表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
選択結果は異世界でした  作者: 守月 結
44/103

043話 シンの予想

珍しく長めです

「シン?」


クリスが俺に呼びかける。


行程の七割ほどが消化でき、あとは王都に向かって数日ただひたすらに歩くのみとなったある日。

森の少し開けた場所にて、ある程度固まって休憩をとっていた時の事だった。

馬車から降り、新鮮な森の空気を吸い込んでいたのだが、とあることに気付いた。


後続の隊列が来ない。


数が数なので、何個かに隊列を分けて進み、順々に休憩を取る形だったのだ。

今までも特に問題なく、このシステムで回ってきた。

それに、直前の休憩の時もこれほど後続が遅れることはなかった。

後続が来るはずの方角を睨みつけ、少しだけ警戒を強める。


「どうしたんだね!シン!」


マキシムも気付いてはいないようだ。

いつものうっとおしい声で話しかけてくる。


「?」


その問いかけも無視していると、付き合いの長さからかクリスも警戒を強めた、いや、若干の戦闘態勢に入っている。


「み、みなさん…なに……」


そこに同じ部隊にいる徒歩組のサラも寄ってきた。

言葉を続ける前に、俺とクリスの異変を感じ取ったのか、サラも警戒し始めた。


「??どうしたんだ、みんな!」


マキシムだけわかってない。

後続が遅すぎる、と伝えようとした時。


「……ハッ!ハッ!!ハッ!!!」


その方角から、片腕が引きちぎられた一人の騎士がボロボロの瀕死の状態で走ってきた。


「……て、敵襲!!!」


それを聞いて、休憩中の騎士たちは慌てて一斉に戦闘準備をする。

だが、それでは遅い。

ここに重症の襲われた騎士が来たということは…


「来るぞ!!」


上空から、巨大な魔物が降ってきた。

その魔物は着地の際に、敵襲を知らせた騎士を踏み潰し、そのままの勢いで俺たちに襲いかかってきた。

所謂、オークのような青白い躯体をした、馬鹿でかい魔物。

三メートル近くあるだろう、そんなデカイ奴が俺たちに悟られることもなく、上空から降ってきた。

いや、どこかからか跳躍してきたのか?

それだけでこの魔物の強さが窺い知れる。

通常だと岩の塊にしか見えないが、この魔物が持つと立派な棍棒としての役割を果たす武器が、俺達を横薙ぎに襲う。


「ふっ!」


即座に剣を引き抜ける状態だったクリスが、その一撃を受け止める。

だが、その顔が一瞬歪む。

それほどの強さか。


「『サンダージャベリン』!!」


サラがその隙に魔法を放つ。

魔法は抵抗されること無く、魔物に突き刺さった。

決まったかに見えたが、魔物は無傷だった。


「うそ!?」


「はぁ!!」


サラが言うが早いか、俺は刀を振り下ろし魔物を両断した。


「シン、助かったわ。」


「け、結構魔力を込めた魔法が効かないなんて…」


「いや、俺も決まったと思った。用心して油断しとかなかったのが良かった。」


強さは、おそらくあの戦争の際に強かった魔物とほぼ同じ。

だがそんな強い魔物がこの辺にいるか?


「っ!上!」


クリスが叫ぶ。

言われて上を見ると、かなりの数の魔物が空からこちらを伺っている。


「あれは…ガルーダ!?あれほどの数は初めて見た!!」


一瞬出遅れたがそこは中隊長、マキシムも完全に戦闘態勢になっている。


「まさか真っ昼間から襲ってくるとはね…しかもこんな強い魔物が。」


昼間は襲ってきても、所詮は有象無象の魔物だと高をくくっていた。

その証拠に、今現在も『気配察知』を使っていなかった。

強い者、想定では人間が襲って来るなら夜だと思い、夜だけ警戒レベルを引き上げていたのだ。

さっき後続が遅いと思った時に、すぐに使用するべきだったな。

そう考えつつ、『気配察知』を察知できる限界まで広げる。

すると…


「まずい!!上だけじゃない!!下だ!!!」


俺達の直下、地面の下に無数の魔物の気配を感じ取った。

狙いは馬車のアレクか!

その近辺だけ、やたらと強い気配がある!

急いで馬車まで行こうとするが、一瞬間に合わなかった。


地面が爆発したかと思うと、そこから凶暴なモグラのような魔物が姿を現した。

俺の警告が間に合わなかったせいで、固まって休憩をとっていた騎士がまとめて吹き飛ばされた。

そしてそれを合図に、地面から多数の決して弱くない気配の魔物が、無数に出現した。

だがその魔物たちは、さっきのモグラのようではなく…


「スケルトンか!!」


マキシムが叫んだ。

それだけじゃない、その、見た目が…


「そ、そんな…ジャンさん…」


「お、お前は…ルーク!」


サラとマキシムの顔が、嘘みたいに青白くなっていった。

そう、出てきた魔物は大量のスケルトン、死人だ。

問題は、どこで死んだ者か。


「ばかな…戦争から、一ヶ月程度しか経っていないんだぞ…なんで…なんで…」


"ブルムの大魔侵攻"の際に戦死した、つい一ヶ月前まで苦楽を共にした、つい一ヶ月前に目の前で殺された、つい一ヶ月前に悲しみを押し殺し埋葬した、仲間たちだった。


俺自身、見たことがある顔の者も何名かいる。

全員が虚ろな目をしており、致命傷と思える怪我を負って、骨や内臓がむき出しの状態で襲い掛かってくる。

スケルトン…骨というより、肉体が残っている者も多く、リビングデッドに近いかもしれない。

欠損部分はそのまま、骨だけの者もいる、焦げ跡があるから焼き殺された者だろうか。

見ていて気分のいいものではない。

騎士たちの心情は、俺よりももっときついだろう。

死人に鞭打つように、かつての仲間を再度殺さねばいけないのだから。

だが間違いなく、この者達は死んだのだ、だとしたら誰かに操られているか、死体のみを動かしているか…


俺達が躊躇している隙に、モグラの魔物はアレクが乗る馬車を破壊し始めた。


「!俺はあのモグラを叩く!」


「あ、あたしも!」


「クリスは上の相手をしてくれ!あの数のガルーダはやばい!」


上空のガルーダも、モグラが出てきたのとタイミングを同じくして、急降下してこちらに向かっていた。

空と地面からの挟撃か。

俺の予想が完全に外れた。

ここまで来たなら、もう一つの俺の予想も外れてくれることを願うばかりだ。


アレクの乗っている馬車は、魔術加工されているのでかなり頑丈だが、あの強そうなモグラのせいであと一撃で破壊されるほどに弱まっていた。


「させるか!」


モグラの攻撃に間一髪間に合って、その爪を腕ごと斬り落とした。

だが


「血も出ない…こいつも死体なのか?」


注意してみれば、なんとなく動きが緩慢な気もするな。

どのみち障害となるなら倒すだけ。

一対一に持ち込めれば、そうそう俺が負けるはずもなく、難なく上半身と下半身に切断した。


「アレク!無事か!?」


馬車を急いで開け、アレクが無事なのを確認する。


「あちゃぁ、始まっちゃったかい?」


「……あぁ、クソ強い魔物の軍勢だよ。」


「あ、ちなみに言っとくけど、僕はけしかけたりしてないからね?」


「わかってるよ。あのモグラみたいな魔物……馬車を壊そうとしてたんじゃなくて、中のお前を殺すために馬車を壊してたように見えたしな。」


それに、あの魔物が死体で操られていたんだとしたら、中の人間を殺さないように馬車のみを壊せ、なんて細かい命令を実行できるようには見えない。


「とりあえず、一緒にいろ。ここにいたら守り切れない。」


「シチュエーションさえしっかりしてれば、元の世界でもぐっとくる台詞だね。」


こいつ余裕あるな。

というか


「お前、こうなることがわかってたろ?」


アレクを中から引っ張りだして担ぎあげる。

ステータスが最低レベル、しかも女性、更に手足の拘束。

それらを解除するわけにもいかず、肩に担ぐしか無かった。


「んー正直、"これ"の可能性はあんまり考えてなかったって言えば考えてなかったかな。」


「まだなんか起きるのかよ!?」


片手でスケルトンを斬り伏せながら文句を垂れる。


「………さぁ?」


いつもの可愛い…ムカつく笑みをするアレク。

腹が立つやらなんやら。


「シン!ちょっとこのままじゃやばいかも!!」


クリスが叫ぶ。

ボロボロの騎士団、地上には無数のリビングデッド、空からは大量のガルーダ

…あまりにも分が悪いな。


「このままじゃ消耗戦になる!囲まれるぞ!」


マキシムも一杯一杯だ。

この状況でギリギリ指示を出しなんとか保っている。


「こっちだ!!」


その時、遠くから声が聞こえた。


「ガインさん!!」


「少し離れた所に魔術師隊で結界を張った!そこで体制を立て直す!!」


隊列の先頭にいたガインさんは俺達からはほとんど把握できなかったが、こっちの異常を察して来てくれたのか。

しかも結界を張って体制を整える算段もついてるとは、できる男だ。


「クリス!頼む、一緒に来てくれ!」


さすがに、アレクを肩に担いだ状態で逃げきれるか保証できない。

これ以上に強い魔物がいないとも限らないからな。


「わかった!」


「サラ!お前も一緒に行け!」


「り、了解!!」


マキシムが気を利かせてなのか、サラもこちらに向かわせてくれるらしい。

だがそうすると、こっちの戦力が


「我々の任務は、アレクを王都まで連れて行くこと!敵が今攻めてきたということは、王都に行かれては困るのだ!ならば、なおのこと厳重に警護すべきだ!」


俺の顔に出ていたのか、マキシムがそう叫ぶ。

評価を改めないと、マキシム、戦闘になったら冴えるやつだったな。

そこまで考えているとは恐れいった。


「すまない!助かる!」


「ここは構うな!頃合いを見て我々も向かう!!」


俺たちは敵を蹴散らしつつ、ガインさんの後について結界を目指した。




********************




途中、そう弱くはない魔物と数度戦闘になったが、ガインさんがいることもあり、何とか結界までたどり着いた。


「はぁっ!はぁっ!はぁっ!」


「うぅ……気持ち悪い……吐きそう……」


「人を抱えながらっ!戦うってっ!案外っ!大変っ!」


「ここは安全だ、魔術師隊が決死の魔力を込めて作ってくれたものだ。そう簡単には破れまい。」


「だとっ!いいんですがっ!」


何とか息を整える。

体力とかステータスとか、そういうのを考えると余裕だとか思ってたけど、負担が増えないように気を遣って抱えるのは、かなり体力を消耗する。

それでもアレクは酔ったか衝撃が伝わったのか、苦しそうに呻いている。


「でも、この結界はかなり強力だと思います。少し休むのも手かと。」


サラも太鼓判を押す強さか。


「本来であれば、それもいいのだが……向こうもかなり疲弊しているはずだ。申し訳ないが、ここは私に任せて君たちは救援に向かってくれないか?」


ガインさんの要請に、クリスとサラがうなずきかけた時。


「はぁ…はぁ…………ふぅ。いえ、ガインさんが残るより、クリスかサラを残して一緒に行ったほうがいいと思います。

部隊の指揮とかも重要になりますし…正直、俺とクリスは素人です、動かしたくても動かせません。」


「ふむ……なるほどな。確かに一理ある。」


ガインさんは少し考えた後に、俺の提案を受け入れた。


「では、サラを残し、突破力が高いシン殿を先頭に戻るとするか。」


「……そうですね、それがいいかと。ただ…」


俺は崩れ落ちるように、地面に座り込んだ。


「少しでいいんで、休ませてもらってもいいですか?

ちょっと疲れが溜まってるのもあって……」


「え?シン、大丈夫?」


「わ、私、少しなら手持ちの回復薬が…」


「む、少し無理をさせすぎてしまったか。すまない、ゆっくり休んでくれ。」


「ありがとうございます………」


その言葉を聞いた瞬間、俺は全身から力を抜いて警戒を緩め…………






ギンッ!!






ることはなかった。


「こっちの予想は当たるのかよ、まったく…」


俺、クリス、サラ

この三人の首を同時に斬り落とせる剣閃。

その刃は、サラの首元の直前で止まっていた。

サラもクリスも反応できていない。

俺と"そいつ"以外の時間は、さっきまでの会話の風景と変わらない。


そして俺はその剣の柄を握る人物に対し問いかける。




「どういうことか説明してくれますか?『ガインさん』。」

お読みいただき、ありがとうございます!

ブクマ・感想等本当にありがうございます!これからも楽しんでいただけるよう頑張ります!


案外予想通りというか、そうじゃないというか

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ