093話 シン対バロック(前編)
今回短めです
「は、はは、あはははははははは!!」
狂気の剣舞
まさに言葉通り
「何がそんなに楽しいんだよ!」
こちらは冷静に、相手の隙を見つつ刀で捌く。
たまに剣閃を掻い潜り、そう軽くない手傷を負わせる。
向こうは完全に『酔って』いる、その圧倒的な威力と狂気に押しつぶされなければ、それほど難しいことではない。
「何がって!?」
バロックが力を貯める
「この!!」
剣を上段に構え
「命のやり取りが!!」
一気に振り下ろされる
「楽しいんだろうが!!」
構えも何もあったもんじゃない、ただただ力任せの大振りの一撃。
だが、それこそがバロックを強者たらしめる、必殺技にまで昇華されるかのような一撃
「くっ!」
刀で受けるが、とても衝撃を受け止めきれない。
足元の地面に亀裂が入り、大きなクレーターが出来あがる。
「まだだろ!?まだ全然だろ!?もっと行こうぜ!!おい!!」
「っつ……キャラ変わりすぎだろ!このバケモノが!!」
対抗するように、こちらも力の限りバロックを押し返す。
バロックの身体がほんの少しよろめく。
「ここ!!」
その隙を見逃す程、俺は甘くない少しずつ貯めていた魔力を一気に解放させる。
「『超電磁砲』!!」
帝国に入る際、ガインに対し一度だけ発動できた、無詠唱版の『超電磁砲』(厳密には、行程のみ無詠唱)
それはここに来るまでの道中でかなり練習し、それなりの発動速度、魔力の節約ができるようになっていた。
射程距離はせいぜい二十メートルと短いし、連射はまだできない、一発発射後は数呼吸の間が必要だが、それでもおそらく俺が使える単体魔法では間違いなく最強の一発だ。
『超電磁砲』は正しく目にも留まらぬ速さでバロックを撃ち抜く。
身体の中心に確実に致命傷、いや、即死レベルの風穴を開け、帯電した軌跡のみを残した。
「……」
バロックは無言でその風穴を見下ろしている。
普通ならここで勝負は着くはず、普通なら。
「おいおい、聞いてたよりもずっと便利な魔法じゃねぇか。」
「……そうかい、教えてやらねぇよ?」
特に驚いた様子もなく『何事もなかったかのように』そう話しかけてきた。
「俺も一ついいか?お前のその身体、一体どうなってんだよ。人間を辞めたのは瘴気を吹き出した辺りから思ってたけど、とうとう生物そのものを辞めたのか?」
「あん?辞めたってよりか『進化』だよ。この程度屁でもねぇ。」
よく見ると、身体の中心に空いた巨大な穴から血も出ていない。
高熱の弾丸が高速で開けた穴だし、周りの肉を焼き焦がしているから血が出にくい、というのもわかるが、全く血が出ないのはおかしい。
そこでふと気がつく。
俺が付けた刀傷、そこからも血が出ていない。
傷口からは瘴気が湯気のように立ち上るのみ。
その瘴気も、古い傷からはもう出ていない。
魔物だって、身体を傷つければ血か体液が出てくる。
お会いしたことはないが、ゴースト系の魔物なら血は出ないだろうが、そもそも物理攻撃が効かないはずだ。
では目の前にいる、こいつは一体…
「まぁ続きをやろうや!」
バロックはこっちの疑問など一切気にせず、剣を振りかざし襲い掛かってくる。
身体に大穴が空いた男が襲い掛かってくる、なんとも不気味な光景だ。
その大穴に特にダメージがないのか、バロックの剣筋は鈍ること無く、むしろ鋭くなっていく。
お互いに無詠唱の魔法、高速の剣技、死など一切気にしていないかのような格闘
飛び散る火花、魔法と魔法のぶつかり合い
お互いに互角、そう思える時間が永遠に続くかのような
だが均衡はいずれ崩れる
「はぁ…はぁ……」
「どうした?随分とつらそうだな。」
先に音を上げたのは
「…お前もこんなもんなのか?坊主。」
シンだった
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