025話 実験
後で書き直す可能性大です
……こいつは今なんて言ったんだ?
「あれ?理解できない??」
アレクは首をかしげて、心底不思議そうにしている。
「えっとね、ガイレン山脈に来てた冒険者、千人くらいかな?が邪魔だったから、全部殺しちゃったってこと。」
「…な、なに言ってるのよ…」
「え?これでも理解できない?うーん、これ以上簡単な言い方ってあるかなぁ。」
違う、意味は分かるし理解もできる。
だが納得ができない。
大遠征の人数は千人以上だぞ?しかもBランクの冒険者もたくさんいる。
そんな一団が全滅?そんなわけがないだろう。
しかも一か月ちょっと前に出発したのに、もう魔物の軍勢と接触したってことになる。
そんなわけがない。
「でたらめを言うな!!」
「あぁ、信じられないってことか。なるほどなるほど、でも本当のことだよ。」
アレクは納得がいったように手を叩いたが、その口から告げられる情報に違いはなかった。
「何が信じられない?
たくさんいた冒険者が殺されちゃったってことが?
あいつらみんな雑魚だよ、ちょっと強いやつもいたけどこっちも強い魔物をぶつけたらあっさり殺しちゃった。
それとも進行速度?
そんなの僕の転移魔法を使えば大したことじゃないよ。もちろん制限はあるけど、山脈をある程度超えちゃえば問題ない。」
他に何かある?といった感じでアレクが淡々と答えていく。
本当なのか?本当に……
「二日くらい持つかと思ったんだけどね、一日ちょっとしか持たないとは思わなかったよ。」
…は?
あの一団が一日ちょっと?
余計に真実味がなくなってきた。
「信じられないって顔だね。別にいいけど、実際全員殺しちゃったわけだし。別にこっちが嘘を言うメリットもないわけだし。」
ダメだ、得た情報が唐突すぎて、こっちが欲しい情報を引き出せない。
奴のペースに乗せられちゃだめだ。
「…本当かどうかはさておき、お前が魔物を率いていたのか。」
「うん、ちょっとした"実験"のためにね。」
「実験!?実験って…そんなに重要なものなの!?村の人たちを!冒険者を!たくさん犠牲にしてまで!!」
クリスが怒気をぶつける。
俺は実験という言葉に引っ掛かりを覚える。
奴が前に言っていた言葉…いったい何だったか、それと繋がりそうな気もするが…
「重要さ!人類が更に先に行くための!それに殺したとは言っても、無駄になんてしてないよ。」
どういうことだ?
殺したけれど無駄じゃない……言い方的には、今現在も無駄にしていないというか…
もし、殺した事が何かの糧になったなら『無駄にはしなかった』という言い方になるはずだ。
『無駄にしていない』それはつまり、今も『無駄にしていない』という意味じゃないのか?
そうすると…
「…お前、殺した人たちをどうしたんだ。」
殺した冒険者を…今現在、何かに使っているということだ。
「へぇ…やっぱり君みたいな人は面白いよ。」
アレクの声が一段低くなり、警戒度が上がったのが判断できた。
「村の人たちも…!」
「いや、彼らは生かしてるよ。貴重なサンプルだからね。」
サンプル?実験という言葉の通り、奴は何かを試しているのか?
冒険者はサンプルたり得なかったから殺して別のことに使うことにした。
いや…実験のために魔物を率いていたと言った、なら俺達と最初に会った時に村人を連れ去った事と一致しない。
村の人たちに対する実験と、魔物を率いて冒険者を殺した実験とは別物と考えたほうがよさそうだ。
村の人たちは貴重なサンプル、生きていないと使えないということ、つまりまだ時間はある。
今ここでできる限りの情報を得るのが何よりも先決だ。
「お前は一体…村の人たちを使って何をしようとしているんだ。」
「多分、君とクリスにはわからないだろうね、その異常さに。だからこそ、いい友達になれるかもって思ったんだけど…こうも敵対心がむき出しだと厳しいね。」
「冗談じゃない!あんたはあたしの家族を!友人を奪った!絶対に許せない!」
異常さ…俺とクリスにはわからない…ほかの人間ならわかるのか?
なら俺とクリスの共通点…村で過ごしたってことか?
いや、俺は一週間程度だ、過ごしたともいえない。
……他の共通点…
「まぁヒントはこの辺で終わらせとくよ。せいぜい考えてね。」
くそっ!
こっちが情報を引き出そうとしているのがばれていたのか!
「あぁ、あと通告もしないとね。
こっちはしばらくは動かないけど…そうだな、あと三か月くらいでこの街に攻め入ろうと思うから、準備しておいてね。」
三か月後?なぜだ?奴の転移があるなら、今すぐにでもここに攻め入ることができるはずだ。
…何か理由があるとすれば、奴の転移魔法の制限、補給、いや、魔物に補給なんているのか?
もしくは別の理由…何かを待っている?
待っているとしたら何を。
「ア、アレク様……」
蚊帳の外に置かれたサラがアレクに声をかける。
「わ、私は…」
「あ、お前もいたのか。そうだな…最後に一花咲かせろよ、まだ切り札が残ってるだろ?それを使っていい結果が出たら、もう一度使ってやるよ。」
サラの絶望しきった目が、急激に光を取り戻していった。
自分は捨てられた、だがもう一度チャンスをもらえた。
そのことに心から喜ぶように。
「は!必ずや!!」
「じゃ、そういうことで。次に会えるのは三か月後かな、その時は映像じゃなくて、しっかり生身で会おう。」
「待てっ!!」
そう言って、アレクの姿は薄くなり、最後は消えてしまった。
「………」
誰も口を開こうとしない。
話がいきなりすぎる。
頭の中がぐちゃぐちゃで整理できない。
前回も今回も、こっちのことをかき乱すだけかき乱しやがって。
「……」
おもむろにサラが俯いた状態のまま、ゆっくりと立ち上がった。
そういえばこいつ、さっきの話だとまだやるつもりなんだったな。
「……今、お前の相手をしている暇は……」
そう言いかけた時。
サラの身体からあふれ出ていた魔力が、急に感じられなくなった。
「……『心魔変換』……!」
サラは最後の切り札であるスキル名を唱えた。
「おまっ……!」
魔力を犠牲にし、ステータスに上乗せするスキル。
俺も使えるが、正しくは魔術師の最後の手段。
魔力・MPを犠牲にするがゆえに、その後のことを考えないまさに玉砕覚悟のスキル。
「これって、シンも使ってたあの!」
「むしろ俺の方が亜種なんだ。本来は魔術師のためのスキル。つまりは…」
あの時の俺よりずっと強いだろう。
単純に当時の俺よりも上乗せできる魔力が高いだろうということ、さらに魔術師本来の魔力の変換効率の良さ、それも関係してくるはずだ。
実際、目の前のサラの圧力はそこら辺の剣士や騎士じゃ相手にならないだろう。
「カ゛ア゛あ゛ア゛ァ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
サラの咆哮がこだまする。
血管が浮き出て、筋肉は盛り上がり、髪は逆立ち、まるで獣のようだ。
俺も似たような感じだったんだろうか…
「気配だけで言えば、ガルーダよりもずっと強い。」
「もしかして…あの子、魔力をほとんど使いきってるんじゃ…」
だろうな、もはや人間の言葉になってないし、目の焦点も合ってない。
目の前の敵を…いや、目に映る動くものすべてを破壊するかのような勢いだ。
「…これでも殺したくないって思う俺は、大甘なのかな。」
クリスに聞こえないようにそう呟いて、俺は戦闘態勢に入った。
お読みいただき、ありがとうございます!
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うーん、休みの間に今まで書いたのを整理しないと…文体とか誤字脱字とか…




