055話 二つ目の取引
書き直してたら日付が変わってました…
朝6時までに更新って勝手に決めてるから、まだ大丈夫!
「一体何だったのかしら……」
クリスが歩み寄って来て、倒れているディザスターグリズリーを見てそう呟く。
「………恐らく、元人間だろう。」
特にこの個体はそれが顕著だった。
他のアームドグリズリーは多少の違いはあれ、それほど人間らしさはなかった。
多分、これはアレクが目指した形…の途中経過だ。
となれば
「アレク!」
後ろで避難していたアレクに呼びかける。
「こいつに見覚えは?」
「……ないね。動きが随分人間臭かったけど…もしかして」
「あぁ、恐らく元人間だ。」
アレクが驚愕し、そして苦々しい顔になった。
「いい気分じゃないなぁ。僕以外にこんな事できる奴がいるなんて…しかも僕より進んでる。」
「有り得るのか?スキル持ちのお前より研究が進んでるなんて。」
俄には信じ難い。
一応、勇者候補としてスキルを授かっているんだぞ?
「不可能とは言わないけど…限りなく低い。
もしくは……僕以外の勇者候補……」
そう言ってアレクは長考状態になってしまった。
こうなったらあとは放っておこう、どうせ答えが出ても俺達には教えてくれはしないだろうし。
「シンさん、さっきの……」
「ボス!最高にカッコよかった!!」
サラが何かを言いかけるが、ウィルに遮られる。
この子、完全に丁寧語なくなってるな。
「さっきのってのは?」
ウィルはひとまず置いとこう。
「あの…『魔法剣』…シンさんのは刀だから『魔法刀』ですか。」
あれは『魔法剣』…『魔法刀』というのか。
「なんか、がむしゃらにやってたら出来た。」
「えぇぇぇ………」
嘘は言ってない、本当のことだ。
この結界内で試行錯誤し、なんとかかんとか実現できるようになった。
正直、それ以外言い様がない。
「多分、俺のこの刀が剣玉から作られたからかなぁ。」
「え!?そうなんですか!?」
あれ?言ってなかったっけ?
……名言した記憶はないな。
確か…訓練場で会った時も「模擬戦をやる」としか言ってなかったはず。
「あぁ、ごめん、言ってなかったわ。」
「……いえ、もういいです。
でもそうか…剣玉を使ったという記録は…確かになかったですね。
そんな貴重なものを『魔法剣』の実験に使用しようって発想は……」
ブツブツ何かを言っている。
サラって実は本の虫だったりするんだよな。
アイテムボックスの中身も本が結構入っていたりするし、ブルムの街にいた時も、結構書物を読んでるって話をウザイケメンから聞いたことがある。
そう言えば、アレクのことも文献を読んで知ってたし。
「シンさん。これ、すごい発見ですよ。」
「………そぅ。」
申し訳ないが、『魔法剣』とやらには全く興味が無い。
それより、俺の刀に意思が宿っていることの方が重要だ。
そう思ってさっきから刀を気にしているのだが
「?なんで反応がないんだ?」
おかしい。
先程までは、うるさいくらいに光ったりしていたのに
今は普通の、若干青みがかった刀だ。
「シン、刀がどうかした?」
クリスがそう尋ねる。
うーん、現状俺の刀の状態(意志を持った)を説明する証拠もないし
言っても信じてもらえないだろうし
「いや、なんでもない。」
そう、ごまかしておくのが一番かもしれない。
「ボス!聞いてる!?」
そんなことを話していて気付かなかったが、俺の顔の真ん前にウィルの顔があった。
「あぁすまん、聞いてなかった。」
「だから!やっぱり俺を弟子にして!!」
そんな話をしてたのか。
ほんとに何も聞いてなかったな。
「断る。」
ここははっきり言っておいたほうがいいだろう。
下手に希望を持たせるわけにもいかない。
「なんで!?」
「なんでも。それに、俺達は先を急ぐんだ。今回は本当に困ってたみたいだし、時間もかからないと思ったから手を貸したけど、本当は急いで帝国まで行かなきゃいけないんだ。」
「………」
ウィルが悔しそうな、それでいて残念そうな顔をする。
俺の完全な拒絶、それに若干のショックも受けているのだろう。
悪いが、弟子を採っている余裕なんて無い。
本当は、一刻も早く村の人達を助けないといけないんだ。
「………俺も」
「ん?」
話は終わったとばかりに薬草で治療中をしていると、ウィルが大声を出した。
「俺も付いてく!!」
「ダメだって言ってるだろ。」
「ダメです。」
「ダメ。」
「いいよ、連れてこう。」
全員が反対すると思った時、アレクだけが賛成した。
こいつ、自分に負担がないからって…
「すまんな、どうしても連れて行け「じゃぁ、ウィル君を連れていくことが、交換条件の二つ目にしようじゃないか。」
俺がウィルに優しく伝えようとすると、アレクが驚くことを言い出した。
交換条件?まさか、こんなことで使うのか?
「……何を企んでいる。」
若干強めの殺気を放ちながら、アレクを問い詰める。
たったそれだけでも、今の状態のアレクにとっては、かなり肝が冷えるプレッシャーだろう。
それでも引かず、説明を続ける。
「っ……何、特に理由なんて無いよ。強いて言うなら、ウィル君を一人にするのも危ないのかなって。」
ウィルを一人にするのが危ない、それだけを考えれば、まぁわからなくもない答えだが
こいつに限ってそれだけなんて、ありえない
更に、自分の少ない交渉カードを切るほどだ、絶対に何かある。
「……………」
少し考えてみる。
ここでウィルと別れた場合と、連れて行った場合、メリット・デメリットを正確に把握しなければ。
…
………
………………
「……いいだろう、お前の出す情報は?」
結局、俺はこの提案も受けることにした。
「シン、本当にいいの?」
クリスがまたしても心配そうな顔をする。
いろいろ考えたが、一番の理由は…
「多分、こいつ置いてっても付いてくるぞ。」
ウィルは満面の笑みで尻尾をぶんぶん振り回している。
あぁ、元の世界の実家で飼ってた犬を思い出す。
久しぶりに帰郷すると、何をしててもどこからともなく飛んできて、俺の周りを走り回り、尻尾を千切れるんじゃないかってくらい振り回すんだ。
こうなったら、頭をなでて抱き上げてやって、しばらく遊んでやらないと気が済まないんだ。
今のウィルはまさにその状態。
アレクが連れてってもいいとか言っちゃうから余計に…
「……そうね。」「ですね。」
クリスとサラも理解してくれたようだ。
「取引成立だね。じゃぁ僕のカード…バロックの居場所、バロックとの取引内容、君たちの気づいてない脅威、どれがいい?」
ほう、選ばせてくれるとは。
バロックの居場所……俺の勘では、アレクの研究所にいると思っている。
じゃなければ、アレクがわざわざバロックを迎えに来たりしなかったはずだ。
俺達の気付いてない脅威……これも気になるが、俺の勘が正しければ、もうすぐバロックぶつかるはず。
奴との取引内容を聞いておいたほうがいいだろう。
「バロックとの取引内容を聞かせてもらおうか。」
「君たちの気づいてない脅威じゃなくていいのかい?」
アレクが意外そうにそう言った。
「どれか一つしか選べないのならな。いずれは聞くが。」
「ふーん…まぁいいけど。」
そう言ってアレクが咳払いをする。
「バロックとの取引は、前に軽く言ったけど、"僕が村の人達を実験材料としてもらう"。」
「あぁ、それは知っている。バロックの方のメリットは何なんだ?」
前にアレクが自分で言っていたな。
「……その研究結果を元に………」
アレクが一瞬顔を伏せたが、すぐに前を向く。
そしてその口から、すぐには理解できない言葉が飛び出した。
「バロックの肉体を作ること。」
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