047話 今後の方針
「帝国に向かおう」
昨晩、アレクから聞いたことをサラとクリスにも伝えた上で、村の人たちを取り戻すためにアレクの研究所に行くことを提案する。
更に現状、俺達はこの国にいることが危険すぎる。
常に追っ手はあるし、下手をすれば指名手配…いや、下手しなくても指名手配されてるか。
「それはいいけど…遠いよ?」
「どれくらいかかる?」
「…ここらへんからなら……馬を使ったとして、二ヶ月かな…」
遠いな!
まぁ王国が無駄に広大な土地があるって言うのも関係しているだろうが。
だがそこで気付いた。
「すまん、とても重要な事を忘れていた。」
「え…?何を?」
クリスとサラが心配そうな目で見てくる。
そう、これを知らないと今後の行動に支障が出る、重要な事だ。
「……帝国って、どんなとこ?てかどこにあるの?」
俺はそもそもの地理がほぼ皆無だった。
クリスとサラの目が呆れた様に変わっていく。
アレクはゲラゲラ笑っていた。
……
…………
とりあえず、地理を教えてもらった。
シルベルト王国を中央に添えた場合
西がバスティル連合国
南が海
北東が帝国、正式名称グローブ帝国
南東が聖教国、正式名称アルディアル聖教国
北一帯がガイレン山脈を挟んで魔の大陸
という形らしい。
国土の広さは
王国、連合国、帝国、聖教国の順に大きいとのこと。
国力…経済的な意味でも戦力的な意味でも、一番はやはり帝国だそうだ。
そして、意外なのが聖教国。
経済力は連合国と遜色ないそうだが、兵力は帝国に及ばずとも、連合国では歯が立たない程らしい。
何でも『聖教騎士団』とか言うのが魔法も剣技もかなりのレベルで、兵数もそれなりだからだそうだ。
次が連合国。
名前通り大小様々な国が集まって作られている国なので、その中での貧差が大きく平均値としてこのくらいなんだそうな。
ちなみに、王国は兵力も戦力も一番下。
聖教国の真似で騎士団なんか作る始末。
国土が豊かなので飢えはしないが、発展もしてないとのこと。
「へぇ………そんな感じなんだ。」
なんだったら帝国とかに転生させてくれればよかったのに。
なんでよりにもよって、ド田舎国(失礼)に飛ばされたんか。
「僕もここに転生して、すぐに連合国に行ったなぁ。」
「え?なんで?てかお前もここに転生してたのか。」
「そ。まぁこっちの世界に来て、まず地理把握は必須でしょ。そしてこの国がド田舎国だってこと、帝国も聖教国もなんか怖いから、連合国行こうかなーって。」
……俺、そんなのなんも考えてなかった。
「それで、当時は『魔物総合研究所』みたいなとこがあってさ。僕のスキルを見せたら一発で研究者の仲間入り。
それに、勇者…まぁ候補だけど、そういう肩書きもあったからね。」
なるほど。
俺はどこかしら抜けてたようだ。
「……取り敢えず、地理はわかった。で、帝国ってのは大丈夫なとこなのか?」
名前だけだと、独裁政治ゴリゴリの軍事国家なイメージがある。
「端的に言い表すなら、そうですね…"弱肉強食"、ただその一言に尽きます。」
どうやら思った以上にヘビーかもしれない。
国家だよ?国だよ?それを表す言葉が"弱肉強食"っておかしくねぇ?
「"勝てないならば強くなれ、負けないならば無敗を目指せ"。初代皇帝が残した言葉の一部だそうです。」
「体育会系だな…」
「僕もそう思ったから帝国はやめたんだよねぇ。」
「?体育会系って??」
クリスが怪訝な顔をしている。
そうか、こっちにはないのか。
まぁ知らなくてもいい事だと言うと、興味をなくしたようだ。
「帝国か…………」
既にまだ見ぬ帝国への苦手意識が芽生えつつある。
「そうと決まれば、さっさと準備をして向かおうか。」
「そうね。ここもいつ襲われるかわかんないし。」
「運良く、この古城の裏手にある森をそのまま北東に向かえば、グローブ帝国方面に出る。
そっから先は…まぁ、国内の伝令が速いか僕らの進行速度が速いか…ってとこかな。」
「向こうは早馬もあるでしょうし…あんまりグズグズできませんね。」
俺たちは現状を確認しつつ準備をし、一路グローブ帝国を目指し古城を後にした。
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同時刻、グローブ帝国某所
「……我々は、いつまでここにいればいいんだ?」
少しがっしりした中年の男が尋ねる。
「まぁ、もう少しだろう。」
それに対し、明らかに格の違うと思わせる体格、雰囲気を持つ男がぶっきらぼうに答える。
「あんたのことは信頼してるけど…それでも、もう半年近く経つ。いくらあの二人が強いからって、いつまでもここで待っているわけには行かないだろう。」
「とは言ってもなぁ。俺が坊主や嬢ちゃんを助けに行ったら、お前らは誰が守るんだよ。」
「…………」
「あんたもそれなりに強いのはわかってるさ、でもこの人数を守り切れるかってぇと…」
「………そうだな、すまない。」
中年の男は素直に頭を下げる。
「いいってことよ。俺だって心配なんだ、同じ立場だったら、同じような事を言ってたさ。」
そう言うと、その男は"庭園"から出て行った。
「……そろそろ限界かもなぁ。」
その男がボソリとつぶやいた時。
「ご報告いたします。」
音もなく、青白い顔をした一人の男が現れる。
「ん?なんだ?」
「実験が最終段階まで到達いたしました。次は"本物"を使った実験をしたく、そのご許可をと思いまして。」
「へぇ!ついに行ったかよ!」
男は大きく目を見開いて喜びを現した。
「やっぱオメェは役立たずの"先代"とは違うな!」
「お役に立てて光栄です。」
青白い顔をした男も表情に変化はないものの、声に喜びの色が見て取れる。
「よし!好きなだけ使え!そのための奴らだ!」
「は。ではそのように。………行くぞ、お前ら。」
この廊下のどこにいたのか、黒い影が複数、這うように男の後を着いて行く。
「………確かに、『次に目が覚めた時には、もっと面白いことに』なってたぜ、アレックス。」
その男の笑みは、初めて見るものにはとっかかりやすく、親近感の湧くものに見えるだろう。
だが、その瞳の奥には、狂気しか宿っていない。
「坊主と嬢ちゃん…どれくらい強くなってるかね。
あいつも一緒に来るか?まぁそれも面白いかもしれねぇなぁ…。」
男の笑みは、相変わらず人懐っこい。
しかし、今度の笑みは先ほどとは違う、得体のしれない恐怖を身体の芯に刻みこむものだった。
お読みいただき、ありがとうございます!
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さぁ私もこの辺から気合を入れないと、変な抜けとかがありそうで怖いです。
設定崩壊だけは極力回避しないと。
※明日は短めの更新かもしれません。




