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選択結果は異世界でした  作者: 守月 結
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094話 シン対バロック(中編)

 シンが肩で息をする一方、バロックは涼しい顔をしている。

 単純な体力の差、と言えば良いのだろうか。

 お互いに全力疾走で戦っており、そうなってしまうのも仕方ない。


「ていうか…お前、おかしいだろう。」


 シンの体力が低いということは決して無く、バロックが異常なのだ。


「時間が経つごとに、動きに精彩さが出てきてないか?」


「やっとこの身体も馴染んできたしな!もっともっとだ、お前だってもっとできるだろ?さぁ来てくれよ!!」


 その顔は狂気と狂喜

 以上という言葉だけではとても言い表せない


「あたま、おかしいだろ!」


 無詠唱で『ヴォルテクス・ディスチャージ』を放ち、刀で斬りつける。

 だが魔法を一切意に介さず、シンの斬撃のみの反応し反撃をするバロック


「(くそっ!やっぱり魔法は目くらましにすらならない!こいつ一体何なんだよ!!)」


「魔法なんてつまんないもんはやめようぜぇ!殺し合いだろ!?剣で!刀で!命のやり取りだろう!!」


 その魔法で開けた土手っ腹の風穴、そこは傷が塞がって…はいない、ただ瘴気が穴を覆い尽くしている。


 どうなっているんだ?

 こいつは一体何なんだ?


 今この瞬間において不要とも思える疑問、バロックがどういう存在なのか

 だがシンは理屈でなく、それを理解していないと致命的になると考えている

 取り敢えず物理攻撃は効かない、なら魔法かと思ったのだが、それすら効いていないように見える


「(お約束だと、どこかに心臓のようなものがあるんだが…)」


 いくら魔法で視力強化しても、そういったものは見られない。

 バロックの魔力が集まっていると思える部分も、瘴気が集まっている部分も


「おらぁ!!」


「うぉぉぉぉ!!」


 剣と刀が交差し、鍔迫り合いの形になる。

 お互いの剣気がぶつかり合い、空気が破裂するような音がする。


「やっぱりまだやれるじゃねぇか!!」


「道中鍛えられたんでね!」


 ぶつかり合った剣気が限界を迎え、鍔迫り合い部分から弾けるように炸裂する。

 その衝撃で二人が離れた瞬間、互いに次の一手を打っていた。


「『牙心がしん』!!」


「『かすみ』!!」


 二人は同時にスキルを放つ

 一方は回避不可能の高速の片手突、一方は干渉不可能の霧の幻影

 バロックの突きは完全にシンを捕えていた、だが今のシンには一切の攻撃が通じない

 そしてシンのスキルは次の一手への布石、その違いがこの一瞬を分けた


「『高速連続剣』!!」


 干渉されず、干渉できない霞状態から復帰し、シンが使える基本スキルで『気配察知』の次に使用回数の多いスキルを放つ。

 バロックは完全に意表を突かれた形だ、何が起きたのか理解できないという顔をしている。


 位置取りは完璧、間合いも絶妙、相手バロックは隙だらけ


「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 高速という言葉では言い表せない程の速度で繰り出される剣技、しかもそれが連続でダース単位で飛ぶ。

 目の前の身体は文字通り切り刻まれ、バロックの伸ばしきった右腕が宙を舞う。

 

 今しかない、これが最大のチャンスだ。

 『かすみ』は不意打ちでしか使えない、二度目はないだろう。

 俺自身の体力も、今が全力を出せるギリギリのところだ。

 奴の弱点、急所ってのは結局分からないが


「小間切れになっても生きていられるってんなら、やってみろぉぉぉぉぉ!!」


 止めない、まだ止めない

 限界まで、スキルを使えなくなるまで

 本当に小間切れになるまで

 斬りつけてやる






「………はぁ………はぁ………」


 息も絶え絶え、本当にスキルの限界まで刀を振るった

 目の前には、最早肉片となったかつてはバロックと呼ばれていたモノ

 原理は不明だが奴には血液がなかったので、見た目には小間切れの肉片が転がっているのみ

 そして、その肉片からは視認できるほどの瘴気が煙のように立ち上っている。


「……まさか、腕一本から再生するとかいうオチはないよな?」


 その肉片一つ一つを丁寧に魔法で焼き尽くし、唯一原型をとどめている右腕も魔法で焼き払う。

 肉の焼ける臭がしてくる、その臭いはよく嗅ぐ焼肉の旨そうな臭い


「…ぅっ」


 その臭いが元は人間…奴が正しく人間かは疑問だが、そう考えると自然と嘔吐感が湧き上がる。


 全ての肉片を焼き尽くし、バロックがいたという痕跡は、いまだ漂う瘴気のみ

 正直に言うと勝ったとは到底思えない、まだ奴が何処かにいるかのような奇妙な感覚

 だがその姿はどこにもなく、俺の『気配察知』にすらつかめていない


「そういえば他の奴らは…」


 体力的には結構ギリギリ、それでも他のメンバーを助けに行かなければ

 バロックとの戦いに集中しすぎて、『気配察知』で感じてはいながらも意識の外にやっていたウィル、アレク、クリスに意識を向けようとした時






「ガッ!!」


 背後に強烈な『熱』を感じ、咄嗟に前へつんのめってしまう。


 一体何が起きた!?

 背中が熱い!

 まるで燃えているようだ!!

 何処かからかの攻撃!?

 まさかの他の敵が……


 そして気付く

 これは『熱』ではない

 燃えるような『痛み』

 アドレナリンが出ていない状況で受けた、予想外の『斬撃』





「なんだぁ?よそ見とは随分余裕だな。」


 振り返るとそこには、先程小間切れにして肉片ごと間違いなく消滅させたバロックが剣を片手に立っていた。


 なぜ!?

 そう考えた瞬間、同時に理解した。

 バロックの身体が、姿が、『透けていた』。そして似たようなものをついさっき見たのを思い出した。


「お…まえ…」


「おう。気付いたか?俺の新しい身体、それはな、この『瘴気そのもの』だ。」


お読みいただき、ありがとうございます!

ブクマ・感想・評価等本当にありがうございます!これからも楽しんでいただけるよう頑張ります。

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