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閑話 甲板の下でも根回し

本日も拙作をお読み頂きましてありがとうございます。

前回に続き、グラミィ視点でのやりとりです。

〔やだなあ。あたしゃ何もアルガを魔力(マナ)タンク扱いする気はないんですじょ?〕

 

 かすかに笑う気配を含んだボニーさんの心話に、あたしはどう反応していいか迷った。

 ちゅーちゅーエナジードレインをする魔力タンク扱いもひどいとは思うけどさ。あっち方面は是非とも止めてさしあげたい。


〔あっちってどっちよ〕

 

 いや、こき使うっていうから。こう、ボニーさんが鞭持ってアルガさん追い回す的な、肉体労働がっちがちな苦役系の?


〔……ヲイ〕


 あ、ボニーさんが呆れてる。

 

〔アルボーでアルガの体力も魔力も貧弱だってことはよくわかったからねー。もっともあれは魔晶(マナイト)とかでブーストできることを隠蔽しての素の状態でのことだったし、今のアルガなら身体強化覚えてもらったから少しは肉体労働的にもマシかもしれないけどー。でも適材適所って言葉があるでしょが、アルガを酷使するなら別方向だ〕

『わたしがそなたに望むは、道中での折衝役だ』

「……あ、なるほど。そういうことでしたか」

 

 石板の水文字を見て、アルガさんも納得した。てか露骨にほっとしてますね。あたしもほっとしたけど。


〔そーんな非効率なことするわけないでしょ、このあたしが〕


 きっぱり断言されて、……ものすごくよく納得できましたハイ。

 逆に、ボニーさんは納得してないみたいだけど。

 

〔あのさぁ。このやりとりでアルガがほっとすんのはまだわかんのよ?今のところ、あたしが見せた信頼に自分の価値は釣り合わない。だけどもあたしが何かしら自分を役立てようとするということは、そこで価値があるとこを見せれば、今の評価は覆される〕


 あ、ハイ。


〔ひょっとしたら、今度こそあたしが手を貸すほどの再評価につなげられるんじゃないかという望みもある。でもそれをエサに能力以上の仕事を投げられて失敗するのも、潰されるのもまっぴらだって心配もあった。けど、ふられた仕事は『小さいけれど難易度低め。でもランシアインペトゥルス王国の人間よりアルガの方が地の利があるからやってもらう』ものだったんで、その心配もなくなったわけだから〕


 まあ、でしょうねぇ。


〔だけどさー、こうもムダにアルガとグラミィがシンクロするってなにさ。あたしをいったいなんだと思ってんのか小一時間は問い詰めてみたくなるんだけど?!〕


 拗ねないでくださいよー。ボニーさんのことは骨だと思ってますよ、あたしはー。


〔ちょっと待てええええおおおおい!〕

 

 盛大な抗議をよけといて、あたしはよっこらしょっと立ち上がった。

 

「グラミィさま。どちらへ?アルガめへの対策を立てねば」


 エミサリウスさんが真顔で心配してくれたけど、超遅い。


「それならば、御本人が既に対応なされたそうにございます」

「……は?」


 ボニーさんがしたことを説明すると、トゥオルクスさんはさもありなんと頷き、男性二人は唖然としていた。


「じゃから、あのお方はそのようなお方ですと、申し上げましたでしょうに」


 攻撃というのは一番隙を曝す体勢だから、カウンターは即座に打て、むしろ向こうがやらかす瞬間にしかけろとかいう人ですよボニーさんは。

 余計な心配する方が疲れるって。だから深く考えちゃボニーさんとは付き合えない。

 もっとこう、そういうものだってさらっと流さないと。いちいち考え込んでたら自分を見失っちゃうよ?

 

〔……ほー。言ってくれるじゃないの〕

 

 あ゛。まだ心話切ってなかった。


〔まあ、あんたは自分を見失うなんてことはなさげだから安心しとくけど〕


 不幸中の幸いってやつですか!


〔どっちかって言うと怪我の功名!まったくいい性格だよね、あんたも〕


 うわーん。ボニーさんがー。

 あまりにも、あまりにも。


〔あまりにもどうした?〕


 ……いつも通りですよー。


〔そのとーり。わかってんじゃん〕


 そんなあほなやりとりを、あたしとボニーさんが心話でやってるとは思いもしないだろう同行者のみなさんに見えるように、あたしは少し大きめのティーポット型に顕界した壺を長櫃の上に置いた。 

 

「エミサリウスどの、トゥオルクスどの。薬草茶を煎じておきましてございます」

「……茶、ですと?」

 

 そうですよー。

 なにもタクススさんからいろいろ教えてもらってたのはボニーさんだけじゃないのだ。

 あたしにも薬草の効能や扱い方についての知識を教えてくれただけじゃなく、タクススさんは何種類もの薬草もたっぷりと包んでくれた。

 それで酔い止めもどきというか、気分が悪い時用のお茶を作っただけです。

 水や煎じる道具や熱源は自前の魔術で顕界したからって、そんなに驚かないでくださいってエミサリウスさん。


「こりゃあ香りがいいもんですな。このまま香りを立ち上らせておくだけでも、悪い空気を払うのによさそうだ」

 

 鼻をひこひこさせてたトゥオルクスさんが笑顔になった。ちょっとミントにレモングラスを足したような香りなんだよね、これ。

 

「口の中や胸がすっきりといたしましょう。クランクさまはいま少しお心持ちの悪しきご様子。どうかお吐きになったぶん、この茶でなくとも、一口ずつでもけっこうです、飲み物をお飲みになりますように。方々もどうぞ、よろしきようにおつとめくだされ」


 水の下だけあってそんなに暑くもないけど、脱水状態はよろしくないもんね。

 クランクさんはちょっと目を見開いたようだったけど、船室を出る間際だったからよくわからない。

 

 さて、甲板の下でも、も少しいろいろやっておこうじゃありませんか。


〔そのへんはよろしくー〕

 

 りょーかいです。

 

 もう二つ、小さな壺というか石造りの水筒に薬草茶を入れたのを持ったあたしは、背をかがめてそろそろと歩いた。

 この状態のあたしですら頭をぶつけそうになるのだ、どんだけ天井が低いんだろう。おまけに船底に内張がないので、足元はかなり悪い。

 

 なんでこんなに居住性が悪いかっていうと、基本的に船の中で寝泊まりする習慣がないからなんじゃないか、というのはボニーさんの推測だった。

 羅針盤とかもあるのかよくわからないこんな船では、いくら岸伝いとはいえ、夜に航海を続けるのは難しいだろう。

 なら、夜はよその国であろうがなかろうが、基本的に陸に上がって寝た方がまだ安全なんじゃないかなと。


〔あくまでも推測だからねー〕


 わかってますー。あたしもあんまり信じてないですからー。

 ボニーさんはよくヨタ話を言いますしねー。


〔……それはそれでかなしいものがあるぞ……〕

 

 さらに奥へと進む。昇降口から入っていた光は、あたし自身の背中で蓋をしちゃっているようなものだから、さすがにもうこの辺りには届かない。しかも揺れて周囲が火事になるとか怖すぎるから、火を灯したりすることもできない。そもそも、この姿勢じゃ、燭台どころかランタンみたいなものだって、持って歩くのも一苦労だもん。

 こんな暗いところを灯りもなく歩けるって魔力知覚は偉大だ。


 ……といっても、ボニーさんの知覚はやっぱりどっか変なんだと思う。

 あたしの目では、どう頑張っても薄暗がりで見ているようなもので、そのへんの木箱の形や大きさはわかっても色はわからない。というかグレートーンな赤外線カメラっぽいイメージなんだよね。

 なのにボニーさんてば、暗闇でも正確に太陽光の下で見たレベルの色彩まで知覚できてる。

 心話で送られてきた真夜中のベーブラ港とか、星は綺麗だけど周りの漁網とかの色はくっきりしているという不思議映像だったもの。

 ……てか、そもそもの疑問なんだけど、魔力って色まで知覚できるもんなんですか?なんで?!

 

〔と言われてもなあ。見えるもんは見えるとしか言いようがない〕


 これもボニーさんの心話がなんというか、みっちり情報が詰まってることに関係してるのかなあ。

 

 ……そういえば、ヴィーリさんとの心話は、ボニーさんみたく饒舌というか、みっちみちぱんぱんって感じを受けたことがない。

 あたしと話す時に心話をあまり使わないということもあるんだろうけれども、なんというか、こう、……無口な印象?

 そう、情報量がものすごく少ないんだ。文章レベル。

 

 ボニーさんは、森になったペルさんや、ラームスから心話で伝わってくる情報量はめちゃくちゃ多いって言っていたけど、ホワイトノイズというか、木々の葉擦れみたいなものだって言ってたっけ。

 それって、情報の内容がボニーさんに透けないように、何か森精さんたちの方で対策してるからなのか。


〔それとも、あたしとグラミィの同調率が高すぎて、いらん情報まで筒抜けになってんのか……〕

 

 あ、珍しくボニーさんが悩んでる。

 それはいいんですけど、アルガさんが心配そうに見てますよー。


 船倉を歩いてというか這いつくばって、あたしがどこへ行こうとしてるかというと……、船乗りさんたちと三人組の船室だったりする。

 同行者組の船室とは昇降口を挟んで反対の、今は船尾側にある船乗りさんたちの船室は、今通ってきた船倉同様に、船材がそのままむき出しになっていたり、ちょっと斜めっていたりもする。

 そのぶん同行者組の船室より広いんだけど。


「具合はどうじゃな?」


 婆口調で声をかけると、甲板の裏側でもある天井板に貼りつくように張ってあるハンモックから、数人の船乗りさんたちがもそもそと顔をのぞかせた。

 

 刺青の一件もあって、ベーブラを出港するときにはもう、船乗りさんの中にも、体調のよろしくない人が数人いた。

 船足より無理しない方が大事というボニーさんの意見をあたしが伝えたことで、具合の悪い人はしっかりと休養を取ってもらいながら進むことになっている。

……刺青が落ち着くまで待ってから出航してもよかったんじゃないかなあ。操船に必要な人数は十分甲板に出てるみたいですし、今さらだけど。


〔いろいろ事情があったからねぇ……〕


 いや別に無理に聞く気はないです。

 いつも用意周到、というか事前の備えはいつの間にかきっちり仕上げてるボニーさんにしちゃ珍しいな、と思っただけで。


 ちなみにあたしが彼らに持ってきた薬草茶、というか煎じ薬は、熱冷ましと痛み止め効果のあるもの。

 これを配りながら、彼ら経由でアルガさんへのカウンターを入れようかなと。

 といっても、あたしができることはたいしたことじゃない。

 全員の命を救おうとあれこれやってくれたのも、今もゆるゆるに扱ってもらえてるのも、全部ボニーさんのおかげです、ってホントのことを言うだけの簡単なサクラです。

 ホントのことでも、ちゃんと言わないと伝わらないし、言い続けないと忘れ去られるものだとはボニーさんの言葉だけど。


 一方、甲板でもアルガさんへの尋問は進んでいた。

 道中での折衝役といっても、ランシアインペトゥルス王国として表に出てもらうのはクランクさんだというのは、わりと同行者の中でも全員一致したことだった。

 貴族としても子爵というのはそんなに高い身分ではないけれど、血筋がものを言うんだとか。

 あたしにはよくわかんないことだったけれども、ボニーさんは顔というか頭蓋骨だもんね。表に出るのもちょっとね、考えものです。

 なので、ボニーさんが頼もうとしてるのは、たぶん、そういう国と国との問題じゃないのかな。


〔ちゅーかね、アルガには個人的なお使いをお願いしようかなと思って〕


 お使い? 


『ゲラーデに所縁(ゆかり)は?』

「なきゃそうそう名乗れやしません」

 

 言い切るアルガさんは、真顔のままだった。

 あれこれボニーさんが問いかけてたグラディウス地方についての質問にも、自分の出自についての問いにも、驚くほどきちんきちんと答えている。

 ……えーと、これ、ほんとにアルガさんですよね?入れ替えられたりしてませんか、中の人とか。


〔それはないと思うよ〕


 ボニーさんが大丈夫というなら、大丈夫なんでしょうけど。


 アルガさんは、グラディウスファーリーの国の中でも、辺境というか鄙びた地方、それもお隣の島国シーディスパタに直近の、小さな漁村の生まれだそうな。

 はいはいを覚える前に赤ん坊は泳ぎを覚える、というのは表現としてもかなり大げさだと思うけど、歩き方を覚えた子どもなら小舟の一つや二つ扱えなくてどうするか、という船乗りたちの中で育ったんだとか。

 どおりで船の中の歩き方が堂に入っているわけだ。

 波でゆるく上下している船の上、同行者のみなさんがへっぴり腰でよろよろしているのを横目に、アルガさんてば船乗りさんたちなみにすたすた歩き回ってたもんねー。

 

 ちなみに、以前泳げないふりをしてたのは嘘なんだとか。

 まあ真冬の海に放り込まれたら泳ぐより前に凍え死にしてましたでしょうから、結果的には嘘にはならなかったでしょうがと、いたって普通の顔で言ってのけるあたり、アルガさんもどうかと思う。

 

 そんなアルガさんは、海の向こうに見えるはゲラーデ、という場所で育ったせいもあって、子どもの時は国境というのが本当にあまり関係なく、しょっちゅうシーディスパタの方へも遊びに行ってたんだそうな。

 というか、さんざん遊び回ったから土地勘もあるというのはどうなのかなあ。

 船乗りさん同士仲が良くてよかったねというか、ゆるゆるすぎてどうかと思うんですけど!

 

〔まー、海に出てしまえば頼れるのは人間同士だからねぇ……。遭難しかけてたら、助け合うのにいちいち異国人だのどうのと言ってらんないのかもしんないね。子ども相手には警戒も緩んだのかもしれないし〕


 にしても、前にちょっと聞いた限りでは、かなりプライド高くてカリカリしてそうなグラディウスファーリーのお国柄にしてはずいぶんと、のどかというかおおらかというか……。


〔お国柄より土地柄ということかな。ま、あたしにゃ都合がいいけどね〕


 さらりと言い切ると、ボニーさんは水文字を石板に書き付けた。


『ならば、そなたに、ゲラーデでひとつ使いを頼みたい』

「内容によりますが」

『遺品と、今際のきわの言葉を遺族へ届けてもらいたい』

「それは」


 アルガさんは真面目な顔のまま、ボニーさんの仮面を見上げて首を傾げた。

 

「亡くなった方より遺言をお預かりしたのは、シルウェステルさま御自身で?」

『いかにも』

「……なのに、直々にお伝えにはなられぬおつもりで?」

〔この反応、あたしの独断専行が過ぎる行動パターンを見切ってるからなのか、それともシルウェステル・ランシピウス名誉導師って人間の身分とか立ち位置とかをよくわかってないからなのか。どっちだと思う?〕


 どっちなんでしょうねー。あたしに聞かれてもわかりませんよ。貴族の権威とか身分差ってめんどくさそうとしか見えないんですけどー。

 ……てゆーか、ボニーさんって、独断専行が過ぎるって自覚あったんですねー。

 

〔う……〕


 ボニーさんがつまった様子が伝わってきて、あたしは思わず口元を緩めた。

 一応あたしだって心配はするので。自覚があるならもうちょっとなんとかしてくださいよ。自分の行動を。


〔ええい、それは置いといて。そもそも、あたしが行ったって、顔も見せない、代弁者の口を通じてしか言葉を伝えない、そんなうさんくさい相手に伝言とか届けられても、普通信じちゃくれんでしょうよ。まして、家族や身内の死なんて信じたくないものは。それに〕

 

『海神マリアムの眷属とでも思われるのは困る』


 ボニーさんが綴った水文字に、アルガさんは眉根を下げた。

 

〔どんなに彼を返せ戻せと言われても、できないものはできない。あたしに冥界の神(マリアム)の加護なんてもんはないのは、あたし自身がよく知ってるからねえ……〕


 それは……うん、納得しました。

 で、そのお届け物って。


「……あいわかりましてございます。ところで、その遺品などはどちらへお届けすればよろしいのでしょうか?」

『詳しいことはわからぬ』

「とおっしゃられても。それではわたくしもどうしようもございません。なにかしら手がかりを頂戴できませんか」

『彼は船乗りだった。名はプーギオ』


 ……やっぱりですか、ボニーさん。

 

 ゲラーデのプーギオという人の名前は、ボニーさんから聞いたことがあった。

 操船してる船乗りさんたちは、全員異世界人の人格を――ボニーさんの推測によれば、記憶の一部や思考パターンだけのデッドコピーを――放り込まれて、その形代にされていた。

 一番最初に尋問する際、中の人の死に戻りに巻き込まれて、転移術式の贄に血肉まで消費されてしまった、その人の名前だ。

 ボニーさんは、この世界の人間である彼を救えなかったことを、ずっと悔やんでいた。

 だけど、それを知らないはずのアルガさんまで、動きが止まってるって。

 

〔なに。なんかまずい相手なのかね〕


 ボニーさんにわからないことがあたしにわかるわけないですよ!


 心話での言い合いを止めたのは、喉に引っかかったようなアルガさんの声だった。


「……ランシアの方にはご存じのないことなのでございましょうか」


 えーと?

 ボニーさんも疑問符を飛ばしてる様子が伝わってくる。

 

「プーギオと名乗られた者は、おそらくゲラーデでも船主の一族、それもかなり名の知れた者でしょう」

 

 ふなぬし?


「短剣の名乗りはごく許された人間にしかできません」

『詳しく。説明を頼む』

〔グラミィ、そっちでも〕


 わかってますって。

 情報源は複数あった方が正確性を期待できる、でしょ?

 

 あたしも茶のおかわりを要求する船乗りさんたち、とりわけゲラーデかその近くの出身の人に、船主とは何かを聞いてみた。

 あ、化膿止めはセルフで塗ってくださいー。いちいち胸当て外して塗ってあげるわけがないじゃないですか。


 ……簡単にその結果をまとめると、船主というのは網元――豪農じゃなくて豪漁の庄屋さんみたいなものだろうか――というより、バイキングの首領的なものなのかな。

 いくつも船を持っていて、漁での行先などを決めたりもするとか。

 

〔交易とか海賊行為もしてそうって思うのは偏見かなぁ〕


 ボニーさんがぼそっと心話で呟いた。だけどちらっと見えた海賊王とかいう称号はなんなんだろう。

  

 話を戻すと、プーギオというのは、短剣の一種を意味する言葉なんだそう。

 そんな風に短剣を名前として名乗るというのは、簡単に言うと次期首領と見なされた人であるというのが、シーディスパタの有力豪族のいくつかに伝わる風習なんだとか。

 正式に首領になると今度は剣の名乗りというものを名乗るらしい。なんだろうその襲名制度。


 ……でも、ってことは……。

 

〔思ったよりも(プーギオ)は、大物だったらしいね。……けれども、そんな人でも『運営』は使い捨ての駒の部品ぐらいにしか思っていなかった。これがどういうことか、グラミィわかる?〕


 この世界の人たちにとって重要な存在であっても、簡単にスクトゥム帝国関係者は殺してしまう、ってことですよね?

 その結果、この世界の国と国が、村と村が、どんなに関係を破壊されても。


〔だね。やっぱり、『運営』は許せそうにないわ〕


 あたしもですよ、ボニーさん。

 

〔だから、あたしは逆にこれを利用する。彼には悪いけれど〕


 そう言って、ボニーさんは石板でアルガさんにいくつかの命令を与え、あたし経由で同行者のみなさんにも話を通した。

 ……そしたらグラディウスファーリーの港、カリュプスに入った時には、シーディスパタの使者の船が同行することになってました。

 なんでだ。

会話が多いとテンポはいいんですが、なかなか進まないものですね。

ちなみに、エミサリウスさんが驚いてたのは、グラミィが数種類の術式を同時に顕界していたからです。

 初級魔術師ならば、地水風火の術式を一塊顕界できてせいぜい、中級だと複数顕界できて当然なんですが、上級だとその距離とか数、バリエーションがさらに増えます(彩火伯ことアーセノウスさんが一人花火大会できるレベル)。

 つまり、数種類の術式を同時に顕界できるってだけで、グラミィも十分人外と認識されたわけです。

 なのに、卓越したその能力で何をやってのけたかっていうと、……『お茶を煎れました』だからねぇ。

 ザ・能力の無駄遣いー。

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