004話 スキルを学ぼう(必死に)
主人公のチート要素はまだあんまりありません。
プロット作ったほうがいいのだろうか…。
―――――ガンガンガン
扉を乱暴に叩く音で目を覚ます。
全身が痛い、慣れないベットで寝たせいだろうか。
ってことはここはやっぱり異世界なのか。
うん、現実だな、夢じゃなかったか。
のそっと身体を起こし扉を開ける。
扉の前にはクリスが立っていた。
「おはよ。訓練に行くよ。」
ぶっきらぼうにそう言った。
「おはよう、クリス。今何時?日が昇ったばっかりって感じなんだけど。」
「朝の6時くらいかな。今起きたの?結構起きるの遅いんだね。」
この時間でも遅いのか!
いや、考えれば照明とかもないし、光といえば太陽光ぐらいしかないのか。
暗くなったら寝る、薄暗い中起きて一日の準備をする、実に健康的だ。
現代社会の昼夜逆転になれた身体にはなかなかにきついものがあるな。
「昨日通った村の入り口で待ってるから、準備が終わったら来て。」
そう言うとクリスは村の入り口に向かって行った。
いきなり訓練か。まぁ仕方ない。他にできることもないし。
昨日教えてもらった井戸に行って水を汲み軽く水浴びしてから行くか。
シャワーなんて高尚なものはない、風呂も然。
山村だからか朝晩は冷えるな…我慢するか。
ん?でもスキルを使えばいけんじゃね?
水を汲んで試してみるが、そもそもどうやってスキルを使えばいいかわからず、結局冷たい水で水浴びをすることになった。
あとでクリスに聞いてみよう。
その後、昨晩のBBQもどきの残りを少し分けてもらっていたので、朝食がてら掻き込んだ。
準備を終えて村の入り口まで行くと、クリスとガルドさんが話をしていた。
「おはよう、シン。今から訓練だって?」
「おはようございます、ガルドさん。はい、いつまでもこのままってわけにはいかないので。」
「そりゃそうだな。クリスのしごきは大変だろうけど、死にはしないだろうから頑張れ!」
マジか。
「そんな無理はしないよ。無茶はするだろうけど。シンが雑魚のまんまなのは困るし。」
相変わらず口が悪いが、ずいぶんと怖いことをおっしゃる美人さんですこと。
「食料は昨日の分で結構余裕があるが、軽く獲物を取って来てもらえると助かる。」
「うん、そのつもり。じゃ行ってくる。」
ガルドさんに別れを告げ、村から少し離れた森を目指す。
昨日の森は村から結構離れていたが、大物を狩るでもない限り近くの森で十分なんだそうだ。
少し歩くと森の入り口に付いた。
「よし、まずは今あるスキルを確認してみようか。」
そういわれて、今朝熱操作のスキルを発動できなかったことを伝える。
「スキルが使えなかった?…あぁ、ステータスが見れないくらい貧弱だからだよ。」
「あ、はい。」
仕方ないじゃん!転生直後なんですから!
「そっか、スキル使えないか。ならステータス表示を目指そうか。本来ならステータスが表示されないくらい低いってのは、子供のころに終わってるんだけどね。」
「つまり俺は子供以下ってことか…」
「でも付いた筋肉とかは残っているはずだから、全部奪われて一時的に表示されてないだけかもしれないし。少し訓練すれば戻るかもよ。」
それはいいことを聞いた。
確かにステータスが表示されてないとはいえ、子供以下の能力ってことはないはずだ。
仮にも26年生きてきたわけだし。
もしかすると魂の変換でゼロベースになってるかもしれないけど。
「まずはこれね。」
クリスはアイテムボックスから木刀を2本取り出し、1本を俺に投げてよこした。
「さ、好きなように打ち込んでみて。身体がどれだけ覚えてるかの指標にもなるし。」
竹刀すら持ったことないんだが。
適当に振り回してみようか。
「多分みすぼらしいと思うけど、笑わないでくれよ?」
そう言って、できる限り全力でクリスに向かって木刀を振り下ろした。
1時間後
「……………ぜぇ………ぜぇ………ぅっ」
吐きそうになっている俺がいた。
いや、実際吐いた、何度も。
「うん、少しずつ良くなってるよ。まだ全然だけど。」
対するクリスは涼しい顔で立っている。
打ち込んだ、それはもうがむしゃらに打ち込んだ。
でもさ。
「反撃するって言ってよ…」
そう、俺はクリスによってボコボコにされたのだ。
身体中擦り傷や痣だらけだ。
「痛みを伴わないと成長しないじゃん。これも訓練だよ。」
平和ボケした日本人に、いきなりバイオレンスすぎやしませんか!?
せめてもの仕返しでジト目で見てみる。
「そんな顔したって止めないよ。それよりステータスはどう?」
くそぅ、軽く流された。
とにかくステータスを見てみるか。
「お…おぉぉ!!」
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
シン
HP :10
MP :0
力 :5
体力:5
敏捷:10
魔力:1
スキル
・熱操作
→対象物をあっためたり冷やしたりできる。(40℃~0℃)
・原理理解
→受けた攻撃の原理を理解することができる。
・成長促進
→能力値やスキルが成長しやすい。
魔法
なし
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「出た!出たよ!」
数値ひっく!
これ微妙とかじゃなくて、ただの雑魚だ!
しかもMP0!?どういうこと!?
「出たんだ、おめでとう。」
たいしておめでとうって感じは受け取れないが。
でも確かにクリスのおかげでステータスが出たのは間違いない。
「ものすごい数値が低いけど、何とか出たよ、ありがとう。」
「どういたしまして。さて、再開しよっか。」
クリスが剣を正眼に構えてそう言った。
「え、ちょっと休ませて…HP10に体力5なんだけど…」
「そんなに低いの!?…なら寧ろもっと追い詰めないと…」
クリスから気合いがあふれているのが分かる。
に、逃げれない…
そこからたっぷり3時間ほど、クリス先生にいじめられ…もとい、訓練していただきました。
結果
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
シン
HP :2
MP :10
力 :10
体力:20
敏捷:15
魔力:1
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となりました。
「この短時間で、ずいぶん伸びたね。」
クリスが驚いたような顔をしていた。
これは成長促進のスキルのおかげか?
多分パッシブスキルなんだろう、じゃなきゃクリスが驚くような成長速度はおかしい。
てかHP下がってる。クリス先生、僕のHPは0間際です。
HPやMPは最大値表示じゃなくて、現在の値を表示するのか。
死なない程度でぎりぎり生かす、なんて絶妙なコントロール。
「…も……もぅ………む…り…」
実際HP2だしね!
「いい時間だし、お昼がてら休憩しようか。」
そう言ってクリスがアイテムボックスから弁当らしきものを渡してきた。
女の子の手作り弁当!?
あ…これ、昨日の残りだ…
水筒らしきものも渡してくれた。
一気に水を飲み干し、がっつくように弁当を食べた。
生き返る…HPを見ると13くらいまで一気に回復してた、やはり現在値を表示してるのか。
そして心なしか身体のいたるところの傷も薄くなってるような。
「どう?薬草の成分を入れたお茶だから、身体が楽になるでしょ。」
なるほど、さすが異世界。薬草で傷が回復するんですね。
でも、ステータス上のではない体力までは回復しないみたいだ。身体のだるさは変わらない。
「この辺には薬草が自生してるから、瀕死でもない限りいくら傷を負っても気にしなくていいから。」
さらっと怖いこと言わないでください。
傷を負わせるのはあなたなんです。
「さて次は、魔力を得ていきましょうか。」
「魔力?確かに1だけど、これどうすればいいの?」
MPはなぜか少し上がった。
「魔法を使えば上がってくってのが順当だけど、ほんとの最初は魔力をその身に浴びることが重要。」
確かファイアーボールとか使えますよね、クリスさん。
「あぁ…今度は火傷なんですね。」
「もちろん加減するから、死にはしないと思う。」
マジでお願いします、下手をすると死んでしまいます!
「行くよ、『ファイアーボール』!」
特に詠唱とかはなく、手を前にかざし魔法名を叫ぶと小さな拳大くらいの火の塊が飛んできた。
こわっ!
とっさに避けてしまう。
火の塊は俺の後ろにあった木にぶつかり、ぶつかった部分からその木全体に一気に燃え広がった。
当のクリスはというと
一本だけ生えていた木が黒焦げになる様子を唖然として見つめる俺に
「だめじゃない、避けたら。」
と、普通に話しかけてきた。
「クリス!手加減してあれなのか!?多分じゃなくて、間違いなく死ぬ!焼け死ぬ!」
火の塊は対象の木を燃やし尽くして、自然に鎮火した。
どうやら対象物のみを燃やすらしい、森が燃えなくてよかった。
あとに残ったのは炭化した木だったもの。
「大丈夫よ。」
「何を根拠に!?」
「あの木には魔力抵抗がなかった、だからあんなに燃えたの。人間相手だと魔力抵抗があるからあんなに燃えないよ。」
「その魔力抵抗ってのはステータスには表示されない?」
「表示されない。『魔力』と『体力』と天性の素質が組み合わさって魔力抵抗ができるみたいだけど、詳しい値はわかんないんだって。」
それは最低ステータスに毛の生えた程度の俺では、ほぼゼロなのでは…
「あんたは魔力は1だけど、体力が20もあるからまず燃え広がりはしないよ。信じなさい。」
「………わかった、だけどもう少しHPを回復させてくれ。不安で仕方ない。」
その辺にあった薬草を食べまくって、なんとかHPは80くらいまで回復した。
これが現在の最高値っぽいな。
ちなみに薬草は苦かった。
生で食べるのは緊急時で、傷に貼ったり塗り込んだりお茶のように飲むのが普通だそうだ。
「よし!バッチ来い!」
次こそは逃げない!
「はい、じゃもう一回行くよ、『ファイアーボール』!」
同じようにクリスの手のひらから拳大の火の塊が飛んでくる。
やっぱこわっ!さっきの木を思い出すとめっちゃこわい!だが負けるわけにはいかない!
勇気を振り絞り、身体の真正面で受け止める。
「あっぢぃぃいぃぃい!」
身体を!火が!炎が!熱い!焼ける!
「熱いいぃいぃぃぃ…………あれ?」
言うほど熱くない。革の鎧はちょっと焦げてるとこはあるけど、俺自身はそんなに。
「だから言ったじゃない。」
不思議な体験だった、確実に燃えてるはずなのに、少しの熱さしか感じなかった。
「う、うん…大丈夫だった…」
その時、視界の隅でポップアップが出てきた。
『魔力攻撃の原理を理解しました。』
!?
『ファイアーボールの原理を理解しました。』
!!??
驚いて意識をさらに集中させる。
『魔力攻撃:魔力を用いてMPを魔法に変換し、解放・もしくは炸裂させることによる攻撃。』
『ファイアーボール:基礎魔法の一種。MPを消費し火の玉をイメージすることによって発動可能。』
これは『原理理解』のスキルが発動したってことか?
少し試してみよう。
えーと、魔力を用いてMPを魔法に変換。で、その魔法は火の玉をイメージして…
「何やって……!?」
おぉ、手のひらに魔力が集まっている気がする。
でもMP≠魔力だし、魔力って言い方はおかしいのか?正確にはMPが集まってるって言えばいいのか?
面倒だし魔力って言い方でいいか。
火の玉火の玉…さっきのクリスが作った火の玉をよく思い出して…
目を閉じて集中する。
手のひらが温かくなってきた感じがするので、目を開けてみる。
さっき見たような火の玉が手のひらにできていた。
それを近くの木に向かって飛ばすイメージをする。
あれ飛ばない?
何が違うんだ?
もしかして魔法名を言えばいいのか?
「『ファイアーボール』!」
火の玉は木に向かって結構な速度で飛んで行き、さっきと同じように木を燃やし尽くした。
「できた!すげぇ!」
感動した!
この感覚は新しい!
「な…なんで一発でできるの…」
クリスが信じられないものを見るかのように目を大きく見開いていた。
「え?普通できないの?」
「できるわけないでしょ!泳ぎ方を教える時に、実際に泳いでるのを見せて『はいやって』って言ってできる人がいると思う!?」
確かに。
「『原理理解』のスキルが働いてさ。ファイアーボールの原理を理解したんだ。」
「理解したって…理解と実行は別物よ。」
言われればそうか。
「でもクリスが目の前で実践してくれたし、『原理理解』の説明も俺にはわかりやすかったから。」
「あんた…本当に元は何者だったのよ…。普通は早い人で魔法発動まで数週間、最初は魔力の流れを掴むだけでいっぱいいっぱいなのに。」
「あははは。覚えてないけど、実はすごい人だったりして。」
しがないサラリーマンですよ、前世は。
驚かれつつも、クリスが他に使える『ファイアーアロー』をその身に受け、『ファイアーアロー』もマスターした。
クリスは「私なんて3か月もかかってやっと習得したのに…」とブツブツ言っていた。
あとは魔法の基本的な使い方、MPが切れたらどうなるか(気絶するらしい)とかを教えてもらいつつ、剣の打ち合いに戻った。
そこでも、魔法との絡め方だとか色々教わった。
クリスが使えるスキル『生命刀』と『連続剣』も真正面から受けた。
同じように『原理理解』が働き、俺も使えるようになった。
ただステータスが低いせいか『連続剣』を使うと、身体がすぐに筋肉痛になった。
それでも使えるには使えるので、またしてもクリスが「私は一年も…」とかブツブツ言っていた。
その後の打ち合いがやたら厳しかったのはきっと八つ当たりだと思う。
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しばらく打ち合い、陽も傾いてきたので暗くなる前に村へと帰ることになった。
その日の最終的な俺のステータスは
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シン
HP :150
MP :20
力 :20
体力:30
敏捷:20
魔力:20
スキル
生命刀、連続剣
魔法
ファイアーボール、ファイアーアロー
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と、なかなかにクリスに近付いた。
「いや、あり得ないから…」
クリスはずっとブツブツ言っていた。
ひとえに『成長促進』の効果だとは言えないよな…
村に帰って同じ話を村人にすると、同じように驚かれた。
なんでもステータスの伸び自体は、年単位の修行に匹敵するんだとか。
「将来有望な狩人の誕生だな!」
とノードンさんはご機嫌だった。
でも『原理理解』『成長促進』は案外使えるな。
原理さえ理解できれば、他のスキルや魔法も使えるんじゃないか?
一回身体で受ける必要があるだろうけど。
ちなみにもう一つの『熱操作』は普通に使えた。
冷たい水を温かいお湯にできるのはとてもありがたかった。
ぶっちゃけそれ以外使い道がなかった。
このスキル、使えねぇ。