも、ウーゴだったのかもな。

 いずれにしても、さらに()()()()()でも送り込まれてきたら厄介だ。

 とっととリトスから逃げだそうじゃないの。


 もとからそろそろ、あたしはリトスを離れるつもりではいた。 

 あの異世界転移者、マグヌス=オプスからも聞くだけのことは聞いていたし、この都市の図書館にもシルウェステルさんの紹介状を自作して突入してみたりしたし。

 おかげで第四層(リトスの支配者層)の住人や魔術師の数人とも会って話をすることができた。魔力知覚能力の高い魔術師との対面は相当なひやひやもんだったが、リスクを冒した甲斐あって、必要な情報はかなり取れたと思うし。


 だが、その前に。


 緩慢に指を動かしているウーゴに近づくと、あたしはそのうなじに指の骨を触れた。

 手袋越しであろうと接触していれば、ひそひそ話感覚で他人に漏れにくい心話ができるのは、グラミィで確認済みだ。


『意識はあるな、ウーゴ。ああ、他の連中は気絶中だ。まる一昼夜は起き上がれんだろうよ』

「てめ、ナイガ、なんで」

『わたしがこの状態で君らを皆殺しにしていないのが、そんなに不思議かい?』


 ぴくりと目蓋が痙攣した。

 もちろん鏖殺(みなごろし)なんてこと、あたしはまったくやる気はございませんとも。

 けれども人間というのは、刺激的な言葉に意識が集中すると、深刻な疑問もどっかにすっとばされるんである。

 あたしがどうやって彼らをぶっ倒したんだろうなんて疑念は、ぜひともそのまますぱっと忘れてしまっていただきたい。


『……わたしの気まぐれってことで報告はまとめた方がいいかもな。そうでもしないと、今度こそ殺されるぞ、あんた』

「どう、いう、こと、だ。なぜ、おれ、だけ」

『なぜこうやって、わたしがあんただけに話しかけてるかって?』

「ああ」

『あんたもグイドたちに引っかけられ、殺されかけた側だってことが一つ。単に門衛のロールプレイ(役割演技)をしてただけのつもりかもしれないが、それでもあんたはかなりまともなやつに見えてたことが一つ。……しかし、ウーゴ。なぜあんたは、わたしを強硬手段で取り押さえにかかる前に説得しようって方向で来たんだ?グイドたちのタレコミとやらを信じて、すっかりわたしを盗賊の手引きだと思いこんでたんだろう?』

「問答、無用、っての。なんか、イヤ、だった、からな」


 へえ。

 あたしはこっそり感心した。

 人間、就いた立場を自分自身と勘違いして、道徳的判断をあっさりと歪めてしまうことは、残念ながらよくあることだ。そして立場が自分の行動に正当性を与えてくれるのだと思いこんでしまうこともだ。いわゆる役割に呑まれるというやつだ。

 その最たるものが、正義の味方だろう。

 自分が正義そのものだと思い込むことは強烈な毒になる。暴力を奮う者が高らかに正義に基づいた行動理念を叫ぶのは、正当性を周囲に訴えかけるだけでなく、自身が酩酊している正義への共感を引き起こし、賛同させ、最も遵守している自分という人間を周囲に褒め称えさせるためということは、残念ながら珍しいことではない。

 そして、ウーゴの役職である門衛ってのは、この都市の衛兵なのだ。

 守るべきは市民の安全と平和。つまりは正義と秩序の側に立つ人間。

 門衛の役割演技に呑まれたウーゴが、いきなりあたしに腰の剣で斬りかかってきていたとしても、そしてもしあたしが生身で、そのままずんばらりんと斬り殺されていたとしても、守るべきもののためならばという名目で動いている以上は、『逃走前の盗賊の一人を逃がさないように』正しいことをしたと思い込まれていても、実はおかしくなかったのだ。

 

 だが、それをイヤだからと、より穏健だが反撃される可能性もある、説得という方法を最初に選んだということは、ウーゴはどうやらむこうの世界の良識を忘れずにいるらしい。

 その一方で、身につけている武装を見れば、たとえそれまでの接触で星屑同士だとわかっていても、敵対するなら門衛の立場を優先し、その役割を剣にかけても果たそうとしていたというわけだ。

 なかなか見上げたものじゃないか。

 星屑の常で欲どおしい様子はあったが、それも酒や食べ物に限られていた。これなら見込みはある。


『そこがあんたの強みだな。自分の頭で考えて、行動ができる人間ならば、少し話をしてもいいかと思うには十分だよ』

「そうか」

『グイドたちのように、他人にほいほい踊らされて、簡単に人を嵌めたり殺しにかかったりするようなやつらよりは、まだましだ』

「マシ、か」

『ああ』

 

 正確にニュアンスを読み取ったのだろう。襲ってきたグイドたちと比べんなと言いたげな沈黙が返ってきた。

 だけど、しょうがないじゃん。

 本人がどんなにいい人であろうと、いやいい人だからこそ、釣り餌代わりに使われることがあるのはご覧の通りだ。あたしゃこれ以上ひっかかるわけにはいかない。

 

『それはともかくだ』

 

 あたしはウーゴに言葉を残す。それがいつか、彼の思考を動かす種となることを願って。


『今からわたしが言うことが、どれくらいあんたに歪められずに届くか正直わからん。だが、掛け値なしにわたしがこれまでこの世界で見てきたことを伝えておく』

「なにを、だ」

『さっきも言ったが、この世界はゲームじゃない。冒険者ギルドを見ればわかるだろう。冒険らしい冒険なんて誰もしてない、経験値なんてもんもない。なのに、ゲームだとあんたたちに思い込ませるために、この世界は犠牲を払っている。虐殺すら起きている。そこからなんとか生き残った人たちだって、手足が不自由になったり、言葉を失ったり、なによりも大切なものを奪われたりするという苦しみを受けながら生き続けている。今もだ。――その黒幕が、この国にいる』

「なん、だと」

『だから、ウーゴ。殺されないように気をつけろ。ここにはセーブもリセットもリスポ-ンもない。死んだらそれでおしまいだ。そして知った人間を黙らせるためなら手段を選ばない勢力が動いてる、そう思っておけ。もちろん、わたしの言葉が嘘だと思いたければ勝手にするといい。だが一つだけ聞く』

「なんだ」

『ウーゴ。あんたはウーゴになる前の、日本人としてのあんたの名前を覚えているか?』


 門衛は目蓋を激しく痙攣させた。

 ……やっぱりか。


 あの星屑三人組の尋問の時のことだ。ソウ、ダイ、ジュンと名乗った彼らの名前が本名じゃないということは、とうに聞きだしていた。

 だから、せめて姓か名だけでも教えてくれないかとグラミィが訊いたら。

 彼らは、パニックを起こしたのだ。自分の本名を思い出せず、そのことに驚愕して。

 

 彼らの反応と、マグヌス=オプスの、あの人間の一部だけを召喚したという話を組み合わせたならば、こうも考えられる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 もちろん、そんなことが本当にできるかどうかなんて確かめてもいない。犠牲者(実験体)()出さず(いないの)に確かめられるわけがない。

 だが、幻惑狐越しに見せてもらった術式の特性上、できないわけでもないだろうとあたしは考えている。

 加えて、マグヌス=オプスの話では、人間の召喚はその精神だけですら、彼と彼が拾った異世界転移者の二人がかりでようやく魔術陣を発動させるほど魔力を喰う術式だった、らしい。

 そんなものをばかすか連打できるとも思えない。マグヌス=オプスがあの御堂に封じ込められているのならばなおさらだ。

 彼が言うところの『くそったれのクズ』が一人で、ないし可能な限り少人数の協力者と組んで発動できるように、召喚陣を()()しようと考えるのであれば、召喚対象をさらに削る、という発想が出てきてもおかしくはない。

 そしてまた、星屑だらけのこの帝国の内情を知れば知るほど、より簡易に発動できる術式でも編み出さなければ、こうはなっていないだろうと考えざるを得ない。

 

 人間の自我は記憶によって構築される。

 また、人間の判断は前提となる知識の内容によって大きくねじ曲がる。

 つまり、召喚対象である精神を恣意的に削ることができるのであれば、この世界をゲームであるかのように演出している『運営』が、自分たちに都合の良いように価値観の根幹を成す記憶を削り取り、知識や思考方法を制限することも可能だろう。

 ならば、そのように加工した精神をこの世界の人間に搭載したのが、あたしたちの認識していた星屑たちであり、『運営』の中には、異世界転移者の魔術陣師、マグヌス=オプスの拾った堕ちし星(異世界転移者)、ないしはその関係者が少なくとも一人はいるのではないかというのが、あたしの立てた推測だった。

 

 もしこの推測が正しければ、『運営』のいいように動かされている星屑たちが、あたしやスクトゥム帝国に抗う者たちに敵対的な態度を示すのは当然だ。

 それでも、もとの人間性とか、考え方によっては、このウーゴのように流されず、自分の頭で考えて判断してくれる人間がいるのではないだろうか。

 

 もちろん、これはあたしの希望だ。些細で儚く、実現可能性が見えない、ただの願望だ。


「だが。全部は、信じ、られん」

『一部でいい。わたしの言葉に僅かなりとも信憑性があると思ってくれたら、これまで信じていたこの世界に疑いを持ってくれたら、それで十分だ。よく考えておいてくれ』

「……ああ」


 心話で指示を出すと、幻惑狐たちがすぐさま走り寄ってきた。上着のひだの中にボタンで隠し止めた口を開いてやると、するりと鎧下の中へと入り込み、あたしの骨盤の上に固まって丸くなる。


『悪いがわたしはこれ以上リトスの揉め事に付き合う義理はない。気もない。これでおさらばさせてもらう。こいつらの始末は任せるぞ、門衛さん』

「わかった」

『個人的なオススメは、()()で城門の前に晒し者かな?』

「っちょ」

 

 語調を軽くしてさらっと伝えてやったとたん、ウーゴがむせた。いやまだ身動きできないと思うから、無理しなさんなって。

 それにこれ、ただの嫌がらせで言ってるじゃないんですよ。凍死の危険性にさえ気をつければ、すこぶる低コストですむ。

 それにだ。

 

(はずかし)めを与えるってのは、十分刑罰として効果があるからな。プラス、リトスに入ってくる人間には、市内で悪いことをすればこれだけ罰を受けるって見本になるわけだ。犯罪抑止効果も抜群だろう?ついでに、こいつらの醜態と、その理由であるわたしとあんたの殺人未遂って罪状が広まれば、一般市民までどん引きするわけだ』

「まあ、なあ」

『こいつらに事実無根なデタラメを吹き込んでくれた人間が、もしこいつらを手を出そうというなら――助けておいて恩を売り、再利用しようとするか、それとも始末しようとするかはわからんが――全方位白眼視の中でやらざるをえないことになる。そんな人間、目立ってしょうがないだろう?イルミネーションを全身に巻きつけた季節外れの人体クリスマスツリー並みに目立つ奇行だ。あんたとその仲間が見逃すわけはない』

「……それは、そうだ」

『さて。グイドたちの背後に隠れてるやつは、自分の正体がばれるリスクを負ってまで、こいつらに手を出そうとするかな。それとも、ばれまいとして見殺しにするか。どっちだろうな?』


 ウーゴは沈黙した。


『助けなければ、自分たち以外は殺して経験値に変えられると思い込んでるようなこいつらが、どう考えるかなー。そして刑が終わって放免されたら、どう出るかな?恨みで攻撃されたら、向こうは飼い犬に手を噛まれた、ぐらいには腹を立てるだろうなぁ。仲間割れが荒事になれば、この都市を守るみなさんがいくらでも介入できるチャンスもあろうってもんだ』

「……やっぱり、鬼だな、てめえ」


 まだ言うか。

 思わずあたしは苦笑した。

 

『まあいい、好きに呼べ。……もう一つ真面目な話をしておく。グイドたちが殺しに来たってことは、あんたを狙ってるやつは、少なくとも冒険者ギルド一つを動かせる人間だってことだ』


 ウーゴにあることないこと吹き込むのに使われたのが冒険者ギルド(笑)の連中だったということは、ウーゴの側、つまりこのリトスの司法関係の方には、手を回せていないのか。手を回していても今回は動かしてないだけなのかもしれないが、どっちにせよ、一介の門衛が相手にするには、かなり厄介な相手だろう。


『第四層から手が伸びてくることも考えて、第一層(一般市民)だけじゃなく、第三層(実力者層)第二層(富裕層)にも味方を作っといたほうがいい。最悪、無理矢理あんたごと権力で押しつぶしにくるって危険もないとは言えんからな。だがそこはお仲間さんたちに助けを求めてでもなんとかしてくれ。……死ぬなよ、ウーゴ。あんたの命はあんたのものだけじゃない。あんたが死んだら、確実に一人は死ぬ人間がいる』

「まじか」

『ああ』


 紛れもない事実ですとも。ガワの人の命はウーゴ、あんたにかかってる。


『人を死なせたくなかったら、まずあんたが死ぬな。それと、グイドたちのいう杖持ちは、()()()()()()()()()()()()使()()だ。敵に回すか味方にできるかはわからないが、覚えとけ』

「…………」

『おい。深読みすんな』


 今度はネットスラング的な意味じゃないからね?


『やつらのお(ふだ)が火の球に化けたろ?あれの数十倍は威力のあることができる人間が相手だと思え』

 

 これもマグヌス=オプスとの話から推測したことだが、スクトゥム帝国内の魔術師はかなりの確率で中身入りにはされていないらしい。

 だからといって、この世界の人間のままなら無条件で味方にできるかっていうと、そりゃ無理だろうってもんだ。地位や金、もしくはしがらみで釣られたり縛られたりしている可能性は高いとあたしは見ている。

 それでも、逆に見るならば、それは条件次第ではこちらの味方にすることができるということでもある。


「わかった」

『ではな』


 あたしは荷物を身体にきっちり縛り付けなおした。

 幸いなことに、とうに街を出るタイミングを見計らっていたこともあって、今身につけてないのは下水道作業用に使っていた木靴くらいなものだ。もともと荷物は持ち歩くのが基本だしね。

 大事な荷物はどんなに重くても身体から離すな、自分の身は自分で守れ、誰も守っちゃくれないってのは、むこうの世界で身につけたバックパッカーの心得でもある。

 

 開口部に張り続けていた黒い結界のうち、城壁の外に向いた西側のものだけ解除しても、物見台の中はそれほど明るくはならなかった。

 とうにとっぷり日は暮れている。城壁には要所要所に灯りが掲げられているが、こんな物見の塔の上まで光が届くほど強力なものじゃない。

 あたしはそのまま開口部をまたいで、物見台の外へ出た。さらに結界を駆使して塔の外側を登っていく。

 しっかし……高い物見の塔で助かったよ。

 円錐型の屋根のてっぺんにしゃがみ込み、物見台の結界をすべて解除する。

 ……ああ、ウーゴが動きだしたようだ。

 だったら、これ以上ここにいるのは本当にヤバい。

 あたしはさらに別の結界の術式を構築した。

 弾性は最大。ぎりぎりにたわめた形で顕界した結界に乗り、あたしは幻惑狐たちごと天高く跳ね飛んだ。


 スクトゥム帝国は広い。本国にある帝都レジナから、アスピス属州にあるこのリトスまでは、同じアビエス川沿いとはいえ2000ミーレペデースはあるという。通常の人の脚なら二十日はかかる距離だというから、メートル換算にしたら……だいたい600km、東京から神戸ぐらいは離れていることになるのか。

 だが、あたしはこの距離をわずか三日で移動した。

 夜にこうやって空を飛び、昼間は普通の旅人を装って、徒歩でてくてく歩く、という方法で、だ。

 移動するだけならたぶん、一晩どころか数時間でも十分だったんだろう。

 それが三日に膨れあがったのは、ひとえに幻惑狐たちの食事――というか狩り――と、あたしの情報収集に時間がかかったからだったりする。おかげで帝都付近だけでなく、さびれた隠れ里みたいな村の状況まで知ることができたわけだ。

 夜に空を飛ぶには、どうしても夜中に人目につかないような場所までこっそり移動しなけりゃならんもんで、山賊っぽいごろつきたちに襲われたり、しばき倒したりということもあったけどね。

 

 弾き飛ばされて最高点に到達し、移動速度がゼロになった瞬間にタイミングをあわせて水平に、巨大な円形の平たい結界術式を顕界、空気抵抗を稼ぐ。

 それを基点に、さらに上空に向かってスリングショット式発射を繰り返す。安定はほんの一瞬だけでいい。

 リトスまでの道中では、空を飛ぶなら少しでも高いところからスタートしようと、なるべく大きな木の梢に登ってやっていた。ある程度風があって初期高度さえ稼げれば、あとは滑空するだけでもかなりの距離が稼げるんである。

 が、時にはどうしても樹も何にもないという所もある。ハンググライダー方式に地道に二本の足の骨で走って速度を得ようにも、道が曲がりくねってたりして無理ってこともあった。

 そこで、どんな地表からも確実に上空へ飛べるようにと、グラミィのスリングショット式航法にヒントを得て考え出したのがこの手法だ。

 生身で多段打ち上げロケット花火をやってるようなものだからめちゃくちゃ恐いし、ラームスにもいろいろ協力を頼んでいるから、魔力もばかすか喰うんだけどな!

 ほんと、あたしが高所恐怖症でなくってよかったよ。

 

 繰り返し上空へ向けてスリングショットをかまし、高度を稼ぎながら、あたしは大気の流れを探した。

 グリグんに教えてもらったように、気流は色のない炎のように見える。

 だが、リトス上空に何本か見えた陽炎の道は、どれもかなり弱々しいものだった。

 つまり、風はあるが極めて弱い。

 それもしかたのないことだろう。風はいろんな差のあるところに生じるものだからだ。

 たとえば高低差。グリグんがランシア山に棲息しているのは、山肌にぶつかる風によって生じる上昇気流に乗って移動がしやすいからでもある。

 しかしリトスは平原にある。それはもうびっくりするくらいだだだっぴろい草原と三圃制らしき田園風景がランシア山の――このアスピス属州ではオムマローイ山というらしいが――麓までつながっている様子が、かなり遠くまで見通せるほどだったりする。

 たとえば温度差。むこうの世界では季節によって風の向きが変わる、いわゆる季節風というやつがあったが、あれは海と陸の比熱が異なるから生じるというのをどっかで聞いた気がする。暖められた空気は膨張し、冷やされて収縮する。それが風を生むのだとか。

 しかし帝都レジナよりも海から離れたリトス周辺には、アビエス川とその支流や、逆に川から枝分かれした小川ぐらいしかない。

 たとえば気圧差。……骨だとよくわかりませんが!

 この世界的には、その土地の含有魔力差というのも風を生む要素になるのかもしれないが、あいにくとアスピス王国時代の首都だったこともあるというリトス近辺には、人里離れた所でもないと生じないような魔力溜まりなど、おいそれとあるとも思えない。


 あたしはリトスの街全体を見渡せるほど空高く位置取ったところで、翼を顕界した。

 風の弱さを考慮して安全マージンを多く取った結果、あたしや幻惑狐たちとその他手荷物を運ぶだけにしてはやたらと大きな、それこそ以前グラミィやシカリウスを抱えて飛んだ時と同じくらい巨大なものになったが、まあそれは仕方がないだろう。

 揚力を作り出すには翼の形と気流の強さ、そして飛行速度が重要となることはもう知っている。自然の気流が頼みにできないのなら、とりあえずはこの巨大な翼で空気抵抗を作る必要がある。

 そして、そのまま弱く細いが海へ向かう陽炎の道に入り……あたしは気流を作成した。

 水を顕界して噴出するのではなく、水の流れそのものを作り出す方法については、帝都レジナまでの道中で水中翼の術式に組み込み、実際に顕界して効果を確認してきた。

 それを水ではなく大気に置き換えることで、自然の気流以外の飛行動力でも速度を得て、高度を維持しようという発想である。

 イメージ的には流れのあるプールで、浮力のある水中推進器にしがみついて、水流よりもちょっとだけ速く泳いでるようなもんか。

 どうにも恰好がつかないが、ま、まあいいや。


 リトスに残したラームスの欠片たちが、ビーコンのように相対距離と方角を教えてくれる。

 それに従って、なるべく南西に向かうように飛びながら、あたしはにょきにょきとのびてくるラームスの枝を折り取りはじめた。ラームスの枝葉を空中から落とせば、あまり気づかれないようにスクトゥム帝国内にラームスをより広範囲に撒くことができるんである。帝都レジナからリトスへの道中でもやっていたことだ。

 ちなみにこれ、ラームス自身の同意がないとできない。

 力任せに折ろうたって、生木で、しかも樹の魔物であるラームスはなかなか折れない。

 鉄には弱いそうなので、刃物だったらなんとか切れるかもしれないが、ラームスだって危害を加えられそうになったら当然抵抗する。場合によっては心話というより精神的な衝撃波みたいなものを加害者にぶつけて行動不能にしたりもするそうなので、まあ基本的には彼ら樹の魔物の伐採なんて、人間業では無理なんだろう。

 あたしが枝や葉をぽきぽきと取って結界翼の後ろに開けた小さな穴から落っことしているのは、ぱっと見無造作にやってるように見えるかもしれないが、枝や葉の付け根に折りやすい構造を作ってくれているラームス本人の協力あってのことなのだ。

 人じゃないけどね、ラームスは。


 幻惑狐たちも夜の飛行にはだいぶ慣れたので、互いにくっつき合って眠っているようだ。寝息が肋骨にかかるのが、妙にくすぐったい。

 いいけどね。起きて頑張ってるのがあたし一人とラームスだけ、なんて状態にも慣れたもんだ、さびしくなんかないやい。

 単独飛行してたむこうの世界の飛行家に比べりゃ恵まれてるんだろうし。


 ちなみに、チャールズ・リンドバーグやアメリア・イアハートといった大西洋横断単独飛行で有名な面々は、丸一日以上パイロット席に座りっぱなしで、しかもオートパイロット機構などなかったのでトイレに立つこともできず、基本垂れ流し状態だった。らしい。

 ……うん、それに比べたら確かにあたしは恵まれてるわ。

 なにせ骨ですから、トイレなんてこの世界に来てからお世話になったこともありませんし?

 せいぜいが最初に腕の骨に抱えた状態で跳ね上がったら、幻惑狐たちが盛大に漏らしてくれたくらいですし?

 なんかちょっとやな予感がしてたんで、彼らだけ結界で囲んでたからまだ被害は少なかったけれども、慌てて一度地面に降りて後始末をしながら、漏らすな危険、飛ぶ前にすませとけとお説教したこともあったっけ。

 

 そんなことを思い出しながら、幻惑狐たちの寝息をBGMに、あたしはひたすら陽炎の道を睨んでいた。

 細くかぼそかった道は、上下左右にうねりながら他の道と合流するたびに、次第に太くなり勢いを増していく。

 あたしがわざわざ気流を作り出さなくてもかなりの速度を維持できるようになってきたのはいいが、ちょっと上空に上がったときに見えた行先はというと、東に大きく蛇行しながら、ほぼ真南に向かっている。

 あたしが戻りたい海森の主の島は、南西にあるんだってば!

 内心じたばたしながら風に乗っていると、東の方から来るときに撒いてきたラームスたちの『声』が『聞こえた』。


(  )

(  )

  

 ん?んー……。

 正直、ラームスたちのいる地上付近の風と、あたしが飛んでる高度の風が同じ向き、同じ強さであるとは思えないのだが……。

 ここは、彼らを信じてみるか。

 

 しばらく行くと、ラームスたちの言うとおり、大きく突き出た滝端のように陽炎が落ち込んでいくのが見えた。気流の谷だ。ここだ!

 あたしは魔力吸収陣を二つ砕くと、気流を最大限に顕界した。

 滝壺に落ち込むような強い流れを強引に突っ切り、西へ向かう流れに……おっしゃなんとか乗れた!

 空の上では力こそパワーなのではない、スピードこそパワーなのだ。

 ……ま、速度は運動エネルギーによって産み出されるわけですから。高エネルギー状態であるスピードが出ている状態ってのがパワフルなのは当然なんだけど。


 ラームスたちにお礼を言い、枝葉を落としながらあたしはさらに西へと進んだ。

 海の風は、やはりこれまでの陸の風とは違う。結構な高低差のある丘陵地帯を覆う濁流のように、ほぼ真西へ向かう気流は強い。あたしは時にバウンドするような気流から弾き出されないように、そして方角を見失わないようにするだけでも必死になった。夜の海なんて目印はほとんどないから、すごい速さで過ぎていく海岸線だけが頼りだし。


 あたしがせわしなく結界翼の調整にいそしんでいる間に、東のラームスたちの『声』も『聞こえ』なくなってしまった。

 これ海上進んでたら完全に迷子になってたかもなー……。 

 やがて南へと気流の方角は変わった。高低差に誘われるように陸から海へと流れる風は諸島の上空へと向かい、島と島の間を蛇行しながら谷川のような速さで流れていく。


 風に運ばれるままに格闘し続け、どれくらい時間がたったのだろう。

 夜明けが近づき、東から空がほの白く明るくなるほどに弱くなっていた風は、日が昇った一瞬、はたりと絶えた。

 って、落ちる落ちる落ちる!

 

 あたしは慌てて再度気流を生み出す術式を顕界した。イメージするのは飛行機のエンジンだ。バランスを取るのに左右対称にする。

 ……気流がある限り、この羽ばたくことのできない結界翼でも、全力疾走する馬でも追いつけないくらいの速さで飛び続けることはできる。あたしの魔力が続く限りは。

 だが、眼下がすべて海という状態って、けっこうな恐怖だ。不時着ができないと思えばなおのこと。


 いやね、万が一にでも墜落しても、たしかにあたしなら結界構築して海面に浮いてられるのよ。

 けれども陸地と違って、海面はどれだけ結界を引いても基点としては不安定だ。スリングショット方式で飛び立とうにも高度が稼ぎづらい。再び空に上がるのはかなりの骨だ。骨なあたしが言うのもなんだけど。

 わたわたしているうちに、横から風に殴り倒されたらそれでドボンな上、ほんとに魔力が尽きたら幻惑狐たちもろとも海の藻屑決定ですよ。

 魔力吸収陣はもう全部使い切った。あたし自身の魔力量はまだ大丈夫とはいえ、消費魔力はなるべく節約したいもんである。


 眼窩をかっぴらいてあたしは陽炎の道を探したが、ようやく戻った風もあたしに揚力を与えてくれる上昇気流は少ない。というか下降気流だらけだ。

 そんなもんに乗ろうとするなら、ヘタすれば胴体着陸しかねない海面すれすれを飛ぶしかないのだが……。

 

 困り果ててあたしはあたりを見回した。

 海の空は視界を遮るものがない上に、海面が太陽の光を反射するため、あっというまに真昼と同じくらいにまで明るくなっていた。モノトーンの点が散在しているのがわかるほどにって、……あれ、海鳥の群れか。

 反射的に心話が聞こえないかと比喩的な意味で耳を澄ませたが、ほんとにただの鳥のようで、グリグんのような意思の疎通はできそうになかった。

 だが、まあそれはいい。

 問題は、彼らが細長い翼を羽ばたかないまま、ずっと飛び続けていることだ。

 まさか、強い上昇気流がなくても、海鳥たちは飛び続けていられるんだろうか?

 ……今のあたしの飛び方はグリグから教えてもらったものだ。つまり、山風には山風の、海風には海風を利用する飛び方があるのかもしれない。


 大きく上下左右に蛇行を繰り返す鳥たちの飛行を観察するうちに、その動きのルーティンがわかってきた。

 水面すれすれに近づいてきたところで翼の角度を変え、当たる風の向きを大きくして揚力をさらに産み出す。

 風に押されて後退しても気にせず、たかだかと上昇したところで、今度はゆっくりと風の向きに合わせる。

 完全に追い風になったところで、再び海面めがけて降下する!

 下降気流の中での逆落とし状態にはそのまんま海につっこむ気かとひやひやしたが、急激に高度を失ったぶん、落下する運動エネルギーがスピードに変換される。

 海面すれすれのトップスピードに乗ったところで、最初に戻る、と。

 

 新しいことをするなら、余力のあるときでないと後始末に困ることになる。

 おそるおそるだが、あたしは彼らの動きを真似することにした。

 いくら気流の術式で高度を上げられる自信があるとはいえ、海面ダイブに近い角度でつっこんだ時には、ない心臓ばっくばくもんだったけど。


 ……なるほど、自分でやってみてようやくわかった。要は位置エネルギーと運動エネルギーの相互変換を繰り返しているわけか。なんというセルフジェットコースター。遊んでるんじゃないんだけどね。

 もちろん、エネルギーは次第に減少するのだが、それを補うのが風というわけだ。


 これのすごいところは、もちろん風が強いほうがスピードが出ていいのだが、ほとんど風がない状態でも、海面ダイブで速度さえ出せれば延々と飛び続けることができるということだ。

 ちょっと翼に角度をつけたらこれがもう、ジェットコースターというより瞬間風速的には自力新幹線なスピード感というね。

 そのぶん操作にはかなり神経を使う。ないはずの内臓がスピードの変化に不安定さを訴える。

 だが、それにもちょっとずつ慣れてきたときだった。 


(におう)


 もぞりとフームスが襟の所から顔を出した。

 起きたのか。なにが匂うって?

 

(おおきいみずたまり)


 感覚共有してくれるのは、潮の匂いか。

 

(そらとぶにくー)


 ……ゑ?


(にく?)

(にく)

(ねらう?)


 ちょっと待ちなさいあんたら。全員食欲に釣られて出てくるんじゃありません!

 てゆーかそもそも、さんざんリトスで食べ溜めしてきてるでしょうが!

 

 ……だが待てよ。

 とうに太陽は南の空に高く、頭蓋骨の影を追いかけるようにあたしは飛んでいる。

 つまり、リトスを出発してからとうに半日以上たってしまったわけだ。そりゃまあ幻惑狐たちも小腹がすいてきていて当然か。

 それに、新鮮な肉は海に出てしまうと確かに貴重品だ。新鮮な魚は手に入るんだけども、必須栄養素とかあるんだろうし。

 ふむ。

 

(ねらう)

(みんなで)

 

 こちらの殺る気に気づいたのか、海鳥の群れは急に翼をバンクさせた。

 だがすまん、相対距離も相対速度もゼロに近いのが悪い。


 始めにしかけたのはカロルだった。とはいえ彼も、結界翼のなかでじたばた動いてバランスを崩すのがヤバいことぐらいは理解してくれている。

 結界越しに土を操り、カッター替刃のような短い刃物を生成、射出しようとしたのはわかったのだが。

 

(みじかい……)

 

 ……いやまあ、君らが操れる土がこんな空中にあるかっていうと、よっぽど細かな粒子でもないと無理だもんね。届かなくてもしょうがないさ。

 でもあたしの結界なら届くなこれ。ただし刃ではない。

 

 あたしはラームスに結界翼の維持を依頼しておいて、手近な鳥たちの胴体を輪の形にした結界でがしっと捕獲した。

 鳥たちはパニックを起こし、盛大にばさばさと羽ばたいたが、おかげであたしの結界の移動速度も上昇し、群れに遅れずについていくことができる。なんという無限循環。

 数十羽という群れをあらかた捕獲した時点で、あたしは気流を作り出すのを止めた。だって凄まじい速度なんだもん。

 ……なんかここまで世話になっといて、群れ全部を狩り尽くすってのもあかんやろという気分になってきちゃったよ。


(  )


 いつの間にやら太陽が西へと傾きかけたころ、ラームスが反応した。

 浮森要員にと、行きの船から撒いたラームスの欠片たちの存在を感知したという。

 ……ということは、ああ。なるほど、海森はそこか。


 あたしは海鳥の群れの大部分を解放した。幻惑狐たちの不平不満は気にしない!

 だって速度を緩めないとあっという間に飛び過ぎちゃいそうなんだもん。

 眼窩を細めた気分で見つめると船が二艘入り江に見えた。

 ということは。


 おーい、グラミィ。聞こえるー?


(!ボニーさん!ど、どうやって帰ってきたんですか?!)


 んー、泡食って空飛んできたー。

 とりあえず、海森の主に挨拶してから戻るわ。


(……ってまたボニーさんてば……。ああそうだ)


 ん?なになに?


(お帰りなさい、ボニーさん)


 ……おう。ただいま。

空へ跳ね上がる骨っ子は、最初輪ゴムで飛ばすグライダーなイメージだったんですが。

……だんだんと水中を縦移動するクラゲに化けてきたのは内緒です。

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