1
十二歳になった年、シンは帝国が管理するトレジャーハンター組合に登録した。
組合に登録する満年齢の制限は十歳と低いが、トレジャーハンターとして本格的な活動ができるようになるまでの仕事は雑務ばかりである。食事処を兼ねる寄合所での食事の用意、皿洗い、トイレ掃除、事務用品の補充、外に出ての仕事は、遺跡近辺のテント張りや瓦礫運び等々。
任された仕事さえ真面目にこなしていればそれなりに高い給金が支払われる為、若くして組合に登録する子供も多いが、その大半は貧乏人か親なしで、小遣いを稼ぎに登録する子もちらほらいる。が、給金が高い分仕事もきついため、強い動機がない者は一週間も経たずに去っていく。
しかしそんな組合は、不治の病を患ってしまった妹を養いながら、彼女を救う唯一の可能性である『魔法書』を求めて旅立ち、行方不明になってしまった両親の行方を探さなければならないという事情を抱えたシンにとって、うってつけの場所だった。
シンはその日の分の給金を受け取ると、帰り道に甘菓子屋に寄って、キャンディを買った。
城下町の時計塔の天辺に登り、キャンディを舐めながら夕陽を眺める。
シンはいつもこの場所で、頬を柔らかい風に撫でられながら、西の彼方を見つめている。
茜色に染まる空と、金色に染まった平原はとても美しいけれど、その景色を眺める瞳は、地平線の彼方で行方不明になった両親の姿を探していた。
シンは冒険者であった両親が乗り越えてきた沢山の冒険譚を妹と二人、毎日のように聞いて育った。御伽噺のような世界を冒険し、困難を乗り越えてきた両親の話に、妹と二人でよく胸を躍らせたもので、だからこそ、二人が死んでしまうはずがないと何度も思った。
けれど、その冒険譚に心底感動できたのは、父が見せてくれた古傷が、その冒険が作り話ではないことを物語っていたからだった。
だからこそ、心のどこかで二人の無事を祈りながら、もうきっと帰って来ないのだろうと悟り始める自分がいた。
シンは切なくなる胸の想いを紛らわすように甘いキャンディを噛み砕いた。
時計塔が、一日の終わりを告げて、巨大なベルをがらんがらんと鳴らした。
その音にびっくりして塔の屋根から滑り落ちそうになると、何とかしがみ付いてほっと息を吐く。
「帰ろ」
こんなところで死んでたまるかと、シンは身軽な猫のように、時計塔を下りていった。