089話 ウィル対オルド(前編)
ちょっと短め
「はぁ!」
ウィルが驚異的な脚力を持って白衣の男オルドに迫る。
実のところ、ウィルは体外に向けて放つ魔法、所謂放出系の魔法を極端に苦手とする。
正直魔法全般が不得意なのだが、それでも獣人として生まれ持った身体能力と拙いながらも肉体強化系は使用することができる。
獣と人間のあいの子、というとこの世界においては大した身体能力に感じないが、ウィルは、ウィルの種族『だけ』は別なのだ。
「『アイスニードル』」
オルドはそんなウィルをあしらうかの如く、進路上に無数の氷柱を出現させる。
だがウィルにとってはそんなものは全く意味を成さない。
右へ左へ、地面から一瞬で生えてくる氷柱を華麗に躱していく。躱し切れないものは自慢の拳で破壊し、時には生えてきた氷柱を足場として使い、一直線に向かうのとそれほど変わらない速度でオルドに迫る。
「こんなもん!」
「サンプル風情が、調子に乗るなよ。」
オルドは嫌悪感を一切隠さない表情をし、次の魔法を放つ。
「『アースウォール』」
魔法自体は中級。込めた魔力は上級。そして魔法範囲は上級以上。
オルドが作り出した岩の壁は、『ウィルを取り囲むように』して展開する。
「(これは簡単には壊せないかな!)」
野生の勘とでも形容すればいいのか、ウィルは瞬時にその壁の強度を理解した。無論、肉体強化魔法で視力も上がってはいるが、ウィルの力量では魔法の威力や強度までを瞬時に見抜くことは出来ない。
そして岩壁はウィルの左右にも展開し、回りこんで攻撃をするという戦法も難しい。
「なら上!」
脚部に力と魔力を込め、それなりの高さの岩壁を飛び越える。
ウィルが岩壁よりも高く飛び上がった直後。
「『サークル・サンダーソード』」
ウィルを取り囲むように、全方位に雷の剣が配備されていた。
「え!マズっ!!」
「遅い。」
オルドのその声に反応し、一斉にウィル目掛けて襲いかかる無数の剣。
空中で回避する手段を持たない上に、魔法自体不得意なウィルにできることは身を固めて来るであろう攻撃を耐えるのみ。
「ぐううぅぅぅぅぅああああ!!!」
雷の剣を全身に浴び、その身を貫くような雷撃に耐え切れず声を上げてしまう。
そしてそのまま重力に逆らうこと無く、地面へと落下する。
「う…うぅ…」
「さすが獣。知能も低いようだな、こんな単純な手に引っかかるとは。」
そう言いつつオルドは次の魔法への魔力を溜め始める。
ウィルにその魔力量を正確に知る術はないが、上級魔法以上であることは明らかであった。
「そら。『アイアンソード』。」
土属性魔法で金属のみを選別し圧縮、まさに剣そのものを放つ魔法。
余談だが、これはシンが戦争で使用した『超電磁砲』の元となる『アースジャベリン』と近いものだ。あれはあくまでシンが自身の制御できる大量の『アースジャベリン』を使ったため、金属のみ抽出することは出来なかった。
数を減らせばシンも同様のことができるだろうが、そうすると流石に魔力と制御のリソースが足りなくなるので、あの時は使わなかったのだ。
それだけでオルドが、少なくとも土魔法に関してはシンと同じくらい魔法制御に長けていることの証であった。
「くっ!」
ボロボロの身体にムチを打ち、迫り来る剣をギリギリで躱すウィル。
魔法で作られた鉄剣ではあるが、その斬れ味は十分すぎるほどなのは見ただけでわかった。
「まだ動けるのか、サンプル。」
「ウィルだよ!ちゃんと名前があるんだから!」
「サンプルで十分だろ。お前の身体が重要であって、名前なんてもんは意味を成さないんだからな。」
「ぼくの…身体?」
オルドは困ったようにそのボサボサの頭を掻きながら説明をしだした。
「さぁ?バロック様には「殺してもいいがあの獣人は貴重だから、形が残るように殺せ」と仰せつかっているからな。」
少し不貞腐れた感じがするのは、その詳しい理由を教えてもらえなかった不満からであろう。
「それでもぼくの名前はウィル!ウィル・シルヴァリア!」
「うるさいな…いいからさっさと死ね。」
オルドが苛ついて魔法を連発する。
「『ファイアーソード』!『アイスジャベリン』!『サンダーストーム』!!」
時たま魔法を食らいつつほぼ紙一重で回避していくが、最初に食らった『サークル・サンダーソード』が尾を引いているんだろう、動きに精彩さがない。
「(くっ……身体が重い。さっきの魔法のダメージが全然抜けてない。近付かないとぼくの攻撃は当たらないのに、近付けない!)」
ウィルの表情に次第に焦りの色が浮かんでくる。
このままではジリ貧、それは間違いない。かといって現状を打破する方法も思いつかない。
「(どうする!?どうする!?)」
「まだねばるか!サンプル!」
オルドの魔法はどんどん激しくなっていく。
対魔術師の実戦経験が少ない自分にはこんな時の対処法はない、あるとすれば道中に師匠に教えてもらったことだけ。
「(師匠のこんな時のアドバイス…確か………)」
ウィルはそれほど賢いとは言えないが、それでも脳をフル回転して教えてもらったことを何とか記憶の海から思い出そうとする。
一瞬の逡巡
そして、何かを決意したウィルはとある行動に出た。
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ウィルの一人称が統一されていなかったので「ぼく」に統一します。
過去分は順次修正していきます。




