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3-4


………


俺は俺で


………


私は私で


………



何やってるんだろう。世界がふわふわする。羽毛に囲まれた天上世界のような。意識が覚醒を求めていない。自分自身も、覚醒したくはない。

最近まで拒否されていた世界から、許容されるかのような感覚を受ける。いや、拒否されていたのではない、拒否していたのだろう。こんな世界を。


暖かな世界が向かいいれようとしている。何かに手を引かれるかのように起き上がる。

意識が覚醒する。


――


私が覚醒した世界はいつもいる自分の部屋だった。光が入らないように閉じられたカーテンが部屋を暗くする。電気なんてつけているはずもない。

病院から退院した私はいつの間にかここまで動いていた。光のない部屋でも状況は大体わかってしまう。

踏み場のない床、散乱したものが広がるがそこには服が多く足を傷つけることはなかった。他にはほぼ半分にされた木に机がある。多分床に全力でたたきつけたであろうへこみを感じた。

そして一番の問題は匂いだ。台所付近から漂う血の匂い。近寄って触ってみるとすでに固まっているのか手につくことはなかった。また周辺の床は赤というよりは黒く染まり切っていた。


そこで私は思いだし右太ももを見てみる。切り裂かれた跡が未だに残っている。傷跡は白く残りまた少しポッコリと浮き出ていた。デコボコとした肌を触っていると奇妙な感覚に襲われる。

また自分自身を傷つけて生を確認したくなる衝動。それは発狂した時に似ていた。自分自身が怖くなり、その手を離し、ベッドへ向かった。

ベッドは金属フレームだったおかげか何のダメージもなかった。布団の上には例のごとく散乱したものはあったが、それはそのまま床に落として寝ころぶ。



私が生きる意味はなんなのだろうか。どこから道を間違えてしまったのだろう。全ての発端は夏休み終わり頃からだろうか。お金欲しさに始めた追加のバイトがすべてを狂わせた。

無理やりやられて、病気にかかって。結局彼氏には何にも説明していない。ことの顛末どころか、働いていたことさえ。

ふと思ってベッド上の方向にある棚に手を伸ばす。そこには産婦人科でもらったまま全く飲んでいない薬が放置されていた。その名前はフラジールという。


「壊れやすい…か…」


私のこのことを予言したかのような言葉に少し苦笑いをする。診断が下ってから、壊れやすいどころか発狂し完全に壊れてしまった私はいったいどうすればいいのだろうか。

もう生きていく理由も価値も何も見いだせない。そう思ってため息をつく。そこからは思い出よりも後悔があふれ出た。今までのたくさんの選択肢からこんな将来しか残っていなかったのだろうか。

これからのことを決めよう。そう考えた私の顔は水死した爆弾より鈍く光っていた。破裂することなく水底から見上げる以上のことがきっとできなかった。


――

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