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選択結果は異世界でした  作者: 守月 結
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026話 心魔変換

体調がすこぶる悪いです…

変なもの食べたかなぁ

「ガアアアアアア!!」


『心魔変換』を使い、野獣となったサラが咆哮を上げクリスに飛びかかってくる。

そしてその勢いのまま、全力の拳を叩きつけようとしている。


「クリス!避けろ!」


俺は問題なく避けれるし防げるが、クリスは難しいだろう。

クリスは俺の言葉を聞いてとっさに後ろに大きく飛び退いた。

さっきまでクリスがいた地面に、サラの拳が突き刺さる。

地面が破壊される音がして、十センチほどの深さのクレーターができてしまった。

その様子を見ていたクリスが、青ざめた顔をしている。


「……さすが魔術師、『心魔変換』を使ったらすごい威力ね。あれは直撃したら流石にただじゃすまない。」


「クリスは下がっていたほうがいい。サラの相手は俺がする。」


そう言って、サラに向かって駆け出す。

こちらに背を向けているサラ。

両断してしまわないように手加減をし、刀を振り下ろす。

だが


---キンッ!


俺の刀はサラの身体に一切の傷をつけること無く弾かれてしまった。

『心魔変換』を使用しているときは、少なくとも魔法は使えない。

意識がある程度あればスキルくらいなら使える。

だが、スキルを使用したような気配はなかった。

つまり、俺の手加減した斬撃を軽く防げるくらいに魔力を上乗せしているということだ。

驚いている俺に視線を定め、拳を繰り出す。

難なく刀で防いで距離をとるが、一撃がやけに重い。


「手加減できないか。」


気持ちを切り替え、サラを見据える。

次の瞬間、今度は俺に向かってサラが突撃してくる。

今度は拳ではなく『心魔変換』で魔物のように鋭くなった爪だった。

サラが振り下ろした爪をギリギリで躱し、カウンターで切りつける。


---ザンッ!


今度はいくらか切れたようだ。

だがまだ浅い、この程度ではあまりダメージにはならない。

そして返す刀で、サラの片方の手の爪が俺に襲いかかってきた。

紙一重で避け、俺の胸の表面に薄っすらと赤い線が数本入る。

予想外に鋭い。


「ふぅ…『高速連続剣』!」


ならば反撃ができないほどの連撃をお見舞いする。

野獣と化した状態では、これほどの連続攻撃は防ぎ切れないし対応しきれないだろう。

サラは防戦一方となった。

だがこのままではジリ貧だと本能でわかったのか、ダメージお構いなしに突っ込んできた。


「ガ…ガアアァ!」


「俺が使った時よりずっと理性がないな。力だけだ。」


こんな斬撃の雨の中になんの策もなく突っ込むとか、一番の悪手だ。

サラの体制が整ってない。


「ハァッ!!」


その隙を突いて、刀の柄の部分で鳩尾のあたりを全力で突いた。


「アッガッ!!」


「これはきっついだろ、俺もクリスにやられたよ。」


鳩尾を強打する

その効果は、横隔膜がやられて息もできないし、少し角度をつけると胃や肺に同時に甚大なダメージを与える。

よくここを貫手なんかをすると気絶するシーンがあるが、そんなことはできない。

痛みと息苦しさで、気を失うことなんてできない。

サラも口を大きく開け、酸素を求めるかのように喘いでいる。

だが、そこは野獣化したからか、あらゆる痛みを押さえつけるよう歯を食いしばり、爪を振り下ろしてきた。

それを刀で防ぎ、柄で強打した鳩尾を今度は蹴りで強打する。

それを受け、サラは蹴りの方向に吹っ飛んで行った。


「反撃できるとは。」


警戒を緩めること無く、倒れているサラに近寄っていく。


「さっさと『心魔変換』を解け、そのうち死ぬぞ。」


「グルルルル……ガアアアアアア!!」


「……さっきより魔力を上乗せしたな。余計に理性がなくなってやがる。」


見れば、斬撃でできた傷跡もふさがっていた。

自己再生したのか、魔力を更につぎ込んで回復したのか。

どちらにせよ、もはや見た目が魔術師どころか人間からも離れつつある。


「シン!これ以上続けると、サラの身体が持たない!あの時のシンよりまずく感じる!!」


クリスがそう叫ぶ。

確かに、俺は理性が保てたし、あんなに見た目が変わってもいなかったはずだ。

つまり、サラはそれだけ引き返せない場所にいるということだ。

……早めにケリを付けるしか無いな。

俺はクリスに向かって了解の意味を示す肯首をし、サラと向き合う。


「聞きたいことが山ほどあるし、見殺しにするのも寝覚めが悪いから、さっさと片付けさせてもらうぞ、サラ。」


そう言いつつ、俺は刀を鞘に納める。

その様子を不安そうに眺めるクリスが視界の端に映る。


「グルウウウウウウ!!ガアアアアアアアアア!!」


それを合図にサラが牙と爪に力を込め疾風のごとく突進してくる。


「はぁぁぁ…ふぅぅぅ………すぅぅぅぅぅぅ……」


呼吸を整え、軽く刀の柄を握る。

基本は脱力、そうだったはずだ。

余計な力は入れない、死合の最中であってもこの技はリラックスした状態じゃないと使えなかったはず。

相手は見ない。

『気配察知』すら使わない。

感覚のみで自分の間合い全てを把握する。


そしてサラが俺の間合いに入ってきた。

その間は刹那。

一瞬よりも短い時間。


「………ハッ!!」


完全な脱力からの、全力の一刀。

その落差が、鞘走りが、『相手より出遅れた先制攻撃』という矛盾を生み出す。

そう、これはスキルではない。

日本に古くより伝わる"技"

故にスキル名を言う必要はない。



次の瞬間、俺とサラは交差する。



サラは俺の後ろで、俺はサラの後ろで。

お互いが攻撃後の姿勢で固まっている。



---ブシュッ



肉が切れて血が吹き出す音。

その音の後に、誰かが倒れる音がする。


---チンッ


その次に聞こえたのは、刀を鞘に納める音だった。




お読みいただき、ありがとうございます!

ブクマ・感想等本当にありがうございます!これからも楽しんでいただけるよう頑張ります!

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