082話 見えた目的地
短め
ちょっと配分を間違えたかも
シュビルヴィッツ(最初の街)を出て、ただひたすらに歩く。
歩く
歩く
………
「………ふかふかの布団で寝たい」
最初に音を上げたのは、誰であろうシンであった。
「あたしだってそうしたいよ。」
「ここまで野宿が続くのはちょっとキツイですよね。」
街を出てから今日で三週間。
いくつか村はあったが、はっきり言ってローグス村程度の規模しかなく、宿なんてなかった。
そこで乗り物…ルジャータでなくとも、馬かなにか売ってればよかったのだが、生活で使う分の家畜しかいないので、譲ってくれとは言えなかった。
つまり、俺はこの世界に来てから初めて『完全徒歩での長旅』というものを経験している。
前は徒歩は一週間程度、しかも追われていてそれどころではなかった。
今回も追われてはいたが、二・三日も逃げれば、まず追ってこなかった。
「なんでかしらんが魔物も少ないし…このペースだと食料も心もとないし…野草ばっかりはもう嫌だ…」
「シンさん…お気持はわかりますが…」
「川でもあれば、僕が師匠のためにも獲ってくるんだけどね~」
なぜかこの辺は荒れ果てた大地か、岩山か、ほんの少しの草原程度しかない。
今現在も、ちょっとした岩山を軽い強化魔法で登っている。
出会う魔物もやたらと少ない。
そのせいか村自体も少ない。
つまり
「この辺は全然人がいないから研究がしやすくてね~。それに僕は『転移』スキルが使えるから、距離なんて関係無かったし。」
「よりお前が嫌いになったよ、おめでとう。」
確かに邪魔が入らない、静かに研究ができる、誰かに見つかるリスクも少ない、秘密の研究所を置くにはいいところだろう。
しかも本人は移動に事欠かないスキル持ち、そりゃ人里離れた場所に拠点を作るよな。
「でももう少しだよ~、この辺は見覚えがあるし。」
「その台詞をこの三週間で何度聞いたと思ってるんだよ!」
「いやほんとに。あの山さ。」
進んでいた岩山が少し開ける頃、アレクが指をさす。
その先にあるのは、ガイレン山脈よりもずっと低い…元の世界だと、観光登山ができる程度の山が見える。
この辺の植生とは打って変わって、緑生い茂る綺麗な山だ。
その山の麓くらいまで草原が続いており、今日中にはあの辺りまで行けるだろう。
憎むべくは、その山から伸びている川が完全に俺達の方とは別方向…右側へ流れていっている。
「……あの川がこっちに流れてさえいれば…ここまで辛い旅路じゃなかったろうに…」
誰に向けたわけでもない、自然に対する恨み言を言いながら、ゴールの見えてきた旅に少しだけ足取りが軽くなる。
「そう言えば、あの近辺に結界とかはないんですか?」
サラがアレクに尋ねる。
確かにその可能性もあるな。
「ん~僕がいた頃には研究所の周りにしかそういうのは張ってなかったかな。」
「研究所の周りか。その研究所ってのはあの山のどの辺にあるんだ?」
「僕には見えないけど、ちょうど中腹くらいかな?白い外壁のそれなりに大きな屋敷みたいなの。」
そう言われて、各々が視力を強化し山の中腹あたりを注視する。
「……あった。」
最初に見つけたのはクリスだった。
「あぁ、確かにあるな。」
「僕はまだ見つけれてない!」
「ありますね…ほんと、お屋敷みたいな…」
ここからだとそこまで詳しくは見えないが、なんとなくそれっぽい建物は、木々の間から見えた。
「ね?あったでしょ?」
何故か得意気に胸を張って自己主張をするアレク。
ここで嘘を言ってたら一発ぶん殴ってるところだ。
「……あの辺は身を潜めれるところはないな。今日はここで一泊して身体を休めるか。」
研究所までは少しの草原と、山の麓の木々、それしかないのだ。
今現在で結構疲れているのに、あんなだだっ広い所で迎え討たれたら勝てるものも勝てない。
「了解。」
意図が伝わったらしく、各々が野営の準備をする。
まだ陽はあるが、明日のためにも休憩するのがいいな。
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「近くの岩山まで来ているとこのことです。」
「へぇ、結構時間がかかったじゃねぇか。待ちくたびれたよ。」
バロックはそう言うと、大きな欠伸をしてそれから身体を伸ばし始めた。
「で?すぐ来るのか?」
「いえ、岩山で一泊し明日に攻めてくる予定だそうです。」
「なんでぇ…まだ来ねぇんじゃねぇか。」
その声からは落胆の色が濃く見える。
バロックが早く逢いたいと思っているのは本心だろう。
「で?アレックスの小娘も一緒か?」
「はい、封印状態は変わらずですが。」
「まぁいいや。あいつの事ぁは任せる。俺は坊主と戦えればそれでいい。」
そう言うと興味を失くしたかのように、今度は眠気覚ましではなく眠気を抑えれないといった意味で欠伸をした。
「んじゃ、来たら手はず通りに。俺は『この身体』を少しでも馴染ませて、万全の状態でやりてぇしな。」
「は。承知いたしました。」
そう言って報告した色白の男、は下がっていった。
「驚くかねぇ、坊主は。」
仄暗い瞳を輝かせながら、狂人は笑ったのだった。
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