065話 ガイン戦(壱)
ちょっと昨日は諸事情により更新できませんでした…
時間は少し遡る
クリスとサラが門前には行かず、まだ路地裏で隠れていた頃。
「キリがねぇ!」
それなりに腕の立つ騎士を数名撃破し、それ以外の有象無象…というと失礼に当たるが、下級騎士を数えれないくらい戦闘不能まで追い込んだ。
「案外この街に結構な数を配置してたんだな!」
実際、昨日までの簡単な調査ではここまでの人数は確認していなかった。
ブルムの街での戦争で、かなりの騎士が亡くなった。
それを加味し、こんな国境近辺までそれほど戦力を集中出来ないだろうと思っていたのだが。
「ガインか…ほんと、面倒な相手を敵に回しちゃったなぁ」
好きで敵になったわけではないが、あいつと全力で戦うとなるとかなりきつい。
負けないだろうが…勝てるかどうかは微妙だ。
「待て!!」
「待ちません!!」
路地裏を塞ぐように立ちふさがった騎士を一刀両断(手加減しているので殺しはしない)し、別の路地へと入っていく。
『気配察知』で、人がいないところを選んで進んでいるが、建物の正確な配置などはわからない。
迷子にならないようにしないと。
「…!この気配は!」
その時、俺の察知範囲にやたらと大きく、力強い気配が飛び込んできた。
よく覚えている、こいつは
「ガイン!」
そう認識した瞬間
前方に…いや、横から猛烈な殺気を感じ取り急ブレーキをかけた。
キンッ……
かすかな金属音、一瞬の光の壁
厳密に言えば、光の帯、というのだろうか。
目の前の通路を一瞬だけ覆った。
まさに刹那の瞬間であり、見間違いと言われても違和感がない。
だがその爪痕は、はっきりと残っていた。
横の壁には。無駄な破壊のない綺麗な一線
模様?
違う、これは"斬撃の跡"だ
「まじか」
あと一歩、あと一歩踏み込んでいたら、身体が前面と後面、前と背中で奇妙な真っ二つになるところだった。
「前会った時より強くなってねぇか?」
「前は本気ではなかったのでな。」
後から声がする。
落ち着き払った低い声。
聡明さも感じられるし、何より威圧感がある。
「…横から攻撃を受けたと思ったら、今度は背後ですか。」
こいつ、今の一瞬で移動したのか?
『気配察知』から一瞬意識を逸らしたから、こいつがどう動いたのか把握できていない。
「…なんだ?気づかなかったのか?」
「お恥ずかしながら。」
そう言ってガインを正面に見据える。
相変わらず、やたらとプレッシャーが強くそれでいて信頼できそうな何かを感じる。
大きな組織のトップってのはこういうものなのか…
それともこいつが特殊なのか
「他のメンバーはどうした?」
「……言うと思います?」
「それもそうか。まぁいい、探しだして殺すまでだ。」
こいつの口からはっきりと殺す、という言葉が出てきた。
何か少し違和感を感じたが、奴の振りかぶった剣が襲いかかってきたために、思考を中断した。
「ひとつ!聞いても!?」
「この打ち合いが、続くまでな。」
剣と刀がぶつかり合う金属音。
相変わらず剣筋が鋭く、尚且つ重い。
「なぜ!俺たちを!殺そうと!?」
刀を振り下ろすが、捌かれる。
下からの剣撃、それを弾き返しこちらの一閃
「知れたこと。大罪人を殺すのに、理由など、ない。」
剣の切っ先、柄での防御
巧みな剣捌きでこちらの攻撃を防ぎ、反撃する。
「それは違う!」
少し力を貯め、大振りの一撃を見舞う。
その圧力に押されてか、ガインは少し強めに剣を握って防ぎ、すぐ次の行動には移れなかった。
「大罪人、それは元はあんたの嘘だろ。
それに正確には、なぜ俺とアレクを殺そうとしたのか、ってことだよ。」
そこがわからない。
厳密に言えば、俺達全員を殺そうとはしている。
最悪、クリスと俺は邪魔だから、と言われればわからんでもない。
だが、手配書はそうではなかった。
"全員"生死を問わない、というお触れだった。
「それを貴様が私に聞くのか?」
ガインの口調は、何か特別な含みでもある感じではなく、純粋に「お前が聞くのはおかしい」という意味を含んでいた。
なぜだ?俺が聞くのがそんなにおかしいのか?
「わかんねぇから聞いてるんですが。」
「……なるほどな。お前はとことん"異例"らしい。」
ガインが剣を少し下げる。
「『アースソード』」
直後、一瞬で魔力を練り上げ魔法を放つ。
その魔力運びの熟練度には驚かされるが、こちらも負けてはいない。
俺は無詠唱で『アースウォール』を作り出し、魔法を防ぐ。
道中、それなりに練習もしていたので中級魔法程度ならほぼ全て無詠唱で使うことができる。
今現在の魔法の最大目標は『超電磁砲』を無詠唱で使えるようになること。
だが、魔力の集中と魔法の混合、固定化などそれなりの時間と集中力が必要なので、まだ実戦では使いものにならない。
取り敢えず、ガインの魔法を防ぎ切った辺りで、『アースウォール』を崩す。
その向こうには先ほどと変わらない態度で、ガインが感心したような顔で立っていた。
「…ほぅ、私の『アースソード』をこともなく防ぎきるか。しかも無詠唱で。」
腕を組んで、少し考えるような素振りを見せる。
少し気になっていたのだが、ガインが下がらせたのか、他の騎士の気配は近くには感じられない。
…まぁ。こいつが本気で戦うとなるとある程度の実力がないと足手まといか。
「………一つ聞くが、お前は『ウバワレ』で間違いないんだな?」
「は?………あぁ、まぁ一応。」
たまにそれを忘れる。
というかそれも実際、記憶喪失…こっちの世界の『ウバワレ』ってことにしておけば、困る都合がいいからであって…
そう言えば話の流れでブルムでの戦争準備中に、俺が『ウバワレ』なんだってことを伝えてたな。
「それにしては異常な強さ…有り得ないほどの成長速度…挙句は理解できない行動。貴様の目的はなんだ?」
うーん、確かに記憶喪失の人間がこんなアクティブに行動するのはおかしいか?
もっと不安がって、自分の記憶を取り戻そうとするもんなのかな?
…なんかめんどくさくなってきたな。
「あー…まぁ、実は記憶が戻りまして…今はお世話になった人達を助けに行く途中といいますか」
そういう体にしとこう。
わざわざ異世界からの転生者…しかも勇者候補じゃないとか言うめんどくさいことを説明するよりもこっちのほうがいいだろ。
ふとガインを見ると、その顔は見たこともないような驚きに支配された表情になっている。
あれ?もしかして記憶って普通は戻らない感じ?
「……記憶が戻った?………そうか、貴様、『ウバワレ』を……いや、だがこの感じは普通では……」
何かブツブツと言っているようだが、どうしたのだろうか?
「……貴様は勇者候補なのか?」
「っ!いや、それは絶対に違う。」
アレクには聞いたが、ガインが勇者候補なのかはわからない。
だがその可能性は低い…百年以上生きてるアレクが知らない勇者候補、というのは考えにくいからだ。
しかし、ガインはアレクのことを勇者候補だと知っていたという。
連合国では勇者候補として知られていたからなのか、それとも独自のルートで知ったのか…
謎が尽きないが、こいつの口から勇者候補か?などと聞かれるとは
「そうか……まぁそれを信じるかどうかは別として」
次にガインが言い出したことは、"この世界の"常識からは考えられないものだった
「ならば貴様は、もしかして『異世界からの転生者』なのか?」
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