2-1十月
いつの間にか扉を叩く音は消え去り、寒さを感じるほどに震える。いや体が震えているのは寒さのせいだけではないだろう。
厚着をして玄関の様子を見に行く。扉は閉まっており、チェーンがかけられた状態であった。扉を開けて、そこからまた閉めたのだろうか。
そんなことはどうでもいい、そう思い覗き窓を見る。そこには通常の風景が夜の姿で映し出されていた。誰の姿も見えない状態であった。
安堵した私は部屋に戻る。その辺に落ちていた未開封のカップラーメンにポットのお湯を入れる。ベッドから毛布を取り出し、くるまった。
テレビをつけ、スマホを手に取る。店からの通知がほとんどであった。今日のところは無視して、また明日連絡しようと思った。
テレビではエンタメの類が映し出されていた。今の私に笑う気力はない。今後の進展を考えなければいけない。とりあえず店はもうやめよう…
たぶん優良店だろうからそれほどごねられずにやめれるだろう、わかんないけど。ちょうどそろそろ大学も始まるし。大学での私はこんなキャラじゃないのになぁ…
今年の夏休みまでは彼氏と遊んでたのにどこから間違えてしまったのだろうか。水商売ってこんなに怖いところだったんだなと今更思ってしまう。
そろそろカップラーメンができる頃だろう。
――
大学が始まる直前の土曜日。私は外に出て店の方へ歩いて行った。太陽がまぶしい昼間であった。事前に店には電話してもうやめることを伝えてある。私に起きた出来事を説明し、続けていられない理由を泣きながら言ってたような気がする。
電話口の言葉に言われた言葉はほとんど覚えていないが、書類の記入と服の返納があるため来れる日に来てくれとは言われた。
またそのその後に若菜さんにも電話した。慰めてほしくて結構長電話をしていたような気がする。それでも切らずにずっと聞いていてくれてとても嬉しかった。
道路のそばに植えられている木の葉の色が緑から赤く、そして茶色に染まっている。前見たときよりも明らかに
色が染まっている。落ちた葉っぱを車が駆け抜けていく。乾燥しているのかすぐに粉々になってしまった。
大通りには様々な車が走っている。どこへ向かっているかは分からないがみんな急いでいるように見えた。私も急がないと…
「何事もなくやめれればいいけど……」
はいた言葉はまるで冬がまだ来たかのように凍りついていく。足も凍ったかのように動きが鈍くなる。
鈍い動きは辞めたい以上に店に近づきたくないからだろう。店で働いている記憶はアルコールにかき消され、私の覚えていることはいきなりやられそうになったことだけ。
記憶が飛ぶのってやっぱり怖いことなんだなぁと今更ながら確認させられてしまう。お金に負けてこんなことしなけりゃよかった。
店の前にたどり着く。そこは未だ変わらない看板と扉があった。初めてたどり着いた時と全く違う印象を受ける。
どす黒い瘴気が隙間からあふれ出しているかのような印象を受ける。ピンク色というよりは真っ黒。
大人の黒さを知った体験談であった。
――