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1-5

――


酔いがさめる、その瞬間の気持ち悪さは何度体験しても耐えられるものではない。毎回この酔いが覚めるころには家に帰りついているのだが、今回は違った。光が届かない路地裏。未だ夜のようで目の前の物体の識別にすら少し時間がかかる。

一瞬の風が路地裏を抜ける。その時素肌を晒している腕や顔が少し冷たく感じた。そしてなぜか下半身も。


「えっ……」


謎の感覚に私は戸惑う。暗順応されてきたのか周囲の様子がわかるようになってくる。私は今壁に押し付けられ膝立ちの姿勢になっている。誰かの手が腰に触れる。

その手に嫌な予感がし、全力で振り払う。だがしかし酔いが回っているのかそれほどの力が出ず、除けることは出来なかった。腰が持ち上げられる。

足に力が入る。体中の感覚が戻ってくる。手を握り握力を確かめてみる。よし、これなら大丈夫なはず。動物的な勘がこの異常な状況から逃げろと言ってくる。

壁に押し付けられていた手で全力で壁を押し、後ろにいる謎の人物に背面攻撃を試みた。


「ちょ…!ええっ…!」


どこかで聞いたことのある声が後ろから聞こえた。腰に回っていた手が離れる。


「誰ですか!変なことしないでください!」


そう言いながら後ろを振り向く。そこには下半身を露出している男がいた。その姿は驚くべきことに酒を飲んで記憶がなくなる直前に見たお客さんの顔であった。

自分の下半身を触る。スカートの中にはいているはずのパンツがなかった。これから行われたであろうことを想像してしまう。


「ふざけないで!」


大きな声が路地裏に響く。たぶん大通りには全く聞こえていないだろう。地面に転がっていた自分のカバンを拾って全力で駆け出した。

なんでこんなことになってしまってのだろう。お金目当てで水商売に手を出してしまったからなのだろうか。

そんなことを考えながら走り続ける。大通りを抜けて店の前についてしまう。しかし入りたくはない。あの男が追ってきていないか後ろを確認するがその様子はなかった。


「ありえないありえないありえないありえない………」


ぼそぼそと、つぶやく。わたしのからだはえきにむかってあるきだした。


「あああああ………!!」


――


あの強姦未遂の次の日。私はあの店に行く勇気が全く起きない。むしろ外に出ることすら全くない。家の中のベッドの上で夢想している。カーテンも閉め切り外の時間もわからない。

いったい私が何をしたのだろうか。何か間違った選択をしているのだろうか。スマホの画面を光らせると大量の通知が来ている。

全てを無視して、画面を暗くさせる。何度同じ行為をしているのだろうかと私自身も不安になってくる。


「何度も……?」


自分の考えていたことを反芻する。もしかしてあれは初めてではないのだろうか。なぜ疑わなかったのか。自分が疑心暗鬼に陥ってしまう感覚になる。

何故大量にアルコールを入れているにも関わらず私は毎回家に帰れていたのだろうか。自分で帰り着いたのだと毎回考えていた。いや、そんなことすら全く考えていなかった。

そんな考えに陥った時、ちょうど家のチャイムが鳴る。


私は立ち上がり玄関まで行き、覗き窓から外を見る。見えたのは店の人ではなく、私に危害を加えようとしたお客さんであった。

やはりその人は私の住所を知っていて、そして酔った私を家まで送り届けたのはお客さんで、それなら……!!


すぐに扉のチェーンをかける。そのまま布団に逃げ込んだ。扉からはがんがんとたたく音が聞こえてくる。私が一体何をしたのだろう。

いるのはわかってるんだぞ、と外から大きな声が聞こえる。聞いたことのあるお客さんの声だ。名前すら知らない。

扉のたたく音が消え、その数瞬後。

家の扉が開く音がした。


それは間もなく10月に入ろうとしている秋の暮であった。


――

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