039話 勇者候補
気付いたらこんな時間です、はい…
アレク…アレックスはすました顔をしてこちらを見る。
対照的に、クリスとサラが驚いたような顔をして俺を見る。
「勇者…候補?」
「え…シンさんと…同じ…?」
「………」
まず何から説明しようかな。
誰にもまともに説明したことなかったしなぁ。
「……まず二人には、謝らなきゃいけないことがある。特にクリス、今までずっと隠してて申し訳なかった。」
俺は素直に謝る。
「実は俺…『ウバワレ』ではなくて、『異世界からの転生者』なんだ…」
……めっちゃ怒るだろうなぁ。
拳の一つくらいは覚悟しないとダメか。
クリスは…
「?」
よくわからないって顔してる。
「…あれ?クリスさん?」
「『異世界』って何?」
あ、そっからっすか。
「えーと…今俺やクリスが生きてる世界とは違う世界…異なる世界なんだ。」
「はぁ…」
「そこでは魔法とかも存在しないし、魔物とかもいない。この世界よりも科学が進歩していて…」
なんとなく漠然ではあるが、俺の元いた世界、異世界ってものを伝える。
この世界を一言で表すなら、『剣と魔法があるファンタジーの世界』だが、この世界から元の世界を一言で表す言葉がわからない。
『近未来の~』とか言っても、この世界の近未来に元の世界のようになるとはとても思えないし、『科学が発展していて~』とか言っても、この世界には科学ってものは魔法と融合してるからな元の世界とちょっとニュアンスが変わってしまう。
俺の拙い説明でなんとなく伝わったのか、クリスが微妙に納得がいってないながらも整理してくれた。
「えーと、シンは別に記憶がなくなってたとかじゃなくて、そもそもその『異世界』とやらから来て、この世界の知識が全くのゼロ状態だったってことなのね?」
「だいたいそんな感じ。」
「でも、じゃあ何で嘘ついて…いや、その異世界からの転生者って事を最初に言わなかったの?」
「で、ですよね、私もお話の中でちょっとそこがわからなくて…」
「それは君が『勇者候補』だからだろう?」
アレクが会話に参加してくる。
「うーん、何度も言うけど俺は勇者候補とかでもなんでもないんだよね。」
「ここに来てまだしらばっくれるのかい?僕を簡単に打ち破るほどの強さ、それを持ってて勇者候補じゃないなんてさ…」
「いやほんと。こっちに来る際に『手違いで』ってはっきり言われたもん。」
あの案内人とかいう胡散臭い奴に。
「それで、こっちの世界に転生することは決定事項だから、せめて少しでもマシな状態にしてくれるって、俺をこっちによこした奴が。」
別に何もマシな状態にはならなかったけど。
しいて言うなら『成長促進』のスキルがものすごいいい仕事をしてくれているということか。
「なら君は…ホントに勇者候補じゃ…」
「違うっての。その勇者候補ってのもなんのことなんだかさっぱりわかんねぇよ。」
「ていうか、そんな勇者候補って、そんなに勇者がいるもんなの?あたしが田舎にいすぎて知らないだけ?」
「い、いえ、時代の節目節目に勇者と呼ばれるほどの力を持って者が出現される、とは言いますが…基本的に一人だけです。」
サラが説明をする。
まぁそりゃそうだろうな。
そんなに勇者がいたらおかしなことになるだろうし。
「ふ…そりゃそうだろうね。
時代の節目に現れるのが勇者なんじゃなくて、ある人物が起こした行動によって時代が変わる。
その行動を起こした人間が勇者って呼ばれるんだからね。」
なるほど。
アレクの言うことにも一理ある。
過去の勇者なんてものが、果たしてどういった人物だったのか、具体的に何をしたのか、その全てが残っている文献なんかはほぼ無いだろう。
その勇者と呼ばれる人間がいた事、その勇者が世界を救っただとかそう言った結果しか残ってない。
後はイメージから作られる逸話だったり伝記だったり…その中にどれほどの真実があるだろうか。
伝説ってのは得てしてそんなもんだろう。
そう考えると、歴史に埋もれた勇者がいたとしても何らおかしくはないな。
「とにかく、お前はその『勇者候補』として、異世界から転生させられたってことで間違いないんだな。」
「あぁ…君が僕とは違ったとは予想外だったけどね。」
「だが気になることがある。お前は戦っている最中『勇者だった』『落ちこぼれて今は魔の大陸にいる』というようなことを言っていたな。それはどういう意味だ?」
「……まずは勇者候補の仕組みについて話さないといけないね。」
そう言ってアレクは深い溜息を一つ吐いた。
「………この世界は滅びに向かっている、それは最初に会った時に言っただろう?
勇者候補ってのは、その滅びへの道を回避するために、異世界から送り込まれた者のことを言うんだよ。
そして、滅びの道を回避する方法は一つじゃない、複数あるんだ。
その複数の方法を試すために、複数の者を異世界から送り込む。」
「なるほど。そのどれかの方法で世界を救えた者が、後の歴史で『勇者』と言われる。
世界を救う方法のみ伝えている状態で、その方法で世界が救えるとは限らない、だからその方法を試している者は『勇者候補』ってことか。」
正解とばかりにアレクが頷く。
そう考えると、やはり俺は勇者候補でもなんでもないな。
なにせその方法とやらを一切教えてもらっていない。
なんだったら自由気ままに生きてるだけ…いや、今は村の人達を救うために頑張っているだけとなる。
「で、ここからが本題だな。
お前が落ちこぼれって言った理由、魔の大陸にいる理由、そして村を襲った理由。
それを洗いざらい教えてもらおうか。」
「はいはい。それを言うには色々と順を追って話さないとね。」
「あ、あの…有り得ないと思うんですけど……もしかしてなんですけど、アレクさん…アレックス・ウィズさんって、昔、バスティル連合国にいませんでした?」
なんだその微妙に牢獄のような国の名前は。
「へぇ、覚えてる人がいるんだ。」
「でも…それって、もう今から百年以上も前の話で…」
「は?」
いやいや、さすがにそんな昔の人だったら…同姓同名とかじゃ…
「確かに、その人物は僕のことだよ。」
「はぁ!?んなわけあるかよ!」
「……君はどうか知らないけど、勇者候補ってのはね、不老なんだ。あくまで不老なだけであって、不老不死では無いけどね。」
「なにそれ…ならあんたは、百年以上も生きてるってこと?」
「まぁそうなるね。」
まじかよ。
え?じゃあ俺ももしかすると不老なの?
こっちの世界に来た時に顔も背格好も随分若返ったけど、それが原因?
「ど、同一人物なら…わ、私も、文献で読んだことがあるだけですけど、その人は有名な研究員で、今までにない方法で研究結果を出していったって読んだことが…」
「……ちなみに、その研究内容ってのは何だったんだ?」
「そ、それは、その…」
サラがものすごく言いにくそうにアレクをチラチラ見る。
その様子を見てアレクは自嘲気味に苦笑する。
「別に気にすることなよ。
僕がやってた研究は、そのまま僕が勇者候補として世界を救う方法なんだ。
人によっては嫌悪されるだろうけどね。」
「もったいぶらずに教えてくれてもいいだろ。」
サラは自分の口からは言えないといった態度をしている。
本人の口から言うべきことなんだろう。
アレクは更に深い溜息を一つ吐いた。
「僕の研究テーマはね、
『魔物と人間の融合』
」
お読みいただき、ありがとうございます!
ブクマ・感想等本当にありがうございます!これからも楽しんでいただけるよう頑張ります!
豚の角煮を作ったら不味かった




