058話 山積みの問題
「さて、まずはお前のギルドカードをどうするかだな。」
「押忍!師匠!!」
生まれた国から全く動かないのであれば、ギルドカードは必要ない。
現代のギルドカードは、『存在の証』としての機能と、身分証明書としての役割もあるし、そういう意味でほとんどの人は持ってるが
「獣人……普通にギルドカード取れるの?」
「えっと……不可能ではないと思います。ただ、獣人自体が珍しいので、ほぼ間違いなく話題になるかと思います。
そうなると…一緒に行動するのはなかなか難しいかと。」
いくらフードで隠しても、そこまで話題になると間違いなくガインに見つかる。
ウィルの存在は知られてないはずだし、すぐに俺達には結びつかないだろうが、ウィルの事はガインの耳にも入るだろうし、そこから一緒にいる人間…俺達のことに気付くのは当たり前だろう。
「かと言って、ウィル一人をギルドに向かわせてカードを作らせるのも、恐ろしいくらいに不安だ。」
「大丈夫っす!師匠!!」
ウィルが元気よく返事する。
この子の口調は相変わらず定まってない。
今は後輩キャラ口調……が多いかな。
「よし、じゃぁアレクから聞いた、正門からのギルドの道のりを言ってみろ。」
「えーっと……真っ直ぐ行って、どっかで左曲って………」
「どんだけ鳥頭だ!最初の大きな十字路を左に曲って突き当たりを右だろ!」
正直、そんなもんを覚える必要は無い、看板があるから。
ただこいつ、文字が読めない。
「臭いを辿れば、例え三日前でもわかるっす!」
獣人っぽいな。
だが、辿りつけてもそこからが問題だ。
「お前、ギルドの受付わかんねぇだろ。」
冒険者登録、という所で新規登録しなければいけないが、そこがどの受付なのか文字が読めなければわからない。
更に、色々説明をされている間に放心状態になるか眠るのがオチだ。
誰か保護者がいないと…しかも面の割れてない人間。
変装とは言っても、万が一ガインや他の人間が個人レベルで認識できる『気配察知』を使用していたら、取り囲まれる可能性がある。
流石に街中でドンパチやれないし、ガインとマキシム、他精鋭を相手にするのは厳しい。
「ほかの街に行って、ギルドカード取得してくる?」
「この近辺でギルドがある街は…ウィル君と会う直前の街が最後ですね。」
結構遠い。
往復で急いでも五日くらいかかるな。
これ以上時間を掛けるのは得策ではない。
なにせ、ガインがいる事自体予想外だったんだから、これ以上の戦力増強や準備をさせる訳にはいかない。
どうやったって、あの門をくぐるのに接触しないわけには行かないんだ。
「どうしたもんか…」
「実際、獣人が街に行ったらどれくらいの騒ぎになるの?」
クリスも違う本面から考えてくれている。
ウィルを一人で行かせる案のようだ。
「そうですね…かなりの騒ぎになると思います。具体的にはなんともいえませんが……ほぼこの国では見かけない獣人が、急に街中に出てくる、それだけで騎士団が出動するレベルです。
捕獲とか、色々事情を聞くためだとか…」
結構大事だな。
そうなると、ますますウィルを一人で行かせるわけに…………
「いや、ちょっと待てよ……」
もしかすると、上手いことできるかもしれない。
だが色々と条件が難しい。
それをクリアできるかが問題だ。
「どうしたの?なにか思いついた?」
「あぁ…それにはまずウィル、お前の強さを知っておく必要がある。」
「!!押忍!稽古つけてくれるんですか!?」
まだ料理しか教えてなかったな。
稽古どころか、戦い方すら見てはいない。
「その前段階だ。そしてある意味稽古よりきついぞ。」
「押忍!!覚悟出来てるっす!!」
ウィルが元気よく挨拶をする。
ウィルの強さ…厳密には弱くてもいいんだが、それによってはうまくいくかもしれない。
「そうなれば、もう少し森の奥に行こう。障害物が多いほうがいい。」
外部から察知される危険性もあるしな。
街からかなり遠いとはいえ、巡回の騎士団に見つかる事もありえる。
そう言って俺たちは森の奥へと入っていった。
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「結界は張り終えました。」
「『気配察知』もバッチリやってるわ。」
「僕はその辺で転がって見てるよ。」
みんなに準備をしてもらい、俺とウィルの稽古…いや、模擬戦が始まる。
「最初に言っておくぞ、模擬戦とはいえ気を抜いたら死ぬ。本気で来い。」
「…!押忍!!」
ウィルが構える。
徒手…空手に近い構えか?
空手よりもずっと体勢は低いが。
だがそれよりも気になるのは、その気迫。
いつもの子供っぽい無邪気さなど無く、獲物を狩る目、捕食者の顔つき、それでいて不気味な静けさすら感じる。
(これはちょっと予想外だな。)
俺は殺気を出しつつも、構えてはいない。
それでも俺の強さを見ているからか、ウィルからは油断を欠片も感じられない。
「ハァッ!!」
一つ深呼吸した後、ウィルが高速で間合いを詰めてくる。
かなりの速さだ。
獣人だからなのか、単純な突進力は肉体強化魔法を掛けたクリスと同じくらいだ。
俺は、突き出された拳を手で払い、同じく徒手で反撃しようとする。
「!?」
一瞬呆気にとられた。
つい最近の事だ、"全く同じ感覚"を味わった。
そう、これは…
「フッ!!」
短く息を吐き、俺の右手を逆に往なしたウィルの肘鉄が迫る。
間一髪で空いた左腕で払いのけ、少し距離を取る。
かつて経験していなかったら、確実にもらっていた一撃。
「……一ついいか?」
「…っ!っと…はい!!」
俺から急に覇気が弱まったせいか、ウィルが変に驚いて通常モードになる。
「お前がアームドグリズリーと戦った時、奴らはお前みたいな動きをしてたか?」
「?………多分してなかったっす!!」
ほぅ。
「……お前は何匹か倒したのか?」
「最初は数匹倒せてたんすけど…後の方になると全然勝てなくて、逃げてたところを捕まって、その時ちょうど師匠に助けられたっす!!」
ほほぅ。
「…………奴らが強くなった来たと感じた時、他になにか感じなかったか?」
「??………なんか戦いづらいなーって!!」
ビキッ
「「「お前(君)が原因か(だったんですか)!!!」」」
ウィルはびっくりしているが、なんのことだか全然わかってない顔をしている。
俺、クリス、サラが完全にハモった。
アレクはゲラゲラ笑っている。
自分と同じ型で戦われたら、そりゃ戦いづらいだろうさ!
しかも、単純な力はあっちが上、だんだん倒せなくもなるよ!!
てか最初のあの熊の強さは…
「お前が強くしたようなもんじゃねぇか!!!」
「???………でも俺、あいつらの師匠じゃないっすよ!戦い方も教えてないっす!!」
あぁぁぁぁ…アホの子だ……いや、これはアホなんかじゃない、単純にバカなんだ。
「………少々、灸を据える必要があるな。」
俺からの雰囲気が変わったのを感じ取り、ウィルがまた身構える。
だがさっきとは違うぞ、お前の実力は確認しなきゃいけないが、お前に灸を据えるという目的も追加された。
「……行くぞ。」
「押忍!!」
今度は俺から仕掛けていった。
そして実力差に物を言わせ、ギッチギチに締めあげてやった。
もちろん、実力の確認はしたけど。
「よし、大体わかった。今日はこの辺で終わりだな。」
「お、押忍…」
ウィルはボロボロのヘロヘロになっていた。
敢えて魔法を乱発させて、どれくらい動けるのか、どれくらい躱せるのか、どれくらい動いていられるのか。
ぶっちゃけ限界近くまで追い込んでみた。
もちろん、刀を使って実践的な動きも確認してみた。
総合すると
「お前はアサルト型か、ヒット・アンド・アウェイ型ってとこかな。」
「お、押忍……?」
俺が勝手に分けただけなんだが。
うちのメンバーだと、クリスとほぼ同じ。
だが決定的に違うとことしては、クリスより断然動ける事だ。
クリスは突破力はあるが、基本的にその場に留まって、辺りを蹴散らすほうが性に合っている。
切り込み隊長ってとこだ。
対するウィルは、その機動力を活かすほうがいいかもしれない。
一撃当てては逃げて、違う角度からまた一撃
……遊撃って感じか?
「まぁ取り敢えず方針は固まった。少し訓練すれば、俺の作戦が使えるかもしれない。」
目処はたった。
うまく行けばだけど。
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