057話 国境の街
若干長め
遠くに見えるは、この国では見たことないような大きな建物。
その建物の左右には切り立った大きな壁のような崖が存在し、とてもではないが登れない。
というか、そこを登ったとしても、その後のことを考えるとあまり良くはない。
「どうしましょうか…」
今、俺達は帝国と王国の国境にある街、ノートランドという街に来ている。
なるべく街や村を避けてきた俺達が、なぜこの街に入ったかと言うと……
「どうやって国境を越えようか。」
それが問題だった。
一人は戦犯
一人は元騎士団
二人は大罪人
一人は見るからに獣人
……これ、国境を正規の方法で越えること無理じゃね?
「密入国かな?」
俺の発言をジト目で見るサラ。
そりゃ元騎士団だし、規律を重んじるのはわかるけどさぁ…
「だいたい、別に正規の関所を通って帝国に行く必要もないんじゃないか?」
アレクとサラに言われるままこの街に来たが、そこら辺の国境から勝手に帝国に行けばいいのに。
「そうも行かないからここに来てるんじゃないか。」
アレクが呆れたように言う。
「なんで?」
「ギルドカードを出してごらん、そのギルドカードの色は何色だい?」
「色……黒…いや、黒鉄色っていうのか?」
久々にギルドカードを出してみた。
うん、やたらと討伐数は増えているが、それ以外は特に前と変わらない。
鉄っぽい色合いだが、だいぶ黒い。
「僕のはこれ、赤茶。」
そう言って渡されたギルドカードは、赤茶色……赤銅色?だった。
「もしかして、国によって違うとか?」
「正解。ちなみにこれは連合国でのギルドカード。
帝国は青色だよ。」
マジかよ、国によって違うのか。
「国内では、その国のギルドカードしか使えない。だけどギルドカードは一人につき一枚、再発行されると以前の物は自動的に使えなくなる。
だけど唯一、国境を正規の方法で越えたなら、ギルドカードは新しい国のものに自動的に変更されるんだよ。」
「は?なんだそれ?」
いくらなんでもご都合主義過ぎるだろう。
「僕にだってわかんないよ、専門外だし。
ただ、ギルドカード自体がオーパーツ……今のこの世界でのオーバーテクノロジーなんだ、何かよくわからない事があっても、納得するしかないね。」
そう言われると、どうしようもない。
アレクの説明で特に問題なかったのか、サラも何も言わない。
「ちなみに、ギルドカードを使えなかったらどうなる?」
ギルドでは特に何も教えてもらえなかった。
いや、なくしたらダメよ、位は教えてくれたけど。
他の国でその国のギルドカードではなかった場合、どんなことが起きるのか。
「そもそも、ギルドカードというものが本来何を意味しているのか、それを知っておいたほうがいいかもね。」
「そうですね…お二人はそこら辺のことについて、あまりご存じないようですし。」
「ぎるどかーど??」
おい、ウィルなんてギルドカード自体知らないみたいだぞ。
「ギルドカードは、元の名を『存在の証』と言っていました。」
「え?なにそれ。」
まるっきり意味合いが違うぞ。
「にわかには信じられませんが…その土地とそこに生きる人間を結びつけるもの、という言い伝えがあります。
元々は…それこそ、記録にないほどの大昔ですが、王国、帝国、連合国、聖教国、魔の大陸は別々に存在しており、互いに行き来が出来なかったそうです。」
「そう、それだと不便だからって、それぞれの大陸の神々が互いに行き来ができるように…という目的で創りだしたのが『存在の証』、そしてそれを古代人が改変したのが、今のギルドカードと言われてるのさ。」
「……別に船で渡ればいいじゃん。」
「お伽話さ、本気で突っ込まないでよ。」
アレクが困ったように笑う。
「まぁ色々考察はされていて、別々に存在してたってことは、船とか飛行とかですら行き来ができなかったんじゃないかって。
隣り合って存在してて、認識はしてるけど行き来ができない、みたいな。」
なるほど。
どの世界でもそういう昔話の検証ってのはあるんだな。
「シンさんのお言葉を借りると、異世界…というものに近いと思います。」
あぁ、そう言えば異世界って知らなかったっけな。
なるほど、近いけど遠い世界、元々それぞれの国は異世界だったと。
しっくり来るような来ないような。
「別々の世界を行き来するために作られた『存在の証』、それは元の世界での存在を証明し、別の世界での存在も保証する。
もしそれがなければ、別の世界での存在を許されない。
そんな言い伝えがずっと続いています。」
「へぇ……」
「知らなかった。」
「………眠い……」
なんというか、本当にお伽噺のようだな。
だけど、あくまでお伽噺だしな。
実際…
「アレクは『転移』を使って行き来できてたんだし、そんなもん迷信だろ。」
「"僕ら"にとってはね。」
僕ら?
それはつまり
「………俺とお前?ってことは…そうか。『転生者』は別枠なのか。」
「多分ね。」
元々この世界にはいなかった人物。
それを無理矢理…かどうかは知らないが、こっちの世界に転生させた。
ある意味、どこの世界にも存在していないが、存在している。
「ありえる、が…だいたい、密入国した奴なんて過去に絶対いるだろう。」
密入国が何か問題になるのなら、必ず話題に出ているはずだ。
そうでなければ説明がつかない。
「存在を許されない…それはどういう状況なのか、わかってないんです。」
サラが一層深刻そうな顔をする。
存在を許されない……確かに、想像ができないな。
「というと?」
「もしかすると、消えてなくなってしまうのかもしれない。
もしかすると、声も姿も、触れることすらできなくなるのかもしれない。
もしかすると、その人に関するすべての情報…記憶だとか、そういうものも消えてしまうのかもしれない。」
随分と恐ろしい考えだな。
田舎の怪談のような、言い伝えのような
「誰も何も知らないんです、密入国の結果がどうなるのか。」
「更に面倒な事があってね……誰も居ないんだよ、密入国に成功したって人物が。
そして、失敗したって話も一度も聞いたことがない。
僕ですら、それを知らずに密入国して、初めて大丈夫だったんだって知ったくらいさ。」
だけど、この世界における自分の立ち位置…勇者候補で転生者、という特殊な状況だから成功したという可能性が高い、とアレクは付け加えた。
話を総合すると…
密入国ってリスク高くね?ってことか。
「俺とアレクが無事でも、他のメンバーがヤバイな。」
「できれば…あの関所を越えるのが一番ですね。」
「でもさ、なんか手続きとかしなきゃダメなんじゃないの?」
普通の関所ってのはそういうもんだ。
元の世界ですら、パスポートに判子を押してもらったりしたんだし。
「いえ、原理はわかってませんが、あの門をくぐりさえすればいいそうです。」
さすが神様の作ったもの、なんて便利!
だが、ここで俺は一つ嫌なことも頭に浮かんだ。
「……お前、村の人達を『転移』で飛ばしたんじゃないのか?」
そう、転生者以外が危ないというなら、それは村の人達もバロックも同じだろう。
それに対し、アレクは首を竦めて反論する。
「さすがにそこは気をつけたよ。この街で一度全員分のギルドカードを作って、ちゃーんとあの門をくぐりました。
結構な金額がかかったんだからね、その分請求していい?」
「お前の研究のために勝手に連れてったんだろ。
それで金請求するとか、お前はヤクザか。」
だがそれを聞いて安心した。
こいつが適当な事を言っているのならそこで矛盾を指摘できたが、そうではないらしい。
こいつ、黙ってて言わないことはあっても、嘘はついたこと無いんだよなぁ。
他の三人が「やくざ?」となっていたが、知らなくていいよと言っておいた。
「さて、どうやってあの門をくぐるかが問題だな。」
一通り現状はわかった。
・密入国は出来ない(出来なくはないが、リスクが高い)
・あの門をくぐる必要がある
・門さえくぐれれば大丈夫
・ぶっちゃけ、あそこら辺に固まってる騎士団を蹴散らして…
「シンさん、それは難しいかと思います。」
俺が危ない思考にたどり着いたのを察したのか、サラが忠告してくる。
そして、ある一角を指差す。
「あそこ、見えますか?門の上…、クリスさんも。」
「ん?門の上の方………」
そこまで行って気付いた。
ここは街外れの雑木林
相変わらずの指名手配っぷりで、街の宿屋は危険すぎて泊まれず、今日も今日とて野宿なのだ。
そこから、肉体強化…視力強化メインにし、限界まで遠くを見ようとする。
ちなみに、肉体強化系はやっぱり俺にはあんまり合わない。
「……まじかよ。」
「………一筋縄ではいかないですね。」
「まぁ、行き先が完全にバレてたってことよね。」
俺たち三人は互いにため息を付いた。
そこに見えたのは
「ガインめ。遠方より御足労頂きまして……全くありがたくないよ。」
そう皮肉を言うのが精一杯だった。
「周辺の騎士も…かなり上位の団員です。あ、マキシムさんも……」
サラはその魔力操作技術を活かし、視力を極限まで上げ偵察をする。
マキシムもいるのか、完全にここに狙いを定めていた感じだな。
「ほんとどうすればいいんだよ…」
今現在の問題点としては…
門をくぐる方法、ウィルのギルドカード(持ってなかった)、あの騎士団の攻略方法
「……よくわかんないけど、師匠!ご飯にしましょう!!」
こういう時、子供の元気さが救いになる。
よくわかんないってとこに、若干のアホの子要素があるのが心配だが。
「そうだな、取り敢えず飯にしよう…」
「ま、頑張って。」
元はといえば完全にお前のせいだ、と思いつつも、こいつと口喧嘩しても意味ないし疲れるので、黙って飯を食う俺達だった…
ちなみに、飯はめっちゃ不味かった。
作成者であるウィルには、料理担当ローテーションから外れてうことが決定。
俺の師匠としての初めての教えは、めでたく『料理』となった。
お読みいただき、ありがとうございます!
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出そう出そうと思ってた設定をやっと出せました…
元気なアホの子、男女関係なく友人に一人は欲しい




