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魔神になった少年  作者: キタビ
一章 銀貨同盟
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 5

 大立おおたまわりを演じたトレジャーハンターの二人は、シンより三つ年上だった。

 金髪をなびかせるきつい目つきをした少女はケイティ、くりっと癖のある栗色の頭をした優しそうな少年は、スコットというらしい。

 二人は荷馬車に隠れていた子供たちと馬車を走らせてくれた男を呼んで、用意された昼食を振舞ふるまった。

 シンは炊事すいじ係に任命され、食事をるのは一番最後になった。

 二十リットルのなべの底が見える頃、子供達はようやく満腹になったお腹をさすり、蝶々が飛ぶ草の上に寝そべっていびきをかいた。男はケイティ達に食事の礼を言って、荷馬車の車輪に背をもたれ、煙草に火をけ一服つけた。

 シンは鍋の底をさらって銀の皿に少ないスープをよそってパンを取り、ケイティとスコットが座っている丸太の前に腰を下ろした。


「あの、さっきはありがとう」


 言うと、ケイティは足元の枝を拾って、シンに投げつけた。


「あたし達はあんたの先輩だぞ。敬語けいごを使え」


「す、すみません」


 シンは鼻を鳴らしたケイティと、膨らんだお腹をさするスコットの様子を覗いながらスープをすすった。

 擦り切れたトレジャージャケットやパンツ、泥や血に汚れたブーツ。

 ケイティはほっそりとしていてもしっかりとした筋肉がついていて、気配も鋭く、若い豹のようだった。スコットは朗らかな表情と一緒に穏やかな雰囲気を纏っているが、爆薬を扱っていた姿を思い出すと、それがまた渋く見える。

 それほど歳の離れていないそんな二人の姿が、シンの瞳には今まで出会ったトレジャーハンターよりもたくましく映っていた。

 危険な遺跡をいくつも駆け抜け、ゴーレムを相手にしてもひるまない勇気をあわせ持った若いトレジャーハンター、そんな二人の話を聞いてみたい。

 シンは慌てるようにスープを飲み干すと、口をぬぐい、姿勢を正した。


「あの、二人に聞きたい事があるんですけど」


「・・・・・・聞きたいこと?」


「どうやったら、二人みたいなトレジャーハンターになれますか?」


 そう尋ねたシンの瞳を覗き込むように見たケイティは、ふっと小さな笑みを浮かべた。


「あんたもトレハンなら、帝国がどうしてあたしらみたいなガキを組合に登録することを認めてるか、ちゃんと分かってるよね」


「えっと、優秀なトレジャーハンターを、早いうちから育成するため」


 シンは組合に登録した時、受付にいた綺麗なお姉さんが言った言葉を思い出し、その通りに答えた。

 するとケイティはって笑い、シンに名前を尋ねた。シンが応えると、二人も改めて自分たちの名を名乗った。


「まあ、あんたの態度次第では、いろいろと教えてあげない事もないよ」


「わかりました」シンは喉を鳴らした。


「じゃあはい、銀貨一枚」


 ケイティは悪魔のような笑みを浮かべ、てのひらを見せた。


「え?」


 シンの顔から感情がすとんとなくなると、ケイティは大きな、大きな溜息を吐いた。

 ゼニ催促さいそくして、強く手が突き出される。


「なんだよもうさっさとカネ出しなさいよ、銀貨一枚! 授業料だよ。熟練じゅくれんの凄腕トレハンの講義こうぎが受けられるのに、タダ飯食った挙句あげくにタダで貴重なお話聞かせてもらおうなんてずうずうしいのよ。ねえスコット、あんたもそう思うわよね」


「か、かわいそうだよ」スコットは眉を下げた。


「バッカね、銀貨一枚なんてすっごい良心的な価格じゃない。知識が命を救うことも少なくないこの世界で、あたしらが命を懸けて何度も乗り越えて知り得たことを、あんたはたった一枚の銀貨を手放すことで手に入れられるんだぞ」


 シンはぐいと差し出されたケイティのてのひらに視線を落とし、よく考えて、納得した。

 ベルトに固定していた布袋の口を開いて、銀貨を一枚、支払った。


「素直でよろしい」


 ケイティはスコットの担いでいた荷袋を自分の方に引き寄せると、口紐を緩めた。


「じゃあ、帝国がなんであたしらみたいなガキの登録を認めてるか、まずはそこから。あんたは優秀なトレジャーハンターを早いうちから育てる為だって言ったけど、それは違う。トレジャーハンターなんて稼業かぎょう自体、時代遅れもいいところ。昔は何処どこにでも組合があったけど、今じゃ数えるくらいしかない。組合が登録年齢を一気に引き下げたのは、あたし達みたいな貧乏人を登録させやすくして、人手を補う為よ」


 そう言ったケイティも、セニータという貧しい村からスコットと二人で飛び出し、組合に登録、十歳の頃からトレジャーハンターとして活動してきた。トレジャーハンターになれば仕事を続ける限り一定の給金が出るし、もし遺跡で『価値のあるもの』を見つけられれば、それがそのまま本人の功績と認められたうえ、高値で買い取ってもらえるからだ。今は独自に作った学者とのコネを活かして、遺跡で見つけた骨董品こっとうひんを売りさばいている。二人はそのお金を村に送っては帰郷するという生活を繰り返してきた。

 ケイティは荷袋の中に手を突っ込むと、不思議な紋様が描かれた壷と、認識票タグ、読めない文字が並んだ本を一冊、地面に敷いた布の上に並べた。


「今あたしが並べたこの三つの中に、仲間はずれが一つあります。さて、それはどれでしょう?」


 ケイティが両手を広げ、にやっと意味ありげな笑みを浮かべた。

 シンは三つを見比べて、どれがどう仲間はずれなのかを考えた。壷と認識票タグ、そして本。この三つのうち、一つだけが仲間ではないという。シンは直感に従って、真ん中に置かれた認識票に手を伸ばし、掴んだ。


「これだと思います」


「どうして」


 シンは答えようとして、言葉が詰まった。

 真っ先に手を伸ばしたそれが、三つの中で仲間はずれであることは理解していた。けれど、それを言葉にしようとすると、それがひどく悲しい理由であることに気付いた。そんな考えを見透かしたケイティは、シンの手からタグを取り、代わりに答えた。


「正解よ。これだけは、元々遺跡にあったものじゃないからね。壷と本は、間違いなく元から遺跡にあったもの。つまり、あたし達が狙うお宝ってことだ。でも、これは違う。これは宝じゃない」


 シンの顔の前で認識票タグが振られ、ちゃりちゃりと音を立てた。

 ケイティの言葉で言えば、それは三つの中で唯一金にはならないものだった。


「お宝を欲しがって、遺跡で死んでいったトレジャーハンターの認識票タグだ。今のあんたになくて、あたし達がすでに持っているもの。同じ組合に登録するトレジャーハンターでも、これを持っていることと持っていないことでは大きな差がある。けど、言っちゃえばそれくらいの差しかない」


 ケイティは自分の首にもさげられている認識票を引っ張り出した。傷だらけでもまだ新しい銀色のタグには、ケイティの名前と、故郷の名が彫られている。


「これを手にしてはじめてトレジャーハンターは立派な墓荒らしになる。命知らずな者である証だ。あんたもこれが欲しいの?」


「・・・・・・欲しい」


 シンが特に迷うそぶりも見せずに、心底欲しそうにする姿に、ケイティは可笑おかしそうに笑って、自分の認識票タグを胸にしまった。

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