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つっかかられました

 森を抜けたら、いきなり囲まれました。

 『暗森の魔女』対策担当はカシアスのおっちゃんだけじゃなかったようだ。

 おっちゃんの嘘つきぃ!

 あ、嘘はついてないのか。教えてくれなかっただけで。


 武装集団の中には、灰色のローブ姿に杖を持った連中も五人ほど混じっていた。

 その中から一人が進み出る。フードをかぶって顔を隠しているけど、揃いも揃って長髪がにょろっとはみ出てますよみなさん。


「カシアスどの、そちらが暗森の魔女とかいう御仁か」

「いや。暗森の賢女様はそのように名乗られたことはないそうな。魔女と呼ぶのは失礼ではないか」


 ……なんか二つ名が増えてますよ、グラミィさんや。


「ほぅ?だがそれはどうでもいい」


 いきなりバッサリぶった切って、あたしの方にフードが向く。


「暗森の魔女どのはともかく、そのような不浄の化け物をなぜ連れ出した。もしや、貴君だけでは退滅できんということかな?」


〔ボニーさん、またですか…〕


 グラミィにチラ見されたけど、あたしは二度やったオチは三回はやらないよ?飽きられるし。

 フードはしっかりかぶってるって。


「たかだか見た目を隠した程度で、我ら魔術師の眼をごまかせると思ってか?」


 なぜか知らんがばれてーら。


「不死の怪物にしては骨型というのは珍しいが、貴君や貴隊の手に余るならば遠慮なく助力を乞い願うがよい。我ら魔術士隊があやまたず滅してくれよう」


 フード越しにも見えてるのか、ローブ集団の視線がえらく刺さる。モノ扱いかよ。

 研究対象、ぐらいにしか見られてないなこれは。

 てゆーか、この世界の負の生命で動くいわゆるアンデッドって、吸血鬼タイプとかが定番なのかね。骨はある意味斬新らしいということか。

 斬新すぎて涙も出ないわ。涙腺ないけど。


「隊長、お下がり下さい!」

「魔術士らの手を借りずとも、我らが剣にかけて」


 うわわわ、あっさり挑発に乗っちゃったよ。十人くらいが一気に長剣を抜き連れて接近してくる。

 ローブ集団とは装備から髪の長さまで対照的だが、剣を使う者とそうでないもの、ということか。しかし人数差はなんだろね。


「聞けい、彼は暗森の賢女どのが黄泉がえりの秘術を施されている途中の人物である!」


 カシアスのおっちゃんが、あたし達の前に進み出て声を張り上げた。


「はっ」


 ローブ集団の一人が鼻で笑った。


「そのような戯言を、たかだか分隊長とはいえ自ら血を流すこともおありと伺う勇猛果敢なヴィーア騎士団の一員ともあろう者が信じこむとは…やれやれ、騎士の質も落ちたものだな」

「隊長を愚弄する気か!」


 あ、今度はローブ集団に敵意が向いた。

 指揮系統が違うからか競争意識があるからなのかなんなのか。

 やたらと高圧的なローブ集団は、遠回しに辺境警備ごくろうさんと騎士団を見下げた上に、さらに貶めるような物の言い方だし。剣集団は剣集団で、人数が多いせいなのか直情的だし。


「落ち着け、おまえたち。魔術士隊も聞いてくれ」


 いがみ合う間にカシアスのおっちゃんが割って入った。


〔……どうしましょう〕


 いや、どうしましょうって言われてもどーしろと?

 とりあえずカシアスのおっちゃんに任せてみるしかないんじゃね?

 あたしらはただの部外者なんだし。思いっきり内輪もめというか争いのネタに活用されてますが。


「確かに彼の者の外見は不死の化け物にも見えよう。わたしもひとたびは見誤った。しかし、わたしは確かめた!彼の者には心がある!」

「馬鹿馬鹿しい。化け物に心があるなど」


 吐き捨てたローブの言葉が止まった。おっちゃんが目を向けた、ただそれだけで。


〔あれ、あたしたちが向けられたプレッシャーですかね〕


 うん、たぶん。

 見る間に色あせていくローブの顔から脂汗が噴き出し、顎に滴っていく。

 ようやくおっちゃんが目を離した時には、二三歩よろめいたくらいだ。


「彼は、この我が剣気を受け流し、賢女様を庇ってわたしと相対した!それだけの気概を持つ者をわたしは人として認める!」


 ……グラミィのでまかせをただ信じたわけじゃないのね。

 おっちゃんはおっちゃんなりに、ちゃんと自分で考えて、裏づけを取ったと確信したからこそ、ここまで一生懸命になってくれるのか。


「剣を持つ者に問う。このカシアスの眼が信じられぬのか?信じられぬ者は前に出よ」

「いえ、隊長を信じられぬ訳がありましょうや」

「ならば剣を納めよ!」

「「「「「……はっ」」」」」 


 配下らしい人たちは、剣を納めてくれた。

 不服なのはわかる。怪しくてすまんね。


「魔術士隊にも問いたい!言葉が通じ、自由意志を持ち、敵意に敵意を報いることなく、人を気遣う心のある者を人と認めず問答無用で駆逐せねばならぬのならば、その理由をここで言うがよい!」


 おっちゃんの気迫がすごい。


〔なんか、こう、妙に心にくるものがありますね〕


 うん。一度受け入れると決めたら、ここまできちんと弁護する側に回ってくれると思わなかった。騎士隊の信頼も篤いわけだ。


「彼の者の杖も見るがよい!彼の者もまた魔術師であることが、そなたたちにもわかるはずであろう!」


 ……持ってきた杖ってそういう意味があったのか。山下りの際にはお世話になりましたありがとうございます今後ともなにとぞよろしく。

 

「ふざけるな!」

「人を蘇生させるなど、ヘイゼル様でもない限り、そのような力量を持ちえるわけがあるまい」

「いやヘイゼル様であってもなしえまい」


 めげずに野次を飛ばしてくるローブ集団。ある意味ものすごく力量を見る目があるんだろうな。


「では、これは仮定の話だが、もしこの方がヘイゼル様であったならば、いかがする?」

「なん、だと……」


「ヘイゼル様はいづれかの森に隠遁されたと聞いた事があるぞ」

「では、まさか」

「本当に?」

「あのばーさ……いや、『暗森の魔女』どのが?」


 騎士隊の面々にもすっげぇ動揺が広がってるんですけど。

 ひょっとして、カシアスのおっちゃん、とんでもない爆弾落としてくれやがりましたか。


「うろたえるな、真のヘイゼル様がかようなところにおいでになるわけがない!」


 反対に殺気立ったのはローブ集団。

 なんでここまであたしを敵視してくるかね?むこうもフードかぶって似たような格好しているのに。


〔キャラかぶりを嫌ってとか〕


 おい。どんだけ二次元思考なんだよ。

 そんなのんきなやりとりを心話でしている間にも、ローブ集団のテンションはどんどん上がりまくっていたらしい。


「ヘイゼル様のお名前を騙るとは言語道断!」

「滅びよ、邪悪!この魔術士隊アレクサンダーが欺瞞を払拭してくれよう!」


 ……いや、大魔術師らしき人の名前を騙ったなら、必ずこういう反応する人は出てくるとは思ってたけど。

 早すぎなくね?

 魔術士らしいローブ集団……たくさんいるからローブAでいいや、頭に血が上ってたやつの魔術が炸裂した。


 ……というには、身振りを交えた詠唱が長いんだな、これが。

 やっぱりこの世界は魔術が当然のように使われてるんだなと、じっくり観察できてしまうくらいには長い。

 こんなに発動がとろい魔術って、実戦に役立つのかね?


 しばらくたってから呪文が完成する。


「顕界せよ、火球!」


 ローブAの前にバレーボールぐらいの大きさの火球が生じ、杖の振りとともに飛んでくる。


 …………遅っ。


 あれだ、雑巾をぐちゃぐちゃにボールにして投げた感じのゆるいスピード感。

 思わず普通にグラミィをひっぱって、ドッジボール感覚で一緒によけちゃったくらいだ。

 おまけに、背後に被害がいかないか振り返ったら。森の木にぶつかる前に力尽きて消滅するところでしたよ。


〔しょぼっ〕


 それには激しく同意する。

 いくらなんでも雑巾ボールだって、も少し飛距離は出るだろうに。


「ええい、ちょこまかと逃げるな、化け物が」


 いや、あんたが遅すぎるんだってば。


 詠唱。のろのろ飛んでくる雑巾ボール。回避。

 呆れながらも何セットか繰り返す。

 そのうち、肩で息をしだしたなと思ったら。ローブA君、いきなりばったり倒れた。

 ……あれは顔面いったな。鼻骨折れそうな勢いで直角に倒れるんだもん。


「アレクサンダーあああああ!」

「よくも貴様ら、この魔術士隊をこけにしてくれたな!」


 いやー。別にあたし、何も攻撃してないんですがね。むしろ専守防衛してましたよ?

 しかしそれであっさり全員が殲滅モードに入っちゃうって。

 周囲が見えない直情バカにもほどがあるでしょローブ集団。


「のけい、私がやる!」

「待て、ベネティアス!わたしにやらせろ!」

「黙れ。この隊の長はこの私だ」


 突き出された杖の間から進み出たのは、真っ先にカシアスのおっちゃんに絡んでたローブだ。隊長格ってことか。


「アレクの魔法をしのいだことは褒めてやろう。だが我が魔法は避けきれまい。 っ!」


 硬質な声の詠唱は一単語のみ。それに応じてピンポン球くらいの火球が生じる。

 確かにお上手、なんだろうね。さっきのローブA君に比べれば。

 さすがにこの流れ弾は森に飛んでったらしゃれにならないかも。


「ベネティアスどの、彼の者は何もしておりませんぞ!あえて敵を作るおつもりか」

「やかましい、剣を振り回すしか能の無い者がが口を挟むな!」


 ……たった今、しゃれにできなくなりやがった。

 カシアスのおっちゃんの部下にぶつけやがったよコイツ。

 部下の子も咄嗟に抜いた剣の平ではたき落とそうとしたが、ぶつかった途端に火球は膨れ上がった。

 上半身が飲み込まれる。絶叫。


「ギリアム!」


 駆け寄ったカシアスのおっちゃんが、持っていた革袋を切り裂いた。

 水がぶちまけられる。

 炎は瞬時に消えたが、ギリアムと呼ばれた子は動けないようだ。


「きさまら、よくもギリアムを……!」

「ごちゃごちゃと邪魔をせねばよかろうが」


 ……これは、ちょっと、許しがたい。

 あたしも自重しないことにしようじゃないの。


〔ちょ、ボニーさん?〕


 睨み合う剣と杖の間に、あたしはわざと足音高く割り込んだ。


「おぬし……」


 ぎょっとしたカシアスのおっちゃんに片手を振る。ここはあたしが相手するから。


「……では、この場を頼んでいいのだな?」


 ええ、どーぞどーぞ。


「おまえ達はギリアムの手当を急げ」

「「「「「はっ」」」」」


 カシアスのおっちゃんの一言で、それまで呆然としていた人たちが慌ててひきずっていく。

 彼らが十分離れた頃を見計らって、あたしはローブBにおっ立てた中指でカモンと招いてやった。

 この軽蔑混じりのボディランゲージが通じるかどうかは関係ない。

 こっから先は、あたしが相手になってやる。

 あたしの存在が認められないっていうんなら、あたしに直接かかってこい。あたしゃ他人を盾にする気はない。

 つーか、赤の他人なあたしを種にして、別の集団にマウンティングかまそうとかしてんじゃねーよ。


「ほぉ……。ずいぶんと化け物にしては殊勝なことをしてくれる。礼に一瞬で消滅させてやろう。……  っ!」


 やや長い詠唱で、複数の火球が出現、飛んでくる。

 あたしはよけない。

 そのまま、すべての火球を……


 『吸い取った』。

 

 この世界の魔術というのは、どうやら世界を改変するための鍵と鍵穴を作り出すようなことだ。

 鍵穴を術理で造り、そこに溶けたワックスを流し込むように魔力を流しこみ、瞬時に固形化させて『ひねる』ことで、物理法則を改変している。

 それが、あたしには見えている。


 気づいたのはローブA君の詠唱中のことだった。

 キラキラしたものが集まって紋様を描きだしたのには驚いたけど、構成過程を始めから終わりまでとっくり見せてもらえば、何をどう動かせばどうなるか、は、理解した。できてしまった。

 理解できてしまったのは、おそらく今のあたしも生物というより魔法で動いている何かだからなんだろう。

 そりゃまあ物理法則に逆らいまくった骨でございますし?人間やめてるってのも覚悟してたけど?ここまで人間やめてるとは正直思わなかったよ。

 マジで生身になれるのか心配になってきちゃうレベルで。

 ……あ、目頭がなんか熱い気分。錯覚だろうけど。


 ついでに言うなら、名前だけが森羅万象を認識操作するための手段というわけでもないということも、あたしはよく知っている。 

 向こうの世界にあった、バジリクスなどの見た者を殺す魔眼持ちの怪物の伝承。

 トルコの幸運のお守りというか、不運を跳ね返す目玉型の邪視返しのお守り。

 それらは『視る』ことが、五感に疑似変化された『認識』そのものが、魔術的な世界を改変しうる力を持つと考えられていたということを示していた。


 ならば、世界の改変方法を今視て覚えたばかりとはいえ知っているあたしが、筋肉も神経もない骨だけの物理的とは言いがたい存在の身体を持つあたしが、その身体を動かしている=魔力を操作できているこのあたしが、なぜこの世界の魔術を使えないわけがあるだろうか。


「な、何をした、化け物ッ!」


 さらに増える火球。連打されても問題はない。全部『吸い取って』やる。


 さっきの鍵のたとえでいうと、火球という事象を発現・維持している限り、その鍵は『ひねられた』状態にある。

 だから、その鍵をあたしが『逆にひねって』やれば、火球は魔力に還元されるのだ。

 その魔力はそのまま散っていくのかと思っていたが、勝手にあたしの全身の骨が跡形もなく吸収した。

 ……なるほど、こうやれば魔力は得られるのか。

 ちょうどいいエネルギー補給手段めっけ。


 そうこうするうち、ローブBも肩で息をつきだした。

 うん、ローブA君よりはがんばった。

 それでも行動パターンがまったく同じテンプレってあたり、あんたらひょっとしてカシアスのおっちゃんたちよりよっぽど力押ししかできない脳筋たちなんじゃね?


 魔力が切れたんだったら、マウンティングのお返しに仕上げ塗装も施してやろうじゃないの。


 あたしは小指の先ほどの火球を作り出した。

 ただし、発生場所はローブBのフードの中。

 作り方さえ知っていれば、どこで顕界させようがかまわないということもわかったから。


 ローブBのフードから炎が噴出する。


「ベネティアス!」


 声も上げえず、ごろごろのたうつフードに慌てて駆け寄るローブ集団。

 一瞬で消してやったとはいえ、首から上を火球がすべて覆ったのだ。見た目は相当派手だ。

 それでもじっくり炎に飲まれた、カシアスのおっちゃんの部下の火傷よりはまだましだろう。


 そう思っていた時が、あたしにもありましたとさ。


「……さすがに、これはいささかやり過ぎではないか……」


 カシアスのおっちゃんがぼそっと呟いた。


 大火傷はさせなかった。確かに。

 でも、髪の毛だけでなく、眉毛やまつげに至るまで、首から上の体毛が完全に焼け落ちた状態で半べそになってたのは。

 美人だった、はずっぽい。おねえさんでした。


 ええっと……。

 なんか、ごめん。

ようやく戦闘(?)シーンです。

しかし、なかなか絵になるキャラが出てこないなぁ……(出せよ自分)。

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