040話 見えざる包囲網
説明回
「魔物と…人間の…融合…」
間抜けのように同じ言葉を繰り返す。
そんなものが可能なのか?
いや、戦争中に奴は言った、冒険者を糧にして"作った"魔物だと。
だがそれは、魔物に死体を食わせたか、死体を取り込ませたもんだとばかり思ったが。
「そ、そんなものが、世界を救う方法…なんですか?」
サラが青白い顔して質問する。
アレクは少し悲しそうに、諦めているかの顔をする。
「さぁ?僕は転生させられた時に、『生物融合』のスキルを与えられた。所謂、神と呼ばれる存在に『人間と魔物を掛け合わせて、世界を救う勇者になってくれ』って言われてさ。
そしてそのスキルが成長して『魔人融合』になった。そうなったらその道しか無いじゃん。」
言葉はいつもの調子。
だが、その表情は酷く儚げだ。
「多分だけど、他の勇者候補も自分のやることの最終形がどんなものになるかなんて、全く知らないと思う。
というか気にしないんじゃないのかな?
"君は勇者です、すごい力を授けます、世界を救ってください"なんて言われれば、多少不明な点、おかしな点があっても気にしないでしょ?」
それは…そうかもしれない。
俺もそう言われたら、かなりテンションが上がって結構好き勝手するかも。
「そうかもな。それで?お前は何で落ちこぼれなんだ?」
「……失敗したのさ、実験の途中でね。今から百年くらい前だよ。」
「や、やっぱり…あの"暴走"が…」
文献で読んでるのだろう、サラはなにか知っているようだ。
「……普通、魔物と人間を掛けあわせる時、人道的な意味もあって生きている人間は使用しない。
だけど、本人の意志があればそこはクリア出来たんだ。」
本人の意思確認さえあれば、人体実験をすることは人道的にいいのか。
そこは異世界だからだろうな、元の世界なら決して許されない。
「そして、数少ない生きている人間を使った魔物との融合。
"肉体は魔物、精神は人間"というものを目指した。
というか、基本的に魔物の方が人間よりずっと肉体的に強いし、精神は人間のほうがずっと強いし知能が高い。
でも…たまにそれを覆すことがあるんだ。」
「それが"暴走"とやらか。」
「……多分、素材の人間の意志が弱すぎたんだと思う、身体だけ丈夫でさ。
つまり出来上がったのは、"人間の知識、知能を持ったかなり強い魔物"だったんだ。
あとはご想像通り。
下手に人間の知能があるから、従順なふりをして研究所をめちゃくちゃにされたよ。
だから僕は落ちこぼれ、反逆者扱いってね。」
それが実験の失敗か。
やはり話を聞いて、とても世界を救うことに繋がるとは思えない。
「それが原因で国から追われて逃げまわって、気付いたら魔の大陸さ。」
「…百年間、いったいどうしてたんだ?」
「魔の大陸ってさ、本当に恐ろしいんだよ。魔物の強さはこっちとは比べ物にならない、しかも僕のスキルは戦闘向きじゃなかった。なにせ『魔人融合』だよ?あとは、はじめに一緒にもらった『転移』。
ずっと研究所で勇者として…やってることはただの研究員だけど。まぁ戦闘なんかもしてなくてさ、ステータスがほぼ初期状態、『転移』で逃げ回りながら必死に生きてたさ。
その結果、随分強くなったし悪いことばかりじゃないのかもしれないけど。」
思った以上にハードそうな百年だった。
だがやっと話が現代に戻ってきたようだな。
「そうか。まぁ大変だったんだな。
だがここからが重要なところだ。
なぜ村を襲った?バロックとの関係は何なんだ?なぜサラに『キーチェーンマジック』を使った?」
アレクの生い立ちだとか、勇者候補の話とか色々気になることはあるが、今はそれよりもこっちだ。
「……まず答えやすいやつからでいいかな?
サラへの『キーチェーンマジック』。これは僕じゃない、バロックだ。
だからなぜだ?と聞かれても、答えようがない。バロックに『キーチェーンマジックを使った手駒を持っている』って言われただけだからさ。」
それを聞いてサラが泣きそうな顔をしている。
結局、何も情報がないのと一緒だからだ。
前に聞いたが、サラもバロックを知らないそうだ。
直接会ったことも、どんな人物なのかも知らないと。
「次にバロックかい?あいつは取引相手だね。」
「取引相手?」
「そう。あいつが僕の研究の手伝いをし、僕があいつの目的の手伝いをする。」
「手伝い……魔物との融合……」
今度はクリスの顔が青白くなり、次に怒りで赤くなっていく。
「………話の流れ的に予想していたが、村の人達は…お前の融合実験に使われたのか。」
「まだ使ってないって、恐ろしいほど貴重なサンプルだしね。」
「……あんた、前も言ってたよね?あたしとシンだけ気づいてない、"異常さ"。それが関係してるの?」
案外冷静だな。
斬りかかると思って、準備してたんだが。
「君たちさ、ローグス村で狩りをしてたんだよね?どうやって狩りをしてたの?」
アレクがよくわからない質問をしてくる。
「は?どうやってって…普通に森に入って魔物や動物を狩って…」
「森に入って!?ガイレン山脈の森に入って狩りをするんですか!?」
真横からびっくりするような大声でサラが叫ぶ。
「う、うん、それが何か…」
言いかけた途端。
「シンさん…クリスさん…あなた達は何者ですか…?」
今まで以上にサラが俺たちを見る目が、畏怖…いや、恐怖に染まっている。
「え?何?どういうこと?」
「ガイレン山脈の森は…"魔素"が濃すぎて、普通の人間は森に入るだけで精神に異常をきたすか、最悪、死に至るんですよ…?
その森に入って狩りなんて…正気の沙汰とは思えません…絶対に入っちゃいけない場所なんです。
さらにそこに住む魔物、これも体内に蓄積された"魔素"が異常なので、食べるなんて以ての外ですよ…。」
"魔素"とやらがなんなのか知らないが…なんかまずい感じだな。
だが俺だけじゃなくてクリスもだし…ほら、クリスも首を傾げてる。
「わかったかい?これが普通の反応さ。」
「…"魔素"ってのは?」
「魔物と人間の違いさ。体内の魔素が濃ければ魔物になり、薄ければ人間や普通の動物になる。
普通に人間にも多少はあるんだけどね、寧ろ多いほど強力な魔術師、戦士になれるってくらいだよ。
でもね、何にでも限度ってものがあるのさ。」
アレクは呆れたように答える。
「魔素が濃すぎると、そこで普通の人間は行きていけない。よしんば生きていたとしても、魔素に身体を蝕まれて、理性のない魔物になる。
魔素が濃い場所に生きる魔物は、総じて強くなる傾向にある。強くなくても、体内の魔素は異常な数値になってるはず、そんな魔物の肉を経口摂取するなんて、人間の体が耐えれるわけ無い。」
「そんな場所で、そんな肉を、日常的に摂取していたあたしたちローグス村の住人は、貴重なサンプル、と。」
「そ。その通り。」
手足を拘束されていなければ、拍手でもしそうなくらいの笑顔を振りまいている。
「お前がこの街に攻め込むまで猶予があったのも、山の魔物を調べていたからか。」
「君はほんとに鋭いよね、頭ン中どうなってんの?」
「取り敢えず、そんな貴重なサンプルを手荒に扱ってるってことはないわね。
さぁ、どこに連れて行ったか白状しなさい。」
クリスが今日一番の殺気を放っている。
その変わり様にサラもビクついている。
「いいけど、ここからが僕の提案なんだけどいいかい?」
「さっきも言ったが、交渉できる立場にいるとでも?」
「いやいや、君たちの為を思っての取引さ。聞いといて損はないと思うよ?」
「あんたの手足位なら切り落として別に構わないんだけど?」
「く、クリスさん!」
何やら随分と異様な空気になってきたな。
どう収拾をつけるか。
そんなことを考えてると
「僕の手札としては
・バロックの居場所
・バロックとの取引内容
・村の人達の居場所
・"君たちの気づいてない脅威"
ってとこかな。」
…まて、こいつ今なんて言った?
「俺達の気づいてない脅威?」
「はったりでしょ、どうせ。」
クリスの意見ももっともだ。
そもそも俺達は別に村の人達の安全さえ確保できれば、世界のことなんて別にどうでもいい…
「君たちにとって、世界なんてどうなってもいいだろうね。
でも、君たちは関わってしまった。勇者候補が醜く争い合う、血みどろの世界救済に。
知る義務があるし、知らないとすぐに消されるよ。
それに…」
アレクは、今までに見たこと無いほど真剣な表情…だが、少しだけ憂いを帯びた表情をしていった。
「もう、逃げられない。」
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複雑になり過ぎのような気がしないでもないような…なってますね




