049話 指名手配
ルジャータは馬より早く、馬より体力があり、何より
「ふかふかだぁ……」
乗ってる間、ずっと天国だった。
羽毛のおかげか、お尻も痛くないしなにより肌触りが最高だ。
しかも随分と人懐っこく、乗馬ができない俺でもすぐに乗れるようになり、更にリードするかのように快適に進んでくれる。
「俺、こいつ飼いたい。」
「ダメ」
ここに来るまで何度かやり取りした内容だった。
もはやクリスの反対も脊髄反射レベル。
「それにしても速いですね、もう半分を過ぎてますよ。」
サラのスルースキルも高くなってきている。
だがそれは確かだ、このルジャータに乗ってから速度が段違いに上がっている。
あれから数日、それだけで予定の半分以上進んでいた。
「ね?僕の言う通りだったでしょ?」
「完全に犯罪だけどな。」
だがまぁ、この際仕方ない。
勝手に大罪人にされたんだし、奪ったのも野盗からだと考えれば…いや、それでもダメなもんはダメだが。
「ここら辺まで来れば、さすがに騎士団もまだ来てないかと思ったけど…」
行く先々の村や街で騎士団を見かける。
しかも俺達のことを探している素振りも見受けられる。
こりゃ確実に帝国に行くのがバレてるな。
フードを被り見つからないようにとある街のギルドに寄ってみたが、俺達の話題で持ち切りだった。
「ブルムの大魔侵攻の英雄がいるだろ?あいつが裏切ったってよ。」
「なんでも主犯を連れ去ったとか。」
「騎士団(軍)の奴らを虐殺して連れ去ったとか。」
「最初から全部仕組んでて、それを団長が気付いて、バレたら逃げたとか。」
などと、酷い言われようだった。
尾ひれが付くのは仕方ないが
「意図的に悪印象を植え付けてるわね。」
恐らくガインが情報操作しているのだろう。
都合の良い様に話せば、騎士団団長という立場も相まって瞬く間に広めることも可能だ。
もうこの国に居場所はないかな。
「それにしても、あの戦争でかなりの数を減らしたのによく派遣するな。」
それだけ俺達を重要視しているということか。
だが、手配を見て一つ気になった点がある。
「『生死問わず』か…俺とアレクも殺しちゃっていいのか?」
「……さぁねぇ。」
そこだけが謎だ。
俺とアレクに用がある、なのに殺しても構わない。
もしかすると、生死を問わずといいつつ、こんな手配書で動くような奴には、俺達はやられないという考えのもとなのか
それとも…用があるのは俺たちではなく、"俺達の肉体"もっと突き詰めれば…
「……俺達の、スキル……」
そう考えるのも無理は無い。
だが、俺達が死んだらスキルなんて使えない。
もしかすると…死体からスキルを取り出す方法でもあるのか?
『魔人融合』のスキルを持つアレクならなにか知っているのかもしれないが、こいつはこの件に関してずっと口をつぐんでいる。
なにか知っているのは確かだ、だがそれを教える気はないらしい。
別に仲間ってわけでもないし…仕方ない。
「ともかく、先を急ごう。このペースなら、後一週間くらいで国境に行けるんだよな?」
「はい、ルジャータが思いの外速いので。」
これでも、街道なんかを避けてなるべく目立たない森や岩場なんかを進んでいるのだが、それでも予定よりずっと速く着きそうだという。
やはりルジャータさまさまだな。
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そこから更に数日。
あと二三日走れば、帝国の国境に着くという頃。
「……なんか聞こえないか?」
森で一休みしている時に、誰かの声がした。
『気配察知』にはそんな脅威となるような気配は感じられないので、気にしなくてもいいのだが…
「これ、人の声だよな?」
「…うん?別に何も。」
「そうかい?何も聞こえないけど。」
「微かに…ですが。」
サラにも聞こえたようだ。
人の声…いや、歌声に近いか?
だが、『気配察知』には人の気配はない。
…不気味だ。
「ちょっと声の方へ行ってみようと思う。サラ、付いてきてくれ。」
「あたしの『気配察知』からあんまり離れないでくれると助かるんだけど。」
「了解、そんな奥までは行かないよ。」
単独行動は禁物、更に戦力的なことも考えて俺とクリスは別々になったほうがバランスがいい。
サラと一緒に深い森の中に入っていく。
「随分と植物が生い茂ってるな。」
「そうですね…というか、植生があまりココらへんでは見ないものですね。」
少し森の中を進んでいくと、想像とは大きく異なった風景が広がった。
よくわからない毒々しい色をした巨大な花。
恐竜映画に出てきそうな、やたらと刺々したシダ植物のようなでかい葉っぱ。
元の世界で言うゼンマイと思しき植物、だがその太さと大きさは記憶にあるそれとは大きく異る。
しかもその植物一つ一つが、足の踏み場がないほどの植生ぶり。
俺の『植物鑑定中級』のスキルでも、初めて見る名前ばかりだ。
さっきまで一休みしていた森と同じとは思えない。
あ、これは食えるのか、ちょっと摘んでこう。
「シンさん、あれ!!」
野草とかを採取しながら歩いていると、サラが前方を指差した。
「ん?俺の『気配察知』にはちょっと大きめの動物二匹くらいしか反応がないけど…」
「片方、動物には動物ですが…もう片方は……」
言いよどむサラ。
そう言えば、さっきからかすかな歌声が全然しない。
取り敢えず、俺も指さす方を見てみると
「…おい、あれって…」
「……はい、恐らくそうかと。」
そこには、四本腕の二メートルほどの熊と、服もボロボロになり多数の傷から血を流している子供が
「助けるぞ!」
「はい!」
俺が飛び出し、サラが魔法を撃つため魔力を練る。
サラの魔法の前に、俺が熊の正面へとたどり着く。
熊の方もこちらに気付き、四本腕を器用に使って、俺に攻撃してくる。
「そんなもん!」
刀で腕ごと叩き斬ろうと振り下ろすが
「は!?」
刀は空を斬った、というか"斬らされた"
熊が俺の刀の刃の部分に触れず、腹の部分を押して剣筋を逸らしたのだ。
まるで……
「ぐっ!!」
間髪入れず、流れるような動きで熊の四本腕が迫る。
完全に意表を突かれた形の俺は、なすすべなくその攻撃を食らい吹き飛んでしまう。
それでも身体の前部に魔力を集中し、少しでも威力を減らそうとした。
だが
「ガハッ!!!」
吹き飛ばされた先で、大きく咳き込んでしまう。
なんだ?
あの威力は異常だ、一応緊急とはいえ全力で防いだんだぞ?
それでこの威力…
そこまで考えてふと思いついた。
「……さっきの動きといい……この熊……"拳法"を…使うのか…」
はっきり言って信じられない。
熊だぞ?魔物とはいえ熊が拳法って。
これも中二病時代の知識だが、"発勁"と言ったか、身体の内部にダメージを通す技。
魔力で防御しても意味ないわけか。
「そこの…兄ちゃん……逃げたほうが……いいよ……」
その子供が息も絶え絶えにこっちに話しかけてくる。
どう見ても中学生程度にしか見えない
そんな子に逃げたほうがいいって言われるとは…
「…………ふぅ……そりゃこっちの台詞だ。」
息を整え、立ち上がる。
熊は、その様子を見て俺にあまりダメージがないと思ったのか、完全に俺をロックオンしている。
その瞳は獲物を見る目だ
なるほど、俺は餌ってわけか。
「調子にのるなよ、熊が。」
俺は少しばかり本気をだすことにした。
刀を鞘に収め、"例の型"に入る。
やや体制を低くし、左足を少し後ろに下げ
左手は鞘を掴み、右手は力を抜いた状態で刀の柄を軽く握り
正も負もない、中庸の、凪のような心で構える
それを諦めと感じたのか、雄叫びを上げながら四本腕の熊が襲いかかってくる。
「兄ちゃん……!!」
先ほどの子供が叫ぶ。
奴の鋭いツメが俺の身体を切り裂くかに見えたその時
ズルッ…………
生きながらにして、身体が斜めに"ズレる"音
血と肉が擦れて、生々しい、実に不快な音が聞こえる。
そしてそのまま、熊の上半身は地面に斜めに滑り落ちた。
軌道をそらされるのなら、見えない速さで、反応できない速さで斬れば問題ない。
単純な話だ。
それを実践できるかどうかは別問題だけど。
「………す、すげぇ……」
そう言って子供は安心したのか、気を失って倒れた。
その子を抱えながら俺は小さく呟いた
「獣人…か…」
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異世界っぽく




