表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
選択結果は異世界でした  作者: 守月 結
64/103

063話 門前にて(参)

仕事が忙しいほど、何故か筆が進む。

それにより長い(当社比)ものになる。

そして投稿時間が遅くなる。

申し訳ありません………

「ウィル…?」


最初に反応したのはクリスだった。

サラはまだ両耳をふさぐ体勢で顔だけを上げ、呆然としている。


「うん!クリス姐さんの臭いを辿ってきた!」


戦場にはおよそ不釣り合いな満面の笑み。

だが腹立たしさは感じない、絶妙な笑み。


「そ、そう………。ていうか、今あいつ蹴っ飛ばして…」


たしかにそういう作戦だった。

ウィルはどうせ道を覚えれない。

だが知り合いの臭いを辿ることはできる。

クリスやサラが先行して進んで、その後を一直線に駆け抜けさせる、力技の作戦だった。

ウィルの嗅覚、突破力、俊敏性、そしてクリスとサラが騎士団を蹴散らしてる前提の作戦。

そのウィルが来たのは確かに少し遅い。

だがさっき気になることを言っていた。


『他の弱いやつを倒していた』


つまり、敵騎士団の増援が来ないのは、そのおかげなのか?

いや、それよりも…


「うん!蹴っ飛ばした…と思う!あそこで転がってるやつだよね?」


「どうやって。いや、蹴っ飛ばしたのはうっすら見えてたけど、あいつ凄く…」


そう言いかけた時、ナージェスがゆっくりと立ち上がった。


「…獣人のガキが。」


その顔は相変わらずの鋼だが、怒りの表情に変わっていた。


「貴様は手厚く保護しようかと思っていたが、大罪人の仲間だったとはな。拷問に変更だ。」


ナージェスが剣を握り締め、ゆっくりと歩み寄ってくる。


「?え?どうやって?お前弱いのに?」


ウィルが本当にわけがわからない、といった感じで答える。


「ガキが。手足の一本や二本、無くせば大人しくなるか。」


ナージェスの凶刃がウィルを襲う。

クリスが庇おうとするのが、それより速くウィルも飛び出す。


そして、何度か見たような光景。

『剣が捌かれる』


「ゴッ…ァ……」


次の瞬間には、ウィルの掌底がナージェスの鳩尾みぞおちに深くめり込んでいた。


「硬っ!!なんだよお前!?」


ウィルが後に飛び距離を取る。

普通なら、奴の得意技のカウンターが飛んできるはずが


「ゴホッ…ガ……ハッ…ハッ…」


ナージェスがうずくまったまま、微妙に痙攣をしていた。


「な、なんで……」


クリスの『剛剣』でも、傷一つ付けられなかったナージェスの肉体にダメージを与えている。

しかもあの苦しみ様、タダ事ではない。


「なんかあいつめっちゃ硬い!俺の手が痛くなるくらい!

クリス姐さんもサラ姉ちゃんも気をつけて!!」


だからこそ手こずっているんだろうが!

と二人は叫びたかった。

が、その一言で冷静さを幾分か取り戻したサラが、答えに行き着いていた。


「もしかして…ウィル君のあの武術、確かシンさんが『発剄はっけい』?で防御を貫かれたって言ってましたけど…」


厳密には、ウィルの武術を短期間で習得したアームドグリズリーに使われたのだ。

その習得元であるウィルも同じことが出来ないはずがない。

というよりも、シンだけは気付いていた。

ウィルの力を確かめる模擬戦をした際に、ウィル自身も『発剄』を使った攻撃ができることを。

だが、この世界の人間に『発剄』というものが理解できるとも限らないし、ウィルも無意識でやっているっぽいので言わなかっただけなのだ。

実際、シンからその台詞を聞いたサラも『発剄』がなんなのか漠然とすらもわかっていない。

ただわかるのは


「もしかすると…ウィル君の攻撃だけは、シンさんが体験したものと同じで防御関係なくダメージを通すのかも…」


「…だとすれば、この場にウィルが来たのはまさしく僥倖ぎょうこう。なにせ、あいつの天敵なんだからね。」


防御力無視。

それは、普通にアドバンテージではあるが、殊更ナージェスに限っては深刻な問題であった。






(なんだ!?一体何をされた!?)


薄れ行く意識と、今まで感じたこともない激痛による覚醒の板挟みにあい、ナージェスは酷く混乱していた。

事実、ナージェスが生涯において体験したことのないダメージだったのだ。

普通の人間ならば、腹を殴られれば殴られた部分の皮膚が、筋肉が、脂肪が、そしてその奥にある内臓が、ダメージを負い痛みを感じるはずだ。

わざわざ説明するまでもない、誰しもが知る、経験する事。

だがナージェスは、その経験がたった今、生涯初となったのだ。

ナージェスが『鋼体』のスキルを発現したのが、物心つく前後。

常時発動型故に、気付いた時から全身鋼、痛みなど感じなかったのだ。

それでも、ガインや剣の他の達人等、ナージェスの身体に傷を付ける事ができる人物はいた。

しかしながら、"裂傷れっしょう"と"打撲だぼく"、"切り傷"と"打ち身"、同じ傷であり負傷であってもその痛み方は全く異なるものだ。


「クソッ!クソッ!!」


血を吐くまでではないものの、胃の内容物を全てぶちまけ悶えるナージェス。

その胸中はいつの間にか混乱ではなく、怒りで埋め尽くされていた。


「こ…殺してやる!ケモノ風情が!!」


血走った目…鋼のせいでとてもそうは見えないが、怒りに、憎悪に満ちた目でウィルを睨む。

ウィルの見つめ返す目は…






「つまり!こいつが硬いから姐さんも姉ちゃんも困ってたんだね!」


「えっと…うん、そう…だね。」


「で!俺の攻撃だとダメージが与えれる!」


「えっと…はい、そう…です。」


「わかった!じゃあ俺が倒す!」


「「え?大丈夫?」」


思わずハモってしまう二人。

ウィルが来てくれたおかげで、なんだか心に余裕の持てている二人はいつもの雰囲気に戻っていた。


「一応、あたしとサラで援護する。ウィルはあいつの攻撃をなしつつ、隙があったらどんどん攻撃して。」


「おっけぃ!!」


ウィルが小ジャンプしながら元気よく動き回る。

その時、うずくまるナージェスがウィルを睨んできた。


「?」


驚くべきことではあるが、ウィルはその憎悪に満ちた視線を真正面から受け止め、笑い返したのだった。

その笑顔も、邪悪な心や嗜虐的しぎゃくてきなものではなく、純粋にお互いの戦いを楽しむようなものだった。


「クリスさん。ウィル君とクリスさんのお二人で突撃してください。あいつの片手…剣を持ってない方の腕だけなら私が何とかできると思います。」


「了解、それで残った剣を持っている右手をあたしがなんとかする。その隙にウィルが拳を叩き込むってことね。」


サラとクリスが単純な作戦を急遽立案する。

ウィルに急造作戦など理解できないだろうし、ただ突っ込んでぶん殴れ、くらいの方がやりやすいだろう。


「それと……先程はお見苦しい物をお見せして、申し訳ありませんでした。」


サラが先ほどの失態を恥じるかのように、頬を赤く染め謝罪をする。


「……あたしもね、初めて魔物を狩りに行った時、怖くて『帰りたい!帰ろう!』って狂ったようにずっと言ってたの。」


目を細めながら、過去のことを語るクリス。


「それで一人で逃げ出して、魔物と遭遇して…ほんと弱い魔物だったんだけど、当時は怖くて仕方なくて…」


いつの頃の話だろうか。


「そこであたし…その、怖くて…泣くだけじゃなくて…腰を抜かしちゃって…そして…」


いつも自信満々のクリスが、物凄い言いづらそうにしている。

それだけでサラは分かった、クリスが言いにくい何かを。


「……その時にあたしを救ってくれたのがお父さんで、自分の服が汚れるのも気にしないで、あたしをおぶってくれたの。

そしてこう言ってくれた。

『誰でも怖い時はそうなる、だから気にするな。俺の初めての狩りの時はもっと酷かった。』って。

それでお父さんの恥ずかしい過去を聞いて、最後にこう言ったの。

『クリスが将来、もし誰かそうなった人の側にいたなら、今日のことを話せばいい。お互いに恥ずかしい思いをして、おあいこだ。』ってね。」


クリスが過去の事を、とりわけ自分の過去を話すのは意外にもこれが初めてだった。

今まで自分のことはかたくなに話そうとしなかったのだ。


「だからこれでおあいこ。」


少し気恥ずかしそうに、それでいて優しい笑みを浮かべるクリス。

それを聞いて、サラも同じく笑みを浮かべる。


「はい!その…すみま…じゃなくて、ありがとうございます!」


「お礼を言われるのも…なんか違う。」


「あ、そう…ですね。」


お互いにぎこちなく苦笑するが、この話のおかげで、サラの胸の変なモヤモヤは消えていった。


「さぁ…さっさと片付けますか!」


「はい!」


「うん!」


三人は気合を入れ直し、構えた状態で正面からナージェスを見つめる。


「ウィル、あんたは何も考えずに突っ込んで、一番強力な攻撃を叩き込んで。」


「うん!わかった!」


「援護は任せて下さい。」


そう言うと、ウィルとクリスが同時に飛び出した。

それと同時に、サラも特大の…大きさではなく、最大級の威力の魔法を練っていた。


「くぅ……『アース…ジャベリン』!!」


少し前に放ったシンの『アースジャベリン』モドキではなく、まさにシンの『アースジャベリン』に迫る威力。

限界まで硬質化し、回転を加え…更には微弱ではあるが雷魔法も付与させた。

そしてタイミングを見計らい、ナージェスに向けて放つ。


「行っ……けぇぇぇぇぇ!!」


先程までだったら、ここまでのものは作れなかった。

魔法はイメージ、心の強さで威力が決まると言っても過言ではない。

先程の心では、シンがいない心細さでは、ナージェスの殺気に萎縮していた状態では、決して作れなかった魔法。

今はサラと少しだけ距離が縮まった感じがあり、ウィルも来てくれた。

勝機が見えるのだ、自分も戦う、そう確固たる決意があった。


「!そんなも……」


ナージェスは防御すら必要ないという素振りをしたが、その威力を感じ取り慌てて剣で切り落とそうとする。


「はああああああ!!『剛剣』!!」


そのタイミングでクリスの『剛剣』が襲いかかる。

それこそ防御の必要はないが…今回は違った。


「な……"剣"を狙って!?」


そう、クリスはナージェスの剣を持つ右腕を押さえつければよかったのだ。

そしてそれは、意表を突くという形で成功した。

剣で魔法を防ごうとし、その剣を狙って『剛剣』が振り下ろされる

右腕は剣ごと大きく跳ね上げられ、魔法をその身に受けるか、左手で払うかするしか選択肢はなかった。


「クソがぁぁぁ!!」


ナージェスの左腕が『アースジャベリン』の横っ面を弾く

がしかし、魔法の威力の高さ、更には回転の力、その上サラは気付いていないが"回転"と"雷魔法"により、若干の磁場も形成されている。

それにより、ナージェスは『アースジャベリン』を弾ききることが出来ず、左腕すら大きく跳ね上げられてしまった。


「しまっ……」


がら空きの胴。


その正面に構えるはウィル・シルヴァリア

両手を突き出し、右手を上に、左手を下に構え、両手の平を掌底の形にし、そっとナージェスに"添える"

派手さはない

なんだったら、さっきの攻撃のほうが威力がずっと高そうだ。

そんなクリスとサラの一瞬の不安を他所に、ウィルは短く息を吐いてこう言った




「獣拳・爆」




初めて聞く技名。

ウィルがこれまで技名、スキル名などを言った記憶はない。

もちろん、戦いを見る場所も機会もなかったせいもあるが。

シンとの模擬戦でも見せなかった技。

しかも、いつもの幼さはどこへやら、冷静に短く、ただ技名だけを呟いた。


「?」


完全にやられた、と思ったナージェスが疑問の顔をした


その瞬間






ナージェスの鋼の口内から、大量の鮮血が吐き出された。



お読みいただき、ありがとうございます!

ブクマ・感想・評価等本当にありがうございます!これからも楽しんでいただけるよう頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ