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【完結】こんな異世界転生はイヤだ!  作者: 輪形月
第一章

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治療

 魔術士隊の尻を蹴飛ばしたのはグラミィだった。

 いや物理的にはやってないけど。


 あたしのやり過ぎに顎を落っことしたまんま石化した騎士隊の面々の代わりに、状況を動かしてくれたのは実にうまいやり方でありがたいくらいだった。

 あたしもなんだか罪悪感を感じちゃって、どう収拾をつけたらいいか、悩んで思わず動きを止めちゃってたんだよね。


 だけどこういう時に迷っちゃいけない。必要なのは勢いだ。

 治癒魔術は使えないのか、薬はないのか、氷は作れないのか役立たずどもと鬼婆の形相で怒鳴りつけられるというのは、罵倒されることなんて経験したことなさそうな魔術士隊の面々には、メテオストライクなみの恐怖だったらしい。


〔だって、魔術で作った水なら、雑菌とかの心配がなさそうじゃないですか?そのへんの川の水とか湧き水より〕


 それはたしかにそうなんだよね。

 殺菌って概念がこの世界にどれだけ存在しているかわからん以上、火傷の手当の際には少しでも感染症を防ぐ手段を考える必要があるってことも。

 かろうじて、異世界知識に現代日本の一般人が知識で勝てる分野だろう。


 水や氷を発生させて飛ばす魔術はあった。

 攻撃用というよりも、どっちかというと消火に使ったりするためのものらしい。

 ただ、魔力を炎より使うとかで発動させるのも魔力の少ない魔術師にとっては大変なんだそうな。

 飛ばさなくていいから、とにかくカシアスのおっちゃんがぶったぎった水袋の中に貯めてみろという注文をグラミィがつけてみたんだけれど、それもなかなか難しいものだったみたいで、うんうん唸られる始末。

 魔術士隊にとって、攻撃系の魔術は発生から射出まで飛ばすまでがひとまとめなんであって、射出だけやらない、ということはやったことがなかったらしい。

 だがその前に立ちはだかるのは前門のグラミィに後門の騎士隊。Noと言えずに魔力の限り詠唱を続け、まだ白目剝いてるローブAくんの脇に累々と積み重なる魔術士隊の面々はもはや返事がない。ただの屍になったようだ。


〔でも、あたしが大変なわけじゃないですもの。だったらいいですよね?〕


 グラミィ黒いよ!いいぞもっとやれ越後屋ー。


〔イヤイヤお代官様ほどでは、って違う。ボニーさんは、氷系の魔術も使えるようになりました?〕


 ……なるほど、本当の狙いはそっちか。

 あたしが暴走して何の相談もできてなかったわりには、うまいフォローだと思ってたら。

 なぜあたしが魔術を使えるようになったのか直感的に理解しただけじゃない。

 あたしが使える魔術をさらに増やすのに、目の前で別の魔術も使わせるようにうまくしむけるなんて、大魔術師ヘイゼル様として動けるグラミィでなけりゃできないことだけど。

 本音と建前の落差が激しすぎ。

 やっぱり黒いなー。いいことだ。


 ちなみに、あたしが覚える方はけっこううまくいった。やはりあたしが術式の構造をじっくり見れば、すぐに解析・再現ができるものらしい。

 グラミィのおかげで、氷系魔術ゲット。


 早速作成してみる。

 ただし、氷弾をわざと脆くシャーベット状になるようにして。

 射出もしない。代わりに水袋の残骸へ落下させてゆく。

 氷水ができたところで、その一部をまだしも清潔そうな布に冷やしてローブB…ベネティアスというおねいさんと、カシアスのおっちゃんの配下の子、ギリアム君の軽い火傷に巻く。

 水袋にはギリアム君の両腕をつっこませた。


  思い返せば、ローブ集団と出会う前からあたしも魔力らしきものをすでに見ていたんだよね。

 グラミィの髪の毛とか、ぷちストーンヘンジの中のキラキラしたもの。あれはおそらく魔術の紋様の構成要素と同じ、つまり魔力ということになる。

 ちなみに魔術士隊の人たちよりもグラミィの髪の毛の方があたしには光って見えている。

 グラミィがきれいな総白髪だからってわけじゃないらしい。魔術士隊のにょろっとはみ出ていた髪の毛を見ると、黒っぽい色でもキラキラして見えていたり、金髪でも輝いて見えなかったりするので毛の色とは関係ないようだ。

 ていうことは、やっぱりグラミィの身体の人の魔力量は人並み外れているのだろう。

 よかったねグラミィ、うまくしたら大魔女にほんとーになれるかもよ?


〔そんなこと言われても。どうやったら魔術使えるようになるんですかぁ。教えてくださいよボニーさん。チート補正欲しいですマジで〕


 切実だね。大魔術師ヘイゼル様になりすまさなきゃいけないもんねぇ。

 あたしの魔力の見方ぐらいなら、イメージを心話で伝えてあげられるだろう。

 眼球のないあたしと、生身のグラミィが見えるものが同じという保証はないけど。まあがんばれ。


 そういえば、ベネティアス……名前長いな、ベネットねいさんがギリアムくんに火球をぶつけた直後も、あたしがベネットねいさんにぶつけた直後にも、あのキラキラした魔力の残滓は残らなかった。

 ということは、ぷちストーンヘンジの中というのは相当魔力が濃く残っていたということになる。

 二日近くたっても残滓が消えないって、相当強力というか普通じゃないやりかたで魔術が行使されたんだろうね。場所が場所だったから儀式的なものとかかしらん。


 ……なんかヤな予感がどんどん確定方向に強くなってきてるんですが。

 今の時点では考えてもどうしようもないな。


 考えるべきはあたしが今使える最大の武器についてだ。


 あたしは相当魔術に対する適性があるようだ。魔術士隊…だけじゃないな、騎士隊の面々の反応からしても、見た魔術を再現して、さらに応用もできるというのは、なみの魔術師レベルではないらしい。

 おかげで、あたしを使役している(ということになっている)グラミィの株も爆上がり中だ。特に、味方をしてもらった感満載の騎士隊にとって。

 そらそうだわな。……ひょっとしてここまで狙ってやってたのかグラミィ。


 だけどできないこともある。

 火球をもろにぶつけられた、ギリアム君のことだ。

 幸い、顔を庇っていたおかげで目や耳にダメージはなかった。絶叫を上げていた間じゅう、息をも吐き出し続けていたわけだから、炎を吸い込んでしまって起こる気管の熱傷もなかった。

 だが、両腕にがっつり火傷を負ってしまっていたのだ。

 顔を庇っていた左手より、特に剣を握っていた右手がひどい。膨れ上がった火球に真っ先に飲み込まれたせいだ。

 魔力を魔術構築の前の状態に巻き戻すことで、負傷からその前の段階に戻せないだろうかと思ったが、さすがにそれは無理だった。そんな術式見てないし。

 魔力が作用してしまった後は、発動前には戻せないもの。であるらしい。

 逆を言えば、それだからこそ、ギリアム君の火傷を魔術で生成した氷水で冷やしてあげられてるんだけど。


 ちなみに、他人の治癒に魔力は使えないというのがこの世界では一般的な常識のようだ。

 髪の毛以外にも、人体はその人間固有の魔力が循環・蓄積を繰り返しているものであり、それに干渉して元通りに傷を癒やすというのは、極めて精密な術式を刻々と変化する術者と術を受ける者の魔力に対応させながら顕界しなければならないらしい。

 地上500メートルの綱渡りをしながら二人羽織でアツアツのラーメンを一滴もスープをこぼさずに食べさせるようなものなんだろう、ということは納得できた。


 なら、地上500メートルを0メートルに、アツアツのラーメンをハンバーガーに変えることはできないか?

 魔術で何もかも元通りに直すことを目指すのではなく、痛み止めと自己治癒能力の強化に特化した方法はできないものだろうか。


 ……残念ながら、『見て覚える方式』のあたしは、今のところ自己治癒すら見たことがない。基本がなければ応用なぞできるわけがない。いつか、繰り返しじっくりと見せてもらいたいものだ。

 そん時はよろしくね、グラミィ。


〔ボニーさんの方がよっぽど黒いんじゃないですかー!〕

 あれ?この世界の魔術について知るためのサンプル集めじゃん。

 あたしが理解した内容、教えてあげなくても自分で身につけられるのね?

〔ちきしょう、よろこんでー!〕


 いいお返事でなによりだ。うむ。

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