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髪があるのはダテじゃない

文中に「魔術士」と「魔術師」、表記が混在しているのはなぜかという質問をいただきましたのでお答えします。

「魔術士」=魔術を学び、その術をもって国などに仕えている者

「魔術師」=魔術を探求する者

という使い分けをしています。

 どうやら、この世界では、髪の毛というのはマナと呼ばれる魔力を貯めておけるものらしい。

 だから魔術師たちは髪を伸ばすし、女性の方が魔術師としては大成しやすいんだ、そうな。

 ベネットねいさんがさしたる名家というわけでもないのに魔術士隊を率いていたのもそのためだとか。

 ……男性だとハゲるから。

 と、なぜかおとなしくなった魔術士くんたちが教えてくれました。


〔そのリーダー本人をスキンヘッド仕上げにしちゃったボニーさんが、なぜか、とか言います?〕


 しょーがないじゃん、不可抗力不可抗力。

 ……まあ、ちょいとやり過ぎたかなーと思わなくはないよ?

 でも、あそこまで敵対心むき出しでかかってこられたら、魔力は持たせない方がいいでしょ。

 結果論だけど。

 うちら二人だけじゃなく明らかに味方だったっぽい騎士隊まで自爆な勢いで敵に回してくれてるんですもの。

 反撃一発くらわせただけで、ローブ集団がおとなしくなってくれたのは予想外のいいオマケだったけど。


 ちなみに、ランシア山へと向かう道中も、基本的にあたしとグラミィは馬車で移動している。騎士隊は当然騎馬だが、魔術士隊は徒歩のまま。

 強制してるんじゃないよ?

 魔力切れを起こさないためには体力が必要だとか、誰かさんがてきとー言っちゃたら真に受けて一生懸命歩いてるだけだから。

 どっちがひどいことしてるんだか。ねえ。


 ……目をそらすなグラミィ。


 これまでのコミュニケーションでよくわかったが、魔術士隊の面々はある意味真面目すぎるのだ。

 というか、上位者に逆らうという発想がないんだろうか。

 どこぞのサル山のサルかとつっこみたい。上位から転落したら集団でぼこぼこにしてるあたりの印象がいっそうそれっぽいだもの。


 とはいえ、ここまで従順になってくれるなら、いっそのこと何人かギリアムくんの両手役に置いてくればよかったかなーと思わなくもなくもない。

 あーでも、交渉は居丈高な態度で相手を怒らせるところしか想像できんな。

 ギリアムくんのシモの世話……やがりそうだな。


〔あたしだって、そんなことしてませんよ!〕


 うん、グラミィはお気遣いしかしてなかった。

 火膨れの上から包帯ぐるぐる巻き状態の手でも自力で食べられるように、サンドイッチ系のものとか、あと串に刺してある焼き肉とかをさりげなく頼んでやってただけだ。

 着替えとかその他もろもろは騎士隊の面々が手伝ってあげたんだろう。詳しいことは知らないし知りたくもないけど。

 ローブ集団の面々はそこまで気が回りそうにないし、回してやりそうにもないもんね。やっぱり置いてこなくて正解だったか。


 もちろん、いきなりそうそう全面服従って感じになったわけじゃない。

 馬車は四人乗りなので、魔術士隊の面々をかわるがわる二人ずつ馬車の中にご招待しているのだが。


「なんぞおもしろい話でもないかの。道中、この婆の無聊を慰めてくれんかのう」と、丁重に頼んでみたグラミィに対し。

 あの、真っ先につっかかってきたローブA君なぞは、また激烈に反応したもんだ。

 語ることなどない、とかってつっぱねるくらいならまだいい。

 積み込んであった杖に飛びつくと、またもや火球を顕界させようとしたのだ。

 馬車の中で。


 アホか。


 うん、アホだね。

 アホとしか言いようがない。


 あの自爆的な顔面強打でも懲りないだけならまだしも、馬車の中で火球なんぞ出したら、自分も巻き込むから危険だとかも考えられんのかしらん。

 しょうがないから、発動は強制的に止めさせてもらった。

 詠唱の動作がでかすぎて、がっつんがっつん杖をあっちこっちにぶっつけまくってる間に術式をねじ曲げてね。


 どうやら術式というのは、構築する術者の熟練度によって強度が変わるらしい。

 まー強固なもんでも、ベネットねいさんの術式くらいの強度ならば、発動前に魔力に還元しちゃえるのは実践済みだ。

 ので、あまりあたしにゃ関係はないと思ってたんだが。

 今回は、術式がめっさ脆かったので、破壊ついでにそのまま魔力を外に流すパイプ部分だけ残すことにしてみた。魔力を直接吸収しやすいように。

 ちゅーっとね。

 生魔力おいしいです。


〔MPドレインが目的だったんですか?〕


 いやいやいや。他人の体内にある魔力が操作しづらいってのは、治癒の術式の説明で聞いたことだったから。

 だったら、魔法操作のために自発的に外に出してるときに、もらえば簡単だよねって思いつきの検証。

 実際にできるかどうかは半々だったけど。


 詠唱の物音と魔力を吸われる恐怖の野太い絶叫には何事かと思われたらしい。

 カシアスのおっちゃんまで覗き込んできたけど、グラミィの「血の気の多い若い者におしおき」の一言で、すごいイイ笑顔になってからはほっといてくれた。

「ほどほどに」とか口では言ってたけどさ、当のおっちゃんだってけっこうえげつないことしてるんだもんねー。


 だってさ、フェーリアイの街に入る前からずっと、ベネットねいさんをフードを外した状態で両手を縛って馬に乗っけてんだよ?

 スキンヘッドからほんのり丸刈り状態にまで髪の毛は伸びてきたけど、どう考えても魔力封じした魔術士隊長が犯罪人ですありがとうございました、引き回しの刑現在進行中、だよね、これ。

 それを背後から監視する騎士隊長の姿。

 力関係は一目瞭然、あたしにやり過ぎだのなんだの言っておいて、これかよって感じ。


 ベネットねいさんの扱いに加えて、みるみる顔が土気色になった上に白目剝いたローブA君の姿におののいた同僚さんたちが、やたら協力的になったのは、別に狙ってやったわけじゃない。

 ほんとだってば。

 まーおかげでその後はぺらぺらとよく喋ってくれること。


 ちなみに、振動で舌を噛みそうな馬車の中で喋り続けさせてるのは、別に拷問ではない。

 目的は情報収集だ。

 なにせあたしたちはいまだに何を知らないのかも知らない状態だ。とりあえず浅くても広くこの世界の常識を知る必要がある。

 そんな中で髪の毛の話が出てきたわけだが、グラミィ、下手にショートヘアにしなくてよかったね。


〔でも、なんで髪の毛が魔力タンクになるんでしょうねー。ラノベとかだと血が魔力のイメージになったりとかしてますよね?〕


 それは確かに。

 だけど、あたしが見る限り、魔力があるのは生物に限ったことじゃない。人工物にも無機物にだって魔力は籠もっている。魔術士たちの杖だってそうだし、それこそ地面の石にだって含まれている。

 なら、人体の一部であっても、血流のないような、あまり生命維持に関係のないところに魔力がたまってたっておかしくないんじゃないのかな。

 髪の毛がそうなら、皮膚の角質層とか。爪とか。歯とか骨とか。


 骨かぁ……つまり今のあたしは、全身これ生身よりも純度の高い魔力の塊みたいなものと言えるのかもしれんなぁ。


〔うわー、今すごい納得しちゃいましたー〕


 ……そこで納得されてもせつないものがあるんだけどね。

 

 さて、問題は魔術士隊の人たちである。

 掌返し終了したら、グラミィの質問にも素直になってくれたのはありがたい、はずなんだけどなー。

 どうにもこうにも素直に喜べないのよね。

 その理由は、トップだったはずのベネットねぃさんの悪口の噴出にある。


 グラミィが騎士隊側に立ってるように見えるから、険悪なムードを出してた人間を口を極めて罵れば、こっちの機嫌取りになるとでも思ってんのかね。

 そう考えているとしたら、こいつらのアホは確定だ。

 暴走とはいえ、ローブA君の敵討ち的スタンスなベネットねいさんを、仲間のくせに止めようともしなかったんだから。


 え?仲間じゃない?


……ベネットねいさん、日頃から意外と仲間もとい部下のみなさんに嫌われてました。


 彼らの価値観では、魔術士であることにプライドを持って騎士を見下しにかかるのは、別に問題ではないらしい。

 だから、騎士隊を『黙らせようとした』ことにはあまり違和感を持ってないようだ。

 けれど、ねいさんは下級貴族が多い魔術士の中で、平民だというだけで蔑まれていたこともあったらしい。

 ところが、その地位の不利にもかかわらず、魔術士隊でもリーダーを任せられていた。

 若くして魔力の扱いに長けていて、魔力が強い、優秀な人材。

 そりゃ嫉まれるわ。


 ちなみに、ローブA君が強硬だったのはベネットねいさんの血縁者だからという理由もあるようだ。

 つまり、彼も平民。

 そりゃあ貴族だらけの潜在的敵対環境の中じゃベネットねいさんに懐きもするし、ねいさんも庇いもするわな。

 それも口の軽くなった彼らにすれば『ちょっと思い上がった平民とその腰巾着が状況もわきまえず大魔術師様とそのお連れに無礼を働いた』ってことになるんだもんなー。


 あまりのことに呆れていたら、思った反応ではないので別方向から持ち上げようというのか、やたらと『ヘイゼル様』について褒めたたえはじめた。

 どんなことが大魔術師様に言われているかって?


 いわく、別地方に光とともに降臨された天の使いだった。

 いわく、その地方における時の王がその美貌と力の強さゆえに我が物にせんとしたが、その魔手を逃れて神槍ランシアをめざし、時の王の子でありながらヘイゼルに味方することを選んだ一人の騎士とともにランシア地方に逃げ込んだ。

 いわく、追っ手がランシア山を越えたとみるや、一人で撃破した。

 で、彼女たちを庇護というか抱え込んだのが賢明なる先々代のランシアインペトゥス王と。


 説明してくれるのはいいんだが、形容が続くのにはうんざりする。いちいち『賢くも麗しき金と銀を纏いしヘイゼル様は~』とか、どんどん長くなってくるんだもの。

 戦略的兵器レベルにやべえヘイゼル様を抱え込んだ俺たちの国スゲエテンションで説明されるのも、へーほーふーんと聞いていたが。グラミィの顔がすっぱくなること。


〔ないわーまじでないわー〕


 ……脳味噌逝きかけてないでしょうね?

 まあどこの神様かって感じに美化されまくったヘイゼル様になりすまさなきゃいけないんだから、大変は大変か。

 ごくろうだね。

 しかし何がないんだろうね。

 夢とか逆ハーシチュとかたわけたことを言ったらどつくけど。


 しかし、神槍ランシア、か。


 心話の応用によるものなのか、いまだにあたしには『よくわかんない言語』が音として、言葉に載せられた『意味』が副音声状態で聞こえている。

 これまでカタカナで認識していたのはカシアスのおっちゃんなどの名前だった。

 だから、ランシアも山や地方の名前、つまり固有名詞として考えていたんだけど。

 これ、言語そのものを最初から理解できていたなら、これまで固有名詞として捉えていたものも日本語ですべて認識してたんだろうか。

 ランシア山は『槍ヶ岳』とか。ランシア地方が『神槍地方』とか。


〔なんか気分的に日本国内ローカルな旅になっちゃうから、そーいうのやめましょうよー〕


 ……なるほど、日本語にしてしまうと、旧知の情報がいろいろとひっからまってくるものなのか。

 意外とカタカナ名前になってるということにも意味があるのかもしれない。

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