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「シン、起きな。夜明けだ、出発だよ」
その声にシンは目を覚まし、身体を起こした。
ケイティはすでに出発の準備が整った様子だったが、どうにも周りが静かだった。
甲冑を着込んだ兵隊達が歩き回れば物音がするはずなのに、全く聞こえない。耳を澄ませても、聞こえてくるのは鼾と、平和な小鳥の鳴く声。
シンはテントから頭を出して、目の前に広がった惨状に目を疑った。
兵達はのんだくれたオヤジのように、気持ちよさそうに寝息を立てて鼻ちょうちんを作っていた
スレイヤーはというと、王子様が出しているとは思えない鼾を響かせていて、とても起きる気配がない。シンは傍に寝ていた男の頬を軽く叩いてみた。男はシンの手を払い、寝返りをうって、更に大きな寝息を立てた。まるで起こすなと言われているような気分だった。
「ケイティ、これどうなってんの」
「ふふ、昨日のお酒に睡眠薬を入れておいたんだ。ちなみにあんたが飲んだのはただのジュース」
したり顔のケイティにシンは渋い顔で頭を掻いた。
ケイティは薬売りの商人から睡眠薬を手に入れていて、それを昨晩の酒に仕込んでいた。
そのつもりで持って来た訳ではないが、何かの役に立つだろうと考えて持っていたらしい。
「・・・・・・ばれたらやばいんじゃないか」
シンが心配そうに眉尻を下げると、ケイティは猫のように笑んだ。
「大丈夫よ。無味無臭の強力な睡眠薬。素っ裸にしても起きないって代物よ。たっぷり入れた訳じゃないからたいした副作用もないしね。今のうちにあたしらで魔法書をいただいちゃいましょ」
「手柄を独り占めか。流石、抜かりない」
シンが手際の良さに感嘆すると、ケイティは誇らしげに胸を張った。
「今回の仕事はさ、あたしら、特にあんたが要なんだ。魔法書はあたしらが手に入れなきゃ意味がない。誰にも邪魔されたくないんじゃないかと思って、気を遣ってやったのよ。だいたい、遺跡歩きに不慣れなおっさん達と機械の玩具、王子様のお守りしながらなんて無理に決まってるじゃない。遺跡なめんな、トレハンなめんな」
「そうだな。この方がいいかもしれない」
昨晩語らったスレイヤーには申し訳ないと思ったが、彼が命を落とす確率がぐんと下がると思えばとシンは考えた。スコットも今回のケイティの行為には相当感心していて、首を何度も縦に振った。
「ケイティにしてはいいアイデアだと思う。荒っぽくないし。それに今回ばかりは、魔人よりも早く魔法書を回収しなくちゃならないからね。僕が言うのもなんだけど、素人を連れてちゃ余計に危ないし」
スコットの言葉にシンは頷いた。
例えスレイヤー達が魔人対策として選りすぐられた兵だとしても、魔人との戦闘を考慮しながら、不慣れな遺跡を歩かせるのはリスクが大きい。そうなれば、三人のリスクも必然的に上がる。ならばいつも通りの面子でリスクを背負う方が、きっと誰にとっても最良な結果を残せると思えた。
「ちょっとスコット。あたしにしてはっての、余計じゃない?」
「褒めたつもりなんだけど。ごめんって、頼むからそんな怖い顔しないでよ」
「銀貨一枚で見逃してあげるわ」
スコットは渋々銀貨を一枚差出し、ケイティはそれを奪うようにして取ってにっと笑んだ。
シンはスレイヤーの寝床から周辺の地図を拝借した。自分達の現在地と遺跡の位置を見比べてみると、遺跡までそれ程離れているわけではない事が分かった。地図はもう二枚あった。遺跡の一層目と二層目の内部を記した写しだ。
「半時も歩けば着きそうだ」
「寝ぼすけさん達もあと二、三時間で起きると思うし、それまでに戻りましょう。あたし達だけなら、二層目まで降りるのに一時間もかからないはずよ」
ケイティはスコットからせしめた銀貨を親指で弾いてキャッチした。
「そしたら書置きだけ残しておこうよ。流石に僕たちが急に消えたら、驚くだろうし」
スコットはそう言うと、丁寧に『一度皆を起こそうとしたのですが、ぐっすり眠ってしまっているようなので先に探査を始めておきます』とメモを残した。起こそうと思えば叩き起こせるが、それではわざわざ睡眠薬を使った意味もない。
「この人たちが目を覚まして最初に目にするのは、魔法書を手にここで優雅にお茶を楽しむあたし達の姿」
三人は荷物を纏め、不要な物を荷馬車に放り込み、馬達に留守番を頼んで遺跡へと向かった。
2016/12/27 改稿。




