095話 シン対バロック(後編)
深夜ですが
「随分と驚いてるな。あぁ、さっきまでの殻の事か?あれはまだこの身体に慣れきってなかったから、瘴気の固定化、動かし方の補助としてあっただけだ。」
「………」
背中の痛みも相まって、頭が一切回らない
瘴気が身体?
さっきまでのは殻?
こいつは何を言っているんだ?
「もちろん誰でもこんなことはできねぇぞ?俺だから、俺だけが可能だ。」
原理はわからん、だが、こいつが実体を持たないゴースト系?の人間…いや、魔物と同じだということか。
斬られた背中に激痛を感じながら、力なく立ち上がり刀を構える。
こいつは倒さなきゃいけない、確実に。バロックの最終的な狙いが何なのかは全く知らないが、こいつはここで仕留めなきゃいけない。それを本能的に理解した。
「おいおい、流石にそこまで馬鹿じゃねぇだろ。」
痛みを堪えつつ、踏み込み斬りつける。
奴は躱す素振りすら見せずにそのままの斬撃を受ける、だが、やはり身体を素通りするのみで全く手応えがない。
やはり物理的な攻撃は無理なのか。だとすればあとは魔法。
無詠唱で魔法を叩き込むがそれにも全く怯まない。イマイチ効いているのかわからないが、眉一つ(その表情すら瘴気なので判断が難しいが)動かさずに受けきっているところを見ると、効果はないのだろう。
「もういいか?…さっきまでは楽しかったんだけどなぁ、やっぱり坊主もこの段階までは来れねぇか。もっと刺激が欲しくて強くなって、その結果戦いが面白くなくなるってのも考えもんだな。」
それは本心なんだろう、バロックは心底つまらなそうにそう呟く。
そして無造作に俺に剣を向け、振り下ろすと
「あん?」
俺の刀がその剣を防いでいた。
そしてその刀身はいつか見た時のように、淡く光り輝いていた。
「お前…」
バロックに対してではなく、刀に向かってそう話しかける。
【ーーーーーー】
「え?」
何か声が聞こえたような。
その幻聴のような声に気を取られていたせいで、次の斬撃に反応することができなかった。
バロックも今度こそ完全に捉えたと思ったんだろう、しかし先程と同じように全くの予備動作がなく、それこそ自動で刀が動いたようにバロックの剣を受け止めた。
「………何なんだ、そりゃ。」
奴もこの違和感の正体が刀にある事に気付いたんだろう。もしくは俺の何らかのスキルか。そう考えるほどに、俺の腕の動きが、刀の動きがおかしかったのだ。
【ーーーーーー】
「は?え?」
「?何言ってんだ、坊主?」
二度目の声。
いや、これ声じゃない、何か…思念のような。声として具体的に聞こえるわけじゃなくて、一瞬耳鳴りのようなものが聞こえて、唐突に何者かの意志が理解できる。
「『遣う』?何を?……『私』?もしかしてお前……この刀か?」
俺の言葉に呼応するように刀が数度瞬く。
背中の傷で血を流しすぎて遂に幻聴が聞こえるようになったよかと
どうやらそうではないらしい
「………その刀の光、なんだか気分が悪くなるな。へし折らせてもらうぞ。」
バロックが武器破壊、俺を狙ってではなく、俺の刀を狙うように斬撃を繰り出す。
その攻撃をいなす形で受け止め、流していく。
バロックは俺の刀に狙いを定めているために、こちらの攻撃に対する対処が微妙に遅れがちになる。
その身体の特性上、防御を考えなくていいからこその戦い方だろう。斬撃を斜めに受け流し、そのままバロックの隙だらけの胴体と思われる部分を横薙に切裂く。
「無駄だってのが………ぐぁぁぁぁぁ!」
直後、バロックから予想外の叫び声が発せられた。
奴も驚いただろうが、俺も驚いた。
一瞬バロックが霧散し、少し離れた距離で瘴気が集まりまた人間を型どっていく。
「ほんとなんなんだ!それはよぉ!」
声から焦りとも驚きとも怒りともつかない感情が垣間見れる。
「俺も何なんだか……ん?『破邪』?」
「『破邪』の特性持ちの刀かよ…クソが!だからその刀の光が嫌な感じするのかよ!」
俺が呟くと、例の幻聴が聞こえ脳内に『破邪』という単語が浮かび上がった。
それを口にするとバロックが酷く苛立った様子になった。
その様子と言葉から察するに、『破邪』の特性とやらは今のバロックにとっては天敵らしい。
「だがまぁ、俺が優位なのは変わらねぇ。坊主はかなりの手傷を負ってるし、逆を言えばその気味悪い刀じゃねぇと俺に傷一つつけれねぇんだからな。」
そう言うと、バロックは身体を霧散させその存在を霧状にした。
奴が瘴気となったことにより、『気配察知』には一切引っ掛からないようになってしまい、目視に頼るしかなくなっている。
更にその目視でも、今みたいに霧状になられるとそれすら通用しなくなる。どんな原理かはわからないが、奴の持ってた剣すら視認できなくなる。
「くっ!」
「運のイイヤツだ!」
攻撃前の強烈な殺気を感じ取り、ギリギリで剣を受ける。勿論、刀にも以前のように肉体強化魔法をかけて、剣速も上昇させているからできる事だ。
でなければいくら殺気を感じ取っても、とても防御が間に合う速度ではない。
バロックは霧散、顕在、攻撃、霧散と繰り返し、少しづつ追い詰めてくる。
四方八方上下左右全方位から繰り出される斬撃を防ぎ切ることなど、さすがにそう長く続けれない。
刀が光り始めてからのバロックの異常な嫌悪感、それから生まれる殺気、刀の自動防御、これらが揃って本当にギリギリのラインで防いでいる。
だが、それも限界に達していた。
剣の勢いを殺しきれず、後方に態勢を崩していまう。
「その刀ごと死ね!」
体制的にも自動防御が不可能な位置に、俺が反応できない角度の一撃
凶刃が俺を貫こうとする
その瞬間
「……嬢ちゃん」
「随分と雰囲気が変わったわね、師匠…いえ、バロック。」
クリスが、いつもの雰囲気のクリスが、バロックの剣をギリギリで止めていた。
「『転移』」
そして次の瞬間にはアレクが目の前に現れ、俺とクリスを連れてバロックから大きく距離を取った。
「僕らも相手がいないんだ。混ぜてもらってもいいかな?」
お読みいただき、ありがとうございます!
ブクマ・感想・評価等本当にありがうございます!これからも楽しんでいただけるよう頑張ります。




