045話 逃走直後その1
「何とか撒けたな」
魔法を使った後、俺は全魔力を苦手な肉体強化に割り振り、全速力で離脱した。
「念のため練習しといてよかった…複雑だし使い所も難しいから、役に立つかわからなかったけど…」
あの魔法は、火と雷を組み合わせた魔法だ。
あまり相性の良くない二つを無理やり組み合わせて、雷の放電時の光と雷鳴、火を圧縮し爆発音と爆風の粉塵での目と耳と攻撃する。
思いついたはいいがなかなかうまく発動できず、護送までの短い期間でなんとか使えるものに仕上げることが出来た。
だが、無詠唱での発動は困難だった。
「『気配察知』に騎士団はいない…が、念のためもっと遠くに行くか。」
向こうに『気配察知』の使い手がいないとも限らない。
その範囲は脱しているかもしれないが、だいたいの方向は検討を付けられる。
敢えてめちゃくちゃな道を辿り、クリス達と合流しようとする。
「…向こうか。」
俺の『気配察知』もかなり上達しており、察知範囲をアメーバ状に形を変えて指定範囲を広く長くする事ができるようになっている。
クリス達が先に逃げてから、その方向にずっと『気配察知』を伸ばしているので、なんとか補足できている。
とは言っても、結構ギリギリの距離だ。
なるべく急いで、向かった。
「へぇ、逃げ切れたんだ。」
「なんとかな。全く…とんだ災難だよ。」
合流に成功し、ジグザグに逃げつつもアレクの指示に従って逃走する。
「で?これはどこに向かってるんだ?てかアテはあるのか?」
「以前、連合国から逃げる時に使ってたルート上に、打ち捨てられた古城があったと思ってね。
普通の足ならここから数日かかるけど、君たちなら一日で着くさ。」
「あたしたちは、ココらへんの地理に詳しくもないし頼れる人もいないから、そこに行こうって。」
「結構遠そうだな…いくら肉体強化を使っているとはいえ、お前の拘束を解いて『転移』を使って欲しいくらいだよ。」
だがそれをされては逃げられるのがオチだ。
アレク以外は『転移』のスキルも魔法も使えないので、移動はすべて徒歩。
さすがの肉体強化でも、一日走りっぱなしはかなりキツイだろうなぁ。
「……グチグチいっても仕方ないよな。とにかく追手もあるし、逃げようか。」
そう言って俺たちはアレクの言う古城へと向かった。
道中は何度かの休憩をはさみつつ、森を抜け林を抜け、ちょっとした草原を走りぬけ…今はかつては栄えていたであろう城下町のようなところにいる。
なぜ"かつては"と思うかというと…
「まともな建物は城以外残ってないか。」
立っている建物は、尽くその原型をとどめておらず、外壁の一部のみ、基礎工事の枠しか残っていないという物すら珍しくない。
そしてその広さたるや、恐らくブルムの街が数個くらいは入る広さだ。
考えてみて欲しい、あたり一面の広大な廃墟、そしてその奥に魔王の城のように、唯一なんとか原型をとどめているボロボロの古城。
「………呪われそうだな。」
この城下町と城が、なんでこんな運命を辿ったのか…興味は全く尽きないが、今は目的地たるあの城に一旦身
を潜めなければ。
それにしても不気味な古城だな。
「いや~、思ったよりも早く着いたねぇ。」
自身は一切疲れていないアレクが一番元気だ。
今回は魔物との戦いがメインではないし、それほど揺れなかったから酔ってもいない。
「さて…まずは………休憩だな。」
古城に入って適当にまともに使えそうな部屋を探しす。
ある一室を開けると、王室なのか比較的まともに見えた。
それでも、ボロボロの床、荒らされた室内、壁も一部破壊されてるし調度品があったと思われる場所も、野盗か何かに奪われた後だろう、何一つ残ってない。
それでも床がしっかりしてるし、一応一休みできなくはない。
取り敢えずそこに決めて、床に腰を落とす。
全員(アレク以外)、疲労困憊だ。
「すっごい遠かった…疲れたぁ……」
主にアレクを担いでくれたクリスが一番疲れている。
次点はサラだ。
この子の場合は、純粋に肉体的な体力が低いからだろう。
持久戦なんかは向かないタイプだ。
俺も疲れてはいるが、それよりも魔力がすっからかんだ。
MPの使いすぎてふらふらする、残り100以下だ。
そこからたっぷり一時間ほど休憩した。
「じゃぁ現状を整理しようか。」
俺がみんなに提案する。
それに対し頷く三人。
「順を追ったほうがいいのかな?まず…魔物の突然の襲撃について。アレク、あれは何なんだ?」
「僕がやったこと前提になってるのは納得出来ないけど、僕は何もやってないよ。」
ただしと付け加えるアレク
「………あの死霊魔術には心当たりがある。」
アレクが苦い顔をすながら話す、何をそんなに言いたくないのか。
「その心当たりってのは?」
「……僕がやってたかつての研究の副産物だよ。」
「え……?」
「勘違いしないでくれよ?あの魔法をそういう目的で使ったことはない。魔物の死体と人間の死体を組み合わせる研究をしてた頃に、偶然発見した魔法なんだ。」
……色々聞き捨てならない単語は出てきたが、概ね理解できた。
「なら、誰かがその魔法を勝手に使ったと?」
「それはなんとも言えないけど…僕の実験も百年以上前の話だし、あの魔法が一般に出回っててもおかしくはないかな。人道的な部分で言えば、かなり使いどきが限定されるけど…」
「………あの魔法の使い手は絶対に許しません、必ず…私が…」
サラが怒りに燃えている。
死んだかつての同僚を無理やり生き返らせ、あまつさえそれを自分の手で再度葬らなければいけなかった、その心情はとても言葉では言い表せないだろう。
「とにかく、魔法自体はアレクがかつて偶然作ったもの、使い手に心当たりはなし、そして魔物の襲撃も心当たりなし、と。」
まぁ予想はしていた。
スキルも魔法も封印されて、何かできるとは思えない。
「俺の考えでは…モグラとスケルトン、こいつは同一人物が操っていた。理由はモグラも同様の死霊魔術がかかっていたみたいだったからだ。」
「…ガルーダ、あれは、ただの群れだった気がします…要するに、偶然じゃないかって…」
サラが予想外のことを言い出す。
あれが偶然だって?
いや、だけどやたら上空にいて、こっちに襲いかかってくるのも一番遅かったような…
「うーん…そうだとして、あの最初の魔物は何だったんだろうか…異常な強さだったし…」
「あの魔物も死体だったんじゃない?サラの魔法が全く効いてなかったように見えたけど…あれって、痛みを感じないからじゃないのかな?」
なるほど、その可能性は高いな。
「ガルーダの群れ…そんなのが普通あるのか?」
「はい、確認数は多くありませんが、報告されたことは何度か。」
…ならあれはただの群れか。
もしくは、群れを誘導した、群れの巣の近くに敢えて休憩した、なんかも考えれなくはない。
「一旦魔物のことは置いとくとするか、どれも推測の域を出ないし。」
俺は一呼吸置いて、本題を切り出す。
「次は…ガインさんだ。」
みんなが息を呑むのが感じられる。
特にサラなんかは若干震えてなくもない。
「アレク」
呼びかけて、アレクがこちらを向く。
その顔はいつもの…ムカつく笑みだ。
「なんだい?」
「単刀直入に聞く。
ガインさんは…………勇者候補なんじゃないのか?」
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サンデー頭痛のせいで、休日のほうが執筆が遅くなるという




