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2-6

私が私足り得るためにできることは何か。それは他人にかけられているわけで。私であるそのものの核は私には存在しないんだ。

人と関わろうとしない、名前さえも覚えようとしない私が必要とされていることがあの世界では嬉しかった。だからお金のためなんて理由づけして逃げていたんだろう。

彼氏がいたというのも、それに依存し続けているからこそ会えなくなるのが寂しいのだろう。私の動ける動機はまた会えるから。すべてはそれにかかっていた。


こんな状況になってしまった私に彼は会ってくれるだろうか。いや、隠していればばれることはないだろう。ただしかし、罪悪感が足元から呑み込むように湧き上がってくる。

ばれてしまったら、もちろんもうそこで終わりだ。ただ一人として私は世界から隔絶される。関わらない私は世界から関わられない。世界にはじき出されてしまう。

はじき出された先に何が待っているのだろう。ただのBOTと化す者に今までの私という存在は埋め込まれているのだろうか。


視界と自我が曖昧になっていく。見えている視界は本当に私が見ているのだろうか。


………


………


目を覚ます。いつも通りの部屋の中にいて、そして時間がかなり進んでいた。布団を体から剥がし起き上がる。十月の寒い空気が体を冷やしていく。

窓のカーテンを開け太陽光を体に浴びる。朝とは到底言えない光が眼を眩ませる。そのまま私はカーテンを閉めてしまった。世界を拒絶してしまったような感覚が背中を伝う。

テレビをつけ、光を見る。今度はまだ耐えられる。内容なんて今の私には入ってこなかった。散らかった部屋が精神状況を表しているみたいだ。


部屋の真ん中にある机には中絶の同意書には署名と印鑑が全て書かれていた。もちろん代筆、というよりかは全て自筆であるが。私文書偽造になるらしいが誰も被害を受けていないので問題ない。

これを出して手術を受ければ何事もなかったかのように私は世界に戻れる。精神的疲労のない素晴らしい毎日に行けるのだろう。たとえ隠し続けなければならないとしても。

全てから解放される予感で胸が躍る。でも意味もなく含みを持たせた微笑で私は何も知覚できないまま大人になったことを呪っていた。たとえ堕ろしても誰にも報われないのだけれども。


服を着替えて外に出かける準備をする。できるならすぐにこの重荷を消してしまいたい。元々入っていない予定を消し去って病院へ速やかに行く。

こんな精神になってしまった、その一つの原因を消しに行くために。


――


麻酔をかけてもらい私は意識を失う。その感覚は酒を飲んで記憶をなくすよりはましだった。いつもの最悪な状態がなくなるならずっと麻酔を受けていてもいいと思ってしまった。


――


日が完全に沈みきった後、意識を取り戻した。

体は思ったより軽くならなかった。こんなものかと思ってしまった。


――

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