048話 乗り物
思ったよりも短くなりませんでした
シン、クリス、サラ、アレクが古城を去ってから三日
「団長!やはりここにいた痕跡がありますね!」
「ふむ、よもや数日でここまで逃走し、あまつさえ我々が追いつけていないとはな。」
実際に四人がこの古城に着くまで、一日かかってはいない。
だが、シンが敢えてジグザグに逃走した成果があり、騎士団が足跡や痕跡をたどるのにこれほど時間がかかってしまったのだ。
騎士団のミスは、『逃げながらでは、いくらなんでもこの古城に一日二日では辿りつけないだろう』と考えてしまったことだ。
それでも、この男だけは違った。
「いや…もしかすると…一日程度で、あの森からここまで来たか…?」
床の状態、足跡、その他の状況から考えて、昨日今日までいたと思えなくはないが…少し時間が経ちすぎている気がしないでもない。
「……だとすると、目的地に向かっているのではないか?」
奴らがどこを目指しているのか。
少なくとも、我々の息がかかった場所には行かないだろう。
最悪、国を出る可能性すらある。
「国境警備の者にも早馬は出してあるな?」
「は!既に!」
「ならばいい。」
関所の者で止められるとは思っていない。
ただどこの国に逃げ込むのかさえわかれば、それなりに手の打ち様はある。
「報告します!裏手に足跡を見つけました!状況を考え、恐らくここを去ったものかと。」
「して、行き先はわかりそうか?」
「その……真っ直ぐその方向に行ったとすると…おそらくは、帝国かと。」
アレクも連れている状況で、連合国はないだろう。
聖教国か帝国、どちらも面倒な国ではあるが、よりにもよって帝国とは。
「……わかった。報告ご苦労。」
そう言って部下を下がらせる。
帝国か、手駒が一番少ない国だ。
その手駒も、いろいろな意味で問題のあるやつだ。
「だがまぁ…最悪、死体だけでもあれば問題はない。」
必要なのは奴らの命ではない。
「……一応、アレを投入しておくか。奴らの進行速度がさすがにアレを上回るとは思えん。」
そう言って、ガインは部隊を引き連れ、シンたちの後を追うのであった。
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「お前さぁ…マジで……これってどうなんだよ。」
「そんなこと言ったってねぇ。これが一番じゃん。」
「どこがよ!…あたし、ついにこんなことを…」
「……私騎士団所属なのに…騎士団団員なのに…」
俺たちは微妙な雰囲気でとある乗り物に乗っていた。
その乗り物とは…
「グアッ!!!」
魔物だ。
「………」
乗っている魔物はルギャータという、馬より早く馬より体力のある魔物だそうだ。
魔物としては珍しく、卵から育てていけば人間にも慣れて共存できるらしい。
だがそこは魔物、慣れずに成長してから襲ってくる個体もいる、故に高級家畜といったところか。
何でそんなもんを俺達が持っているのかというと…
旅を始めて一週間
昼間の半分は移動距離を稼ぐ。
もう半分は、狩りをしたり寝床を確保しながら進んでいく。
途中、村や町もあったが、遠目で見ても騎士団が誰かを探している雰囲気があったので、寄らずにここまで来た。
「あれって、確実に俺たちを探しているよな。」
森の影に身を潜めつつ、遠目に見える騎士団を指差して言う。
「そうね、間違いない。」
「でも随分と速いよね?僕の予想だと、まだここまでは来ないと思ってたんだけど。」
確かに。
俺達が馬より速いなんてことは言わないが、それでもかなり急いで移動をしてる。
結構帝国寄りまで来ているが、そこにすらもう知れ渡っているなんて。
もしかすると、俺達の逃走先もバレているのか?
「………多分ですけど、ルギャータが実際に運用を開始されているのかと…」
「?るぎゃーた??」
「へぇ。帝国では使ってるって言うけど、こっちでも使う予定だったんだ。」
「???」
俺とクリスは完全に置いてけぼりだ。
「馬に変わって人間の乗り物になり得る魔物の一種です。」
そして上記の説明を聞かされた。
王国騎士団内部でそいつの試験使用はしていたが、今回満を持して運用を開始したと。
馬より速い疲れない、そんな魔物を使役してればそりゃ伝令もすぐに伝わるか。
「うーん、こっから先、ほとんどの村とかには寄れないかなぁ。」
村を離れながらそんな事を考える。
各村に一人か二人の騎士、殺すこと無く無力化することは容易いけど、それすると俺達の居場所を教えるようなもんだし…
そう思っていると、俺の『気配察知』に何かが引っかかった。
「…前方に十人ほどの集団…ん?これ、魔物の気配も混ざってる?でも襲われてる様子もない…」
ちょっと良くわからない気配だ。
人と魔物がすごく近いのに、殺気立ってる様子もない。
取り敢えず気配を殺しながら、近づいてみた。
そこには、切り株に腰を下ろし、談笑している十人ほどの、なんというか…うん、見た目が怖そうというか、野蛮というか…まぁ所謂、盗賊っぽい格好をして人がいた。
そのすぐ横に、馬のように地面の草を食べている二足歩行のダチョウのような生き物が数匹見える。
だがダチョウよりも筋肉質で、真っ白い毛に覆われており羽もがっしりしているように見える。
「あれは…ルギャータです!」
サラが小声で叫ぶ。
ほぅ、あれが噂のルギャータか。
「野盗が使っているという噂はありましたけど、本当だったなんて…どうりで捕まえられないわけですね。」
犯罪者のほうが変な最新技術や、違法取引なんかに精通しているというのはどこの世界でも同じようだな。
「ちょうどいいね、あれをもらおうか。」
そう言ってアレクが立ち上がる。
「は?ちょ、おま…」
俺の静止も聞かず、アレクはずんずんと野盗に歩いて行く。
「あぁ?」
そのうちの一人がアレクに気づき、睨みを効かせてくる。
「やぁ、ちょっと話を聞いてくれないかい?」
「何だお前?………まぁ、聞かねぇこともねぇが。」
男どもは一瞬、怪訝な顔をしたあと、アレクの顔と身体を舐めるように見て下卑た笑いを見せた。
うわぁ…こんなシーンよく見たなぁ。
身体で払え的なあれか?でもアレクの強さだし…
と思ったが
「ねぇ…あの子、足かせと手枷は外してあげたけど、ステータスとかって封印拘束があるから、全くの初期状態じゃない?」
クリスが忘れかけてたことを言い出した。
その瞬間、俺達三人は顔が青ざめるのを感じた。
「ちょ!ちょっと待て!」
よく考えないまま、俺はアレクを止めるために慌てて姿を現した。
「あ?まだいたのか?」
男はあからさまに嫌な顔をした後、腰の剣に手をかけた。
「いやいやいや!うちの連れが申し訳ないです!すぐにどっか行くんで!」
こんな奴らに関わってる時間はないし、面倒なことは起こしたくない。
できれば何事も無く帝国まで行きたかった。
「そうは行くかよ。」
男たちは剣を抜いて構える。
あぁぁ…これ避けられないやつだ。
「ほら、手っ取り早いでしょ?後は任せたよ。」
「………お前、いい根性してるよ。」
取り敢えず襲ってきた野盗は、全員無力化してその辺に放置しといた。
他の金品を奪うのが目的ではないし、食料もなんとかなる。
ルギャータのみを奪わせてもらった。
もちろん人数分のみだ。
……野盗を襲って乗り物を奪うとか、どっちが野盗かわかったもんじゃねぇ。
そして最初に戻るのだった。
「グアッグアッ!!」
「……可愛くなくはない。」
それだけが癒やしかな。
アレクは歩かなくて良くなったからかご満悦だし、クリスは犯罪行為にショックを受けてしまっている。
サラなんて、「法を守らなきゃいけない私が…でも目撃者を消せば…あの野盗の人達さえいなければ…」ブツブツと何やら危ないことを言っている気がする。
…あとでフォローしておいてやろう。
この旅は一週間目にして、既に先行きが不安なものになっていた。
お読みいただき、ありがとうございます!
ブクマ・感想・評価等本当にありがうございます!これからも楽しんでいただけるよう頑張ります!
ゆるぼ
このルギャータの名前




