050話 獣人
やっとこさ50話!
ちなみに物語の進みは相変わらず遅いです…
「サラ、この子の治療を頼む。」
茂みにいるサラに向かって話しかける。
サラは申し訳なさそうに茂みから出てきた。
どうしたんだろうか?
「すみません!すみません!」
「え?何が?」
「援護できずすみません!!」
あぁ、そう言えば魔法は飛んでこなかったなぁ。
俺が魔物に近過ぎて撃てないんだと思ったから、なにも気にしてなかったんだが
「なんでかわかんないですけど…急に魔法が使えなくなって…」
「え?マジで?」
俺も試しに魔力を込めて魔法を使おうとしてみる。
だが、少し魔力が集まったと思ったら霧散してしまった。
「……俺も使えない。何がどうなってるんだ?」
「感覚的には…魔力の集中を阻害するものみたいな感じです。」
うん、そんな感じだ。
魔力そのものは封じられていない。
実際、さっき自分自身への防御のための魔力の集中は問題なかった。
体内なら問題なくて、体外で発動しようとすると阻害される?
…てことは
「回復魔法も無理か。」
「すみません!」
回復魔法は俺達の中ではサラしか使えない。
しかも、かなり特殊な魔法でサラも集中しないと使えない。
薬草を使えば軽いケガならなんとかなるが、この子には気休め程度にしかならないな。
「とにかく、アイテムボックスから薬草を取り出して………
よし、ホントの応急処置だけどこれでいいか。」
「はい……もしかしたら、クリスさんたちの所に戻れば、魔法を使えるかも知れません。
森の奥深くに入るまでは普通に使えてたと思いますので。」
「そうだな。この子のことも放ってはおけないし、取り敢えず連れていこう。」
俺達は来た道を戻っていった。
「お帰り………ってその子どうしたの!?」
クリスが驚きの声を上げる。
「いや、魔物に襲われてたから助けた。サラ、ここなら魔法使えるか?」
「あ………はい、使えそうです。」
そう言ってサラは回復魔法を使った。
余談だが、こっちの回復魔法はヒールなんて唱えればいいものではない。
というか、この世界の魔法は厳密に言うと魔法名というものはない。
全てはイメージだ。
原理を理解し、それをイメージし、具現化させる。
それこそが全てであり、無詠唱もそのイメージがハッキリとできる者の技術なのだ。
前にサラからそう教わったのだが、回復魔法を見てるとそれを実感する。
回復魔法。
多分身近な魔法で最もイメージが難しい魔法だ。
人の身体に作用し、尚且つ治癒能力を上昇させる。
言葉で言うのは簡単だ、だがこの世界は医療技術も元の世界ほどではない。
細胞分裂や赤血球の働き、なくなった細胞の再生、そんなものは知識として存在しない。
大量の魔力(MP)と力任せのイメージでなんとか補って魔法を発動する。
故に、回復魔法を自然に使える者、難なく使える者はそれだけでとんでもなく優遇される。
サラですら、俺の元の世界の中途半端ですらない聞きかじりの知識を聞いて、初めて回復魔法を使えるようになったレベルだ。
俺はその知識があっても、薬草を使った方が早いくらいの回復魔法しか使えなかった。
やはり、魔術師としての経験の差が出ているのだろう。
「ふぅ……なんとか落ち着きました。」
サラの額に大粒の汗が光っている。
それほどに集中しなければ使えないということだ。
「……この子の顔色もだいぶ良くなったな。」
見ると、さっきまで青白い顔をしていた獣人の子の血色が良くなっている。
薬草とは大違いだ。
止めきれなかった血も、傷口ごと綺麗になっている。
そこで改めて、この獣人の子を見てみる。
頭に生えてる白…と言うより、銀に近い色の毛に覆われた犬耳
その毛並みと同じ色の銀髪
そして後ろの尻尾
歳は十四、五歳と言ったところか
少し幼さの残る少年
「この国に獣人とはね、ずいぶん珍しい。」
「そうなのか?確かに今まで一度も見たことはないが。」
村でも街でも、ここまで来る際に見かけたことは無い。
この世界にはいないもんだと思ってた。
「大昔の名残で、この国には獣人はまずいないんですよ。今はもうないですが、酷い迫害があったとかで。連合国には獣人の国もありますし、帝国でも普通に見かけます。
聖教国は…未だに酷い迫害がありますので…」
この国にはやたらと広い自然があるんだから、いてもいいと思うんだが。
「でもこの子…なんでこんなところに一人で…」
軽く辺りを探ったが、特に両親や連れっぽい気配はなかった。
念のため『気配察知』で、注意深く探してみた。
認識してから初めてわかったが、獣人の気配は人や魔物、動物とも微妙に違う。
俺が察知できなかったのは、人かそれ以外か、くらいにしか意識を持っていかなかったからだ。
それでも、周りは少しの魔物と動物程度しかいなかった。
「迷子…にしては妙だね。そもそもこの国に獣人の集落とかはないと思う。もしかしたら隠れ住んでいたのかもしれないけど。」
「…まぁ、この子が気が付くまで待ってみようよ。」
事情を聞けば一発なんだ、それまで待てばいい。
「そうね。どれくらいかかるかわからないし、今日はここで野宿しましょう。」
辺りはまだそれほどではないが、事情を聞いたりなんだりでそれなりに時間がかかるだろう。
俺たちはそのままその場で野営の準備を始めた。
この作業もかなり手慣れたものだ。
最初は四苦八苦して、野営経験のあるサラに色々聞いて…
クリスなんて「魔物の毛皮でも敷いとけばいい」なんて、野性味あふれる回答をして他のメンバーに大ひんしゅくをかっていた。
「……こんなもんでいいかな。」
サラに頼んで周りに結界陣を敷いてもらい、俺の魔法とスキルで簡易の風呂場、台所を作り、簡単なベッドも作った。
もちろんそれぞれに仕切りを作り、結界陣も外から中を感知しづらいものにしている。
俺の魔力も上乗せしているので、かなり高位の魔術師でもない限り、まず見つかることはない。
ちなみにルジャータを手に入れてから、繋いでおく馬房…とは言えないが、簡単な柵も作っている。
なにげに力を入れて作っているのは内緒だ。
ルジャータは魔物の生肉と野草をあげてればいいそうなので、森寄りに設置してやった。
「今日は野草とかがたくさん採れたから、そいつを使おう。」
「魔物の肉ばかりで飽きてたんだよね!さすがシンだ!」
「ま、たまには食物繊維も摂らないとだめね。」
こっちの世界にも食物繊維って言葉があるのかよ。
「取り敢えず飯にしようか。」
そう言って俺たちは夕飯を食べ始めた。
獣人の子は一個余分に作った簡易ベッドで寝かせている。
食事を終え、いつもの雑談をする。
その時
「……ん………」
獣人の子が目を覚ました。
「お、目が覚めたか?」
「ここは………あ、さっきの兄ちゃん。」
どうやら倒れる直前のことまでは覚えているようだ。
「身体は大丈夫?簡単な治療はしたんだけど、どこか痛むとかない?」
サラが優しい声で話しかける。
「え…はい…大丈夫…」
グゥゥゥ……
結構大きい腹が鳴る音がした。
獣人の子は顔を赤らめて伏せてしまった。
「ご飯はたくさんあるから食べて。」
「い、いいんですか!?」
獣人の子の顔がパァッと明るくなる。
と同時に垂れ下がった犬耳がピンと立ち、見えにくいが背後の尻尾も上を向いたのが見えた。
魔物を狩れば食料はいくらでもあるし、問題ない。
クリスが皿によそってやって、獣人の子に渡す。(皿も土魔法で作った、鉄製で重い。)
「はい、熱いし少し重いから気をつけてね。」
渡された皿を受け取りってすぐ食べるかとおもいきや、中身をじっと見つめる。
「どうしたの?食べないの?食べれない物とかあった?」
サラが不安そうに覗きこむ。
獣人の子は首を振って否定し、申し訳無さそうに上目遣いで俺をチラ見した。
…………ん?これって、俺の許可を待ってるのか?
「……好きなだけ食え。」
それを聞いた瞬間、再度獣人の子の顔が喜びの色に染まり、一心不乱に皿の肉と山菜(野草メインだが)を貪り始めた。
相当腹が減っていたんだろう、ものの数秒で食べ尽くしてしまった。
その様子を見ていた俺たちは、そのあまりの必死さに口を開けて呆気に取られていた。
今は名残惜しそうに皿を舐め回している。
「…………プッ」
悪いとは思いつつも、吹き出してしまった。
それが聞こえたんだろう、獣人の子はビクリと体を震わせた後、恐る恐るこっちを見る。
「良い食べっぷりだ。足りないんだろう?好きなだけ食えって、おかわりもあるんだ。」
そう言いつつ、使い終わった皿に料理を盛ってやり、獣人の子に渡してやる。
たくさん食べていいとわかった獣人の子は今日一番の喜びの顔をし、最終的には多めに作った食材を全て食べ尽くしてしまった。
「もう腹いっぱいか?」
「はい!いっぱいです!!ごちそうさまです!!」
すっかり元気になった獣人の子を正面に座らせ、話を聞こうとする。
どうして子供が元気よく返事をすると微笑ましいのに、あのウザイケメンだとうざく感じるのか。
「さて、色々聞きたいことがあるが、取り敢えず自己紹介かな。
俺はシン。こっちの赤毛がクリスティーナ、金髪がアレックス、青髪がサラ。サラは君の治療をしてくれたんだ。」
「はじめまして、クリスティーナよ。クリスでいいわ。」
「僕もアレクでいいよ~。」
「はじめまして、サラです。」
「皆さんはじめまして!
僕はウィル、ウィル・シルヴァリア、獣人です!!
サラさん、治してくれてありがとうございます!」
獣人の子、ウィルは元気よく返事をした。
サラは気恥ずかしいのか、頬を染めて「いえいえそんな…」なんて言っている。
「じゃぁウィル君、君はあんなところで何をしてたんだ?」
両親は?他の獣人は?色々聞きたいがまずはここからだな。
それに対する回答は、驚くべきものだった。
「それは………シンさん………………いえ、師匠!!」
「!?」
何!?
今なんつった!?
「お願いします!助けてください!!」
ウィルの表情は、ふざけているとかそういうものではなく必死の懇願だった。
お読みいただき、ありがとうございます!
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名前は最後まで迷いました




