072話 情報収集
原因不明の腹痛がお昼から続いています
「いるかい?」
「いや、それらしき気配は感じない。」
宿場街に足を踏み入れても、特に三人の気配は感じない。
国境を無事に越える事ができたなら、間違いなく俺達より早くついてるはず。
ここまで探して見つからないなんて。
「原始的な方法で行くしかないか。」
「聞き込みだね。」
何件か宿屋に入って、クリスたちの特徴を伝え見たことがないかを聞いて回る。
どの宿もそういった者は泊まってないし、見てもいないとの事だった。
そろそろ俺たちも宿を探す必要があったので、最後の宿に聞いたついでに宿を取る。
「ちなみに、この辺で情報を得ようとしたらどこに行けばいい?」
金を払い店の店主にそう尋ねる。
ちなみに一人銀貨十枚という、なかなか高額だった。
ブルムの街の倍する。
「うーん、お客さんはそれなりに腕は立つみたいだし…そこの路地を真っすぐ行って右側に『べヘット』ていう酒場があるんだが、そこなら大体の情報が集まる。」
「ほぅ。ちなみに腕が立たないといけない理由は?」
「まぁ…手荒い歓迎を受けるだろうね。そこで腕前を見せれば問題ないけどさ。」
荒くれ者が集う酒場ってことね。
でも情報は酒場にあるって、なんか冒険っぽくていいね。
「勝手な想像で悪いんだが、そういう情報ってギルドに集まるんじゃないのか?」
ふと思ったことを訪ねてみる。
「お客さん、もしかしてこの国の人じゃないのかい?」
店主が怪訝そうな顔でそう言う。
なにかまずったか?
「あぁ、いやなに、この国でギルドなんてほとんど機能してないからさ。そんなことを尋ねられるとは思ってなくてね。」
店主が俺の顔を見てそう付け加える。
「なるほど。俺たちは…王国から来たんだ。それよりも機能してないってのは?」
王国かい、と店主は少し驚いた顔をしたが、すぐに答えてくれた。
「ギルドはあくまでギルドカードを発行する、マニアがランクを上げるってためだけに存在してるようなもんさ。たいてい欲しい素材とかは自分で取りに行くし、実力が足りないなら自分で用心棒や名の知れた冒険者に頼んだほうが安いしね。
素材だって、直接店に買い取ってもらったほうが割高になるしな。そうなるとギルドは他の国に比べると格段に利用頻度が下がる。
まぁ、聖教国はギルド自体ないがね。」
想像よりもずっと実力主義のようだ。
ほんと資本主義を突き詰めたような国だな。
「そうなのか。すまない、教えてもらって助かった。」
そう言って俺たちは宿の部屋に行き、装備を整えたりなんだりした。
本来は、荷物を置いたりするんだろうが、俺のアイテムボックスのおかげで、殆どの者はこの中に入る。
「僕もアイテムボックスには自信があったけど、君のには負けるね。」
生物以外なら、ほぼほとんどの物を入れることが可能となっている。
流石に百キロを超える物は入れれないが、そんな物をアイテムボックスに入れる機会はないだろう。
装備もそこそこに、俺達は教えられた酒場へと向かった。
「これはなんとも。」
「うーん、情報収集のためでも入りたいとは思わないね。」
俺達の目の前には、こちらの文字で『べヘット』と書かれた看板が掛かった、なんとも世紀末感の漂う酒場が建っている。
正確には看板の文字もギリギリ読めるレベル、というか間違いなくデザインではなく、普通に傾いている。
更に、何故か酒場の周りには、ついさっき怪我をしたとみられる冒険らしき人物が転がっている。
もちろん生きているが、そんなのが十や二十ほど酒場の前に転がっているのだ、ヤバイのは間違いない。
そして、血だらけのだらしない格好をしたボサボサの長髪に無精髭の男が、煙草らしきものを吸いながら店の入口の段差に無気力に座っている。
だがこいつ…
「………なんか用か?」
その男がそう尋ねる。
想像通り無気力、且つめんどくさそうだ。
「情報が欲しい。」
「じゃぁ出直しな。」
そう言って男が煙草を真上に軽く投げる。
なぜ真上?と思った瞬間
目の前でやたらと湾曲している剣と、俺の刀が交差した。
それと同時に、甲高い金属音がスピーカーのように周囲に広がる。
「もう一度言う。情報が欲しい。」
刀を交差させたまま、俺は再度言う。
表情は全く変えず、雰囲気も変えない、殺気も出さない。
まるで何事もなかったかのように、再度言った。
男は目を見開き、驚いた表情で黙って聞いていた。
「………バケモノかよ、あんた。」
剣を収めると同時にそう言う男の声は、諦めとすら感じられる。
この男は一目見た時から警戒していた。
全身血だらけだが、それは全て返り血
無気力だか、はっきり言って隙がない
俺の『気配察知』でも、相当な実力者だとわかる
これだけ揃っていれば、警戒するなという方が無理だ。
「付いてきな。」
ぶっきらぼうに吐き捨てる男。
その男に後ろから声をかける。
「あと三人くらいか?面倒だから一番強い奴とやらせてもらえれば、すぐにわかると思うんだが。こっちもそれなりに急いでるもんで。」
この男より、少し強い気配が中に三~四人程いる。
他は結構な人数がいるが、こいつよりもずっと弱い。
更に店の奥に行くごとに強さが増している。
つまり、"手荒い歓迎"とやらは何回かあるんだろう。
「…決まりなんでな。あんたたちが欲しい情報によっては、これ以上の戦闘はねぇよ。」
男が頭を掻きながら、こりゃどうしようもねぇなって顔をする。
こっちだってヤクザじゃないんだし、全部ぶっ倒して欲しいもんだけ奪うなんてことはしない。
「君、なかなかえげつないよね。」
「そうか?元の世界では結構有効な手段だったけど。」
何をされても動じず、たとえ驚いたとしても表情に出すこと無く淡々とこっちの要求を伝える。
向こうが何か提案や反論を言っても、用意しておいた資料での反論か、もしくは冷静に論破する。
そうすると、向こうはこっちの表情が読めないせいか、だいたい折れてくれる。
こっちがギリギリの綱渡りでも、決して表情に出さず、努めて変わらない態度で接する。
「それはね、インテリヤクザがやる手法だよ…」
アレクに盛大に呆れられた。
……そんなつもりはないんだけどなぁ。
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