029話 開戦
「私がシルベルト王国騎士団団長、ガイン・ルウェインだ。」
騎士団本隊が到着したとの知らせを受け、俺たちは主要メンバーは挨拶に赴いた。
ガイン・ルウェインと名乗った男性は、四十歳代だろうか、短く切りそろえた銀髪に翠の瞳、そして一目でわかるほど隙が全く感じられず、それどころか気を抜いたら圧力で押しつぶされてしまいそうな気迫を感じる。
この人の前に立って軽口を叩ける人がいるんだとしたら見てみたい。
確実に今の俺より強い、いや、今まで会ったどんな人物よりも強いだろう。
俺とクリスが全力で挑んでも、おそらく一瞬で勝負がついてしまう。
「初めまして、シンです。」
「貴殿が報告にあった冒険者か。相当の手練れだと聞いている。力を貸してほしい。」
「はい、もちろんです。戦闘の際はよろしくお願い致します。」
各人が挨拶をする中、なぜか俺だけがこんな感じで呼び止められたのだ。
俺のことなんていったい誰が報告したんだか…。
自分よりずっと各上の人間に力を貸してくれと言われるとか、緊張で吐きそうだ。
「だが、特魔の軍勢が数千規模とは、数か月前の報告とはだいぶ違うようだが、本当なのか?」
ガインさんがマキシムに話しかける。
普通に話しかけてるだけなのに聞いてるこっちですらめちゃくちゃプレッシャーを感じる。
「は!シン殿より報告を受け、急ぎ偵察隊を差し向けた結果、間違いないとのことです!」
「ふむ…初期の調査隊の報告は数百…山脈を越えた途端、数千になったと…あまりに不自然だな。」
確かバロックも村長宅で話したとき、数百単位で~とか言ってたな。
そこに嘘はなかったのか。
「おそらく、俺が会ったアレクという黒ローブの者が転移魔法を使えるので、そのせいなんじゃないかと思います。」
「…確か、スキル『ゲート』だったか?指定の場所に一度だけ転移できるという。」
「それを乱用されると、はっきり言ってお手上げですね。」
逃げ道として使えるのはもちろん、一人が指定の場所についたなら全員がその場所に一瞬で移動できてしまう。
奇襲としてもかなり使えるスキルだ。
だが…自分で言っておいてなんだが、少し引っかかる。
アレクが自分で言ってはいたが、そんなに奴の転移スキルは万能なのか?
何かを見落としてる、いや、何かが考えから抜けているような気がする。
「とにかく、部隊の配置を考えようか。奴らが攻めてくるまでそんなに時間はないはずだ。」
それもそうだ、まずは頭を切り替えて目の前のことをこなそう。
ガインさんに聞いたところ王都から来た本隊の人数は少なく、総勢一万人ほどの軍勢だそうだ。
「これでも動かせる最大人数で来た。奴らの戦力が報告通りならば、厳しい戦いになるのはわかっている。」
むしろ騎士団団長が来ることすら、本来であれば異例だろう。
王都の守護もあるだろうし、全騎士団を集めてしまうと他のところでの魔物の出現などに対応できない。
さらに、平時でも敵は魔物だけではない。
盗賊や野盗などもいるだろう。
現在の王国内の最大戦力のはずだ。
「結果論ですが、もう少し他の国のように軍備をしっかりしておくべきでしたかな…」
「ここ数百年、この国は戦争なんぞしておらなんだ。その意識が薄くなっても仕方あるまい。脅威といえばガイレン山脈越しの魔の大陸。それでも過去数千年の書物を見ても、そこを越えてきた記録など無いのだからな。」
「…平和ボケね。」
クリスが俺にしか聞こえない声で愚痴をこぼす。
それは仕方ないだろう。
だがそうなると、騎士団の強さもあまり期待できないかもしれない。
実際に戦争などしていないとのことだし、普段の訓練がどれほど実を結ぶかが重要だな。
色々と話した結果
騎馬騎士隊二千人、王都から来たB~Aランクの冒険者、およそ百人を遊撃隊として最前線に
第二ラインに騎士隊六千人
最終防衛ライン直前に重装備騎士隊およそ千人を配備することになった。
そして急遽砦として建築した最終防衛ラインに魔術師部隊千人
戦術としては、まず魔術師部隊が遠距離から大魔法で攻撃・防御をし、なるべく敵を散らす。
その後、各個撃破として機動力のある騎馬騎士隊がヒット・アンド・アウェイで更に敵を散らす。
手強い魔物はB・Aランク冒険者パーティーで撃破。
魔術師部隊は最終防衛ライン上で魔法による援護、さらに魔術師の護衛と本陣の守備として重装備騎士隊が控える。
準備期間がそれほど無い上に敵は圧倒的な物量と強さ、はっきり言ってこの戦術もオーソドックスなだけで、一切の小細工はしていない。
それだけ追い詰められているから仕方ないのだが。
「では、このような形で部隊を展開させておこう。斥候は放っているので、奴らが来ればすぐに分かるはずだ。」
ガインさんが話を打ち切ろうとするところを、俺が遮る。
「俺たちはこの遊撃隊の中に入ります?」
「うむ、そうなるな。」
「…開戦直後は、最前線で俺一人にさせてもらえないでしょうか?」
全員が何言ってるんだこいつ?という目で見てくる。
いや、そうでしょうね。
俺だってこんな事言うとは思ってなかったよ。
以前の世界から考えても、相当頭のおかしいことを言ってるのもわかってる。
「貴殿が強いという話は聞いている、だがあまりにも驕りがすぎるのではないか?」
ガインさんからのプレッシャーが更に強くなる。
嫌な汗が流れる。
「いえ、決して自分の力を過信しているわけではありません。その上で対抗できることを確信しています。」
「貴殿の強さは貴重な戦力だ。それをむざむざ削ぐことはできん。」
「魔術師部隊が大魔法を放つまででいいです、それだけの時間があればきっと俺の言うことがわかってもらえるはずです。」
「シンくん、そこまで言うってことはなにか作戦があるのかい?」
「作戦というか、俺の新しい…」
ローレンスさんのおかげで俺の話を聞いてくれる流れになったその時
「で、伝令!!」
斥候に放っていた偵察隊からの緊急連絡が届いた。
「魔物の大群の侵攻を確認!移動速度から考えて、到着は二日後の早朝です!1」
「…来たか。」
「二日後!?部隊を配備して動きを確認するのが精一杯だ…」
確かに少し早いが、想定の範囲内だ。
それぞれが覚悟していたとはいえ、現実として突きつけられると慌ててしまう。
「シン。貴殿が最後に言いかけていたことはなんだ?」
皆が準備のために会議室を出ていこうとするときに、ガインさんが声をかけてきた。
「俺の…新しい魔法です。恐らく、ここにいるどんな魔術師の大魔法よりも威力があります。」
「魔法だと?しかも王宮魔術師の使う大魔法よりも強い、と。」
途端にガインさんの目線が怪しい物を見るものに変わっていった。
まぁそうだろうな。
「どうせ俺は最前線の遊撃隊です。開戦のちょっと前に、ちょっとだけ他の人より飛び出して魔法を使うだけです。」
「………………好きにするといい。」
よし、一応許可はもらった。
別に勝手にやっても良かったのかもしれないが…まぁそこは一応大人としてね?
その後、各員はそれぞれが配置にと着き、敵の侵攻を待った。
そして二日後の早朝。
「見えてきたな。」
その道は俺とクリスが村から街に来る際に通った道。
今や魔物の大群への一本道。
「………聞いてたのより、多い気がするんだけど。」
確かに。
奥の方にも見える事を考えると、軽く一万を越えてないか?
「うーん…嫌な予感が当たったか。」
一番最初の調査隊の報告、次の偵察隊の報告、そして今見た数。
だんだん増えていってるだろうなぁとは思ってたけど。
「まぁ仕方ないか。
んじゃ、ちょっと魔術師部隊が大魔法を放つ前に、あの魔法を使ってくるわ。」
「ん、気をつけて。見るからに普通じゃないような魔物もたくさん見える。」
軽くコンビニでも行くかのような気軽さでクリスに告げる。
事実、そこまで恐怖はない。
俺の『気配察知』もかなり広く気配と強さを捉えられるようになっている、その『気配察知』から伝わる強さも尋常ではない。
それでも
「負ける気がしない。」
そう思ってしまったのだった。
そしてそう思っているのはこの戦場において俺と"もう一人"位なものだろう。
「その気持ち悪い笑みをぶっ壊してやるよ。」
俺と同じことを考えているだろう奴に向けてつぶやく。
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こ、この先、どうしよう←ぇ




