マップが広がりました(ちょびっと)
暗森というのが、あたしが通り抜けてきた麓の森。
で、ランシア山というのが降りてきた山。らしい。
そこに星が墜ちたのが、昨晩王都ディラミナムから見えたと。
占星学者によればこれは大いなる異変であるため早急に対処しなければならぬ事態である、なぜならその前日にも星が同じ方面に墜ちたのが観測されたからだ。
……昨日だけじゃねーじゃねーか。
ともかくカシアスのおっちゃんが王都から派遣された、というか、王命を受けているということは、そこそこ偉い騎士……というか、戦士?武官?なんだろうということがわかった。
情報を求めに来たおっちゃんには悪いが、情報に飢えているのはあたし達も同様だ。
情報の対価は情報で払ってもらおう、とばかりに喋るだけ喋ってもらっている。
「ヘ……いえ賢女たるグラミィ様におかれましてはすでにご存じのことと承知しておりますが、ランシア山はスクートゥム、グラディウス、クラーワの各地方との境界ともなっております。フルーティング峠に砦はございますが、異変は要衝のいずこまで及んでいるかはいまだ不明でございます」
「……ふーん」
ふむふむ、意外とこの地方は地理的に他の地方とは離れてるわけね。国境に壁が立ってるほど隣接しているわけじゃないと。
おっといかん、話の内容に気を取られて反応がおざなりになってるよグラミィ。
「ヘイゼ、いえグラミィ様が権威とはもはや関わりをお持ちになりたくないことは十分に存じ上げております!しかしこれは我がランシアインペトゥス王国のみならず、ランシア地方、いやテールム世界総てに関わることとアルマ司教よりも託言がございました!なにとぞお力をお貸し下さいませ!伏してお願いを!」
……どうやら塩対応で正しかったようだ。
〔でもいいのかなー〕
なにがよグラミィ。
〔ここまで聞いちゃったら、このおじさんのお願い、聞かないとまずくないかなと〕
だろうね。
ここがランシアインペなんたら王国の領内であり、そこへ王国の武官っぽい人が訪ねてきたって段階で、『暗森の魔女』ができることは、かなり詰んでる。
だって、ねえ。
下手に王国側の協力要請をつっぱねでもしたら、どうなることか。
無理矢理力ずくで連れ出すなんて下策を取られなくても、自給自足ができてない生活してる以上、食糧も売ってもらえるかどうかわからん状況だよ?
協力する以外の選択肢はないでしょ、たぶん。
〔じゃあ、どうしたら〕
どうしようか?
あたしの結論は決まってる。気づいた時から行動原理も目的も変わってないからだ。
だけどグラミィがヤだって言うんなら、とりあえずカシアスのおっちゃんに引いてくれるようにはもっていかないとなーとは思ってるよ?
とりあえず、協力相手認定しちゃったし。
グラミィはどうしたいわけ?
〔……わかりました〕
「わかった。ここでカシアスどのから、らしいだのようだだのがくっついた話ばかりを聞いておっても埒が明かんちゅうことがようわかった」
「で、では」
「直に見るにこしたことはなかろう。星が墜ちたちゅうのが近くでよかったわい。どれ、出かける支度でもするかね」
信じられん、という顔になったおっちゃん。
(それでいいのね、グラミィ?)
〔いやー、だってこのまま引きこもってても、何にもわからなそうじゃないですか。だったらこのおじさんについて外に出てみるのも悪くないかなーと。おじさん強そうだし、偉そうだし〕
偉そう…。ま、まあ、地位が高いか低いかはわかんないけど、なんか重要そうな案件の調査に任命されるくらいには、信用はされてるんだろうしね。能力的に。
〔だったら、ちょっとでも積極的に協力してるように見せといた方が待遇改善につながりそうじゃないですか〕
それくらいは計算できる子だったか。なら。
〔それに、気がついてるんでしょ?墜ちてきた星があたしたちかもしれないって〕
……あー、やっぱり。あたしが気づいてることにも気づいてたか。
少なくとも、時間帯と場所的に、あたしとグラミィが意識を取り戻した(?)のと、王都で観測された『墜ちた星』ってのは無関係じゃないとは思ってる。
なら、その星が墜ちた所ってのを見てみるのは悪くない。
期待はあまりしていないけど、なんであたし達が今ここにいるのか、その手がかりがつかめるかもしれないし。
うまくいったら、あの墜落事故の犠牲者ズの骨も拾ってもらえるかもしれないし。
なにより、分隊長だっけ?
騎士のえらいさんがついててくれるってことは、道中の危険性は少なそうだし?
「ヘ……賢女様の寛大なお心にこのカシアス、感謝の言葉もございませぬ!それがしにできることでしたら、いかなることでもお申しつけ下さいませ!」
「ああ、それじゃあ、とりあえず火の始末をしといておくれな」
「…………は……」
あーあ。
複雑な顔で固まっちゃったじゃないのおっちゃん。
道中よろしくとか、護衛についてくれとか、武官としてなんか便宜を図ってくれとかいう頼まれごとがあると思ってたんだろうね。地位的に。
そーゆーのにうちのグラミィが疎い子でほんっとごめん。いきなり子どもがするような雑用頼んじゃったりしてマジすまん。
悪気はないんだと思う。
きっと、たぶん、おそらく。
思わず肩をぽんぽんしてあげたら、カシアスのおっちゃんの複雑な顔が珍妙な顔にレベルアップしちゃったけれど。
「……おぬし、言葉は理解できておるのだな?」
あ、はい。おっちゃんの心情も忖度できちゃうくらいにはね。
「先ほど化け物扱いしたことはすまなんだ」
いえいえー、お気持ちはわかりますよ、だって骨だし。
気にすんな、と手を振ってあげたら苦笑された。
その顔のまんまおっちゃんはグラミィに声をかけた。
「グラミィ様、お連れの顔は隠していかれた方が問題が少ないかと愚考いたします」
デスヨネー。
……というか、この短時間であたしの同道を認めてくれるくらいには慣れたのね、おっちゃん。
意外と適応能力のある人だ。