070話 残された二人
ガインとの魔法の打ち合いが終わってすぐ。
俺たちはルジャータを走らせ続けていた。
「まだかい?」
「…俺の『気配察知』の範囲内にギリギリ引っかかってる。余裕を持ってもう少し走らせよう。」
あいつ相手に用心しすぎるということはないはずだ。
それから暫く走らせ、どう考えてもガインの察知範囲から逃れたろう、と思える所で速度を緩める。
「もういいだろう…あー、ホントに死ぬかと思った…」
事実、肩の一部を切り取られるという、なにげに大怪我を負っているのだ。
「まぁ一応お疲れ様、って言っとくべきかな?丘から見てる分には、他の人達も手こずってたようだけど…国境を越えれた事を祈るばかりだね。」
アレクによると、ちょうど俺が街の入口を破壊した辺りで、門の方は動きが止まっていたらしい。
それが果たして、クリスたちが国境を越えたからなのか、やられてしまったからなのか…
「多分大丈夫だろう。クリスもサラもウィルも…それなりに強いんだし。」
そう考える、そう願う。
「それよりも、僕達の方を何とかしないとねぇ。」
そう、三人が国境を越えたと考えると、俺達がいつまでも王国にいては意味が無い。
更に、門をくぐるのはほぼ不可能と考えていいだろう。
俺達が王国側にいるのはガインが見ている。
そして、今度は俺達が門を通過しなければいけない、それは相手もわかっているはずだ。
それに引き換え、こっちは俺一人な上に、足手まとい状態のアレク。
強行突破は無理だし、偽装するにしても今まで以上の警戒網をかいくぐる自信はない。
だが、俺とアレクだからこそ取れる手段もあるわけで。
「……よし、密入国だな。」
俺たち"転生者"であれば、門をくぐらずとも問題ない。
「でもほんとに大丈夫かなぁ。僕は転生者で勇者候補。君は転生者で一般人。もし条件が"転生者で勇者候補"って事なら、君、どうなるかわかんないよ?」
「今ここでそれを言うか!?お前が大丈夫って言うからこの作戦にしたんだぞ!?」
訂正
俺たち"転生者"であれば、門をくぐらずとも問題ない…と思いたい。
「あははは!多分大丈夫だよ。発表とかはしてないけど、僕の研究でも僕達転生者ってのは、不安定なある種の"因子"を持ってこっちの世界に転生してるから。」
「要素…」
とはなんぞ?
「本来であれば、一つの世界で、一つの体で生きるものでしょ?それが転生ってなると、前の世界の、今の世界とは異なる世界の因子を持ったまま移動するじゃない?だから、他の世界に行くことに特に問題はないはずだよ。」
だって実際に移動してるわけだし。とアレクは言う。
「だけどそれって、ようするに『神に存在を認められて移動した』ってことだから、その移動は門をくぐるのと同じじゃないのか?」
「うーん、君はどうか知らないけど、僕は転移するときに『あなたは神ですか?』って聞いたら『違う』って言われたから…微妙に違うんじゃない?」
あー…そう言えば俺も同じようなこと聞いたなぁ。
それであいつ…『自称・水先案内人』って言ってたなぁ。
「つまり、僕たちは神の意志とはまた別の…何者かに強制的に転移させられた。それにより、不安定な別世界の要素…因子を持って転移したってわけさ。」
なるほどねぇ。
元々存在を認められたわけではない、だから他の国に不法入国しても、特段問題はない。
前にも言った『存在しているのに存在していない』みたいな状態ってわけか。
「ちなみに、魔物にもそれに似た因子を持ってるものがいるよ。」
「は!?」
そう言えば、こいつが魔の大陸から攻めてきた時、確かに魔物もいたよな。
転移にしろ移動にしろ、明らかに密入国だ。
だけどそれって…
「こいつも…ルジャータも行けるんじゃないか!?」
「うーん…この子は持ってないんじゃ…」
「グァッグァッ!」
そう言ってルジャータを触って調べるアレク。
だが、封印状態では調べようがないんだろう、肩をすくめてわからないって顔をする。
「基本的に、魔の大陸にいる魔物…特に、強い力を持つものにその傾向が強いんだよね。」
でもなんで魔の大陸にいる魔物だけ?
いくら強いとは言っても、そこまで例外扱いされる大陸って、なんかおかしくないか?
「そっか…まぁ、この子は国境前でお別れだな。」
名残惜しいが仕方ない。
もし国境を超えてしまうと、存在が消えてしまうのかもしれないし。
どこかで生きていてくれるなら。
「グゥゥゥ……」
それがわかったのか、悲しそうに鳴くルジャータ。
こいつ、本当に俺達の言葉がわかるんじゃないか?
かなり大回りをして、王国と帝国の国境近辺に向かう。
多分、ガインのいる街からは、直線距離でも数十キロは離れてるのではないだろうか。
それでも『気配察知』を全開にし、万一に備える。
「もうそろそろ国境だと思うんだけど。」
「てか、気付かない間に国境を越えてるとかないのか?」
もしそんなことになってたら恐ろしい。
ルジャータが一瞬で消え去ることになる。
「いや、国境ってのは物凄くわかりやすいんだよ。」
アレクの物言いに、若干の不信感を覚えつつ、俺達は国境を目指して進んだ。
それから暫く走ると
「な………なんだよ、これ…」
「これが国境さ。わかりやすいでしょ?」
そこには、明らかに不自然に整列された草花、その横の湖、更には少しの段差すらある。
まるで『世界がここから違います』と言わんばかりに、分断されているのだ。
こちら側は芝が生い茂っているが、ある境界を堺に一切の植物が生えてない地面。
こちら側の湖は、その境界を堺に一直線に整えられている。
見えないアクリル板のような…水族館の水槽を上から見た時のように、人工的に創ったもののように、きっちり境界線で湖が、草花が終わっている。
少しだけ向こう側の地面が高いのだろう、高さが十センチほどの地層が見える。
「これは…世界が変わる、と言われたら信じるな。」
「だからこそ密入国するものはいないし、しようとも思わないのさ。」
アレクはルジャータから降り、特に何かを気にすること無く、"向こう側"へ渡った。
「お、おい!!」
俺の焦りも全く聞かず、アレクは飄々(ひょうひょう)とした顔で答える。
「別に何度もやってるし、大丈夫さ。」
いやいやいや!
俺は気にするよ!
もしかしたら消えちゃうんだぜ、俺!
でも、向こう側とこちら側で声が聞こえないとか、そういうのはないらしい。
…そういうもんなのか?
「…わかった、ちょっとまってくれ。」
まずは、ここまでの道中、途中からだが俺達を乗せてくれたルジャータに礼を言う。
「こんなところまでありがとうな。最初、お前たちを野盗から奪った時は申し訳なく思ったけど…ほんと、よく従ってくれた。」
「グ……グァァァ」
何故か泣いているように聞こえる鳴き声だ。
「作戦前に別れた連中にも伝えといてくれ、今までありがとうって。」
そう言って、ふわふわの羽毛(?)を抱きしめる。
この抱き心地も最後かぁ…あ、やべ、俺まで泣きたくなってきた。
「……ほんと…グスッ……ありがとうな……」
「グァ…グァ……グァ」
「名前……付けて…グスッ…やれなかったな……ごめんな…………」
そう言って、ルジャータから離れる。
ルジャータの大きな目も若干潤んでいるような……
「………達者でな!」
「グァ!!!」
最後にそれだけ伝え、意を決する。
「……よし!」
そして一歩踏み出し……
「あのさぁ、別にそんなドラマチックじゃなくても。」
「お前!人が感動してやっと別れたのに!……あ。」
アレクの余計な一言で、国境を越える瞬間をしっかり認識できなかった。
結論、特になんの問題もなく密入国できました。
「……越えれたね。」
「安心してよ、ちゃんと存在してるから。」
アレクにも見えてるし、会話もできている。
うん、大丈夫だな。
「………それじゃ、元気でやれよ!!」
「グァァァァァァ!!」
ルジャータに手を振りながら俺とアレクは、王国から正規の方法で帝国に入国した場合、一番最初に訪れるであろう街に向かって歩き出したのだった。
お読みいただき、ありがとうございます!
ブクマ・感想・評価等本当にありがうございます!これからも楽しんでいただけるよう頑張ります!
70話でやっと別の国に…
これは完全に私の筆が遅いせいです
今も区切りが悪いわけじゃないけど、もっと区切りの良い時に、誤字脱字・構成等を見直すべきですね、はい…
読者の皆様には、この小説を読んでくださって、感謝してもしきれません。
本当にありがとうございます。




