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選択結果は異世界でした  作者: 守月 結
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059話 はじめてのおつかいからの

こんな時間になってしまった


にしても暑い…

フードを目深に被った人物が一人

国境の街を歩く。

帝国と王国を結ぶ唯一の国境

様々な人物がいるため、こんな出で立ちでもそれほど目立たない。

すれ違う人は、何一つ気にする様子もなく行き交うのみ。


その人物は、手に持った紙のような物を行き交う人々に見せて回る。

その紙を受け取った者は、一様にある方向を指差す。

その方向にあるものは…


「やっと着いた…」


周りに聞こえないようにそう呟く人物。

着いた場所はこの街のギルドだった。

その人物は先程のとは違う紙を手に握り、ギルドの建物内に入っていく。

国境の街としてそれなりに栄えているので、ギルドも結構な人がいる。

そのギルド内では、なおさらこの人物の格好は目立たない。

適当なカウンターに並び、自分の番を待つ。

そしてその人物の順番になった。


「ようこそ、当ギルドへ。どのクエストをご希望ですか?」


ここはクエスト受注の受付だったらしい。

特に気にせず、その人物は握りしめていた紙をカウンターに出す。


「?………なるほど、でしたらあちらの受付ですね。」


受付の人は一瞬首を傾げたが、その紙の内容がわかったので、その人物の望む受付を指差す。

フードの人物は軽く会釈をし、指定された受付に並び直す。


「ようこそ、当ギルドへ。新規冒険者登録の方ですね。」


指定された受付はそれほど並んでいなかったので、すぐに順番が回ってきた。

その人物は先ほどと同じ紙を受付に出した。


「……かしこまりました、では預り金、銀貨十枚をお願い致します。」


受付の人は渡された紙を一読し、問題がないと思ったのか通常通りの手続きを進める。

銀貨を渡し、ギルドカードに血を垂らす。


「はい、以上で手続きは終了です。このあと細かい説明があるのですが……申し訳ありません、フードを一度外してお顔を拝見してもよろしいでしょうか?」


ギルドカードには、身分証明的な意味合いもある。

作成時に、最低限顔を確認しておく必要がある、というのも頷ける。

その人物は若干戸惑いはしたが、ここで固辞するのも怪しまれると思い、素直にフードを外して顔を出す。


「……………え?」


受付の人は一瞬目を疑った。

いや、他にギルドにいた者も、一様に驚いている。

そして誰かがこう叫んだ。


「じ…………獣人だ!!!」






「どうやらバレたみたいだな。」


「はい、ギルドのほうが騒がしくなってますし…これだとそう時間はかかりませんね。」


サラと俺で遠目に街の方を見る。

若干騒がしくなっているのは、ウィルが獣人だとわかったからだろう。


「よし、俺達も配置に着こう。」


「了解です。」


「うん。」


「ほんとにこんなことで大丈夫なの?」


時間もない中、使える手札もない。

そんな状態で、少しでも確率の高そうな作戦…いや、作戦とすら言えないものだが。


「ぶっちゃけ、賭けの部分が大きいよ。」


自分で言ってて不安になるが、これしか手が思いつかなかった。

アレクすら溜息をつく。

他に代替え案を出せなかった手前、成功率が低くてもこれに賭けるしか無いのだ。


「………まぁなるようにしかならないか。」


諦めとも取れる台詞。

全員がそれを感じながら、準備をすすめるのだった。






「何?獣人だと?」


「は!ギルド内で確認されたようです!」


「……この非常時に、なんとタイミングが悪い。何人か向かわせて、こっちに連れて来い。」


ガインは内心で大きな溜息をつく。

獣人は確かに珍しい、だが今はそんなものは些事だ。

ここに向かっているシンとクリスとサラとアレク…この四人を捕まえることが先決だ。

あの古城跡からの足跡は、いくらか辿ったが完全に帝国を目指していた。

それがわかった時点でルジャータを飛ばし、この国境の街まで来たのだ。

通行履歴を見ても、まだ通った形跡はない。

必ずここに来る。

それまでは如何に獣人といえど、それほど構ってはられないのだ。


「そ、それが……」


若い騎士は言いにくそうに続きを報告する。


「近くにいた騎士が、こちらに連れてこようとしたのですが、暴れる上に逃げるものでして……」


「………捕まえられないということか。」


「も、申し訳ありません!」


面倒だな。

純粋にそう思った。

下位騎士では難しいということか。

恐らく獣人であるからして、身体能力もかなり高いだろう。

致し方あるまい。


「『気配察知』に優れた者が必要だな。精鋭を二~三人と第五中隊を向かわせろ。」


それだけいれば、まず捕まえられるだろう。

ここの戦力をあまり下げることは出来ない。

この混乱に乗じて、あの四人が来るとも限らない。


「は!了解いたしました!」


そう言って若い騎士は出て行った。


あの四人は、ここに来る途中の村や街でも目撃証言がない。

それはつまり、ここを目指してないか、あるいはずっと野宿しているか。

前者は先ほどと被るが、帝国を目指しているのは明白だった。

その場合後者になるが、野宿を続ける…しかも二ヶ月近く。

更に移動も含まれると、まず体力的には十分ではないだろう。

良くて全開時の七割…いや、六割ほどになっているはず。

そうなれば、我々の上位戦力で固めればまず勝てる。

たとえ相手が異様な力を持った、『異例のウバワレ』でも。


「貴様の運命は決まっているのだ…」


そう呟くガインだった。






********************






「くっそ!あの獣人速い!」


「しかも結構強いぞ!」


騎士団をなぎ倒しながら逃げるウィル。

それを追いかける騎士団は、だんだんと増えている。

更に、明らかに格の違う騎士もチラホラ見える。


「師匠の言った通り…!」


ウィルは逃げながらそう呟く。

街中を自由に逃げているように見えるが、実はそうではない。






ウィルがシンから指示された作戦はこうだ。


「お前はこの紙を持ってギルドに行き、ギルドカードを作ってもらえ。

ギルドカードを受け取るまで、出来る限り正体は隠してな。

ちなみにこの紙は…一枚目は『ギルドの場所を教えて下さい。』。二枚目は『冒険者登録がしたいです。』。という内容の紙だ。」


「押忍!」


「ちなみにできるだけ喋るな。」


「お、押忍?でも何でっすか?」


別に紙じゃなくて口で伝えればいいと思う。


「………お前が喋るとボロが出る。」


「お、押忍…」


師匠はしょぼくれている俺に構わず話を続ける。


「そして受け取ったら…正体を明かせ。そして"できるかぎり騒ぎを大きくしろ"。」


「押忍?」


どういう意味だろうか?


「多分、ギルドで正体を明かしたら結構な騒ぎになる。

そしてそのうち騎士団がやってきて、お前を連れて行こうとする。

それを拒否しろ。

その際に、出来そうなら何人か無力化しろ。

そして、街中を縦横無尽に逃げ回れ。」


「押忍!」


「しばらくすると、かなり強い騎士が出てくるか、数が多くなるか、もしくは両方か…そういう状況になるはずだ。

そうなったら俺の"臭いを辿ってこい"。

そして、すぐ横を通り過ぎるだけでいい、駆け抜けるんだ。

多分、騎士はお前を追いかけるのをやめるだろうけど、気にせず適当に逃げてればいい。

その後、敢えて騎士に見つかるように動いて、また逃げるんだ。」


「押忍!いつまで逃げてればいいっすか?」


「………多分、結構大きな戦闘が街外れで起きると思う。

その戦闘が起きて暫くしたら、クリスの臭いをたどるんだ。」


「押忍!絶対成功させるっす!」





「結構強そう…!」


後ろから迫る騎士たち。

殆どがたいした強さを感じないが、一人二人、明らかに別格な奴がいる。


「いつまで逃げるんだね!?獣人君!!」


「……なんかあいつ嫌い。」


やたらと声の大きい人がこっちに向かって叫ぶ。

満面の笑みを浮かべる結構カッコイイ騎士…でもなんか嫌だ。


「っと、もうすぐ師匠のとこ!」


ある程度適当に街中を走り回ったが、師匠の臭いは常にキャッチしていた。

そろそろ師匠の言う、「かなり強い騎士」と「数が多くなる」って状況だろう。

そう考えていると、師匠の姿が見える。


「すぐ横を通り過ぎるだけ!」


そう言いながら、師匠の脇を通り抜ける。

なにげにここは街外れの人の匂いのしない路地裏。

何でこんなとこにいるのかな?という疑問もあるが、師匠が言ったんだから、その通りやればいい!とウィルの思考はすぐに切り替わった。

そして、後ろから追いかけてた騎士が足を止めた。

よく見ると、師匠の足元には何人か騎士が倒れている。


(さすが師匠!!)


それを見届けると、ウィルはその場を離れるため地面を大きく蹴った。






「やぁマキシムさん、お変りなく。」


「……シン!!」


マキシム眉間にシワが寄る。

イケメンはどんな表情でもカッコイイな、うざいけど。


「いやぁ、思わず手助けしちゃいましたよ。

なんですか、寄ってたかってあんな子供を…獣人ですかね?追いかけ回して。」


「お前こそ、何をしたのかわかっているのか!?」


俺への怒りと詰問で、ウィルと俺の関係性に考えはいたらなかったらしい。

まさかマキシムが来るとは思わなかったが、まぁここで少人数を相手にできるのは好都合だ。


「あれはガインがいきなり襲ってきたんですよ……寧ろ騙されているのはあなた達の方です。」


無意味だとわかってはいるが、ここで一度言っておく必要がある。


「何をバカなことを!団長がそんなことするか!」


他の騎士が激しく反論する。

ほらね、無駄だった。


「はぁ…まぁ別に言ったって信じてもらえないのはわかってましたから、いいんですけどね。」


「ここで会ったが百年目!捕えさせてもらうぞ!」


リアルでそんな台詞を言われるとは。

だけど、俺もそう簡単にやられる訳にはいかない。


「悪いですけど、そうはいかないんですよ。」


後方の若い騎士が、伝令に向かおうとする。

その騎士に一瞬で追いつき、斬り伏せる。

もちろん手加減をして、命までは奪わない。


「な……!」


マキシムが驚いている。

そりゃそうだ、目の前のマキシムを完全素通りし、その後ろにいる騎士を斬ったのだから。

自分が無視された、かつ、その動きを一瞬見失った、その現実に驚いているのだ。


「他に集まってこられると困るんで、ここで倒させてもらいます。」


そう言って刀の切っ先を向ける。

刀はいつかのように、淡く輝いていた。

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