077話 依頼達成
仕事に時間を取られてずっと更新出来ておりませんでした。
本日から通常更新に戻りたいと思います。
よろしくお願いします。
「------ッ!!」
胸の痛みが最高潮に達している。
その痛みで声すら出ない、というか、単なる痛みというよりも息苦しさと脳髄を焼ききるかのような、今まで経験したことのない激痛が意識の殆どを支配する。
よくある漫画で「肋骨が一本持ってかれたか」「いってぇ…」とか、その程度で済むはずがない、めちゃくちゃ痛い。
「…………おーい、だいじょーぶかい?」
アレクが呑気な顔をして近づいてくる。
まぁ、カースドラゴンを倒すことも出来たし、危険がないと思って近づいてきたんだろう。
「ぜ…ぜん…ぜん……だい、じょうぶ…じゃ…」
「あー、はいはい。痛いのはわかってるよ。アイテムボックスから薬草を取り出してもらえるかい?急いで手当してあげるから。」
少し言い方に引っかかりがあるが、アレクに言われたまま薄れゆく意識の中で、アイテムボックスを操作し無造作に格納している薬草を取り出す。
散らばった薬草をアレクが無言で回収し、急いで俺の鎧の隙間から、折れたと思う場所に塗りこんでいく。
「………がっ!!」
「はーい、痛いねー。少し我慢してねー。『時間との勝負』だから。」
激痛で思わず呻いてしまう。
意識を手放せばどれだけ楽なことか、だが、俺の中の何かが気を失うことを許さない。
どれだけの時間、薬草を塗りこまれていたかわからないが、今現在は単純な痛みしか感じない。
おそらく数分ではあるだろうが、死の淵に立たされた感覚なのか、数時間は経っているように感じた。
「くっそ……だいぶ楽になってきたけど、まだ痛みが…」
「はいはい、無駄口を叩かない。こっちは急いでるんだから。」
そう言うアレクは、確かに額に汗をにじませ、急いで薬草を塗りたくっている。
ちなみに薬草は、実際に食べるか煎じて飲むか磨り潰して患部に塗れば効果がある。
今回はアレクが磨り潰して塗りたくっている。
「…一体、何をそんなに急いで…」
さっきから微妙に引っかかっていたんだが、アレクはやたらと急いでいる。
カースドラゴンも倒したし、何をそんなに急ぐことがあるのか。
「気づいてないのかい?まぁそんな余裕がなかったってことか。あれを見てごらん。」
アレクが指差す先、そこには
「な!!……ごほっ!……なんだよ、あれ!!」
四足で踏ん張っていたカースドラゴン、俺はそれを上下に間違いなく斬り裂いた、そして奴の身体が崩れ落ちるのを間違いなく確認した。
だが、あそこに見えるのは…
「カースドラゴンは死んだよ、それは間違いない、僕が近寄れるくらいまで瘴気が落ち着いてるから。でもね、この沼地が悪い。数多くの魑魅魍魎が、強大な力を持ったカースドラゴンの死体に群がっている。最悪の場合、ドラゴンゾンビになるよ。」
綺麗に上下に切り裂かれたカースドラゴン、そこに纏わり付く、怨霊…と言えばわかりやすいか、ドス黒い霊魂のようなモノ。
そしてそれに呼応するかのように、カースドラゴンの死体がうごめいている、その瞳には生気はなく、虚ろな瞳をしている。
切り裂かれた上部と下部がお互いを求めるかのように、夥しい血液を流しつつくっついたり離れたりしている。
その切断面が鋭いからなのか、それとも別の要因なのか切断面が合わさるだけで、すぐにずり落ちてしまう。
その度に生肉と血液のこすれる、不快で生々しい水音が聞こえてくる。
臓物が辺り一面に撒き散らされ、それ以上に大量の血痕が周りに飛び散っている、その様子はまさにホラーと言うしかない。
「あれは…どうすればいい?」
「割りと簡単。光魔法か火魔法か水魔法、どれかで浄化してやればいい。ただ、ドンは逃げたし僕は何も出来ない、だから君を急いで治しているのさ。」
光魔法とやらは使えないが…火魔法、水魔法なら少しは使える。
ならさっさと治さないと、今からドラゴンゾンビなんて強そうな奴と戦う気力なんてない。
「……よし、なんとか立てるようにはなった、ありがと。」
「どーいたしまして。」
「で?どうやって浄化すればいいんだ?」
「火魔法なら、焼きつくしちゃえばオーケー。」
ふむ、だがそれだとドンとの契約違反になるな。
「水魔法は?」
「一番いいのは聖水を作り出す魔法なんだけど…使えないでしょ?なら、大量の清潔な水をぶっかけるってのが一番かな。」
水で洗い流す感じか、『ウォーターボール』でいいのかな?
「了解。んじゃ『ウォーターボール』!」
蠢くカースドラゴンの頭上に、巨大な水の塊を生成していく。
大量、と言われたからには、出来る限り大きくしなきゃダメかな。
数リットル…数百リットル…数トン……
かなりの大きさになってから、固定を解き下のカースドラゴンの死体目掛けて落下させる。
かなり大きな水しぶきが上がり、俺達のいる場所まで大量の水が押し寄せてくる。
流石に多すぎただろうか?
大量の水に押し流される感じで、周りを漂っていた黒い霊魂も流されていった。
「どうやらコレで良かったみたいだな。」
「ばっちり。」
跡に残ったのは、ドス黒い霊魂が消えた、血を洗い流されたカースドラゴンの死体、それと…
『……人間ごときに殺されるとはな。』
「なっ!?」
淡く光る霊魂だった。
『そこまで驚かなくてもよかろう、屈辱だが最期に礼を言いたくてな。』
「礼?」
『我が肉体が低級な魑魅魍魎のいいようにされるのを防いでくれたではないか。人間に殺されたのは腹立たしい上に屈辱ではあるが、勝負に負けた上に礼も尽くさぬようではプライドに関わるのでな。』
さっきのカースドラゴンの霊魂なのか?
にしては随分と聞き取りやすいような…さっきまでは頭に響く感じで聞き取りにくかったんだが。
『我が子を殺された事は許せん、だが、我が子を殺したのはお主ではない。更に、我を失っていたとはいえ、我を倒したお主に死後の肉体を助けてもらったのだ、礼を言う。』
「あ、はい。」
随分冷静というか…知的というか、懐が深いというか。
我を失っていたというからには、カースドラゴン状態の時は前後不覚だったのか。
『またいずれ会うことがあれば、改めて礼をさせてもらおう。ではな。』
そう言って霊魂は空へ飛んでいった。
「…会うことがあればって、死んでんじゃん。」
「いや?ドラゴンに関して言えばそうでもないよ?」
「どういう意味だ?」
「ドラゴンは、魂を滅ぼされないかぎりは記憶を持って輪廻転生する生命体なんだ。」
不死鳥…所謂、フェニックス的な力も持ってるのか。
「なら、数年後とかにどこかで会うこともあるのかもな。」
「まぁ……普通にドラゴンが成長したら、数百年単位だと思うけどね。」
随分と気の長い再会の約束だな。
霊魂を見送り、そんなことを話していると沼全体を覆っていた瘴気が晴れていくのを感じた。
それでも「死者の沼」と言われているだけあって、完全に瘴気がなくなるわけではないが、毒の沼に見えたものは普通の沼のような色に変わっていき、全体的に紫っぽい森の様子も、少し深いジャングルのような様相になってきている。
だが、これでやっと依頼は達成した。
今度こそ、あの三人の情報を手に入れなければ。
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